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第2話

Author: 珠玉
「問題ないならいいけど、体調には気をつけろ」

「……ねえ、修司くん。今日は私と……」受話器の向こうから、柔らかな女の声が聞こえてきた。

「じゃあ運転手に送らせる。会社で用事があるから、帰りは遅くなる」

「……わかった」

舞衣の声は聞こえなかったことにして、涼子は短く答え、電話を切った。曲がり角の向こうでは、舞衣が修司の腕に縋りつき、甘えるように何かを囁いている。

修司は愛おしげに舞衣の頭を撫で、二人は廊下の奥へと消えていった。

……

涼子は運転手に電話をかけ、先に帰るよう伝えた。

運転手は最初渋った。修司から、決して目を離すなと命じられていたからだ。だが、最終的には涼子の説得に折れた。

「奥様、どうぞお気をつけて」

涼子はわかっていた。運転手はすぐにこのことを修司に報告するだろう。でも、彼が気に留めるはずもない。

涼子は道を歩きながら、目の前を流れる車の波を眺めた。すべてがどこか現実味がない。

世間の目には、彼女は誰もが羨む宮本家の奥様だ。

けれど、この愛のない結婚が、どれほど長く自分を縛りつけてきたか。宮本夫人という肩書きが、どれほど自分を息苦しくさせてきたかを、涼子だけが知っている。

仕事もない。社交界の夫人たちとも馴染めない。唯一の親友である鈴原亜弥(すずはら あや)も、五年前に海外へ移住した。

両親を心配させたくなくて、実家にもほとんど顔を出していない。

涼子は長く息を吐いた。宮本家を出たところで、今の自分には行く場所がないのだと気づいてしまう。

思い立って、涼子は亜弥に電話をかけた。すぐに繋がる。

「ねえ、検査どうだったの?七年も修司と子供作らなかったのに、どうして急にできちゃったわけ?

避妊に失敗したの?いや、そんなはずないよね」

「……おろすから」

向こうがしばらく黙り込んだ後、声を荒げた。「はぁああ!?涼子、それ正気?いきなりおろすって?自分の体のことわかってるの?ねえ、本当にそれでいいの?」

「いいの。それに、修司とも離婚するつもり」

この言葉を口にしたとき、涼子は自分でも驚くほど冷静だった。先に自分を惑わせたのは修司だ。彼に夢中になった後で初めて、彼の心が別の誰かのものだと知った。

それでも彼女は深みにはまり込み、もう抜け出せなくなっていた。

「あんたね、やっとその気になったのね!よくやった!」

涼子は苦笑して電話を切り、公園に足を踏み入れた。ベンチに腰を下ろし、スマホのメール下書きフォルダを開く。そこには三年前、まだ送れずにいたメールが残されていた。

三年前、彼女は海外の一流ジュエリーデザイン学院の入学許可を得ていた。けれど、宮本夫人が外で顔を晒すべきではないと、修司は頑なに行かせようとしなかった。

「俺が与えてるもので足りないのか?」

涼子は修司のあの言葉をはっきりと覚えている。言い返す言葉もなかった。

修司の言う通りだった。彼が与えてくれたものは十分すぎるほどだった。誰もが夢に見る地位も、森山家を救う資金も。涼子は満足すべきだった。だから彼女も賢く、二度とその話題には触れなかった。

でも今は違う。舞衣が帰ってきた。借りてきた猫が、主人の顔をしていたから、もう譲るときだ。

涼子はゆっくりとスマホの連絡先リストをスクロールし、ジェフのアイコンで指を止めた。

【先生、突然すみません。C国のセント・ランド・ジュエリーデザイン学院への応募は、まだ可能でしょうか?】

【おや、シンディ!ようやく連絡をくれたね。セント・ランドの枠は君のためにずっと確保してあるよ。あいつらも君からの返事をずっと待っていた。君ほどの逸材を誰も逃したくないからな】
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