All Chapters of 名家の恥と捨てられた娘は、契約結婚先で花開く: Chapter 221 - Chapter 230

282 Chapters

212

 翔吾はベビーベッドを覗き込んだ。 彼には母親違いの弟妹がいる。もう10年以上前のことだが、赤子の世話の経験はあった。 おむつのインジケーターを見る。変色はない。濡れてはいないようだ。 室温は23度。適温だ。  ならば原因は一つ。空腹である。(ミルクを与えれば、泣き止むだろう) これは人助けではない。環境改善のためのタスク処理だ。 翔吾はそう定義付けて、キッチンへと向かった。  棚から粉ミルクの缶と哺乳瓶を取り出す。缶の裏面に記載された調乳方法を一読する。 翔吾の瞳から、眠気が消えた。 彼の脳内でスイッチが切り替わる。「70度以上のお湯で溶かし、人肌まで冷却……」 ケトルでお湯を沸かす。電子スケールの上に哺乳瓶を置き、粉ミルクをスプーンですくった。 彼の手つきは、ミルク作りというよりも化学実験のそれだった。  スプーンの縁で粉をすりきり、0.1グラムの誤差も許さずに投入する。 お湯を注ぐ角度も計算済みだ。  泡立てないように、かつ粉が溶け残らないように、手首のスナップを利かせて哺乳瓶を回転させる。 すっかりミルクが溶けたのを確認し、彼は呟いた。「攪拌(かくはん)、完了、と」 次は冷却プロセスだ。流水に哺乳瓶をさらして、秒単位で温度を下げる。  仕上げに自分の手首の内側にミルクを一滴垂らした。「37.5度……適温。完璧だ」 教科書通りのミルクが完成した。 ◇  翔吾は哺乳瓶を持ってベビーベッドに戻った。「待たせたね。今、ミルクをあげますよ」 泣き叫び続けていた理玖を抱き上げる。 その瞬間、翔吾の体が強張った。柔らかい。小さい。そして、温かい。  子供の頃、妹と弟を抱き上げたことはある。けれどこんなに小さかっただろうか。 壊れ物を扱うように、ぎこちない手つきで抱える。  既に首が座っているとはいえ、落としたら終わり
Read more

213

 これまで翔吾は常に比較され、評価される対象だった。 毒母にとっては、金を引き出すための道具。 父にとっては、過ちで生まれた不必要な息子。 そして兄にとっては、出来の悪い弟。 そこには常に条件があった。優秀であれば愛する。金になれば愛する。 けれどこの赤ん坊は違う。 ただミルクをくれた、抱っこしてくれた、それだけの理由で、全幅の信頼と笑顔を向けてくる。「必要とされる」という感覚が、じんわりと胸の奥に広がっていく。 翔吾の強張っていた肩の力が抜けた。 彼は指を握り返すと、少しぎこちない笑みを浮かべた。「悪くない飲みっぷりですね」「あうー!」 理玖はご機嫌な様子で、無邪気な笑みを浮かべた。◇ 翌朝。 カーテンの隙間から差し込む朝日で、実加は飛び起きた。「やっべ、寝てた! チビ!?」 慌ててベビーベッドを確認する。 理玖は機嫌よく、天井のメリーを見つめて手足をバタつかせていた。「あれ、おかしいな……。夜中の授乳をしなかったのに、泣いていない。おむつも汚れていない?」 ふとサイドテーブルを見て、実加は目を丸くした。 そこには、きれいに洗浄・消毒され、乾燥スタンドに立てられた哺乳瓶があった。 さらに、その横にはメモ用紙が置かれている。『ミルク摂取時刻01時34分。摂取量180ミリリットル。排泄あり(おむつ交換済み)』 定規で引いたような几帳面な文字だった。「うそだろ……」 実加が呆然としていると、リビングのドアが開いた。制服に着替えた翔吾が入ってくる。 実加はメモを片手に彼を指差した。「おいメガネ! これ、あんたがやったのか?」 翔吾は視線を合わせずに答えた。「騒音でマニュアルが覚えられなかったからです。あくまで自分の環境を守るために対処し
Read more

214:清掃の流儀

 ホテル・サンクチュアリの客室フロア、リネン室の前。 そこには今、一触即発の空気が漂っていた。「やり直し!」 ベテラン指導係の女性が、厳しい声を張り上げた。 彼女が指差す先には、山内実加が清掃を終えたばかりのツインルームがある。「シーツの四隅、甘い。シワが寄ってるわ。それに鏡。よーく見なさい、拭き跡が残ってるじゃない!」 実加は振り返ると、台車のハンドルを握りしめた。「あぁ?」 ドスの利いた声が出そうになるのを、慌てて喉の奥で押し殺した。「見た目はきれいじゃんか。そんなもん、虫眼鏡で見なきゃ分かんねーよ」「その雑な根性がダメなのよ!」 指導係はバインダーで実加の肩を小突いた。「やり直しをしないなら、あなたにはこの仕事は務まりません。ここは一流ホテルなの。ヤンキー上がりの小娘が、片手間でやっていい仕事じゃないわ。辞めなさい」 実加のこめかみに青筋が浮かぶ。 (うっぜえ……) 実加はぎりりと奥歯を噛み締めた。 右足が勝手に動きそうになる。このババアのすねを蹴り飛ばして、あの偉そうなバインダーをへし折ってやりたい。 だが、廊下の天井隅にある監視カメラの黒いレンズが目に入った。 器物破損は弁償。傷害沙汰は即解雇。 契約書の条項が脳裏をよぎる。 (チビのためだ。我慢しろ、実加) 実加は深く息を吐き出すと、視線を逸らした。「……チッ。細かいことウダウダと」「なんですって!?」「なんでもねーですよ。やりゃあいいんだろ、やりゃあ」 実加は乱暴にワゴンを回転させようとする。 と、その時。「そこまで」 凛とした声が、廊下の空気に響く。 いつの間にか、背後に白河小夜子が立っていた。 完璧な姿勢。足音もなく忍び寄るその姿は、まるで幽霊か忍者のようだ。「総支配人&
Read more

215

(動き、はやっ!?) 小夜子の動きは、掃除というよりも舞踏に近かった。 スポンジがバスタブの曲線を描く。無駄な往復運動が一切ない。一筆書きのように汚れを絡め取っていく。 シャワーで泡を流すと同時に、左手の水切りワイパーが走る。 キュッ、という小気味よい音とともに、水滴が一瞬で消滅した。 蛇口カランの磨き上げは、マイクロファイバークロスが残像に見えるほどの高速回転。 舞踏を通り押して何かの武芸の型のようですらある。 3分とかからなかった。 蛇口のステンレスが、鏡のような輝きを取り戻した。 掃除前もそこまで汚れているように見えなかったのだが、こうしてみれば違いは一目瞭然だ。 小夜子は息一つ乱さずにエプロンを外した。「……す、すげーけど」 実加は素直に驚いたが、同時に反発心も湧いた。「そこまでやる必要あんのかよ? 客なんてどうせ汚すんだろ。また明日には水垢だらけだ」「……」 小夜子は無言でバスルームを出て、ベッドルームへと歩いた。 ふかふかのカーペットの上で足を止める。「座りなさい」「あ?」「床に座って。ここを触りなさい」 言われるがまま、実加はあくらをかき、カーペットに手を触れた。 触れるのは、高級そうな柔らかな毛足だけ。「別に、ゴミなんて落ちてねえよ。きれいじゃん」「そう見えるかしら」 小夜子は冷ややかに言った。「実加さん。あなたはここで、理玖君をハイハイさせられますか?」 実加の手が止まった。 理玖。彼女の生後6ヶ月の息子である。 まだハイハイはできないけれど、最近はよく手足をばたつかせている。 活発な子だから、もう少しでハイハイを始めるだろうとベビーシッターの保育士が言っていた。 ハイハイを始めたら、理玖は楽しそうに動き回るだろう。 好奇心旺盛な子だから、落ち
Read more

216

「……無理だ」 実加の声がかすれる。 小夜子は座ったままの実加を見下ろした。「お客様は、単なる『金づる』ではありません。誰かの大切な家族です」「……家族」 小夜子の言葉は、実加の心を揺らした。「ホテルとは、人間が無防備になる場所です。自宅でくつろぐように、あるいはそれ以上の安全を保証しなければなりません。靴を脱ぎ、服を脱ぎ、眠る場所。一番無防備な状態の人間を、細菌や危険から守る。それがハウスキーピングの仕事です」 小夜子はしゃがみ込み、実加と視線を合わせた。「想像しなさい。ここを使う人の顔を。その人が安心して呼吸できる空間を作るのです。それが『プロ』の流儀(プライド)です」 実加は自分の手を見る。 さっきまでは、ただの労働だと思っていた。 適当にやって、金がもらえればいいと思っていた。 だが、違った。 彼女が雑な仕事をすれば、誰かを傷つける凶器になる。 そんな事は考えたこともなかった。 実加には誰よりも大事な息子がいるのに、他の人の家族に目を向けられていなかったのだ。 実加は拳を強く握りしめた。爪が手のひらに食い込むが、痛みは悔しさではない。決意だった。「……教えてくれ、師匠」 実加は顔を上げた。その瞳に、ヤンキー特有のギラついた闘志が宿る。「あたしの掃除じゃ、チビを守れねえ。完璧なやり方、叩き込んでくれ」 小夜子はニッコリと微笑んだ。◇ そこからは、修行の時間だった。 実加は客室に戻ると、鬼の形相でモップを構える。「オラオラ汚れぇ! 死角はそこかよ!」「そこだけではありませんよ。よく見なさい」「おうよ、師匠!」 口汚い言葉を吐きながらも、その手つきは繊細だ。まるで理玖を抱く時のように。 ベッドの下。這いつくばって覗き込んだ。
Read more

217

「よし。これならチビも置ける」 実加はニヤリと笑い、手の甲で汗を拭った。「どうだ、師匠!?」「……初心者としては及第点ですね。甘い部分はこれからしごいて差し上げましょう」 小夜子はそう言って、掃除機を受け取った。 見る間に始まる舞い踊るような掃除に、実加は再び目を見開く。「うわ、しまった! まだそんなにホコリが!」 実加はぎゅっと手を握りしめた。「さすがだぜ、師匠。でも必ず追いついてみせるからな!」「ふふふ。楽しみですね」◇ 翌日の夜。実加は遅番のシフトに入っていた。 チェックアウトしたばかりの客室に、清掃に入る。老夫婦が泊まっていた部屋だ。 リネンを交換しようとして、枕を持ち上げた時だった。 コロン。 何かが床に落ちた。 拾い上げてみると、古びた布袋だった。色褪せた赤色のお守り。 刺繍はほつれ、何度も握りしめられたのか、手垢で黒ずんでいる。「……なんだこれ」 ゴミとして捨てようとして、実加の手が止まった。 汚い。ボロボロだ。 けれど、ただのゴミじゃない。 実加には分かった。これは、誰かがとてに大切にしていたものだ。擦り切れるまで身につけているものだ。 理玖の産着を、彼女が捨てられないのと同じように。 時計を見る。チェックアウトから経過した時間は、10分。 まだ間に合うか?「やるしかねーわ!」 フロントに内線している時間は惜しい。実加はお守りを握りしめて、部屋を飛び出した。 廊下を全力疾走する。 支給品の黒いパンプスが、かかとに食い込んで痛い。「邪魔だッ!」 実加は走りながらパンプスを脱ぎ捨てた。 ストッキングごしの足裏に、冷たい床の感触が伝わる。 エレベーターは待てない。非常階段を駆け下りる。
Read more

218

 老婦人が息を呑んだ。「ああ……! あなた、美咲のお守りよ!」 夫の方が、震える手でそれを受け取った。「ありがとう……。これは、亡くなった娘の形見で……肌身離さず持っていたんだが、うっかりしていた。本当に、ありがとう」 老婦人の目から涙があふれた。 彼女は窓から手を伸ばし、実加の汚れた手を両手で包み込んむ。 温かい手だった。「あなたのおかげで、娘を置き去りにせずに済みました」 実加は照れくさそうに鼻をこする。「……大事なもんなら、ちゃんと持っててくれよ。気をつけてな」 信号が青に変わる。 タクシーが走り去るのを、実加は腰に手を当てて見送る。 アスファルトの冷たさが、火照った足裏に心地よかった。◇ 実加がロビーに戻ると、翔吾が仁王立ちで待っていた。 その手には、真っ白なタオルが握られている。「野蛮極まりないですね。従業員が裸足で走り回るなんて、前代未聞です」 翔吾はしかめっ面で、タオルを実加に投げつけた。「足、拭いてください。床が汚れます」 実加はタオルを受け取り、ニカっと笑う。「へへん。元陸上部ナメんな。タクシーより速かったろ」「信号待ちしていただけでしょう」 翔吾は呆れたように眼鏡を直したが、その声にはいつもの刺々しさはなかった。 そこへ、コツ、コツ、とヒールの音が近づいてきた。 小夜子だ。 彼女は実加の足元を見つめ、そして視線をロビーの床へと移した。 点々と続く、黒い足跡。「ロビーの床が汚れましたね」 小夜子の声は低い。 実加が肩をすくめる。「あー、すんません。すぐ拭きます」「いいえ」 小夜子は翔吾の方を向いた。「実加さん、翔吾さん
Read more

219:迷子の試練

 午後3時。ホテル『サンクチュアリ』のフロントロビーは、1日の中で最も混雑するチェックインのピークタイムを迎えていた。 ロビーの高い天井には、様々な国の言葉が反響している。  その他にも、ベルボーイが真鍮製の荷物カートを押す、カラカラと滑らかな車輪の音。  淹れたてのコーヒーの芳醇な香りと、富裕層の客たちがまとう様々な高級香水の匂いが混ざり合って、一流ホテル特有の活気に満ちた空気を形成していた。 小夜子は、吹き抜けになった2階通路の手すりに軽く手を添えて、眼下に広がる光景をくまなく観察していた。 (ベルボーイの動線は悪くないわね。でも、フロントスタッフの笑顔が少し硬いかしら。3時間立ちっぱなしの疲労が、頬の筋肉に表れている。後で休憩のローテーションを見直す必要がある) 手元のメモ帳に愛用の万年筆を走らせていた、まさにその時のこと。「レオ! レオはどこ!?」 切羽詰まった悲鳴のような高い声が、ロビーの空気を震わせた。  優雅な歓談を楽しんでいた周囲の客たちが、一斉に声の主へと視線を向ける。 そこにいたのは、1人の女性。海外企業の重役夫人であるVIP客だった。  派手なツバ広の帽子は斜めに歪み、羽織っていたシルクのストールが肩からずり落ちている。彼女の呼吸は極端に浅く乱れ、肌には冷や汗が光っていた。 カウンターで接客研修を行っていた黒崎翔吾が、素早く対応に出る。「お客様、いかがなさいましたか。どうか深呼吸を」「目を離したほんの一瞬で、息子のレオがいなくなったの! あの子はまだ5歳なのよ! 誘拐されたらどうしよう!」 夫人はカウンターの天板に身を乗り出して、翔吾に詰め寄る。 翔吾は彼女の必死な様子に気圧されて、眼鏡のブリッジを中指で押し上げた。が、すぐに落ち着きを取り戻す。  手元のタブレット端末の画面を高速でスワイプし、冷静沈着な声で告げた。「落ち着いてください。統計上、当施設のようなセキュリティの行き届いた屋内での迷子は、30分以内に発見される確率が98パーセントです。現在の時刻と館内の人口密度、出入り口の監
Read more

220

 その体を、横から伸びてきた手がしっかりと支えた。「ご安心くださいませ」 小夜子だった。2階から瞬時に駆け下りて駆けつけ、絶妙なタイミングで夫人の腕をホールドしたのだ。「アーク・リゾーツの威信にかけて、お坊様は必ず見つけ出します。どうぞVIPラウンジにてお待ちください。心を落ち着かせるカモミールとラベンダーの極上ハーブティーをご用意しておりますので」 小夜子の凛とした声と、自信に満ちた瞳。 夫人はその存在感に当てられて、素直にこくりと頷いた。 小夜子は手振りで他のスタッフに合図を送り、夫人をラウンジへ誘導させる。 夫人の姿が見えなくなると、小夜子は翔吾に向き直った。「翔吾さん。母親の恐怖心に、数字だけのデータは響きません。あなたはただちに防災センターの監視カメラ室へ行きなさい」「……はい。申し訳ありません」 翔吾はうつむきかけた顔を上げて、足早にロビーを後にした。 彼の背中には、前回の「AIみたい」というクレームの苦い記憶が重なっているようだった。◇ 防災センターは、ホテルの中枢部にある。 監視カメラ室の薄暗い室内には、壁一面に数十台のモニターが整然と並んでいた。無数のサーバーから発せられる冷却ファンの低い駆動音が、単調に鳴り続けていた。 翔吾はメインコンソールの前に座り、キーボードを高速で叩いていた。 小夜子はその斜め後ろに立って、彼の作業プロセスをじっと眺めている。 (翔吾さんは、まるで冷たい計算機ね。けれど、キーを叩く指先の関節が白くなるほど力が入っている。彼なりに必死なのだわ) 翔吾は画面を見つめたまま、早口で自らの思考を語った。「対象のお子さんは身長110センチ。服装は青いジャケットに白いズボンです。5歳児の平均歩行速度は秒速約1メートル。チェックインの手続きにかかった空白は、4分間。移動可能な最大範囲は半径240メートル……」 翔吾はカメラの映像を次々と切り替えて、タイムコー
Read more

221

「東館3階、客室廊下Bエリアです。ここでカメラの死角に入り、以降の映像に姿がありません」 翔吾はデスク上の社内携帯電話を掴んだ。「各フロアの捜索隊へ。対象は東館3階に潜伏している可能性大。至急確認を」 数秒のノイズの後、社内携帯から威勢のいい声が返ってきた。『こちら山内実加。今、ちょうど東館3階でモップがけ中ッス!』 小夜子は目を細めた。 (偶然とはいえ、最適な人員配置ね。さて、この水と油の二人がどう動くかしら) ◇  監視モニターには、清掃用のモップを壁に立てかけ、廊下を小走りで進む山内実加の姿が映っていた。  彼女の腰には洗浄スプレーやダスターが入った専用ポーチが揺れている。足元は指定スニーカーだが、歩幅が広く、ヤンキー特有の俊敏さがある。 翔吾がマイクに向かって、的確な指示を出した。「山内さん。論理的に考えて、廊下の突き当たりにある非常階段か、清掃中でドアが開いていた客室に入り込んだ可能性が高いです。順番に確認をしてください」『……いや、違うな。子供はそんなただっ広いところには行かねえよ』 実加は足を止めて、携帯越しに真っ向から反論した。  翔吾は不満の声を上げる。「は? これは行動データに基づいた推測です。反論があるなら明確な根拠を提示してください」『根拠だぁ? アタシの勘だ!』 翔吾が顔をしかめ、小夜子を振り返る。あんな非論理的な主張を許していいのかと目で訴えている。  だが、小夜子はモニターから目を離さなかった。 画面の中の実加は、その場にしゃがみ込んでいた。膝をつき、床から約1メートルの高さに自分の視線を合わせている。  小夜子は思う。 (身長110センチの5歳児の視線。大人の視界に入らない死角を探しているのね。自分の息子を育てている彼女ならではのアプローチだわ)『子供ってのは、大人の目を盗んで自分だけの秘密基地を作りたがるもんだ。狭くて、薄暗くて、隠れられる場所……。ウチもそうだったし、まだ
Read more
PREV
1
...
2122232425
...
29
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status