「お疲れではないですか」 ぼんやりと外を眺めていた帳は、ふと声をかけられて視線を室内に戻した。 鼻をくすぐるのは、質のいい抹茶だろうか。 あたたかな湯気を感じるそれは、帳のすぐ近くに置かれたようだった。「直紹くんこそ、疲れてるんじゃない?」「もう、慣れております」「そっかぁ」 最近は働き詰めだろうねぇ。 いつもより少しばかりのったりとそう言って、帳は自分の近くに置かれた茶碗にそっと触れた。 これもまた高そうな、手触りの良い茶碗だ。 指先にサリサリとかかる感触は、神風家らしい目利きを感じさせる。 一口いただけば、冷えていた身体に仄かな甘味のある抹茶がスッと滑って落ちていった。 いい香りだ。 帳はほぅ、と吐息を吐き出して、喉から胃に落ちていく熱をさする。 そういえば、昨夜この屋敷に来てからろくなものを口に入れていなかった。 ぬるくなってしまった緑茶や、口に押し込んだだけの羊羹。 どちらも、最低限身体を動かそうとするためだけに詰め込んだものだ。 それは、直紹も同じだろう。 ずっと和穗に巻き付けた呪符に術力を流し続けていた彼なんかは、水を飲む暇もなかったかもしれない。 抹茶を元の位置に戻せば、指先にほんのり冷たい丸いものが触れた。 ツンツンとつつけば、それがまんじゅうであることがわかって無言で手に取る。 包装もなにもついていないのは、このまんじゅうが神風家で作られたものである証左だ。「神守さん」 パクリと、まんじゅうを一口いただくと、ふわっとした黒糖の香りと上質な小豆の甘さに舌鼓をうった。 直紹の声には、チラリと視線だけを向ける。 帳の視線の先には、正座をしてこちらを見ている直紹の術力が、ふわふわと宙に浮いていた。「明神を、領地へ連れてゆくおつもりですか」「うん」「……大丈夫ですか」「出来れば君と日向子ちゃんに
Last Updated : 2026-02-10 Read more