All Chapters of 杖も呪文もいらなくなった世界で、機械仕掛けの魔法使いたちは希う: Chapter 21 - Chapter 30

57 Chapters

十二の絆 05

 利玖の後に続いて講堂の大きな扉を潜ると、ふわりと空気が変わった。そして私は、その独特な造りに思わず息を呑んだ。 外の陽射しの眩しさが嘘のように、講堂の中は少し冷んやりとしていた。床を踏む足音もどこか吸い込まれていくようで、自然と声を潜めてしまう。 講堂の真ん中を真っ直ぐに伸びる通路。そして講堂の中心には、円形の大きなステージがあって、それを座席が円を描くように並べられている。 中央を境に左右対称な構図は、とても美しかった。 どこから見ても、視線が自然と中央に集まる構造。誰もが舞台を中心に心を寄せるように設計されていた。 上を見上げれば、ステージの上に広がる天井には、美しく織り上げられたステンドグラス。青や緑、金や紅の硝子が幾重にも並んで、魔法の繊細な文様を形作っている。 その合間から差し込む自然光が、まるで光の粒となってステージに舞い降りていた。 天井と壁に掛かっている魔械灯の柔らかな照明は、講堂を優しく包んでいた。「すごい……。」 思わず、小さく息を呑んだ。 私たちよりも先に到着していた新入生たちは、もう席に着いていて、思い思いに過ごしていた。 天井のステンドグラスを眺めている子、隣の友達と小声で笑い合っている子、緊張した面持ちでじっと前を見てる子。 私たちが講堂に入って来たのに気付くと、座席のあちこちから一斉に視線が集まる。座席の後ろの方に座っている子はよく見えないけど、ほとんどの子がこちらを振り返り、まるで私たちという存在を一つの情報として確認するかのように、じっと見つめていた。 興味深そうに目を細めて観察する子、椅子に身を預けたまま斜めにこちらを見ている子、そして私と目が合った途端、ビクッとして頬を赤くして視線を逸らす子もいた。「うわぁ……見られてるね……!」 隣の詩乃ちゃんが、小さな声で私の耳元にささやいた。だけどその声も、どこか楽しそうだった。 私も小さく頷いて、グッと背筋を伸ばした。 この場所に立つこと、誰かの視線に晒されること。それは少しだけ怖くて、それ以上に、何だか誇らしかった。「では、この区間の席の、前から順番に座っていってください」 ステージの前に立ち止まった利玖が、後ろを振り返ってそう言った。 私たちが歩いてきた中央の通路よりも少し狭い通路が、座席の間に伸びていて、それがまるで花びらの
last updateLast Updated : 2025-11-28
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十二の絆 06

 校長先生の演説が終わると、講堂のあちこちから自然と拍手が湧き起こった。その拍手はすぐに一つの大きな波となって、講堂の空気を震わせるほどの熱を帯びていく。 この拍手は、きっと……ここに集まった全員の、新しい生活の幕開けを祝う音なんだ。 校長先生は、ステージの中央で静かに四方へお辞儀をする。 そして、改めて正面を向くと、声に魔法を乗せて告げた。「それではこれより、それぞれの寮を定める月縁の儀を始めます」 その瞬間ステージの下辺りから、金属と魔力が絡み合うような、不思議な音が響いた。——カシャン、カコン、ガガガガ……。 まるで機械の心臓が動き出したような、規則的な音。それに続いて、ステージの床から六本の鏡張りの柱がゆっくりとせり上がってきた。 それぞれの柱は、キラリと光を反射する鏡の面で覆われて、魔力を帯びているのが遠目にも分かる。 十二人の教師たちが、二人一組でその柱に付き添うように立った。「こちらは月鏡と呼ばれる、寮を決定の装置です。一柱には六面の鏡があり、それぞれが皆さんを導く寮へと繋がっています。これから皆さんには、順番にこの鏡を潜っていただきます」 講堂がざわついた。「……鏡を、潜る……?」「えっ、ぶつからないの?」「通り抜けられるの?」 あちこちから戸惑う声が聞こえる。でも私は、少しだけ落ち着いていられた。 お父さんの書斎で、似たような大きな鏡があって、緋統府から緊急で呼び出された時に、お父さんが使っていたのを見たことがある。 私は使ったことはないけど、通り抜けられる鏡があるのは知っていた。「鏡を潜るだってっ! すごいねっ!」 詩乃ちゃんは、不安よりもワクワクする気持ちの方が大きいらしくて、瞳をキラキラと輝かせて私を見た。「そうだね、どんな感じなんだろう……?」 私も心の奥に小さな不安を抱えながら、ワクワクが胸に広がっていくのを止められなかった。 校長先生が、手を掲げながら言葉を続ける。「これより、生徒会の方々の案内に従って、順番にステージまでお越しください。皆さんにはその際、銀のペンダントが手渡されますので、首にかけてから鏡の前へお進みください」 すると、私たちより先に到着していた新入生たちが、生徒会の人たちに呼ばれて席を立ち始めた。 ひとりひとりが銀色のペンダ
last updateLast Updated : 2025-11-28
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十二の絆 07

 ステージ下に着くと、銀のペンダントを手渡している利玖がいた。「おっ、来たな。はい、これ首にかけて」 軽やかに声をかけてきた利玖は、私に小さな銀のペンダントを差し出す。手の平に乗せられたそれは、冷んやりとして、どこか不思議な存在感を放っていた。「これは『響鏡・菊理』。学園内専用の通信機だよ。音声だけだけどね」 私の疑問を察したのか、利玖がにこやかに説明してくれる。その首元にも、同じようなペンダントがかかっている。でも、よく見ると少しだけ違った。「利玖の、色が付いてるんだね」「そ。羽織と同じで、これも寮によって色が違うんだよ。莉愛は何色になるかな」 言いながら、利玖は楽しげに微笑んだ。その笑顔と、ワクワクした気持ちで胸の奥がくすぐったくなる。「真ん中の石、綺麗だねぇ」 すぐ隣から詩乃ちゃんの弾むような声が聞こえた。見ると詩乃ちゃんの手にも私のと同じペンダント。確かに、真ん中に埋め込まれた小さな魔法石が、淡いオーロラのようにキラキラ光っている。「本当だっ、綺麗……」 私も思わず目を細めて言うと、詩乃ちゃんが嬉しそうに笑ってくれる。 その笑顔に釣られて私も笑った。ほんのひと時だけ、儀式の緊張が解けていくのが分かった。 私たちは、胸の奥でそっと跳ねる期待を抱えながら、静かに自分たちの番を待っていた。 目の前で次々と、月鏡へ吸い込まれていく新入生たちを見つめながら、鼓動の音が少しずつ早くなっていく。 貰ったペンダントを首にかけて、両手で握りながら壇上での儀式を、ジッと見守る。私たちの番が、もうそこまで迫っている。「ドキドキしてきた……っ!」「ねっ……!」 私たちはワクワクした気持ちを胸に、私たちの番を待っていた。・・・・・「じゃあ、そろそろ行こうか」 利玖の声に振り向くと、そのまま私たちは、利玖に導かれてゆっくりと壇上へと上がる。そして壇上にいた六人の生徒会の人たちが、それぞれの鏡の前へと私たちを迷いなく案内してくれた。動きに一切の無駄がなくて、まるでこの場の空気そのものまで整えているようだった。 六柱の月鏡が、静かに私たちを待っている。 近付く度に、胸の奥で小さく鼓動が跳ねた。 トクン、トクンと、確かに速くなっていく。「莉愛ちゃん、同じ寮だといいねっ!」
last updateLast Updated : 2025-11-28
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十二の絆 08

 私と詩乃ちゃんが、同じ寮に入れた喜びを分かち合っていると——「それじゃあ、寮の大広間に案内するね! 先に来てる子たちも、もう待ってるから」 弥生寮の先輩が、にこやかに声をかけてくれた。軽やかに身を翻して、私たちを案内する。柔らかく揺れる羽織の裾が、春風のように私たちを誘っているようだった。 その背中を目で追うと、少し後方から「ようこそ、弥生寮へ!」という賑やかな歓声が響いてくる。振り返ると、また新たな新入生たちが鏡の中から現れていた。 そうだ、これから続々と新しい仲間がやってくる。いつまでもここで立ち止まってはいられない。 詩乃ちゃんも同じことを思ったのか、私と目が合うと小さく頷いた。そして弾むような足取りで先輩の後に続いていく。 私もその姿を追いかけるようにして、歩き出した。「わぁ……」 案内されたのは、弥生寮の二階にある大広間だった。扉を開けた瞬間、思わず声が漏れる。 二階を丸ごと使っているのかと思うくらい、そこは驚くほど広々とした空間だった。高く伸びた天井には、ロビーにあったものと同じ梅の花を模した魔械灯がふわりと浮かび、春の光のように柔らかく部屋全体を優しく照らしている。 建物の造りは、和と洋が見事に調和していた。天井の梁や柱には和の趣が感じられる繊細な装飾が施されているのに、部屋の中央には洋風の大きなロングテーブルが複数据えられていて、テーブルに沿ってロングベンチが並べられていた。 一面がガラス張りになっている壁からは、陽の光が惜しみなく降り注ぎ、空間に清々しい明るさを添えていた。    どこを見ても洗練されていて、だけどどこか温かい。そんな心が落ち着くような大広間だった。「すごーいっ! ここ、寮の大広間なんだ……!」 詩乃ちゃんが目を輝かせて、私の手を握る。その手の温かさに、胸膨らんだ。「何か……お屋敷? お城? みたい」「ねっ、和洋折衷でおしゃれだねっ!」 大広間には、すでに半分ほどの新入生が席に着いていて、それぞれ自由に過ごしていた。談笑している子もいれば、ジッと周囲を見渡している子もいる。その空間には不安と期待がほどよく混ざり合った、少し浮ついたような空気が流れていた。 私たちは空いている席を見つけて、並んでロングベンチに腰を下ろし、カナタがいないか周りを見回した。 どれだけ目を凝らしても、どこ
last updateLast Updated : 2025-11-28
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十二の絆 09

 楓先輩の後ろをついて歩いて行くと、また広々としたエレベーターホールに着いた。天井は高く、壁には寮シンボルの梅の木が薄らと描かれていて、光を受けてほんのり輝いている。 先に呼ばれていた数人の新入生たちが、案内の先輩から何やら説明を受けながら、エレベーターの前で待っていた。「こっちが男子寮行きで、こっちが女子寮行きね。間違えて入るとブザーが鳴って、動かなくなっちゃうから注意してね」 そう言って楓先輩が指さしたのは、ホールに入って右手側。私たちが使う女子寮行きのエレベーター。 ドアの上には優しい光で「女子寮」と書かれた文字が浮かんでいて、見間違えないようになってる。 とはいえ、緊張していたら間違えちゃいそう。しっかりしなきゃ。 女子寮行きのエレベーターの前で並んで待っていると、後ろから先輩の明るい声が聞こえてきた。「はい、じゃあ乗って〜」 何となく気になって、男子寮行きの方に目を向ける。——その瞬間、自分の目を疑った。 エレベーターに乗り込んでいたのは、私と同じ制服を着た、生徒。女の子だった。(えっ……?) ほんの一瞬、誰かの見間違いかと思ったけど、やっぱり間違いじゃない。男子みたいな短髪だけど、私や詩乃ちゃんと同じスカートの制服。 なのに、周りの男子たちも案内の先輩も全く動じる様子もなく、当たり前のようにその子は男子寮行きのエレベーターに乗り込んで行った。 そのまま扉が静かに閉まり、機械の音を残して上の階へと昇っていく。 私はただ、ポカンとその光景を見送ることしかできなかった。「よし、それじゃあエレベーターに乗るよ。沢山乗るから、なるべく詰めて乗ってね」 楓先輩に促されて開いたエレベーターに乗り込む。奥の方へ詰めて乗ると、そこまでキツくならないくらいで「ドアが閉まります」というアナウンスと共に、エレベーターの扉が閉まって動き出した。 エレベーターホールの壁には梅の木が描かれていたけど、エレベーター中は雰囲気が少し違った。 エレベーターの壁には、影絵のように柔らかく描かれた猫たちの姿。毛並みの違いまで分かるほど丁寧に描かれていて、まるでそこに本当に猫がいるみたいだった。「可愛い〜……」 詩乃ちゃんがそっと指先を伸ばして、一匹の猫に触れようとした瞬間。 ——ふわっ、とその猫がじゃれつくように詩乃ちゃんの指に前足を伸ばした。「わ
last updateLast Updated : 2025-11-28
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十二の絆 10

「あっ、でも制服って自由なんですねっ! スカート履いてたみたいですしっ!」 詩乃ちゃんが目を輝かせてそう言うと、楓先輩は笑顔で頷いた。「うん、制服は基本自由だよ。スカートでもスラックスでも、自分が着たい方を選んでいいの。ふたりも、気が向いたらスラックスにしてみてもいいんだよっ?」「へぇ……。でも私はスカートが好きだから、スカートにしますっ」「私も〜っ!」 詩乃ちゃんがニコッと笑って同調した後、そのままくるりと私の方へ向き直り、興味津々な様子で首を傾げながら言った。「ねぇ、莉愛ちゃんっ。その子見たんでしょ? どんな感じだったのっ?」「あ、うん。そうだね……髪は凄く短くて、制服はスカートだったよ。雰囲気は……そうだなぁ、綺麗でカッコいい女の子って感じだったかな」「へぇ〜! 夜に会えるかなっ?」 詩乃ちゃんは胸を弾ませるように声を上げる。その様子に楓先輩がふふっと笑って、柔らかく言葉を添えた。「夜は私服での集まりだから、もしかしたら気付けないかも。でももし会えたら、できたら性別とか気にしないで普通に接して欲しいな。そういう”当たり前”が一番嬉しかったりするから」 そう言って微笑む楓先輩の横顔は、とても優しくて、どこか頼もしかった。「じゃあ二人共、質問はもう大丈夫そうだね?」 楓先輩がふんわり笑いながら、私たちの顔を交互に見た。詩乃ちゃんと顔を見合わせて、小さく頷く。「はいっ、大丈夫です!」「よしっ!」 先輩は腰に当てていた手を胸の前でパチンと叩いた後、胸元のペンダントを指先で持ち上げて私たちに見せてくれた。「それじゃ、最後にこの菊理の使い方を説明しとくね。さっき配られたやつ。学園都市内限定だけど、音声で会話できる通信機になってるよ」 言いながら、先輩はペンダントの中心にあるオーロラ色の魔法石を軽く二回タップする。するとスゥッと薄く光り、ほんの一瞬だけ波紋のような光が広がった。「こうしてから呼びたい人のことを思って、名前を呼ぶだけで相手に繋がるの。あ、名前は愛称でもいいよ。相手を思うことが大事だからっ!」「へぇ……!」「すごぉい……!」 私と詩乃ちゃんは思わず顔を見合わせて、小さく息を漏らした。「呼び出された方はね、音と、この魔法石の光で知らせてくれるんだよ。でね、その光ってる魔法石を見ると、誰がかけてくれてるのかふっと頭に思
last updateLast Updated : 2025-11-28
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十二の絆 11

「よーしっ、じゃあ荷物出しちゃおっかっ!」 お風呂場から戻って来た詩乃ちゃんが、元気いっぱいに声をかけてきた。「そうだねっ」 私も思わず微笑んで頷く。菊理を首にかけて、ベッドの上に置かれていた自分のトランクの留め具をパチンと外した。 中には、家で利玖と一緒に詰めた荷物たちが綺麗に収まっている。制服の替えや私服、ポーチに入れたバスグッズと歯ブラシセット。筆箱とルーズリーフ、少し分厚めのファイルもちゃんと入っていた。 私は、出窓に沿って並べられた勉強机の前に座って、文房具やノートを順番に並べていく。 机の上に置かれていた学生鞄を膝の上に乗せて、筆箱とルーズリーフ、それからお気に入りのバインダーを入れていく。筆箱に入りきらなかったペンたちは、持ってきたペン立てにまとめて差し込んだ。 家で使っていたものが、こうして新しい部屋に馴染んでいくのが少し不思議な気分。 次に、ベッド横の部屋付けのクローゼットを開けてみる。思ったよりも広くて、上のバーには制服やシワになりそうなワンピースをハンガーで丁寧に吊るす。 下には四段の箪笥が備え付けられていて、それぞれの引き出しに私服や下着、ニーソックスを畳んでしまっていった。 ひとつひとつ、順番に整えていく度に部屋がどんどん“私の場所”になっていく気がした。 ほんの些細な片付けのはずなのに、全部を自分でやるということがどこか背筋を伸ばしてくれる。 これからの生活をちゃんと頑張らなきゃって思うと同時に、その責任感が胸の奥をふんわりと温めてくれた。「莉愛ちゃん、夜はどんなの着て行く〜?」 詩乃ちゃんが持ってきた服を箪笥に仕舞いながら、ふと顔を私に向けてそう聞いてきた。 どうやら、夜の集まりに着ていく服を考えているみたい。(集まるのは大広間だったよね。じゃあ、あんまり暖かい格好じゃなくても平気かな……?) 私は箪笥の中を見ながら一枚のニットに手を伸ばす。お気に入りのクリーム色のオフショルダー。肩を出すデザインだけど、ニット素材だから寒くなさそう。「う〜ん。これにしようかな。室内だし、そんなに暖かい格好じゃなくてもいいかなって」「いいね! 私もニットにしよ〜っ!」 詩乃ちゃんはそう言って、自分の大きなトランクの中からコーラル色のニットを選び出して着替え出した。 合わせるのは、デニム生地のショートパンツ。私の
last updateLast Updated : 2025-11-28
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十二の絆 12

 食堂での楽しい時間が、あっという間に過ぎていった。(この後はどうしようかな……)「この後、どうしよっか〜」 私が思ったことと同じことを詩乃ちゃんも考えていたみたいで、思わず小さく笑うと詩乃ちゃんが不思議そうに首を傾けて私を見つめた。「ねっ、どうしよっか。片付けも大体終わっちゃったしね」「うん……あ、でも、同じ階の子とも、もっと話してみたいなっ!」 キラキラした目でそう言う詩乃ちゃんは、さっきのエレベーターを待っている時も、色んな子たちと楽しそうにお喋りしていた。 私はというと、その様子を隣で見ていた。賑やかな空気は好きだけど、自分から飛び込むのはちょっと勇気がいる。 でも詩乃ちゃんは、私をひとりぼっちにしないように周りの子と話してくれるから、何だかとても心地よくて——(部屋の階のフリースペースとかに行けば、またさっきの子たちと会えるかもしれない) そんな期待が、胸の中にふわっと膨らんでいく。「エレベーターホールの、フリースペースに行ってみよっか?」「うんっ!」 私の言葉に詩乃ちゃんは即答して、楽しそうに頷いた。 ふたりで手を合わせて食事を終える合図をしたら、使ったお皿やカトラリーをトレーにまとめる。紙ナプキンも捨てやすいようにまとめて返却口へと向かった。「「ご馳走様でしたー!」」 元気よく声を揃えて挨拶すると、奥から返ってきたのは温かくて優しい声。「はーい! ありがとね〜!」 如何にも“食堂のおばちゃん”と親しまれていそうな可愛らしいおばちゃんが、ニコニコしながら返事をしてくれた。 この食堂、きっと沢山の思い出ができる場所になる。 そんな予感がして、私はもう一度詩乃ちゃんと顔を見合わせて食堂を後にした。 食堂を出てエレベーターホールへと戻ると、さっき案内してくれた先輩がいた。「あっ、ご飯食べ終わった? どうだった、美味しかったかなっ?」 優しく笑顔で声をかけてもらって、緊張の糸が柔らかくほぐれていくのを感じた。「はいっ! 美味しかったです♪」 詩乃ちゃんがエレベーターのボタンを押して答える。「すごいですね……ホテルのレストランみたいでした……」 私がそう言うと、先輩は「ふふっ」と小さく笑った。きっと、同じような感想を何度も聞いているんだろうな。「まだ歓迎会まで時間があるから、ゆっくりしててねっ。ロビーは新入
last updateLast Updated : 2025-11-28
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十二の絆 13

 同い年のはずなのにどこか大人びていて、いつも優しくて、困ってる時はさりげなく手を貸してくれる。 誰かに褒められると、ちょっとだけ目を逸らして照れる。 形の整った切れ長の瞳は、まるで感情を抑え込んでいるようだけど、それでも笑った時は目の奥がふわっと柔らかくなる。 何かを深く考える時の癖や、ジッとこっちを見つめてくる視線にドキッとすることもあった。 考えれば考える程、胸の奥がざわざわしてくる。(……これくらいにしておこう) これ以上考えたら、余計に照れ臭くなってしまいそうだった。 さっきはひとりで話すのが恥ずかしかったけど、今は逆に誰かがそばにいたらこんなふうに名前なんて呼べなかったと思う。 静かな部屋。自分だけの時間。 私は小さく息を吸って、そっと口を開く。「……カナタ」 自分の声が思っていたよりも小さくて、少し震えていた。 でもその名前を口にした途端、ふわっと顔が熱くなるのを感じた。頬から耳の奥まで、じわじわと火照っていく。 ——何でだろう? ただ名前を呼んだだけなのに。 ドキドキと胸が鳴って、指先までも落ち着かない。 静けさの中で、私はただジッと、カナタの声が聞こえてくるのを待っていた。・・・ 一分くらい待ってみたけど、カナタの声は一向に聞こえてこなかった。静かな部屋の中に自分の鼓動だけが響いてくる。(やっぱり、まだ忙しいのかも……) そう思って、私はそっと菊理の魔法石をタップした。 トントンと指先が触れると、ふわりと灯っていた淡い光が静かに揺れて、そのままゆっくりと落ちていった。 ——はぁ。 大きく息を吐いて、そのままベッドに背中から倒れ込む。腕を大きく広げて、天井を見上げる。 カナタが出てくれなかったのは、ちょっとだけ残念。だけど、同時にホッとした気持ちもあって、胸の中がくるくると渦を巻く。(……何これ、変なの) カナタのことを思い浮かべた時に感じた、あの胸のドキドキがまだ残っていて、その余韻に包まれるように、私は目を閉じた。 心地いい微睡みと静かな午後の光に包まれて、私はそのまま、ウトウトと夢の中へ落ちていった。・・・・・ ——カチャッ、キーッ。 鍵の回る音とドアがゆっくりと開く音で、ぼんやりと意識が浮かび上がってくる。 目蓋を持ち上げると薄らと部屋の天井が見えて、遠くから元気な声が
last updateLast Updated : 2025-11-28
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十二の絆 14

 身だしなみを整えて、明日の持ち物を準備しておいたら、いつの間にか歓迎会の時間が迫っていた。「そろそろ行こっか」「うんっ!」 私が声をかけると、詩乃ちゃんは元気よく返事をしてピョンっと小さく跳ねた。「行こ行こっ!」 弾む声と笑顔に、胸の奥がほんのり温かくなる。そんな詩乃ちゃんの無邪気な仕草が、何だか可愛くて。私は自然と頬が綻ぶのを感じた。 部屋の明かりを消して、鍵をかけた。同じタイミングで他の部屋のドアもいくつか開いて、新入生らしき子たちが廊下へ出てくる。「エレベーター、混んじゃうね。早く行こっ!」 私と詩乃ちゃんも顔を見合わせて、エレベーターホールへ向かう。下行きのボタンを押すと、ポンッと控えめな音がして、光がついた。「ねぇ、歓迎会ってどんなのかな〜? 演劇って言ってたけど、歌とかもあるのかな?」「うーん……出し物とか、先輩たちの自己紹介とか? 楽しみだね」 ぞろぞろとエレベーターに乗る子がエレベーターホールに集まる中そんな他愛もない話をしていると、ふいに誰かが声をかけてきた。「あっ、詩乃ちゃーん!」「ん? あっ!」 振り向いた詩乃ちゃんの声が、パッと明るく弾む。 見るとさっきここでお喋りしていた子たちが、エレベーターホールの入口から手を振っていた。髪型もちょっと変わってる子もいて、さっきより大人っぽく見える。 詩乃ちゃんもすぐに笑顔で手を振り返す。「やっほ〜! 一緒に行こーっ!」「うん! 行こっか!」 そんな声が飛び交ってちょっと賑やかになる。私も自然とそっと笑みが溢れた。「あっ、同じ部屋の莉愛ちゃんだよっ。話してみたいって言ってたよねっ」 詩乃ちゃんが元気な声で私の名前を出した瞬間、胸が一瞬ドキっと跳ねた。 「話してみたい」ってその言葉に、ちょっとだけ顔が熱くなるのを感じる。 その子はパッと目を輝かせて、一歩前に出てきた。「えっ! あっ、莉愛ちゃん? 初めましてっ、芽依です! よかったら仲良くしたいなぁ」 芽依ちゃんは、笑った口元がとても柔らかくて、目が本当にキラキラしていた。頬もほんのり赤く染まっていて、その照れた様子に私の緊張も少しほぐれていく。「あっ……莉愛です。よろしくね」 少しだけ声が上擦ったけど、どうにか笑顔で答えられた気がする。 心臓の音が少しだけ速くなっているのを感じながら、私
last updateLast Updated : 2025-11-28
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