横断歩道を渡る間も、彼はずっと彼女の手を引いていた。その手はまるで精密な部品がピタリとはめ込まれたかのように、どれほど振り払おうとしてもびくともしない。病室に入ると、結衣はまだ眠っていた。それでも湊は手を離さない。遥は手を引こうとして、彼を睨みつけながら小声で言った。「湊、手、離してよ」「これは、お前が俺を驚かせたことへの精神的慰謝料だ」遥は言葉を失った。「……」事故に遭ったっていうデマを流したのは自分じゃないのに!遥は気づいた。湊の図太さは、彼女が想像していた以上だ。遥が手を引っ込めようとすると、湊は病室のベッドで眠る結衣に視線を向けた。「結衣ちゃんを起こしたくないなら、おとなしくしてろ」結衣がベッドの上で寝返りを打った。遥の心臓が、ビクッと跳ね上がった。なんだか、子供の目の前でこっそり浮気をしているような、奇妙な錯覚に陥ってしまった。だからといって、一晩中彼と手を繋いでいるわけにもいかないだろう。遥は呆れたように言った。「トイレに行きたいから、手を離して」「俺もついて行く」遥は目を大きく見開き、その表情には「あんた、頭おかしいんじゃないの」とデカデカと書いてあった。湊は彼女の意図を察し、数秒間彼女を見つめてから、ようやく手を離した。そして、彼女の頬をつまんで軽く引っ張った。「なら俺に約束しろ。これからは、俺を罵りたい時は我慢せずに直接罵れ」今度ばかりは、遥も我慢が限界だった。彼女は足を上げ、湊の向こうずねを軽く蹴り上げた。力は込めていないが、彼の手を離させるには十分だった。「あんた、やっぱり頭おかしいわよ!」低く吐き捨てると、彼女は逃げるようにトイレに駆け込んだ。トイレのドアを閉め、ドアに寄りかかると、呼吸が激しく乱れているのが分かった。今日起きたことはあまりにも多すぎて、遥の心臓はまだ完全に落ち着きを取り戻せていなかった。ずっと、胸がドキドキと高鳴り続けていた。さっきの交通事故のせいか、それとも湊のあの慌てふためいた表情、必死に自分を探し回る姿のせいか。どちらにせよ、遥の心拍数は一向に下がる気配がない。何度か深呼吸をして、ようやく心を落ち着かせた。トイレの外。湊はドアに映る影が寄りかかり、そして離れていくのを見届けてか
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