近藤哲也(こんどう てつや)と私のお金は、まとめて同じ口座に入っている。2000万円貯まったら結婚しようって、約束してたのに、その中の1900万円が消えていた。哲也はこう説明した。「睦月が離婚でもめててさ、急にお金が必要になったから貸したんだ。同じ女なんだから、君も分かってくれるだろ?」ここで私が怒ったら、思いやりがない女だと思われるんだろうね。でも、やっぱり私には理解できなかった。だって、私なら彼女がいる元カレに、お金なんて絶対に借りないから。しかし、言い争っても意味がない。これまでの、数え切れないやりとりと同じだ。私は黙ってうなずいた。「わかった」哲也はほっとした顔で笑って言った。「理恵、やっと分別がつくようになったんだ。一度別れたのが、君にとっては良い薬になったみたいだな」私は、言葉を失った。平静を装っていた心に、さざ波がたつ。どうして哲也は、こんなことをあっさりと言えるんだろう。あの時の別れは、身を切られるように辛かったのに。彼は、全然こたえてなんかいなかったんだ。哲也は、私の初恋の人だった。私たちの5年間は、今となってはただの笑い話みたいだ。夕食後、哲也はいつものように「散歩」に出かけた。半年前、菅原睦月(すがわら むつき)は夫と別居して、私たちのマンションに引っ越してきた。彼女は短大を中退して、金持ちのボンボンと結婚したのだ。睦月の話によると、夫はDVで、しつこくつきまとってくるらしい。だから哲也は、彼女が一人で安全か、確かめに行っている。哲也が玄関のドアを開ける音で、私は我に返った。私がまた何か言うのを面倒に思ったのか、彼は言い訳を付け加えた。「近所の人から、不審な人物がマンションの入り口をうろついているのを見たってさ。あの男かもしれない。睦月にここを勧めたのは俺だ。彼女の安全は、俺が責任を持たないと」もう反論する気にもなれなかった。「あの不審者」は睦月の夫じゃなく、ただの泥棒で、もう捕まっている。私はどうでもいいというように頷き、わざと優しく言った。「いっそ、彼女のところに引っ越したら?」ドアを開けようとしていた哲也の手が、ぴたりと止まった。「理恵、またかよ!」哲也の声には苛立ちが滲んでいた。「少しはましになったかと
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