しかしそんな穏やかな沈黙は、突然巻き上がった爆炎で一瞬で散ってしまった。 煤ですらない、単純な爆発の炎。 俺はとっさに先生を背後に隠して、脇差しを抜く。 しかし爆炎の余波とこびりつくような煙の匂いは届きはするものの、煤も夜住の気配も、届かない。 本当にただの、爆発だ。 でも、なんで?「先生っ」「行こう」 俺と先生は、躊躇もせずに刀を下げたまま爆発源まで走る。 先生が宙に飛ぶ分だけ距離の違う疾走は、しかしほぼ同時に顔を歪めながら、止まる。 血の匂いと、悲鳴。 爆発によって倒壊した建物から逃れようする人々は刀持ちなんかじゃなく、ただの一般市民だ。「かあちゃん! おかあちゃん!」「痛い、いたいよぉっ」「なに、なにがあったの!」「ここに夫が居るの! だれかぁ!」 市民たちの悲鳴が渦巻き、炎の熱が髪を泳がせる。 夜住の仕業じゃない。 夜住は、こんな風に派手に攻撃をしないし、熱なんか奴らの天敵だ。 ということはただのガス爆発か何かか? それとも……それとも? 俺は、血と悲鳴と瓦礫の熱の前で、呆然と立ち尽くしていた。 俺は──こんなの、知らないんだ。 状況は「酷い」の一言だった。 あちこちで燃え上がる炎は、怪我をしてボロボロな市民たちの服や髪を無慈悲に煽る。 散る火花は、俺が刀術で発するものとは違って服に穴をあけ、触れるとチリチリと熱い。 俺は、頬に当たった火花が残したかすかな痛みに触れた。 火傷。 今まで一度も、負ったことのない傷。「み、明神様! 帳様っ!」 泣きながら助けを求める子供。 赤子を抱いたまま呆然と座り込む母親。 伏したままピクリとも動かない老人。 瓦礫を必死にどかそうとする父親。 そんな光景に呆然としていた俺は、「明神」と呼ばれてやっと我に返った。
最終更新日 : 2026-01-01 続きを読む