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灯火の番 のすべてのチャプター: チャプター 51 - チャプター 60

61 チャプター

第十三話 廃墟の煤、残酷な闇

「炎舞!!」  強く足を踏み込み、巻き起こった風に火花をまとわせる。 広範囲に放った炎の柱は、意志を持っているかのように踊りながら、夜住を食らった。 回転しながら移動する炎は、夜住を捩じ切りながら進み、消えていく。 巻き込まれて煤を残し散っていく夜住はみな小型で、ただの黒いモヤでしかない者もあれば人の形をした者も居る。 神守の屋敷跡。 入口の石の鳥居は崩れ、外門は焼け落ちて屋敷の原型も残っていないそこ。 大きな屋敷があったのだろうという痕跡はただ何も無い空間が広がっているから、というだけのそこには、とんでもない数の夜住が集まっていた。 到着したのは昼過ぎ。 車の中で軽く食事もしたから、あと数時間で夜になるだろうが、まだ空には太陽が残っている時間帯。  だというのに、この夜住の数はなんだ。 先生の祝詞の乗った刀を振るえばあっさりと死んでいくくらいの強さだが、それにしても数が多い。 それに、数が多いだけに厄介なものも混じっていて、外套の下の身体はすでに冷や汗が滲んでいた。「日向子、あまり先行しすぎるなよっ」「はいっ!」 両手に拳鍔を握り込んだ日向子は、一番先頭で夜住を殴り飛ばしている。 彼女の持つ武器を見た時に俺と帳先生は目を丸くしてしまったが、腰を落として黙々と夜住を殴っている姿は、意外と様になっていた。 だが、彼女はこのメンバーの中で一番小さく、華奢なのだ。 武器は意外なものだったが、だからといって前に出しすぎるのも危ない。 何より、俺より前に出てアレに遭遇されても、困る。「くっ!」 脇から飛び込んできた夜住の一撃を、左手の脇差しで受け止める。 甲高い金属がぶつかり合う音と鉄臭さ。 即座に逆手に持ち替えた太刀を横薙ぎ一閃、夜住を腹から掻っ捌く。 左手には、ビリビリとした痺れが少しだけ、残った。 武器を持つ夜住、なんて。 今まで遭遇したことがない。
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第十三話 ②

 ジリジリと、眼球が裏側から焼かれているかのように痛む。 こんなこといままで無かったのに、目を開いていられないほどに、熱い。「明神流華炎術──」 その熱は、どれだけ刀に体温を移しても変わらずに頭の奥にある。 この熱のせいなのか、どうなのか。 痛む目を細めて見る世界の中には、まるで夜住が2種類居るかのように見えた。 真っ黒なヤツと、うっすら透けているヤツだ。 どちらも同じ夜住なのは分かるが、多分真っ黒な方が強いのだろうと、わかる。 実際には、勘だ。 真っ黒い方に武器を持つ夜住が多いから、勝手にそう思っているだけ。 これだけ数が居ると、最早それしか判断材料がないんだ。 武器を持った夜住が、刃毀れしている刀を振り下ろしてくる。 キィンッ 甲高い音は耳の奥から脳にぶつかって、ビリビリと指先から抜けていく。 冷たい指先はその振動だけで刀を取り落としそうになるが、落としそうになった刀は順手と逆手を持ち替えることでなんとか手の中に戻す。 この真っ黒い武器持ち夜住は、力が強い。 筋肉という概念が失せているからこその攻撃の重さ、なのだろう。 そんな事、今まで考えたこともなかった。 「爛打っ」 もう一度攻撃するために刀を振りかざす武器持ちたちに、刀と炎を連続で叩き込む。 一撃目で刀で斬り、二撃目に炎を乗せ、翻した刀をもう一度ぶつけ、最後に火花で煤を散らす。 多少雑に打っても複数居る武器持ちどもの誰かには当たるくらいには、武器持ちたちは多かった。 この量の武器持ちたちの攻撃を一度に受けたら、危なかったかもしれない。 額に、ぬるい汗が滲む。 ギャリッ 爛打の一撃を逃れた武器持ちの刀が振り下ろされて、嫌な音を立てた。 刃毀れしているどころじゃない。 すでにカビと錆でボロボロの、持ち手が今にも崩れ落ちてしまいそうな刀だ。 それでも、何度も連続で振り落とされれば、厄介だ。 
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第十三話 ③

「おーい三人とも、こっちこっち。全部相手しなくていいよー」 緊張を帯びていた身体に、いつの間にやら随分と遠くまで行っていたらしい先生の声が聞こえてくる。 先生を見上げようとして、視界の端を日向子が殴った夜住が吹っ飛んでいった。「こっち、結界あるから。相手はそこそこでいいよー」「放置しておいていいんですか?」「どっちにしろ、神守の敷地からは出られない。そういう風になってるから」 おいでおいでと先生が招いているのは、廃墟の中で唯一残っている倉だ。 かなり古い形式の倉は、足元が一段高くなっていて、まるで雪国のそれのようだ。 俺は、日向子の後方にいた神風さんに視線を向けてから、先生の方を見る。 先生の居る倉まで行く間にも、夜住はまるで道を塞ごうをするようにヨロヨロと歩いていた。「日向子、頼めるかい」「はいっ! お任せ下さいっ!」「えっ、いや俺が……」「直線上に行くなら、君より日向子の方が得意だ」 なんでもないことのように言う神風さんに、にっこりと微笑む日向子。 彼女は笑顔を浮かべながらも、背後から近付いてきていた夜住を後ろも見ずに煤と散らしていた。 日向子の拳が、眼の前に立っていた薄い方の夜住の頭部を一撃で消し飛ばす。 殴り飛ばすとか、叩き潰すとかそういうレベルではない。 灯守としての力を込めた赤い拳鍔は、その膂力を発揮した瞬間に夜住の頭部から上半身までを消滅させていた。 腰に下げている角灯がチラチラと揺れる程度なのは、彼女の重心がしっかりと地についているという事。 今まで見てこなかった日向子の一面に、正直驚きは隠せない。  だが今は驚きよりも、頼もしい。 そのまま倉に向けて走る日向子の後ろを、神風さんと、殿に俺がついて走る。 神風さんの得物は弓だ。 俺は前に出て戦っていたからその腕前のほどは知らないが、日向子が前に出て戦うのなら相
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第十三話 ④

「大丈夫~? 日向子ちゃん」「は、はいっ。なんか、武器を持っている夜住は少し、硬かったです」 そのまま走って、やっと先生の立っている倉までたどり着く。 俺達が走った跡は、白い雪の上に夜住の煤が地面に散ってまるで黒い道のようだ。 しかし倉に近付けば周囲には雪がなく、冷え切っていた頬をじわりと熱が撫でる。 結界。さっき先生が言っていたのはこういう事かと、倉を見上げた。「武器持ちのはねぇ、なんか堅いんだよね。僕も前は手がビリビリしたもん」「……武器持ちの夜住は、色はより黒いですもんね。やっぱ濃さって関係あるのかな」「黒い?」 本当に結界の中には夜住は入ってこれないのか、と、懐紙で刀を拭いながら本当に意識せずに言った俺の言葉に、日向子と神風さんが首を傾げる。 おや、と俺も2人を見ると、先生はにっこりと笑っていた。「ソウちゃん。濃さってどゆこと?」「え? いや、武器持ちと、それ以外の色です。武器持ちは真っ黒で、それ以外は少し薄いから……」「……色の違いなど、我々にはわかりません」「は、はひ」「は?」 いやでも、あんなにハッキリ違うのに。 俺はまた夜住どもを見て、先生たちを見た。 夜住どもは、俺達の話し声に反応してかズルズルと武器や己の足を引き摺りながら、近付いてくる。 その数は多少の増減はあれどまだいっぱい居て──遠目からでも、色の差ははっきりと分かった。  冷静に見返してみれば、夜住の黒には段階がある。 薄い黒から、濃い黒へ。 ──でも、そうだ。今までは夜住と戦うのは夜だったから、その変化なんか気にしてなかった。 またパッと右目に手を当てると、顔に当てた手がジリリと熱を持つ。 夜住には色の違いがある。 でもその違いは、俺にしか、わからないのか?「ソーウちゃん」 ジリジリと熱をもってジンジンし始める指先を、先生がつまんだ。
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第十四話 暴く目、虚実の瞳

「慣れてないって、神風さんの家の封庫で見た目についての記述と、関係ありますか」 「お」 俺の瞼の上を撫でる先生の手に手を重ねながら、今までどうしても聞けなかったことを、聞く。  ここは神守の地で、先生の実家だと言う。  先生はきっと隠し事がいっぱいあって、俺についても俺よりも知っていることはたくさんあるんだろう。    でもきっと、先生はこっちから聞かないと教えてくれない──気がする。「んー……まぁいいかぁ。ソウちゃん強くなってきてるし、その辺も含めて説明しないとなって思ってここに来たからね」 「その辺も含めて、ですか?」 「ま、入って入って。夜住集まってきちゃうよ」 あ、ここの煤は放置でいいからねー、なんて軽く言いながら、先生は倉の戸を押し開けた。  鍵は開けてあったのかと戸を開けるのを手伝うと、足先に何か固いものが当たったのに気付いて視線を落とす。  それは、日向子が持っていた神風の封庫と同じような形状の鍵だった。  なんで落ちているんだろう。  戸が開ききったのを確認してから、少しばかり汚れてしまった板状の鍵を拾い上げる。 初めて見る、神守の家紋。  鷹の羽をあしらった家紋は、確か守護を意味するものであったはずだ。  見上げれば、倉にも同じ家紋が描かれていて、確かにここにはかつて一つの家があったのだと、実感出来た。  先頭に立って倉に入っていく先生の背を追いながら、かつてはこの薄い背にも鷹の羽をあしらった紋があったのだろうかと、考えてしまう。  家が滅びる意味、その重圧。  それは、俺にはまだ、わからない。「先生、これ」 「んー?」 「鍵、落としてましたよ」 「あぁ、ごめんごめん。落としちゃって、どこに行ったかわかんなくなっちゃったんだよねー」 「……そうですか」 最後に入ってきた日向子が戸を閉めると、倉の中は先生の下げていた角灯しか光源がなくなった。  いつもは
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第十四話 ②

 やっぱり、という謎が一つ確定した安堵と同時に、なんで今まで教えてくれなかったんだという少しばかりのショックで、頭痛がした。 なんでこの人、こんなにケロッとしてるんだろう。 先生にとってはそんな大きな問題でもないのか?「僕の目とね、ソウちゃんの目はね、ある意味おそろいなんだよ」「おそろい……?」「僕の目はね、八岐之大蛇を倒そうとした時に、失敗しちゃって持ってかれちゃったんだ」 チリリ、と、先生の帯の鈴飾りが音を立てる。 今まで少しも聞こえてこなかった鈴の音は、まるで先生の心のゆらぎを現しているかのようで。 俺の心臓が、ドクドクとやかましく鳴った。「ソウちゃんと出会った時にはギリギリ輪郭くらいは見えてたけど、今はもう明暗もわかんなくなっちゃった」「……それの、どこが……おそろいなんですか」「だってソウちゃんの目は、段々と視えるようになってきてるでしょう?」 俺の肩をぽんぽんと叩きながら、なんでもないことであるかのように、先生は言う。 ズンと重くなってくる眉間をグイグイと押しながら、俺は先生の言葉を噛み砕こうと必死になった。 神風さんと日向子は、口を挟まない。 挟むべき場面ではないと思っている、のだろうか。「さっきソウちゃんが言ってた通り、ソウちゃんの目は〝真実を焼き出し、虚偽を暴く〟目だよ」 また先生が、俺の頬を手で包んで、目の下を親指で少しばかり引き下げる。 そこまでの距離に近づかれると、俺の目には先生しか映らなくなって、暗闇の中に先生がぼんやりと浮き上がっているようにすら見える。 先生の目は、まっすぐに俺を見ていた。 けれど、俺の視線と先生の視線が絡むことは、なかった。「ソウちゃんの目はね、結構珍しくてさ。僕も初めて会ったときびっくりしたっていうか、君の目だからあのとき僕を見付けられたんだろうねぇ」「俺、だから?」「そう。あの時ちょーどオロチ
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第十四話 ③

 寒い雨の日。 今までは、自分でも「なんであんな早朝に外に出ていたんだろう」なんて思っていた、けれど。 けれどそれは、もしかしたら、俺の番を見つけるために飛び出していたのかもしれない、なんて。 冷や汗に背中を冷やされながら、思ってしまう。「あの、帳さん」「はい、直紹くんっ」「今の……オロチと戦って負けた後という話、私、大まかにしか聞いていなかったのですが……煤になりそうだったというのは初耳ですよ」「あ、うん。言ってないからねー」 挙手しながらの神風さんの言葉にもヘラヘラと笑いながら、先生は倉の中をズンズン進んでいく。 見えない目で進んで大丈夫か、と慌てて後を追うが、頭の中は未だに混乱状態だ。 神風さんは完全に「呆れた」という顔をしている。 それには同感だけれど、先生がヘラヘラしている時は何かを隠している時だってことを、俺は知ってる。  正直、神風さんが先に先生の過去を聞いていたというのにはモヤッとする所は、ある。 あるけど、そこをツッコんだら多分先生はこの先何も言ってくれなさそうで、言えない。 はぁ、と溜め息を吐けば、日向子と拍子が重なって白い息がふたつ、倉の中に浮かんだ。「帳さん、そろそろもう」「あぁうん、わかってるよ。大丈夫、ちゃんと話すよ」 スタスタと先に行く先生が、不意に立ち止まって足先で床を探り始めた。 見えないせいで先に行けないのかと思ったが、違う。 足元にある何かを探っている、そんな仕草だ。 俺は先生に近付いて、すぐ隣で床を見た。「ソウちゃん。床にね、わかりにくいけど取っ手があるはずなんだ」「取っ手ですね」「うん。その先が神守の封庫。多分みんなが知りたいことを全部話せると思うよ」「先生がオロチに負けた理由とかですか?」「あはは」 先生に言われて、俺はすぐに床にしゃがみ込んで取っ手を探した。 
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第十四話 ④

「………………は?」 自分でも、思っていたよりも低い声が出た。 腹の底から、とにかく深く深く、息を吐き出すような声だった。 日向子が、神風さんの背後に隠れる。 神風さんも、パッと胸元まで両手を上げる。「深神の裏切り……?」「うん、そう。その時、直紹くんのお母さんが亡くなったんだよ」「! あの時の話ですかっ」「そうそう。あ、そこの扉重いから気を付けてね」「あのあのあの! 今ここでする話なのでしょうかっ!」 もう何をどう聞けばいいのかわからなくなっていると、わぁっと日向子が泣きそうな顔で声をあげた。 確かに、そうだ。 よく見れば変な風に取っ手に手をかけたせいで爪が割れているし、ジワジワと血も出始めていた。 落ち着け。 取っ手を握ったまま数回深呼吸をして、グッと力を入れ直す。 落ち着け、落ち着け。 自分でも何度も何度も言い聞かせた言葉。 しかし、戦闘中とは違う単純な混乱は、いくら気持ちを落ち着けようとしても少しも落ち着いてはくれなかった。 ガコン、と音を立てて開く扉。 パラパラと埃を落としながら両開きに開いた扉は、そこそこの重みでもって俺の両腕に負荷を与える。 内側から漂ってくる墨と紙の匂い。 その匂いで不思議と心が落ち着いていくようで、俺は数回深呼吸をして、扉を完全に開け放った。「いや落ち着けるかぁ……」「あれ、まだ気にしてた?」「最後までちゃんと聞きますからね……日向子、悪いけど中照らしてくれるか」「は、はひ! 勿論です!!」 落ち着け、落ち着けと繰り返せば繰り返すだけ、頭の中で子どもの俺が地団駄を踏む。 先生を見つけた頃の俺が、地面をゴロゴロ転がっているような感覚だった。 聞きたいことがありすぎるが、この扉の先も気
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第十五話 裏切り、謎めき

 俺と神風さんが床に降り立った時、勝手に戸が閉まっていく音がした。  何らかの術力を帯びているのだろう。  神風の封庫を思い出しながら、日向子と先生が角灯の火種を強く燃やすのを見守る。「ここならいいかな。あのね、3人とも」 僕はね、深神は最初から信用してないんだよ。  表に居た時よりも静かに吐き出された先生の言葉に、ゴクリと息を飲む。  ようやく閉じた扉。  俺が2人立てるくらいの高さの地下。  そこに降り立ってやっと、先生はそう言った。「元々八岐之大蛇は、神守、神風、深神の三家が過去に封印したものでね。20年くらい前かな。またアイツが顔を出し始めた時、もう一度その三家の刀主で戦うことになったんだ」 「そ、それが……直紹様のお母様……」 「そうだよ。僕と、直紹のお母さんと、まだ刀主になる前の霧子」 「霧子……さん……?」「でもね。もう少しで倒せるかもって時に、霧子が僕と真江を斬ったんだ。僕たちは、逃げるしか出来なかった」 母様。  神風さんの呟きは、小さな子供のソレのようだった。 神風真江。  確か、先代の神風家の当主であり刀主だった女性だ。  神風さんのご両親はどっちも刀持ちで、どちらも神風さんが幼い頃に亡くなったのだと聞いている。  そのせいで神風さんはかなり若い段階で当主として担ぎ上げられ、年齢に反して当主でいる時間は長いのだと。「な……んで、今までなにも……だって今までずっと……」 「んー、新しい灯守がついたってのもあったし、ある程度睨みを効かせてたってのもあるんだけど」 「そ、そういえば昨日、沙弥さん来てませんでしたね……深神様は、お一人、でした……」 「深神には霧子の他に当主やれるのが結構お年のばあ様だけだった、ってのがひとつ。当時の僕に霧子を引き下ろせるだけの信用がなかったってのが、もうひとつ」 先生の手から、ふわりと角灯が浮いて橙の灯りが周囲を照らした。  角灯の光の
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第十五話 ②

 ふと、俺は足を止めて先生の背中を見る。 なんで先生がここでいきなりそんな話をしてきたのか、正直すこし疑問だった。 だって、話の流れが急すぎる。 先生はいつも頭の軽い風を装うけれど、軽薄なわけではない。 何か深い意図があって、俺達をここに連れてきたんだ。「先生、その霧子さんは、本物なんですか」「……え」「うーん、流石ソウちゃん! いい着眼点っ」「ほ、本物って……明神様、それ、あの……」「俺と日向子は、神風の屋敷でおかしなものを見ました。明らかにおかしい、霧子さんです」 俺と日向子が神風の封庫に居る時、本来は神風の当主と灯守でないと入れないそこに、霧子さんは入ってきた。 開かれていない扉、まっさらなままだった雪。 そして先生は、治療室に霧子さんを入れるなと、俺に言ったんだ。 なんでだろう、どうしてだろうと思っていたけれど…… それは、霧子さんだったから、入れるなと言ったんだろうか。 刀主会でもそうだった。 先生は決して霧子さんの近くには並ばなかった。 源一郎様の隣に座って、全員を見渡せる場所で状況を見守っていたんだ。 それは……それは、つまり、そういうことだったんだろうか。「僕はねぇ、ソウちゃん。深神霧子を一切信用してないよ」 ゆっくりと振り返り、先生が言う。 チリリ、と鈴の音がシンとしている地下の中で響き、あちこちからカラコロと反響があった。 なんとなく音を追うように周囲を見た俺は、ハッとして一歩、後退してしまう。 そんな俺を見て同じように地下室の中を見回した神風さんも息を飲み、日向子が拳鍔を構えた。「僕はもう見えないけど、ここにはね、オロチに関わる死者の姿が投影されるんだ」 周囲に重なっているのは、死体だった。 無数の人間の死体の隙間にあるのは、煤の山だろうか。
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