「遥さん、まずは謝らせてくれ。昔、湊が九条家の人間だと君に言えなかったのは、我々家族の配慮が足りなかったせいでもあるんだ」健と真理も深く頷いた。「俺らもそうやって育てられたんや。兄貴だけが身分を隠しとったわけやないんやで」修はワイングラスを手に取った。「これから先、もし湊が君をいじめるようなことがあれば、いつでも俺のところへ来なさい。お義父さんが君の味方になってやるからな」そう言うと、遥が答えるのを待たずに、グラスの酒を一気に飲み干した。グラスを置いた修の顔には、少し寂しそうな色が浮かんでいた。「この二年間、君一人で結衣ちゃんを育ててきた。我々九条家は、君に大きな借りがある……」遥は静かに首を横に振った。結衣を産んだ時、彼女はまさか湊とここまで歩んでこられるとは夢にも思っていなかった。だが、十七歳で湊と初めて出会ったあの時、彼女は本気で彼と結婚したいと願っていたのだ。若き日のたった一つの幻想が、まさか現実のものになるなんて。遥は目を伏せ、穏やかな声で言った。「借りなんてありません。結衣は私にとっても、かけがえのない大切な存在ですから」真理が口を開いた。「ねえお義姉さん!自分で会社を立ち上げたんでしょ?人手足りてない?私、お義姉さんの会社で働きたいな!」「あなたがうちの会社に来るなんて、もったいないわよ。あなたには合わないと思うから、やめておいた方がいいわ」真理は首を横に振った。「そんなことないよ!お義姉さんの会社、最初はそんなに人も必要ないでしょ。私が人事担当になって、いい人材を確保できたら辞めるからさ」湊が鼻で笑った。「お前の会社、また倒産したのか?」「へへっ、それは『営業停止・業務改善中』って言うのよ」真理が経営しているのは酒類販売の会社だ。だが彼女は酒造りの才能はあるものの、経営のセンスは絶望的だったのだ。いくつか投資した酒造会社は利益を上げているものの、自分で立ち上げた会社は次から次へと倒産していた。真理もすっかり懲りて、いっそ九条家の誰かの下で働こうと決めたのだ。少なくとも、身内なら冷遇されることはないだろう。だが九条グループにいて、一日中湊と顔を突き合わせるのだけは恐ろしかった。遥は違う。優しくて美人だし、何より兄貴
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