食卓テーブルの向こうでその光景を見ていた龍一は、静かにナイフとフォークを置いた。 宗一郎が玲華を抱き寄せ、涙を拭ってやる――そんな光景は、世間の誰も知らない。 十八会の頂点、日本経済の頂点と謳われる桐嶋宗一郎が見せる「父親の顔」など、家族以外の誰も見られるはずがなかった。(日本経済のトップ、十八会のトップの会長のこんな姿は、家族しか見ることができないな) そう心の中で呟き、龍一はワイングラスの縁を指でなぞる。 その仕草にはどこか懐かしさが滲んでいた。 ――龍一の記憶の中には、父の桐嶋宗一郎が、夜の街で相沢瑛斗を拾って来た日のことが思い浮かんでいた。 あの夜も今日と同じように、どこか空気がざわついていた。 いつも通り遅い時間に父が帰ってくるはずが、階下から聞こえてきた声は普段と違う、妙に柔らかいものだった。 何が起こっているのかと興味を持った龍一は、自室のドアをそっと開け、廊下の手すりに肘を掛けながら階下を覗き込んだ。 足音に気づいたのだろう、向かいの部屋のドアが少しだけ開き、玲華も顔を覗かせた。 幼い玲華は、兄の龍一の様子を見てから、同じように階段の踊り場へ出て、玄関を見下ろす。 玄関のドアが開く音が響き、宗一郎が入ってきた。 そのすぐ後ろには―― 龍一と同じくらいの年の男の子が、戸惑ったように立っていた。 男の子は一瞬その場に立ち止まり、広い玄関ホールをキョロキョロと見回した。 次の瞬間、ふと視線が上へ向き、龍一と目が合った。 その瞳は怯えでも反抗でもなく――必死に何かを訴えるような、深い暗さと静けさがあった。 だが、その視線はすぐに玲華にも気づき、玲華と目が合った瞬間に頬が赤く染まった。そして恥ずかしそうに俯いてしまった。 ――その少年が、相沢瑛斗だった。 あの日から、瑛斗は桐嶋の家で「家族」として育った。 宗一郎は彼に本当の息子と同じ愛情を注ぎ、龍一は時に兄として、時に友として支えた。 瑛斗とは何でも分け合い、時には助け合い、一緒に育ってきた。 彼の生い立ちも、その過程も龍一は聞いていた。 どれほど過酷で、どれほど不条理で、どれほど血の気のない孤独を味わってきたかを。 それでも瑛斗は前を向いた。 桐嶋に拾われた恩を一生忘れない、と何度も口にしていた。 そして――瑛斗が18歳を迎えた
Terakhir Diperbarui : 2026-01-04 Baca selengkapnya