All Chapters of 美人上司に甘やかされる毎日が、残業よりつらい: Chapter 191 - Chapter 200

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第190話

その夜、颯斗はベッドの上で何度も寝返りを打った。 眠りにつく前に練から聞かされた言葉が、頭の中を何度も何度も巡り続け、ようやく浅い眠りに落ちた頃には、時計の針は深夜二時を回っていた。 翌朝目を覚ますと、案の定、目の下にはくっきりと濃いクマが浮かび、顔には拭いようのない疲労がにじんでいた。 颯斗が陽子とともに病院へ向かい、病室へ入ると、博人はベッドの背にもたれ、ぼんやりと窓の外を眺めていた。 二人の姿を認めた途端、博人は露骨に顔をしかめ、颯斗とは口も利きたくないという態度を隠そうともしなかった。 「お前みたいな出来損ないを育てた覚えはない。出て行け!」 そう吐き捨てると、ベッドサイドに置いてあったリンゴをつかみ、颯斗へ向かって放り投げた。 大病を患ったばかりで、リンゴを投げる力も弱々しかった。 それでも、そのあまりに頑なな態度に颯斗も腹を立て、一晩かけて考えていた謝罪の言葉を、そのまま飲み込んでしまった。 「分かったよ。出て行く。せいぜい清々してくれ」 そう吐き捨てると、腹いせにドアを乱暴に閉め、病室を飛び出していった。 結局、その日は一日中、親子の間で一言も言葉が交わされることはなかった。 夜になり、一日の仕事を終えた練が病院のロビーへ姿を現した。 片手には買ってきた弁当、もう片方の手には真っ赤なカーネーションの大きな花束を抱えている。 颯斗は、練まで自分と同じように父親から追い返されるのではないかと心配し、何があっても病室へ入れまいとした。 だが最後は練に押し切られ、母親が付き添うことを条件に、しぶしぶ病室へ入るのを認めた。
last updateLast Updated : 2026-07-30
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第191話

その日、練は陽子を診療所まで送り届けたあと、病院には颯斗だけが残って博人の付き添いを続けた。 深夜零時を回った頃、練は再びD.I.A.を携え、病院へ戻ってきた。 練がジュラルミンケースから装置を取り出すのを見て、颯斗は思わず目を丸くした。 目の前に現れたのは、診療所の作業室でいつも見慣れているアイマスク型の装置ではなく、親指ほどの大きさしかない小さなチップだったのだ。 練の説明によれば、この小さなチップには最先端のセンサーが内蔵されており、これを使えばワイヤレスで深層意識を共有できるという。 共有できる範囲はこの病室内に限られるものの、外部に怪しまれることなく二人で患者の深層意識へ入るには、それで十分だった。 「こんなすごい物まで、お前が作ったのか?」 颯斗は信じられないという顔で練を見つめた。 すぐ身近に、これほど底知れない技術を持つ天才がいたとは、夢にも思っていなかったのだ。 「原理は至ってシンプルだ。既存のセンサーを改良して、脳のニューロンと接続できるようにしただけさ。脳波をデジタル信号へ変換し、チップ内部の高性能プロセッサーとネットワークを経由して……」 「ストップ、ストップ。もういい。どうせ俺には理解できない。 大事なのは、副作用がないかどうかだ。父さんは危険な状態は脱したとはいえ、まだ体力は戻ってない。もし万が一のことがあったら……」 颯斗は月明かりにかざしながら、鈍い銀色の光を放つチップをじっと見つめた。 「俺がいる限り、普通なら問題は起きないさ……」 そこまで言い
last updateLast Updated : 2026-07-31
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第192話

確かに昨日、彼は父親に向かって「自分のことを少しも気にかけてくれない」「自分が何を考えているのか分かってくれない」と、正論を振りかざして声を荒らげた。 だが、息子である彼自身はどうだったのだろう。 「喧嘩両成敗って言うだろ。親子関係がここまでこじれたのは、おじさん一人だけのせいじゃないんじゃないか」 「ああ、分かってるよ。俺にも悪いところはあった。でもさ、父さんがいつも仏頂面なのが悪いんだ」 颯斗はその場にドカッと座り込み、大きくため息をついた。 「これじゃ全部振り出しだ。父さんのPTSDの原因がどこにあるのかも分からないんじゃ、心のしこりなんて解けるはずがない」 「消去法で駄目なら、しらみつぶしに当たればいい。おじさんが何を好きかは分からなくても、何を嫌うかくらいは分かるだろ?」 その言葉を聞いた瞬間、颯斗の目がぱっと輝いた。 「それを先に言えよ!父さんが嫌いなものなら、俺が一番よく知ってる」 そう言うや否や、颯斗はすっかり元気を取り戻したように勢いよく立ち上がり、パソコンの前へ戻ると猛烈な勢いでキーワードを打ち込み始めた。 「父さんはな、俺が約束を破ったり、何でも中途半端に済ませたりするのが一番嫌いなんだ。 ああ、そうだ。それに父さんって、ものすごく執念深いんだよ。何十年も前の些細なことでもずっと根に持ってて、何かあるたびに昔の話を持ち出してくる。 なのに、こっちがちょっとしたことで文句を言うと、『男のくせに器が小さい』とか言い出すんだぜ。自分のことは棚に上げて、人には厳しいなんて、完全にダブルスタンダードじゃねえか!」 耳元で延々と続く愚痴を聞きながら、練は言葉を失い、大きくため息をついた。 
last updateLast Updated : 2026-08-01
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第193話

冬、赤峰林業所。早朝、木々の隙間から差し込む木漏れ日が、白雪に覆われた山道を淡く照らしていた。颯斗と練は、深く積もった雪に足を取られながら、一歩ずつ前へ進んでいく。刺すような北風が吹き抜け、颯斗は耐えきれず大きなくしゃみを一つ漏らした。「寒すぎるだろ……さすが氷点下十二度だな」「三十年以上前の気温は、今よりずっと低かったんだ。氷点下十数度なら、まだ暖かいほうだよ」練は口元に手を当て、白く煙る息を吐き出す。「正直言って、まだ実感が湧かないんだけどな」颯斗は呆然とした様子で周囲を見渡した。「俺たち、本当に三十年以上前の時代に来てるのか?」キーワードの解除に成功し、回帰の扉は開かれた。眩い白光に包まれた後、再び目を開けた時には、二人はすでに三十年前へと戻っていた。彼らが今、足を踏みしめている大地こそ、北西に位置する赤峰林業所だった。記憶の投影とはいえ、吹き荒れる寒風は、到着したばかりの二人に容赦なく襲いかかった。幸い、近くには集落があり、村人から防寒具をいくつか譲り受けることができたため、二人は一刻も早く林業所へ向かうことにした。目的は明確だった。颯斗の父親を、できる限り早く見つけ出すこと。時刻は午前九時半。本来なら、伐採作業員たちが山中を行き交い、活気に満ちている時間帯のはずだった。だが、広大な赤峰林業所はなぜか、死んだような静寂に包まれていた。不意に、練が足を止める。その視線は、鋭く前方へ向けられていた。颯斗が何事かと訝しんだ瞬間、耳元でざわめくような異音が響き、大地全体が小刻みに震え始めた。耳を澄ませば、それは遠方から迫ってくる、乱れた足音の群れだった。「避けろ!」練が叫んだ瞬間、黒い影が冷たい風を巻き起こしながら飛びかかってきた。反応が遅れた颯斗は、練に勢いよく突き飛ばされ、間一髪で正面からの一撃をかわす。雪の中から慌てて起き上がり、暗闇から突進してきた存在を見た瞬間、颯斗の心臓が大きく跳ねた。それは、凶暴で獰猛な野獣だった。青灰色の皮膚を持ち、全身は濃密な黒い毛で覆われている。「なんだよ、この化け物は!?狼か?それとも熊か?」体格だけなら狼を遥かに上回り、速度だけなら熊を凌駕している。正確に言えば、目の前の存在は狼と熊を掛け合わせたような、異形の怪物だった。だが、練の答えは違った。「どちらでもない。こ
last updateLast Updated : 2026-08-03
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第194話

言葉が落ちるや否や、颯斗の背中に焼けつくような激痛が走った。 銃弾を受けたはずの魇は、まだ息絶えてはいなかった。死の間際の最後の足掻きで鋭い爪を振り上げ、颯斗の隙を突いて背中へと一撃を叩き込んだのだ。 不意打ちの一撃を受けた颯斗は、体勢を崩して前のめりに倒れ込む。 足元が突然、何もない空間へ踏み出してしまったことに気づいた時には、すでに全身が宙へ投げ出されていた。 視界がぐるりと回転する。 断崖から落ちる寸前、颯斗は反射的に何かを掴もうと空中でもがいた。そして、やみくもに伸ばした手が、必死に練の腕を掴み取る。 「颯斗!!」 「うおおおおっ!」 二人の叫び声が重なる。 颯斗と練は互いの体を抱え込むようにして一つになり、そのまま崖下へと転がり落ちていった。 季節は厳冬。山に積もった雪は、優に一メートルを超える厚さがあった。 断崖は高いと言えば高く、低いと言えば低い。目測では三、四階建てのビルほどの高さだった。即死するほどではないにせよ、半死半生の重傷を負うには十分すぎる高さだ。 しかも運の悪いことに、二人が落ちた場所はちょうど山道の真ん中だった。 そこへ、少し離れた場所から一台のトラックがこちらへ向かって走ってくる。 颯斗はなんとか起き上がろうとする。しかし、全身の骨が砕け散ったかのような激痛が襲い、少し動くだけでも歯を食いしばるほどの痛みに耐えなければならなかった。手足はまるで自分のものではないかのように、言うことを聞かない。 森の中に、耳をつんざくような急ブレーキの音が響き渡った。 颯斗が恐る恐る振り
last updateLast Updated : 2026-08-04
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第195話

助手席に座る若者の名は、小林壮馬。 博人と同じく、この赤峰林業所で働く作業員だった。 颯斗と練が車に乗り込んでからというもの、彼の口はまるで止まることを知らなかった。 「あんたたち、どんな仕事してるんだ?ここの作業員って感じじゃないけどな」 壮馬は後ろを振り返り、練の顔を見ながら人懐っこい笑顔で話しかける。 「特にそっちの兄さん、すごく雰囲気があるよな。一目見ただけで、教養のある人だって分かるよ」 「俺たちは視察に来たんだ」 練は、颯斗が今は話しづらい状態であることを察し、壮馬の尽きることのない話題に、無難な返答を返した。 「視察?」 壮馬は目を輝かせ、明らかに興味を示す。 「もしかして、科学者なのか?」 「県から派遣されて、現地調査に来た地質専門家だ。ここ赤峰林業所の自然環境を調べている。ただ、その途中で道に迷ってしまってな……そうだ、これが俺の名刺だ」 そう言いながら、練はポケットからあらかじめ用意していた名刺を取り出し、壮馬へ手渡した。 名刺には「環境生態研究所」「政府特派専門家」など、いかにもそれらしい肩書きが並んでいる。 どれも練が作り上げた偽りの肩書きにすぎない。 だが、専門外の人間を納得させるには十分すぎるほどの説得力があった。 「なんだ、県から来た人だったのか!だったら早く言ってくれよ。何か必要なことがあれば、遠慮なく言ってくれ。赤峰林業所は全部、俺の親父が管理してるんだから」 名刺を見るなり、壮馬は満面の笑みを浮か
last updateLast Updated : 2026-08-05
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第196話

伐採エリアに到着すると、博人と壮馬はそのまま一日の作業に取りかかった。 颯斗と練はトラックの中でただ待機するような真似はせず、視察という名目で影のように二人の後を追った。 博人が担当しているのは、現場の最前線での作業だった。主に伐採、集材、積み込みなどの工程を担っており、どれも高度な技術と体力を必要とする重労働で、誰にでも務まる仕事ではない。 幸いにも博人は農業大学の卒業生で、専門分野も林業と深く関わっていた。そのため、中卒の作業員が多いこの林業所では、ひときわ高い作業能力を発揮していた。 さらに、真面目で勤勉、弱音や不満を口にすることもなかったため、林業所からは何度も表彰を受けているほどだった。 一方、壮馬との関係は、二人を対等な相棒と呼ぶよりも、むしろ先輩と後輩と言ったほうが近かった。 壮馬はまるで小さな付き人のように、いつも博人の周囲をちょこちょこと動き回っている。 そんな壮馬に対し、博人は頼りになる面倒見の良い先輩そのものだった。分からないことがあれば一から丁寧に教え、経験不足から失敗しても決して怒鳴りつけることはない。どこが間違っていたのかを、根気よく諭すように説明していた。 森での作業は、忙しくなればなるほど時間の流れが早い。 気がつけば、いつの間にか昼食の時間になっていた。 作業員たちの昼食はいたって質素なものだった。おにぎりに漬物、そして目玉焼き。それだけの簡素な食事である。 ただ、壮馬だけは少し違った。 博人の隣に腰を下ろすと、自分の弁当箱に入っていた玉子焼きを、箸でつまんで博人の椀へ入れた。 「俺の母ちゃんが作った玉子焼き、すげえ美味いんだ。早く食べてみてよ」 「
last updateLast Updated : 2026-08-06
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第197話

三人は必死に力を合わせ、ようやく博人を木材の下から引きずり出すことに成功した。 救出された時には、博人の脚はすでに鮮血に染まり、骨もあり得ない方向へと曲がっていた。 そんな凄惨な光景を初めて目にした壮馬は、恐怖のあまり完全に取り乱していた。だが、当の本人である博人のほうが、激痛に耐えながらも冷静で、自分は大丈夫だ、少し休めば平気だと、逆に壮馬を励まし続けている始末だった。 「ごめんよ、博人さん……俺、わざとじゃなくて……」 壮馬は涙をこぼし、声を詰まらせる。 「泣いていたって何になるんだ。早く傷の手当てをしろ!」 父親が傷つけられた姿を目の前にして、颯斗が気が気でないのは当然だった。 だが、謝罪と涙を繰り返すことしかできない壮馬の姿が、余計に颯斗の苛立ちを刺激し、思わず荒い口調になってしまった。 颯斗に怒鳴られた壮馬は、すっかり萎縮し、何も言えなくなってしまう。 「落ち着け。頭を冷やすんだ」 練は颯斗の肩に手を置き、軽く叩いた。 その穏やかな声に、熱くなっていた颯斗の頭は急速に冷えていく。 颯斗は父親のそばへしゃがみ込むと、何も言わずにコートを脱ぎ、さらにその下に着ていたシャツも脱いだ。それを応急処置用の包帯代わりにして、博人の脚の傷口をきつく縛り上げる。 その間、練は周囲を見渡した。 「この近くに、寒さをしのいで休めるような小屋はないか?」 「ある」 博人は手を上げ、北東の方向を指差した。 「あちらへ十
last updateLast Updated : 2026-08-07
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第198話

博人はもともと、かなり羞恥心の強い性格だった。 先ほどから続いていた際どすぎる質問だけでも十分に不快だったが、口下手な彼には話題を逸らす術もなく、結果的に壮馬の好きなようにさせてしまっていた。 だが、壮馬の手が通気性の悪い作業ズボンの中へ入り込んできた瞬間、ついに我慢の限界を迎えた。 博人はその無遠慮な手を強く掴み、こわばった声で壮馬を怒鳴りつける。 しかし、壮馬はまったく気にする様子を見せなかった。 甘えるような声で「博人さん~」と呼びながら、にやにやと笑ってさらに身体を寄せてくる。 「俺、寒いんだよ~」 普段、他人の前で見せている明るく無邪気な姿とはまるで別人だった。 この時の壮馬の声は、綿のように柔らかく、甘くとろけてしまいそうな響きを帯びていた。 「寒いなら服を多めに着ろ。俺のコートをやる!」 博人は低い声で言い返す。 だが、壮馬が続けて放った一言は、小屋の中にいる者も、外で聞き耳を立てている者も、誰もが呆然と固まってしまうほど衝撃的なものだった。 「誰があんたの服なんか欲しいって言ったんだよ。俺が欲しいのは……あんたに抱きしめてもらうことさ」 「お前……俺に……何をしろって言うんだ?」 博人の頭は完全に処理能力を失ったかのように混乱し、舌までうまく回らなくなっていた。 そんな彼の様子を見た壮馬は、思わず吹き出すようにクスクスと笑い、もう一度同じ言葉を繰り返す。 「俺は博人さんに抱きしめてほしいんだよ。ねぇ、試
last updateLast Updated : 2026-08-08
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第199話

壮馬はその言葉を聞いた瞬間、顔を真っ赤にしたかと思えば、今度は青ざめるなど、表情を目まぐるしく変化させた。「俺はただの親切心だよ。博人さんに気持ちよくなってもらおうと思っただけだ。同じ男なんだし、たまには発散したい時だってあるだろ?」「俺には必要ない」博人は表情一つ変えずに答えた。「そういうことは、他の奴を当たってくれ」壮馬は目を丸くする。「何を言って……」「よく夜中になると、何人かの男がお前を一人で訪ねてくるだろう? お前らが一緒に出かけた後、戻ってくるのはいつも一、二時間後だ」「でたらめ言うなよ!」壮馬は逆上し、顔を真っ赤に染める。「俺がそんなふしだらな人間だって言うのか!? あいつらとは……ただトランプをしに出かけてるだけで……」「トランプをして帰ってきただけなのに、わざわざシャワーを浴びる必要があるのか?」博人の言葉は決して多くなかった。だが、その一言一言は、まるで狙い澄ましたように壮馬の痛いところを突いていた。ここは北国の寒冷地だ。毎日風呂に入る者など、ほとんどいない。それなのに壮馬は、夜中に他の男と出かけた後、帰ってくるたびに必ず石鹸の爽やかな香りを漂わせていた。博人はそれに気づいていながら、今まで何も言わなかった。ただ、そんな些細な違和感の一つ一つを、黙って心の中にしまっていたのだ。壮馬はいよいよ取り繕うことができなくなり、口元に引きつった笑みを浮かべた。「俺のこと、そんなふうに見てたのか? 俺が誰とでも寝るような、軽い男だとでも思ってたのか?」「そんなことは言っていない」「その目がそう言ってるじゃないか!」壮馬は悔しさのあまり涙をこぼし、勢いよく床から立ち上がった。「俺がおかしいって、変態だって思ってるんだろ!」「思っていない」博人も立ち上がろうとした。だが、少し身体を動かしただけで、足首に鋭い痛みが走る。「お前を見下してなんかいない。ただ、俺は本当にそういうことは……」「俺だって、好きでこうなったわけじゃない!」壮馬は博人の言葉を遮り、鼻水と涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら叫び散らす。「俺みたいな良い男なら、みんな甘やかして、可愛がって、ご機嫌取りに必死になるっていうのに! それなのにあんたは、逆に俺を鬱陶しがるのかよ!?」「鏡で自分の顔でも見てみろよ。あんたみたいな奴に、俺が釣り合わ
last updateLast Updated : 2026-08-10
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