INICIAR SESIÓN仕事を失った鳴瀬颯斗(なるせ はやと)は、藁にもすがる思いでクリニックの求人に応募した。 ……が、そこで出会ったクールすぎる理系美男子・所長の霧生練(きりゅう れん)に言いくるめられ、気づけば助手として採用されていた。 練は天才型サイエンスマッド。「意識潜行マシン」で患者の精神世界に潜り、怪物「魘(ナイトメア)」を倒すという常軌を逸した治療法を実践中。 共感力抜群の颯斗は「ソウルエージェント」として魘と戦える逸材。一方の練は、作戦を立て安全を守るサポーター。 こうして颯斗は、理由もわからず美人上司に巻き込まれ、心の傷を癒すコンビ活動——いや、ほぼ振り回される日々に突入してしまった。
Ver más確かに昨日、彼は父親に向かって「自分のことを少しも気にかけてくれない」「自分が何を考えているのか分かってくれない」と、正論を振りかざして声を荒らげた。だが、息子である彼自身はどうだったのだろう。「喧嘩両成敗って言うだろ。親子関係がここまでこじれたのは、おじさん一人だけのせいじゃないんじゃないか」「ああ、分かってるよ。俺にも悪いところはあった。でもさ、父さんがいつも仏頂面なのが悪いんだ」颯斗はその場にドカッと座り込み、大きくため息をついた。「これじゃ全部振り出しだ。父さんのPTSDの原因がどこにあるのかも分からないんじゃ、心のしこりなんて解けるはずがない」「消去法で駄目なら、しらみつぶしに当たればいい。おじさんが何を好きかは分からなくても、何を嫌うかくらいは分かるだろ?」その言葉を聞いた瞬間、颯斗の目がぱっと輝いた。「それを先に言えよ!父さんが嫌いなものなら、俺が一番よく知ってる」そう言うや否や、颯斗はすっかり元気を取り戻したように勢いよく立ち上がり、パソコンの前へ戻ると猛烈な勢いでキーワードを打ち込み始めた。「父さんはな、俺が約束を破ったり、何でも中途半端に済ませたりするのが一番嫌いなんだ。ああ、そうだ。それに父さんって、ものすごく執念深いんだよ。何十年も前の些細なことでもずっと根に持ってて、何かあるたびに昔の話を持ち出してくる。なのに、こっちがちょっとしたことで文句を言うと、『男のくせに器が小さい』とか言い出すんだぜ。自分のことは棚に上げて、人には厳しいなんて、完全にダブルスタンダードじゃねえか!」耳元で延々と続く愚痴を聞きながら、練は言葉を失い、大きくため息をついた。
その日、練は陽子を診療所まで送り届けたあと、病院には颯斗だけが残って博人の付き添いを続けた。深夜零時を回った頃、練は再びD.I.A.を携え、病院へ戻ってきた。練がジュラルミンケースから装置を取り出すのを見て、颯斗は思わず目を丸くした。目の前に現れたのは、診療所の作業室でいつも見慣れているアイマスク型の装置ではなく、親指ほどの大きさしかない小さなチップだったのだ。練の説明によれば、この小さなチップには最先端のセンサーが内蔵されており、これを使えばワイヤレスで深層意識を共有できるという。共有できる範囲はこの病室内に限られるものの、外部に怪しまれることなく二人で患者の深層意識へ入るには、それで十分だった。「こんなすごい物まで、お前が作ったのか?」颯斗は信じられないという顔で練を見つめた。すぐ身近に、これほど底知れない技術を持つ天才がいたとは、夢にも思っていなかったのだ。「原理は至ってシンプルだ。既存のセンサーを改良して、脳のニューロンと接続できるようにしただけさ。脳波をデジタル信号へ変換し、チップ内部の高性能プロセッサーとネットワークを経由して……」「ストップ、ストップ。もういい。どうせ俺には理解できない。大事なのは、副作用がないかどうかだ。父さんは危険な状態は脱したとはいえ、まだ体力は戻ってない。もし万が一のことがあったら……」颯斗は月明かりにかざしながら、鈍い銀色の光を放つチップをじっと見つめた。「俺がいる限り、普通なら問題は起きないさ……」そこまで言い
その夜、颯斗はベッドの上で何度も寝返りを打った。眠りにつく前に練から聞かされた言葉が、頭の中を何度も何度も巡り続け、ようやく浅い眠りに落ちた頃には、時計の針は深夜二時を回っていた。翌朝目を覚ますと、案の定、目の下にはくっきりと濃いクマが浮かび、顔には拭いようのない疲労がにじんでいた。颯斗が陽子とともに病院へ向かい、病室へ入ると、博人はベッドの背にもたれ、ぼんやりと窓の外を眺めていた。二人の姿を認めた途端、博人は露骨に顔をしかめ、颯斗とは口も利きたくないという態度を隠そうともしなかった。「お前みたいな出来損ないを育てた覚えはない。出て行け!」そう吐き捨てると、ベッドサイドに置いてあったリンゴをつかみ、颯斗へ向かって放り投げた。大病を患ったばかりで、リンゴを投げる力も弱々しかった。それでも、そのあまりに頑なな態度に颯斗も腹を立て、一晩かけて考えていた謝罪の言葉を、そのまま飲み込んでしまった。「分かったよ。出て行く。せいぜい清々してくれ」そう吐き捨てると、腹いせにドアを乱暴に閉め、病室を飛び出していった。結局、その日は一日中、親子の間で一言も言葉が交わされることはなかった。夜になり、一日の仕事を終えた練が病院のロビーへ姿を現した。片手には買ってきた弁当、もう片方の手には真っ赤なカーネーションの大きな花束を抱えている。颯斗は、練まで自分と同じように父親から追い返されるのではないかと心配し、何があっても病室へ入れまいとした。だが最後は練に押し切られ、母親が付き添うことを条件に、しぶしぶ病室へ入るのを認めた。
「それは……」練の視線が、わずかに揺れた。「どうした?嫌なのか?」練の瞳の奥で、一瞬だけためらいと動揺がよぎる。だが、それはすぐにいつもの静かな色へと戻った。「いや。お前がどうしてもそうしたいって言うなら、俺は止めない。ただ……」「ただ、なんだよ?」「この件は極力内密に進めたほうがいい。誰にも話さずにな。おばさんにもだ」「なんで?」「PTSD患者のトラウマを治療する場合、心界に入ったあと、俺たちが目にするのは患者本人の『精神の投影』じゃない。『記憶の投影』になるんだ」颯斗はすっかり頭がこんがらがったように聞き返した。「精神の投影?記憶の投影?何が違うんだ?」練は静かに説明を始めた。「まるで別物だ。精神世界は、現実離れしたファンタジーのような姿を取ることもある。だが、記憶は違う。どこまでも現実そのものだ。しかも、それが患者に深いトラウマを刻んだ記憶なら、一歩間違えれば患者の脳に取り返しのつかないダメージを与える危険がある」颯斗の手のひらには、じっとりと冷や汗が滲んでいた。「マジかよ……そんなにヤバいのか!?なんで精神の投影なら平気なのに、記憶の投影だと取り返しがつかなくなるんだ?」練は底知れない深みを宿した瞳で颯斗を見つめ、声を落として言った。「聞いたことがあるだろ。記憶は人格を形作る最も重要な要素だ。もし人の記憶が書き換えられたら、それに伴って