その日の午後三時、オフィスに緊張が走った。 開発中のAIモデルに、重大なエラーが発生したのだ。 颯は自分のモニターに映し出されたエラーログを見つめながら、背筋を這い上がってくる冷たいものを感じていた。前処理モジュールから出力されたデータが、想定とまったく異なる形式になっている。そのせいで、後続の処理が軒並み止まっていた。 自分が担当した部分だ。 責任という名の重い石が、胸の上にのしかかってくる。息をするたびに、その石の存在を感じた。 モニターの青い光が、無機質に颯の顔を照らしている。蛍光灯の白い光と、画面から放たれる冷たい青。その二種類の光に挟まれて、颯は自分がどこか現実離れした場所にいるような気がした。 ――俺のせいだ。 その事実が、喉の奥に刺さった小骨のように、じくじくと痛んだ。「高橋さん、これ……」 隣の席の後輩が、不安そうな声で話しかけてきた。颯は努めて平静を装い、答えた。「わかってる。今、原因を調べてる」 声は思ったより落ち着いていた。でも、キーボードに置いた指先はかすかに震えていた。誰にも気づかれないくらいの、小さな震えだ。それでも、颯自身にははっきりと感じられた。 斜め前方の席を、視界の端で確認する。 春海は電話をしていた。背筋を伸ばし、受話器を耳に当てている。その横顔は、いつもと変わらず静かだ。でも、肩に入った力の具合で、彼も緊張していることがわかった。颯は、五年前からそういう些細なことを無意識のうちに読み取ってしまう癖がついていた。 電話を切ると、春海は立ち上がった。その動きは、静かだが素早かった。「全員、手を止めてくれ」 オフィスが静まり返った。キーボードを叩く音も、話し声も、すべてが止まった。春海の声だけが、空調の低い唸りの中を通り抜けていく。「今、本番環境でエラーが発生している。原因の特定と復旧を最優先にする。担当者は俺のデスクに集まってくれ」 颯は立ち上がった。椅子のキャスターが床を滑る音が、妙に大きく響いた。 春海のデスクに向かう足
Última actualización : 2025-12-10 Leer más