ゲームのリリースこそが、今日のメインイベントなのだ。彼女がここに姿を現したのは、ただ自分の権利を守るため。自分自身のためであり、「カゼ」のためであり、そして九条グループのため。彼女がこれまでの日々、昼夜を問わず注ぎ込んできた努力と苦労のため。そして、彼のためでもある。カゼ本人の登場によって、会場の空気は完全に一変した。湊はマイクを手に取ると、手を伸ばしてごく自然な動作でペットボトルのキャップをひねり開け、遥の目の前に置いた。その間、彼は遥の方を一度も見なかった。まるで、それが日々の生活の中で息をするのと同じくらい、当たり前で習慣であるかのように。「権利侵害への対応に関するご説明は以上です。ここからは、今回リリースするゲームのメインコンテンツについてご紹介させていただきます」本来であれば、ゲームのリリースについて湊自らがマイクを握って紹介する必要などなかった。だが、ゲームの遊び方、シナリオ、世界観、そしてキャラクターボイスの紹介に至るまで、すべてを彼自身が熱を込めて語った。遥が、まだステージの上の自分の隣に座っているからだ。九条グループのゲームリリースイベントは、当初の予想を遥かに上回る大成功を収めた。発表会終了後、ゲームのダウンロード数は瞬く間に百万を突破。それに伴い、九条グループの株価も急上昇した。修は株価のチャートを眺めながらスマホを手に階下へ降りてきて、ホッホッと笑った。「湊のやつが作ったゲーム、こんなに将来性があったのか?」真由美は、ちょうど涙を拭っているところだった。修は驚き、歩み寄って彼女の額に触れた。「どうしたんだ、どこか具合でも悪いのか?なんで泣いてるんだよ。もし辛いなら病院に行くか?無理なら医者を家まで呼ぼうか?」彼の瞳には、心からの心配が溢れていた。真由美は彼を横目で睨みつけた。「さっき湊たちの生配信を見てたのよ。最初はすごい数の人間が遥さんのことを罵ってて、腹が立って仕方なかったわ。でも、あの子本当に自らあの場に出て行ったのね」「よかったじゃないか。あの子は湊の妻だ、社長夫人として発表会に出るのに何の問題があるんだ?」真由美自身も、どうして自分が泣いているのかよく分からなかった。ただ、歳をとって少し涙腺が緩くなっているのかもしれない。
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