All Chapters of 杖も呪文もいらなくなった世界で、機械仕掛けの魔法使いたちは希う: Chapter 31 - Chapter 40

57 Chapters

十二の絆 15

 会場中のテーブルに淡い光が走った。 まるで目に見えない魔法のヴェールが、ふわりと剥がれていくように。何もなかったはずのテーブルの上に、色取りどりの料理が次々と姿を現していく。 湯気の立つスープや、宝石みたいに光っているお寿司、ジュレで包まれた前菜たち、ハーブの香る肉料理、香ばしい匂いの漂う焼きたてのパン、カラフルなフルーツタルトに、繊細に盛りつけられたスイーツ。 それぞれのテーブルが、一気にごちそうの舞台に変わったようだった。 一瞬の静けさの後、ざわり、と感嘆の波が広がっていく。驚きと喜びに満ちた声がホールのあちこちで弾けるように響き、新入生たちの表情がパッと花開いた。「嘘っ……! すごい……」「わぁっ、ケーキまである〜!」「全部、本物……だよな!?」 まるで魔法が生んだ夢の世界に迷い込んだようなひと時。その賑わいと高揚に私たちの心は優しく、そしてしっかりと包まれていた。 そんな新入生たちを見て、京香副寮長がふわりと微笑んだ。そして両手を胸の前でそっと合わせると、柔らかい声で言った。「それでは、みなさん……いただきましょうっ」 その一言で、会場がパッと明るくなった気がした。拍手のように笑顔が弾けて、あちこちで「いただきます!」の声が重なっていく。 芽依ちゃんと詩乃ちゃんは、テーブルに並んだ色取り取りの料理を見て目をキラキラさせながら「どれから食べる!?」何て迷ってしまうほど。「このミニトマトが乗ったサラダ取ってくるねっ!」「じゃあ私は、このパイ包みのお肉いってみるっ!」 芽依ちゃんと詩乃ちゃんがワクワクしながら料理を取りに行って、私もそっと後ろに着いて行った。 お皿を手に取ると、香ばしい匂いや甘い香りがふわっと広がって、お腹の音が鳴りそうになる。 料理の一つ一つが丁寧に盛りつけられていて、食べるのがもったいないくらい綺麗だった。「ねえ見て見て、このスープ、星型のパスタが入ってるの!」「わっ、可愛い~!」 そんな小さな発見に、キャッキャとはしゃぐ私たちの声が、パーティ会場のあちこちから聞こえてくる笑い声や会話と混じって、会場を温かくて賑やかな空気で包んでいた。 みんなが集まったテーブルで、初めて顔を合わせた子たちとも「これ美味しいねっ」「そっちの料理も気になる!」何て会話が弾んで、自然と笑顔が溢れてくる。・・・・
last updateLast Updated : 2025-11-28
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十二の絆 16

「……あの、京司先輩。ちょっと、聞いてもいいですか?」 先輩は微笑みをそのままに、柔らかな声で返してくれる。「ん? どうぞ」 その穏やかな雰囲気に背中を押されて、私は勇気を出して言った。「ありがとうございます。えっと……さっきの演劇の少女って、京香副寮長……ですよね?」 その瞬間、京司先輩の目が、少しだけ見開かれた。だけど驚きと同時に、どこか楽しげな色が浮かぶ。「おっ、よく気付いたね。正解。結構距離あったのに、よく見抜いたねぇ」(やっぱり、そうだったか) お化粧や雰囲気で分かりにくかったけど、当たったみたい。私はクイズに正解した時のような達成感でいると、隣からは大きく驚いた反応が返ってきた。「えぇっ!? そうだったんだっ!?」 芽依ちゃんと詩乃ちゃんが、驚きと興奮で目を丸くする。 京司先輩は、ふっといたずらっぽい笑みを浮かべて、今度は私に視線を向けた。「じゃあさ……透明人間の方は、誰だと思う?」 その問いかけを聞いて、私は持っていたスプーンを口元に当てながら、先輩の目をジッと見つめてから静かに答えた。「……えっと…………京司先輩……ですよね」 答えた瞬間、今度は先輩の目がぱちりと大きく開いた。その反応に、周囲の子たちも「えぇっ!?」と一斉に声を上げる。「うっそ! よく分かったね。あれ、顔見えないように結構頑張ったんだけどなぁ……」 京司先輩は驚いたように言いながらも、どこか楽しそうだった。「えっ、えっ!? 莉愛ちゃん、何で分かったの!? 顔、全然見えなかったよっ!」 芽依ちゃんが、ぱちくりと瞬きをしながら私に身を乗り出してきた。驚きと尊敬が入り混じった瞳で見つめられて、私は思わず目を逸らす。 本当は、私にも顔なんて見えてなかった。ただ、さっき京司先輩の顔を見た時、ふいに、京香副寮長と一緒に稽古しているような……そんな映像が頭の中にふわりと浮かんだのだ。 でも、それを言ってもきっと不思議がられるだけだろう。だから私は、少しだけ肩をすくめて誤魔化すように言った。「えっと……うーん……な、何となく? そんな感じ……」 内心ドキドキしながらそう答えると、京司先輩はおかしそうにふっと笑い、周囲を見渡した。そして、何かを見つけたのか、手を挙げて大きな声で呼ぶ。「おーいっ、京香ーっ!」 その声の先を追ってみると、二つ隣のテーブル
last updateLast Updated : 2025-11-28
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十二の絆 17

「ラン様って、七賢者の中でも本当に姿を見せない方だよね」 京司先輩が、ふと思い出したようにそう言った。「俺たち、四歳の時に一度だけお目にかかったらしいんだけど……さすがに覚えてなくてさ」 そう言いながら京司先輩は少し首を傾げて、記憶を探るような仕草をした。その間に隣にいた京香副寮長がふわりと口を開いた。「一応、噂だけどね。『従者』がいらっしゃらないからだって言われてるの。情報としては、まあまあ有力みたいよ」「……従者?」 詩乃ちゃんが反応すると、京司先輩が頷いた。「そう。賢者の側近っていうか……お世話したり、護衛したり。実際は、仕事の補佐もする秘書みたいな役割が多いらしいんだけどね」 “従者”——— それぞれの賢者の“色”に合わせて、“◯色の従者”と呼ばれている存在。私も、お父さんから名前だけは聞いたことがある。 でも……ラン様には、従者がいない。 もしかしたら、他の賢者たちよりも危ない場面に関わることが多くて、だから簡単に護衛なんて就けられないのか…… もしくは、従者の護衛がいないから表に出られないのか…… あるいは、護衛が必要ないくらい自分の力で全部こなせてしまうからなのか…… 私は、何となく胸の奥が冷んやりとするような不思議な感覚を覚えた。 藍の賢者。ラン様—— きっと、私たちがまだ知らない“何か”を、その背中にたくさん背負っている人なんだ——「えっ、でも……ラン様って、授業の先生で来てくれるんですよね?」 芽依ちゃんが、小首を傾げながら尋ねる。 すると、京香副寮長は頷いた後、ほんの少しだけ声の調子を下げて言った。「他の賢者の方々は、学園に来て、実際に教壇に立ってくださるよ。でも……ラン様だけは別。いつも『向こう側』からの授業になるの」「向こう側……?」 私たちが思わず同じように首を傾げると、京司先輩が軽く笑った。「って言っても、ただの遠隔授業だよ。画面越しってこと。でもね、それでも空気が変わるんだ。言葉にし辛いけど……教室の空気がふっと静かになるというか」「「へぇ〜……」」 私たちは声を揃えたけど、どこか腑に落ちない気持ちが残った。 ただ画面の向こうにいるのに、空気が変わるって……。 私はふと、目を閉じたくなった。ラン様という人物の輪郭が、返って曖昧になっていくような不思議な感覚。 姿を見せない。従者
last updateLast Updated : 2025-11-28
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十二の絆 18

「……あのね、カナタ。私、弥生寮だったよ。月鏡に入ったら、満開の梅の木があって……それとね、白い猫が迎えてくれたの。前に、カナタと図鑑で見たから、すぐに猫だって分かったんだ」 カナタは、懐かしむような声で応えてくれた。[そうなんだ、猫か……うん、図書室で一緒に見たね。可愛かった?]「うんっ、すごく可愛かったよ」 思い出をなぞるように頷いてから、私はふと尋ねた。「……カナタは、どこの寮になったの?」 少し間を置いてから、カナタは答えた。[僕は……“如月寮”だったよ] 如月寮。そういえば、お母さんと利玖が、私は如月寮じゃないかって言ってたのを思い出す。(ってことは)「あっ、じゃあ、弥生寮の隣だね!」 気付いて声を上げると、菊理越しに、小さく微笑むような息遣いが返ってきた。[うん。確か、僕の部屋から弥生寮が見えたよ]「えっ、本当に? ふふっ、じゃあ、今度手を振ってみようかな。そしたらそっちから見えるかな?」 ちょっとくすぐったい気持ちになりながら、私は続ける。「それとね、詩乃ちゃんと同じ寮で、同じ部屋になったの! しかも、二人部屋なんだよっ!」 自分でも驚くくらい、言葉が次々に溢れてくる。きっとカナタに話せた嬉しさが、それだけ大きかったんだと思う。 菊理の向こう側で、カナタがふわりと笑っている気がした。カナタの声の温かさが、胸の奥に小さな明かりを灯してくれる。「カナタは、何人部屋だったの?」 少し間があって──[僕も、二人部屋だったよ。初対面の人だったけど] 初めての相手と、突然ひとつの部屋で暮らす。私には、それだけで心臓が飛び跳ねるような出来事に思えて、ほんの少し想像してみる。(それって、緊張しないのかな?) でもカナタの声には、不安も警戒もなかった。ただ、静かにその事実を受け入れているだけ。「仲良くなれそうな人? 如月寮って、どんな人の集まりなのかな?」 問いかけると、カナタは少しだけ言葉を選ぶようにして答えてくれた。[うん、悪くはないと思うよ。んーそうだなぁ……如月寮は……『寄り添える人』って言ってたかな] “寄り添える人”。その言葉の響きに、胸がふっと温かくなる。優しさを、無理なく自然に差し出せる人たち。きっと、そんな人たちがいる場所。「じゃあ……優しい人たちの集まりなんだ。カナタも、優しいもんね」 言っ
last updateLast Updated : 2025-11-28
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十二の絆 19

 私たちは、エレベーターを降りてからもお喋りを続けながら、賑やかに廊下を進んだ。 部屋に戻ったら、すぐに入浴の準備。今夜はみんなで大浴場に行くことになったから、準備してエレベーターホールへ。各自、部屋で支度を整えてからもう一度集まろうという話になった。「それじゃあ、また後でねー!」 芽依ちゃんたちは明るく手を振りながら、それぞれの部屋へと散っていく。私と詩乃ちゃんも手を振り返し、自分たちの部屋の前で足を止めた。 鍵を差し込んでドアを開けると、まだ生活の気配が染みついていない香りが鼻をくすぐった。でもどこか落ち着くような、そんな香りだった。「ふぅ……一日目から、なかなか濃かったね」 詩乃ちゃんがベッドに座りながら笑った。私も笑って頷く。「うん。新入生ってあんなにいたんだね……ちょっとビックリちゃった」「ねっ! でも、楽しかったっ。翔寮長も京香副寮長も、優しそうだったしっ!」「そうだねっ、演劇も素敵だったね」 そんなことを言い合いながら、私たちはそれぞれの荷物からタオルや着替えを取り出して準備を始めた。 シャンプー、コンディショナー、ボディソープ。それぞれを小さなボトルに詰め替えて、ステンレスのカゴにきちんと収める。 カゴの金属がほんの少し光を反射して、整った生活の気配が漂った。「あっ、そのカゴいいね!」 隣から詩乃ちゃんの声が弾む。視線の先を見て、私はちょっと照れながら笑った。「これ? うん、利玖がね、こういうのが便利だよって教えてくれたの」「へぇ〜、いいなぁ。学園都市の商店街に売ってるかなぁ?」 詩乃ちゃんの荷物は、ビニールの巾着袋にまとめられていて、その中から可愛いボトルのフタがチラリとのぞく。互いの準備を見せ合ううちに、自然と笑いが溢れた。「今度さ、一緒に商店街、行ってみようよ」「うんっ、行こ行こっ!」 張りつめていた初日の緊張が、少しずつ解けていく。声のトーンも、表情も、少し柔らかくなっていた。「よし、準備できた」「私もっ。じゃあ、行こっか! 芽依ちゃんたち、もう待ってるかも!」 タオルと着替えを袋に詰めて、私たちは並んで部屋を出た。エレベーターホールへ向かう廊下の先には、芽依ちゃんと他の子たちがソファに腰掛けて私たちを待ってくれていた。「お待たせ〜!」「ん〜ん、行こー!」 タオルの入った袋を持って、みんな
last updateLast Updated : 2025-11-28
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十二の絆 20

 湯気に包まれて、みんなで肩までお湯に浸かる。 体の芯まで温まって、思わず「ふぅ……」と声が漏れた。そんな時、隣の詩乃ちゃんが私の方へ少し身を寄せてきた。「そういえば莉愛ちゃん」「ん?」「さっき、中庭で誰と話してたの? カナタくん?」「あっ、うん、そうだよ」 答えた瞬間、湯気の中でピクリと周りが反応した。 相手が“男の子”と分かったことが合図になったみたいに、みんなの視線が一斉にこっちへ集まる。「えっえっ、それってさ、彼氏!?」「どんな人なの!?」 詩乃ちゃん以外のみんなが、目をキラキラさせながら一気に前のめりになる。お湯がバシャッと揺れて、小さな波が広がった。(中央都市の子は、こう言う話が好きなのかな?)「えっ、ち、違うよっ。友達だよ、本当だよ!」 慌てて否定しながら、少し照れ臭く笑ってしまう。「どんな人かぁ……ん〜……優しい人だよ」 そう言った自分の声が、お湯に溶けていくように感じた。「え〜っ! 優しいって一番ズルい〜!」「そうそう! 『優しい』って、もう誰にでも当てはまっちゃうよ!」「ねぇねぇ、背は高い? カッコいい系? 可愛い系?」 一斉に質問の嵐。お湯の表面が、みんなの身振り手振りでパシャパシャ揺れる。「えぇ〜っと、背? うーん……私よりちょっと高いくらいかな。ほとんど同じくらいだと思う」「へぇ〜! 顔は? イケメン系? それとも可愛い系?」 みんなが身を乗り出すようにして聞いてくる。私はちょっと困って、義手でそっと揺らした水面を見つめながら答えた。「顔はね……うーん。マスクしてるから、目元しか分からないんだ」 湯気の向こうで、みんなが一斉に驚いた顔になる。「えっ? ずっとマスクしてるの? 外さないの?」 確かに、普通そんな人はいない。そう思うのも無理はない。 だけどカナタは——。「えっと……カナタは、そのマスクが魔械義肢代わりなの」 一瞬、空気がピタリと止まった。 みんなの表情がポカンと固まる。 すると、その中の一人が「あっ!」と小さく声をあげた。「もしかしたら、私その子と同じタイミングで月縁の儀をしたかもしれない」「えーっ! どんな子どんな子!?」 みんなが一斉に、その子へ視線を向けた。さっきまで私に集まっていた注目がふっと移って、ちょっと安心する。「んーっとね、物静か
last updateLast Updated : 2025-11-28
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五十の同志 01

「じゃあ、また明日ねー! おやすみ〜」 芽依ちゃんたちと部屋の前で手を振り合い、私たちはそれぞれの部屋へ戻った。 入浴グッズを洗面台に持っていき、水気を切るものを取り出して、ステンレスのカゴは壁のフックに引っ掛ける。「洗濯物、混ざっちゃってもいいかな?」「私たちだけだし、私は大丈夫だよっ!」 詩乃ちゃんの言葉に安心して、洗濯機へまとめて入れた。 靴を脱いで部屋用のスリッパに履き替えると、ふたり同時にベッドへダイブ。「はぁ〜……」 思わず声が漏れる。自分では気付いてなかったけど、やっぱり今日はすごく疲れていたんだ。 向かいのベッドを見ると、詩乃ちゃんがベッドの上でゆっくりストレッチを始めていた。足を横に真っ直ぐ開いて、ペタンと前に倒れている。「うわぁー! 詩乃ちゃん、柔らかいねっ!」 私はビックリして体を起こした。「ふふっ、毎日やってるんだ〜。これやらないと気持ち悪くて」 そう言いながら、足を開いたまま右手を義肢の左脚の先へスッと伸ばす。 私も真似してみたけど、全然足は開かないし前にも倒れない。「うぅ〜……」 苦しげな声に、詩乃ちゃんがクスクス笑いながら教えてくれる。「いきなりは痛めちゃうよっ。痛気持ちいいくらいで止めて、毎日ちょっとずつやれば柔らかくなるんだよっ」 “継続は力なり”。そんな言葉が頭に浮かんだ。「じゃあ、今日から詩乃ちゃんと一緒にストレッチするっ!」 あんなふうに綺麗に体が動いたらいいなって、素直に思った。「ほんとっ? やろやろっ!」 笑顔で返してくれた詩乃ちゃんを見て、何だかすごく嬉しくなった。 そのまま痛気持ちいいところで止めてストレッチしながら、詩乃ちゃんと明日の話をする。「クラス、どうなるんだろうねぇ。すごい数のクラスがあるんだよね……」 一学年、約一万人。一クラス大体五十人くらいって利玖が言ってた。(ってことは、10000÷50=……200。200クラス!?)「一年一六四組とか、そんな感じなのかな……?」 私が半分冗談で言うと、詩乃ちゃんが「ひぇ〜」と声をあげた。「空中大陸の同い年が集まると、そんな感じになっちゃうんだね……」 空中大陸には、中央都市の天律学園とその初等部がそれぞれの街に幾つかあるだけ。 “教育の均一化”、“資源の効率的運用”、“交流の促進”、“危機管理の強化”—
last updateLast Updated : 2025-11-28
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五十の同志 02

「やったぁぁぁ!! ほんとに一緒だよっ!」 そのまま私の手を両手で握りしめて、ブンブンと振ってくる。「莉愛ちゃんの勘、すごいねっ!!! 占い師さんになったらいいよっ!!!」「えへへ……」 思わず笑いながら言うけど、私の心臓もバクバクしている。(すごい、何で分かったんだろう?) 自分でも、この結果に驚く。「ほんとに……同じなんだね、莉愛ちゃんっ!」 その声は大きくないのに、私の胸に深く響いた。「うんっ、ほらっ」 私は自分の紙を詩乃ちゃんに差し出した。 詩乃ちゃんは目を丸くして笑顔になると、今度は自分の紙を私にくれる。「はいっ! 交換っ!」「うん、ありがとう」 手にした紙を見比べると、同じ「宵一九組」の文字が並んでいた。それだけのことなのに胸の奥がふわっと温かくなって、思わず笑みが溢れる。「……うん、よかった。何か、すごく安心したよ」「私も……離れちゃったらどうしようって思ってた」 言葉を交わす度に、不安が少しずつ溶けていく。私はもう一度詩乃ちゃんの紙を見た。「……やっぱり、出席番号は離れちゃったね」 私は“四十八番”。詩乃ちゃんは“十七番”。(初等部の頃も離れてたもんなぁ)「サ行とラ行だもんねぇ……。こればっかりはしょうがないね。……でも、嬉しいっ! ずっと一緒だねっ!!」 部屋の窓から差し込む朝日が、私たちの笑顔をそっと照らしていた。 クラスが書かれた紙には、まだ続きがあった。 ——群青の夜に一番星が瞬く。穏やかな闇が広がる空。「この、宵って何のことなのかな?」 詩乃ちゃんが紙を覗き込みながら首を傾げる。その仕草が何だか可愛くて、私はつい笑ってしまった。「『群青の夜に一番星が瞬く。穏やかな闇が広がる空』……空の名前かな?」 詩乃ちゃんは首を傾げたまま、紙をジッと見つめる。「うーん……」 まだ見慣れない“宵”という言葉が、不思議な響きを持って心に残った。「芽依ちゃんたちは、何組になったんだろうねっ!」「そうだね、朝食の時に聞いてみよっか」 時計を見ると、時刻は六時三十五分。食堂は六時半から開いているから、もう行っても問題ない時間だった。「新入生は、今週は自由な時間に行っていいって先輩が言ってたし……もう食堂に行っちゃう?」「うんっ! 行こっかっ!」 私たちは、もう一度お互いの紙を交換
last updateLast Updated : 2025-11-28
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五十の同志 03

 「いただきます」と声を合わせ、私たちは食事を始めた。 湯気を立てるトマトスープにそっと息を吹きかけ、慎重に口へ運ぶ。野菜の優しい甘みとトマトの爽やかな酸味が口の中に広がり、心まで温めてくれるようだった。 ふわりと柔らかなオムレツにスプーンを差し入れると、中からとろりとした卵が顔を覗かせる。それを焼きたてのパンに乗せて、思いきりかぶりついた。  外は香ばしく、中はもっちりとしたパン生地に卵のまろやかさが蕩けるように絡み合い、思わず頬が緩む。(美味しい) 小さく心の中で呟いた時、向かいの詩乃ちゃんも、同じように目を細めていた。 私たちがしばらく朝食の味を楽しんでいると——「あっ! いたー! おはよー!」 弾むような声が耳に届いた。昨日、一緒に笑い合ったあの声。顔を上げると、制服姿の芽依ちゃんたちが笑顔で手を振っていた。「おはよう」「おはよーっ!」 芽依ちゃんは羽織の袖と裾を揺らしながら、私たちの席へ駆け寄って来るとすぐに切り出した。「でっ! 二人共、何組だった!?」 その真剣な眼差しに、思わず背筋が伸びる。「えっと……宵一九組だったよ」「ふふんっ、私もーっ!」 詩乃ちゃんが両手でピースをして答えると、芽依ちゃんたちは目を丸くした。「えーっ! 二人共、クラスまで一緒なの!?」「すごっ、相性良すぎでしょ……!」「え〜、いいなぁ!」 みんなが口々に驚きと羨ましさを混ぜた声を上げる。詩乃ちゃんは照れたように笑いながら、でも本当に嬉しそうに頷いていた。 そんな姿を見ているうちに、私の胸の奥がじんわりと温かくなっていくのを感じた。「みんなは、何組だった?」 詩乃ちゃんが、期待に胸を膨らませるように問いかけた。「私、暁一三組〜」「黄昏の五組」「有明一四組!」 返ってくる答えはどれも違っていて、私は心の中で苦笑する。(見事にバラバラだ) そして、芽依ちゃんが少し悔しそうに言った。「私……宵二〇組〜」「あっ、隣のクラスだねっ!」 私は思わず声が弾む。「おしーいっ!!」 詩乃ちゃんが肩を落として、残念そうに声を上げる。 その仕草があまりに可愛らしくて、みんな思わず笑ってしまった。 バラバラになっても、こうして顔を合わせれば、距離なんてすぐに埋まる。私たちの周りには自然と笑い声が広がっていった。「じゃあ、ご飯持っ
last updateLast Updated : 2025-11-28
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五十の同志 04

(カナタは、どのクラスになったのかな?) 僅かに見えた如月寮を思い浮かべながら、私は詩乃ちゃんと並んで洗面台に立っていた。 歯ブラシを口に入れるとミントの香りが広がって、口の中はあっという間に泡でいっぱいになる。 鏡越しにチラリと詩乃ちゃんと目が合い、ふたりでクスリと笑った。泡を丁寧に吐き出し、冷たい水で口を濯ぐ。 使い終わった歯ブラシをそれぞれのコップに戻して、棚へそっとしまう。 小さな仕草ひとつまでが新しい生活の始まりを感じさせて、胸がまた少し高鳴った。 部屋に戻り壁掛けの時計を見ると、時間は七時半を指していた。「芽依ちゃんたちも、もう準備できたかなっ?」  詩乃ちゃんが期待に目を輝かせる。そろそろ食堂から戻ってきてもおかしくない時間だ。「準備してからフリースペースに行ってみる? 会えたら一緒に行けるかも」「それいいねっ! 行こっ!」 ワクワクした様子で詩乃ちゃんは学生鞄を手に取り、鏡の前で髪の毛をパタパタと整える。 その姿を見ながら、私も自分の菊理を首にかけて学生鞄を手に持つ。 ドアを開けしっかりと鍵をかけてから、私たちはエレベーターホールにあるフリースペースのソファに腰を下ろした。 ちらほらと、この階の生徒たちが学生鞄を抱えてエレベーターへ乗り込んで行く。 その様子を横目に、私たちはお喋りをしながら芽依ちゃんたちを待っていた。 しばらく待つと—— エレベーターの到着音と共にドアが開き、そこに芽依ちゃんたちの姿が現れた。「あっ! よかったぁ。待っててくれたの?」 芽依ちゃんがパッと顔を明るくする。「うんっ、一緒に行こっ!」「すぐ行くっ!」 そう言うなり、詩乃ちゃんたちは慌ただしく部屋へと駆けていった。 胸の奥に登校前の期待と少しの緊張が混ざり合っていくのを感じながら、私は再び時計に目をやった。 制服を整えていると、廊下の奥からパタパタと軽い足音が近付いてきた。顔を向けると、息を弾ませた芽依ちゃんたちが、学生鞄を抱えて戻ってくるところだった。「おまたせーっ!」「それじゃあ、行こっか!」 エレベーターのボタンを押して、扉が開くのを待つと、「キンッ」と軽やかな音が鳴って、再びドアが開いた。 初めての登校に、胸の奥に小さな高鳴りを抱えながら、一緒にエレベーターへ乗り込んだ。 エレベーターの中、鞄を抱えたまま
last updateLast Updated : 2025-11-28
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