完璧なタイミングでデータと見解を補足する小夜子と、即座に決断を下す隼人。2人の間には誰も入り込む隙のない、強固で完成された歯車が存在していた。 翔吾の喉の奥はカラカラに乾いてしまっていた。(僕の入る隙間なんて、これっぽっちもないじゃないか) 兄の背中は圧倒的で、とても追いつけない。そんな兄と義姉であり上司である小夜子は対等に渡り合っている。 胃の腑に、冷たく重い鉛の塊が落ちたような感覚を覚えた。 自分はあのレベルには一生到達できないと、実感してしまった。(このホテルに、僕の居場所はあるのだろうか) 翔吾はノックのための手をゆっくりと下ろした。 彼は今まで、自分の居場所というものを感じたことがない。 実家では継母と母親違いの弟妹たちに、常に肩身の狭い思いをしていた。 大学の1年間は楽しかったが、それも実母の使い込みのせいで終わりを告げた。(駄目だ。隼人兄さん……黒崎社長に合わせる顔がない) 音を立てずに後ずさりする。バインダーを通りかかった秘書に押し付ける。「すみません。これを社長に渡してください」「え、ちょっと、急に何の話ですか……」 秘書の戸惑いは無視して、そのまま足早にその場を立ち去った。◇ 翔吾は、バックヤードの従業員休憩室へ戻っていた。 パイプ椅子に浅く腰掛けて、一人でタブレットの画面を見つめる。 画面に表示されている数字が、全く頭に入ってこない。ポケットの中の御子柴の名刺が、異常なほどの熱を放っているように感じられる。 と。 バンッ! 勢いよくドアが開いた。「あー、疲れたあ!」 山内実加が、額の汗を手の甲で拭いながら入ってきた。 彼女のハウスキーピング用の制服は、裾のあたりに泥が跳ねて、ひどく汚れている。「ちょっとメガネ、聞いてくれよ! 近くの公園でさ、客が迷子の犬を探しててよ。手
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