その瞬間、遥は初めて知ったのだ。母は父を愛しており、そして自分のことも深く愛してくれていたのだと。もしかすると、大学時代に彼女が恋愛に夢中になったのも、あのような温かな愛に包まれていた両親を見て育ったからかもしれない。湊のことを思い出す。遥は口の中の鮭を噛むのも忘れ、そのままうっかり飲み込んでしまった。水を何口か飲み、もう食事を進める気にはなれなかった。家を出る前にすでに食事は済ませていたので、単に久美子の病院食がどんなものか見てみたかっただけなのだ。数口食べてみたが、味も悪くなかった。「あの洋館は、お父さんとお母さんと結婚した時の家だ。売りたいなら売ってもいいわよ、私に異論はないから」久美子は微笑んだ。「そうね、そうしましょう。私が退院してから詳しく話すわ。家を売ったお金は、陽くんと結衣で半分ずつ分けることにするから」お弁当の蓋を閉めながら、遥は何気なく言った。「翔太お兄ちゃんの新しい奥さんも妊娠したみたいよ」久美子は手を振った。「私の娘をいじめた人間に、一円たりとも渡すつもりはないわ。この久美子は、そこまでお人好しじゃないのよ」陽に半分渡すというのは、翔太がこれまで遥に良くしてくれたからだ。それに加えて、陽は今、征一郎たちに育てられているわけではないから、あの子が真っ直ぐに育ってくれることを願ってのことだった。久美子はその恩を忘れず、同時に受けた仕打ちもしっかりと心に刻んでいる。あかりの子供に金を分けるなど、絶対にあり得ない。遥は目を伏せ、心の中に温かいものが流れ込んでくるのを感じた。「ええ、分かったわ。お母さんの言う通りにする」久美子は食事を続けた。だが心の中では、あの古い洋館の中を探せば、夫が生前残した何らかの資料が見つかるかもしれないと考えていた。ここ数日ベッドに横たわっている間、彼女はずっと昔の夢を見ていた。ある日、正男が亡くなる直前、あの洋館について何度も彼女に何かを伝えようとしていた夢を見た。当時、久美子自身も体調を崩しており、そのことをすっかり忘れてしまっていたのだ。もしかすると、今回あの家に戻れば、何か見つかるかもしれない。……「兄貴、調べてみたんやけど……遥さんの実家の会社が倒産したのは、事故が原因だったらしい。作業員の一
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