All Chapters of 再会した元カレ上司は、私の愛娘の父親でした: Chapter 1061 - Chapter 1070

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第1061話

翌日の放課後。瑛太は案の定、また高等部の生徒たちに囲まれた。昨日は瑛太にやられたものの、先に絡んだのは向こうだった。先生に言いつけたところで、自分たちが先に絡んだことまで聞かれるだけだった。しかも、十代の男子にとって、そんなことで先生を頼るのは格好がつかなかった。そこで今日は、昨日の借りを自分たちで返そうと、人数まで増やしてきた。先頭の男子は、野球のバットまで手にしていた。「おい。昨日のことで調子乗ってんじゃねえぞ。この学校で、いつまでもでかい顔してられると思うなよ」瑛太はうんざりしたように息を吐き、鞄を持ったまま腕時計を見た。結衣の授業が終わるまで、もうそれほど時間はなかった。「で、結局何?結衣に相手にされないからって、僕に当たられても困るんだけど」口調は妙に軽く、口元には薄い笑みまで浮かんでいた。男子たちには、どう聞いても挑発にしか思えなかった。ただでさえ意地になりやすい年頃で、昨日のこともまだ根に持っていた。何人かが険しい顔で前へ出ようとした、そのときだった。廊下の向こうから、瑛太を呼ぶ大きな声が飛んできた。「瑛太!帰ってきたぞ!」聞き覚えのある声に、瑛太は振り向いた。ひときわ大柄な青年が、こちらへ歩いてきた。大久保悠斗(おおくぼ ゆうと)だった。以前は工藤姓だったが、母方の姓に改めてからは、大久保を名乗っていた。首にはいくつものメダルを下げ、片手には大きな袋、もう片方には花束を抱えていた。久しぶりに見る悠斗は、前よりさらに体が大きくなったように見えた。瑛太は思わず目を見開いた。「悠斗?なんでここにいるんだよ」「大会終わったから帰ってきた。金メダルも取ったし、そのままお前と結衣を迎えに来たんだよ。……で、何の騒ぎ?」悠斗はそこでようやく、瑛太を囲んでいた男子たちへ目を向け、そのまま一歩前に出た。現役のスキー選手だけあって、体はしっかり鍛えられ、身長も190センチ近くあった。男子たちの前に立っただけで、まるで大きな壁が立ちはだかったようだった。「お前ら、何してんだよ。瑛太に絡んでんのか?」悠斗がそう言うと、先頭にいた男子がむっとした顔で睨み返した。「お前、助っ人まで呼んだのかよ」瑛太も、悠斗が来るとは知らなかった。「いや、僕も知らなかっ
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第1062話

それから数年が過ぎ、瑛太も高等部へ進学した。その頃、結衣はすでに修士課程に進んでいた。海外の名門大学院から博士課程への誘いもいくつも届いており、近いうちに留学することも決まっていた。九条家はもちろん、結衣を知る人たちのあいだでも、彼女が天才だということを疑う者はいなかった。勉強ができるだけではなく、さまざまな大会でも何度となく優勝していた。悠斗が初めて結衣と瑛太をスキーに連れていったときも、結衣は初めてとは思えないほど上手に滑った。そんな姉と比べれば、瑛太はずっと普通だった。成績は平均より少し上くらいで、特別目立つほどではなかった。空手と柔道は得意だったが、国語はどうにも苦手だった。ただ、見た目となると話は別だった。結衣と瑛太が実の姉弟だと学校中に知られるようになってからは、休み時間になると、瑛太のところへ顔を出す生徒も増えた。そんなある日、クラスメイトの一人が何気なく聞いてきた。「なあ、お前んちって、結衣さんがあれだけすごいと、家の財産とかも全部そっちに行ったりしないの?」「は?」瑛太は指先で回していたバスケットボールを止めた。「いや、お前の分もちゃんと残るのかなって。うちの母親、そういうので兄弟で揉めることもあるって言ってたし」瑛太は呆れたように笑った。「何それ。そもそも、うちって父さん一人で何でも決める家じゃないし」「でも九条家って、お前の父さんが仕切ってんじゃないの?」「ないない」瑛太は笑いながら首を振った。「うちの父さんなんて、今日履くパンツの色すら自分じゃ決められないぞ」そこへちょうど悠斗が通りかかり、その話を耳にした。九条家へ戻ると、さっそく湊に告げ口した。遥は笑いをこらえたまま、悠斗が家を出ていくのを見送った。その姿が見えなくなってからようやく立ち上がり、見るからに不満そうな顔をしている湊へ目を向けた。「遥……瑛太、ほんとに俺が家じゃ何も決められないと思ってんのか?」遥は軽く咳払いした。「子ども同士で適当なこと言ってるだけでしょ。そんなに気にしなくていいって。家のことだって、ちゃんと自分で決めてるじゃない」「でも瑛太、俺はパンツの色まで遥に決めてもらってるって言ってたぞ」一昨日の朝、湊は出かける支度をしながら、何を着ればいいか何度も遥に聞い
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第1063話

高等部に上がった瑛太は、いつの間にか女子のあいだでかなりの人気者になっていた。遥も最初は、早々に彼女でも作るんじゃないかと少し気にしていた。何度か遠回しに聞いてみたものの、本人は恋愛にまるで興味がないらしく、それが分かるとひとまず安心した。ただ、瑛太がどれほどモテているのかまでは、遥も分かっていなかった。ある日の放課後、瑛太が自分のロッカーを開けると、中にはラブレターが束になって入っていた。ざっと目を通し、ラブレター以外の用件が紛れていないことだけ確かめると、まとめてそのままゴミ箱へ放り込んだ。ちょうどそのゴミ箱は、見頃を終えた校内の遅咲きの桜から掃き集められた、薄紅の花びらでいっぱいになっていた。その上に、手紙の束がばさりと落ちた。まるで、少女たちの想いまで桜と一緒に散ってしまったようだった。そんなことが何度か続くうちに、さすがにラブレターを入れてくる生徒もかなり減った。それでも、直接声をかけてくる相手はまだいた。その日の放課後、瑛太は鞄を肩にかけ、何人かの友人と一緒に階段を下りていた。すると、隣を歩いていた男子が何気なく話しかけてきた。「瑛太、結衣先輩って、今度海外行くんだろ?」「うん。姉ちゃん、MITに行くことになった」「マジで?まだ二十歳にもなってないのに博士課程だろ?この蒼桐高校でも初めてじゃね?」その言葉に、瑛太は以前、遥が話していたことを思い出した。結衣にとって、学校で新しく学べることはもうそれほど多くなかった。興味を持った分野は、ほとんど自分で先まで学んでしまっていた。それでも遥は、急いで先へ進ませようとはしなかった。学校には、そこでしか得られないものも、その年頃にしかできない経験もあった。だから結衣も、あえて先を急がず、ここ数年は同年代の学生と同じように学校生活を送ってきた。そうでなければ、とっくに海外へ出て、研究に打ち込んでいたかもしれなかった。隣の男子は、そのまま話を続けた。「じゃあさ、結衣先輩が研究のほう行くなら、会社は瑛太が継ぐの?」瑛太はちらりと相手を見た。「いや、普通に姉ちゃんでしょ。僕より姉ちゃんに任せたほうが、どう考えてもうまくいくし」結衣は去年から九条グループのプロジェクトにも関わるようになり、すでにいくつもの案件で成果を出していた
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第1064話

女子はそのまま瑛太の行く手を塞ぎ、両手を腰に当てた。納得がいかないとばかりに、瑛太を睨み上げた。「あんたみたいなのが、あんなにモテるなんてほんと納得いかない!」瑛太は足を止め、小さくため息をついた。背の高い瑛太の前では、目の前の女子はいっそう小柄に見えた。「こっちの都合もお構いなしに、手紙入れたりこうやって呼び止めたりしてくるのに、それでも愛想よく相手しなきゃいけないの?手紙くれた子全員にいちいち応えてたら、そのほうがよっぽど思わせぶりでしょ」「だからって、あんなふうに捨てなくてもいいでしょ!」瑛太は目の前の女子をちらりと見た。顔立ちは可愛らしかったが、考え方は驚くほど単純だった。その真っ直ぐすぎる反応は、どこか可笑しくさえあった。「毎日何十人にも告白されてみなよ。君だって、そのうち同じになると思うよ」瑛太は一緒にいた友人たちに声をかけ、そのまま歩き出した。隣を歩いていた男子が、少し声を落とした。「あれ、隣のクラスの森川真奈(もりかわ まな)じゃね?バレエやってる子だろ。なんか立ち姿きれいだよな」瑛太は鼻を鳴らした。「何、気に入った?声かけてくれば?」「いや、無理無理。あの気の強さ、俺じゃ絶対ついてけないって」瑛太は小さく笑っただけで、それ以上は何も言わなかった。数日後、校内でバスケットボール大会が開かれた。瑛太もクラスの男子たちと出場し、前半から大きくリードしていた。ハーフタイムになり、ベンチへ戻る途中で、ふと真奈の姿が目に入った。その隣には、少し緊張した様子の女子がいて、ペットボトルを一本手にしていた。真奈は瑛太と目が合うと、露骨に嫌そうな顔をした。「あいつのどこがそんなにいいのか、ほんと分かんない」隣の女子は瑛太のほうを見ながら、頬を赤くした。「私は……いい人だと思うけど……」真奈は呆れたように目をそらした。真奈には、瑛太のどこがそんなにいいのか、やはりさっぱり分からなかった。顔立ちもよく、家柄にも恵まれていた。しかも、姉は誰もが認める天才だった。それでも真奈には、瑛太の性格の悪さばかりが目についた。瑛太はベンチに戻ると、水をひと口飲み、汗で濡れたシャツを着替え始めた。すると、観客席の女子たちから一斉に歓声が上がった。真奈の隣では、さっき
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第1065話

「母さん、ただいま!」悠斗が玄関を開けると、エプロン姿の勇子が出迎えた。真由美によく似た顔には、嬉しそうな笑みが浮かんでいた。「あら、悠斗!おかえり!」「ばあちゃんも来てたんだ!ちょうどよかった。見てよ、金メダル!」悠斗は嬉しそうに金メダルを取り出して見せた。ずしりと重い金メダルを手に取った途端、勇子の目がみるみる潤んだ。「もう……恵ったら、どうしてわざわざスキーなんてやらせたの。こんなに傷だらけになって……」競技を続ける以上、怪我は避けられなかった。それでも勇子には、どうしてそこまで危険な競技を続けるのか、どうしても理解できなかった。暮らしに困っていたわけでもなく、たとえ悠斗が勉強を得意としていなくても、ほかに選べる道はいくらでもあった。ましてスキーは、少しのミスが大怪我につながる競技だった。試合の中継を見るのも、勇子にとっては気が気ではなかった。ジャンプ台から飛び出し、勢いよく斜面を滑り降りていく悠斗の姿が映るたび、胸が締めつけられるようだった。とうとう涙をこぼし始めた勇子を見て、悠斗は慌ててその頬を両手で包んだ。「ばあちゃん、大丈夫だって!俺が好きでやってるんだから!」恵も、もともとは悠斗を競技の道へ進ませるつもりなどなかった。スキーを習わせたのも、幼い頃の悠斗が太りすぎて、身長の伸びにまで影響が出始めていたため、何か運動をさせようと考えたのがきっかけだった。ところが、悠斗は思いのほかスキーに夢中になった。そのまま競技を続け、気づけばプロの選手になっていた。勇子も、今では悠斗の名前が知られるようになり、それなりに稼いでいることは知っていた。それでも、悠斗が怪我をして帰ってくるたび、勇子は胸を痛めていた。そんな勇子を悠斗がしばらく宥めているうちに、恵が帰ってきた。リビングを覗くと、二人は並んでソファに座り、いつの間にか試合中の出来事を楽しそうに話していた。その穏やかな様子を見て、恵はそっと息をついた。「悠斗、コーチから聞いたけど、来月から強化合宿に入るんでしょう?」それを聞いた勇子が、驚いたように声を上げた。「えっ、帰ってきたばっかりなのに、もう行っちゃうの?」悠斗は頭をかきながら、少し困ったように笑った。「オリンピックに向けた合宿なんだ。海外で半年以上の長期
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第1066話

恵は離婚してから、元夫とはほとんど顔を合わせていなかった。離婚のときもかなり揉めたうえ、元義母は幼い悠斗につらく当たり、まともに食事さえ与えなかった。当時、元夫がどんな態度を取っていたのかも、恵は後になって悠斗に隠さず話していた。離婚後、恵は大久保姓に戻り、悠斗も大久保姓を名乗ることになった。その話を知った元夫は最初から強く反対した。だが、恵もそこで引き下がるつもりはなかった。必要な手続きを一つずつ進め、結局、悠斗も大久保姓を名乗ることになった。それがよほど気に入らなかったのか、元夫は最後まで嫌味を並べ、姓まで変えるなら今後は一切援助しないとまで言った。もっとも、恵は最初からそんなものを当てにしていなかった。ところが今では、悠斗も国内で名前を知られる選手になり、今回のオリンピックでもメダル候補として注目を集めていた。すると、これまでほとんど関わろうともしなかった元夫が、急に何度も恵へ連絡してくるようになった。用件はいつも同じで、悠斗に会いたいというものだった。それを聞いた悠斗は、うんざりしたように息を吐いた。「別に、会わなくていいだろ」恵と元夫が離婚した頃、悠斗はまだ幼かった。それでも、当時のことは断片的に覚えていた。二人のあいだで何があったのかまでは分からなくても、恵が毎日のように涙を流し、幼い悠斗を抱きしめていた姿だけは記憶に残っていた。そんな実父に、今さら会いたいという気持ちはなかった。恵は少し迷ってから、口を開いた。「私も、会ってほしいとは思ってないの。でも向こうから何度も言ってくるから、一応、悠斗にも伝えておこうと思って」悠斗はポケットからスマホを取り出した。「じゃあ、俺から電話するよ。あとで母さんが何も言わなかったとか、変なこと言われても面倒だし」悠斗も、もう子どもではなかった。自分に関わることなら、悠斗は自分で片をつけるつもりだった。これ以上、恵が元夫から何度も連絡を受けるのも避けたかった。電話がつながると、向こうから妙に馴れ馴れしい声が聞こえてきた。「悠斗、帰ってきたんだって?一度、会えないか?」「いや、いいよ。今さら会ってもしょうがないだろ」電話の向こうで、少し間が空いた。「……母さんに何か言われたのか?」「すぐ母さんのせいにすんなよ。何
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第1067話

悠斗は、きっぱり断った以上、もう向こうから連絡してくることはないと思っていた。ところが実父は諦めず、どうにか悠斗本人と連絡を取ろうと、あちこちに手を回し始めた。そのうち九条家にまで連絡が入るようになったが、恵も悠斗も相手にしなかった。それでも実父は諦めなかった。仕事で遥と顔を合わせる機会ができると、今度は直接遥に話を持ちかけてきた。「立花社長、恵とは少し行き違いがありましてね。それ以来、ずっと悠斗に会わせてもらえないんです。とはいえ、あの子は私の息子ですから……一度、話ができるよう取り持っていただけませんか?」遥は手にしていたファイルを置き、不思議そうに男を見た。「ご自分の息子ですよね?それを私に頼むんですか?」「恵が連絡を取らせてくれないんです。私はずっと、あの子に会いたくて……」男はそう言うと、わざとらしく手の甲で目元をぬぐった。会議には、ほかにも何人かが出席していた。事情を知らない中には、男に同情する者もいた。「それはおつらいですね。ただ息子さんに会いたいだけなんでしょう?」遥は何も言わず、資料へ視線を落とした。仕事ぶりだけなら、この男は悪くなかった。恵とは大学時代の同級生で、名の知れた大学も出ていた。ただ、人として信用できるかどうかは、また別だった。遥はそのまま、淡々と言った。「つまり、結婚している間に浮気して、よそに子どもまで作ったのも、恵のせいだったと?」男の表情が固まった。遥はそこで顔を上げた。柔らかな顔立ちには薄い笑みが浮かんでいたが、目元にはどこか鋭さがあった。男は一瞬言葉に詰まったものの、すぐに取り繕うように口を開いた。「それは誤解です。恵からそう聞いたんでしょう?」「そうですか」遥はわずかに顎を上げた。「では、あなたのお母様が悠斗にまともに食事を与えず、幼稚園でお腹を空かせた悠斗が、うちの娘にご飯を分けてもらっていたことも、全部嘘だと?」その一言で、会議室はしんと静まり返った。遥はそれ以上何も言わず、スマホを取り出した。この男の言い分など、そのまま聞き流してしまってもよかった。そもそも今回の会議でも、立場が上なのは遥のほうだった。ただ、このまま放っておけば、あとになって恵や悠斗のせいにして、また好き勝手なことを言い出しかねない。そ
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第1068話

結衣が二十七歳になった年、美月は二十三歳だった。結衣はその頃、九条グループ史上最年少の会長に就任していた。一方、瑛太は海外の大学に通いながら、少しずつ現地の仕事も任されるようになっていた。そんな二人には、以前から社内で不仲説が流れていた。普段は普通にしているものの、実はあまり仲がよくないらしい――そんな噂だった。けれど美月は知っていた。その噂をわざと広めていたのが、結衣と瑛太本人たちだということを。ちょうどその頃、九条グループの内部では少し揉め事が続いていた。経営陣が大きく入れ替わったばかりで、そのうえ新しくトップに立った結衣はまだ若い。とはいえ、その実力まで否定できる者はいなかった。一部の取締役からは、結衣には研究開発に専念してもらい、経営にはあまり口を出してほしくないという声も上がっていた。だが、結衣は引かなかった。研究も経営も、やるなら両方。どちらか一つだけというなら、どちらもやらない。そう言い切った。しかも結衣は、会社を離れたところで困る立場ではなかった。博士課程で指導を受けていた教授はノーベル賞受賞者で、結衣自身の研究成果も、それだけでかなりの価値があった。古参の役員たちとしても、簡単に手放せる人材ではなかった。そこで結衣は、瑛太にも協力してもらうことにした。瑛太は結衣に頼まれ、取締役会では何度か結衣とわざと激しく言い合った。そのせいで二人の不仲説はすっかり社内に広まり、中には、将来グループを継ぐのは瑛太のほうだと思う者までいた。とはいえ、結衣ほどの人材を手放したいわけでもなかった。社内では、いろいろな思惑が入り交じっていた。けれど、美月はそうした話にほとんど興味がなかった。結衣と瑛太は食事中まで英語で仕事の話をしていたし、悠斗は競技の世界で次々と結果を残していた。それに比べて、美月だけは相変わらずのんびりしていた。大学のキャンパスには青々とした木々が茂り、強い日差しを遮っていた。教室では、学生たちが早く授業が終わらないかとそわそわしていた。少しでも早く学食へ行って、人気のメニューを確保したかったのだ。そんな中、隣の席の友人が肘で美月を軽くつついた。「美月、九条グループのインターン行くんだよね?」「うん。今週の授業が終わったら、しばらくそっち
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第1069話

九条グループのインターンは、ほかの大手と比べても待遇がかなりよかった。そのぶん仕事量も多く、細かい雑務まで次から次へと回ってきた。ようやく一日の仕事がひと段落すると、美月は凝り固まった首筋を揉みながら、ゆっくり肩を回した。そこへ真理から電話がかかってきた。「みっき、インターンどう?少しは慣れた?」「うん。ちょっと疲れるけど、まあ大丈夫かな」「別に、好きな仕事をするのを止めたいわけじゃないのよ。母さんはただ、一度くらいちゃんと会社で働いてみてほしかっただけ。九条グループなら、少なくとも安心だと思ってたし」真理がそう言った直後、部長室のドアが開いた。部長室から出てきた部長は、美月を見るなり声をかけた。「高橋さん、今日残って。明日の会議で使う資料、まとめておいて」美月は思わず時計を見た。もう九時を回っていた。しかも、明日の会議資料は本来、美月と同じインターンの高橋鈴音(たかはし すずね)が担当することになっていた。「え、もう九時ですよ?それに、その資料って私の担当じゃないですよね。鈴音さんの担当だったはずですけど」部長は苛立ったように声を強めた。「鈴音さんはもう帰ったの。残ってるあなたがやればいいでしょ。それが嫌なら、明日から来なくていいわよ」そう言って、部長は美月の服装をちらりと見た。高そうなブランド物は一つも身につけておらず、見るからに裕福な家の娘という感じでもなかった。「こういう仕事も経験のうちよ。勉強ができるだけじゃ、どうにもならないこともあるの。家柄のいい子と張り合おうなんて思わないことね」部長は資料の束を軽く叩くと、そのまま部長室へ戻っていった。美月は一瞬言葉を失い、スマホの画面に目を戻した。向こうでは、真理も同じように固まっていた。「母さん、言ったそばからなんだけど」ついさっき、九条グループなら安心だと言われたばかりだった。すると、向かいの席で帰り支度をしていた社員が、気の毒そうに声をかけてきた。「高橋さん、あんまり気にしないほうがいいよ。部長、鈴音さんには前からずいぶん気を遣ってるから」「なんでですか?」「え、知らない?鈴音さん、高橋市長の娘らしいよ。お母さんも『麟龍』のチーフデザイナーなんだって」美月も真理も、一瞬言葉を失った。誠が市長なのも、
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第1070話

オフィスが一瞬、しんと静まり返った。美月はスマホを手にしたまま、部長に画面を見せた。「念のため、昨日の業務分担表はスクリーンショットで残してあります。会議資料の担当、私じゃないですよね」担当欄には、はっきりと鈴音の名前があった。「それに、昨日も九時まで残ってました。ほかの人が終わらせなかった仕事まで、私がやらなきゃいけないんですか?」斜め向かいの席から、鈴音が立ち上がった。「ごめんね。それ、私の担当だったんだけど、昨日は体調悪くて定時で帰っちゃったの。美月さんには悪かったね」美月はにこりと笑った。「いえ。私、引き受けてないので大丈夫です」鈴音がちらりと部長を見た。部長は手にしていた書類を机に叩きつけた。「あなたね、そんな態度でここにいられると思ってるの?インターンを続ける気がないなら、もう来なくていいわよ!」美月は顔色一つ変えなかった。「担当外の仕事を断ったから、インターンを辞めろってことですか?それなら、その理由も含めて人事に確認させてもらいますね」何を言われても、美月は引かなかった。部長は美月をひと睨みすると、そのまま立ち去った。そのあと、美月には、今度はきちんと自分の担当になっている仕事が次々と回されてきた。どれも美月の仕事ではあったが、とにかく量が多かった。結局、その日も残って片づけるしかなかった。夕方、周りが帰り支度を始める中、鈴音もブランド物のバッグを手に席を立った。そのまま、美月のほうへちらりと目をやった。「ねえ、そこまで意地張らなくてもよかったんじゃない?結局、自分の仕事まで終わってないじゃん」美月は手を止め、ちらりと鈴音を見た。「でも、自分の仕事くらい自分でやります。人に押しつけるよりはマシですから」鈴音の顔が一瞬こわばった。そのまま帰ろうとしたところへ、部長がやけに愛想のいい声をかけた。「鈴音さん、お疲れさま。気をつけて帰ってね」美月は思わずそちらを見た。いわゆる育ちのいいお嬢様なら、美月は昔から何人も見てきた。祖母の千晶も、その姉妹も、年を重ねても華やかで品のある人たちだった。美月自身も幼い頃から、周囲にずいぶん可愛がられて育った。けれど、こんなふうに周りから持ち上げられている「お嬢様」は初めてだった。気づけば、もう十一時を過
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