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DISTANCE のすべてのチャプター: チャプター 31 - チャプター 40

54 チャプター

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 食事の間、久我というその男は実に朗らかに、真澄サンはなにげなく和やかに、俺を〝友人〟扱いしてくれた。  俺は日常の真澄サンをほとんど見たことがなかったが、平素の真澄サンはこんなにも穏やかな顔してるんだなぁ……なんて、改めて思った。「じゃあ、この辺で切り上げようか?」 「そうだな、そろそろ戻らないと……」 「え? いいよ、俺だけ戻るから。ユッキー直帰しちゃいなよ」 「だって……、マズイだろ?」 「へーき、へーき。みんなやってるよ? っていうか、ユッキー真面目すぎるんだよ。せっかく友達に会ったんだから、たまには早く切り上げなって」 久我氏はそういうと、サッと伝票を持って立ち上がった。「あ、ジュン! おい、待てったら」 慌てて席を立ち、真澄サンは後を追う。  けれど、店を出た所で結局久我氏は一人で会社に戻ると言って、真澄サンを残して立ち去ってしまった。「やっぱ、俺マズかった?」 後ろから声を掛けると、真澄サンは少し困ったような顔で振り返る。「いや、いいんだ。アイツがああ言い出すって、考えてみれば予想できたんだけどな」 なんだかものすごくガッカリしているみたいな様子で、真澄サンは駅に向かって歩き出す。「一体、どういうつもりでヒモなんて言葉使ったの?」 俺の問いに、真澄サンはひどくビックリした顔で振り返る。「間違ってないだろう?」 「……どういう意味?」 「だって、イオリが俺と付き合ってるのって、そのためだろう?」 今度は俺が、ビックリした。「はい?」 「なんだよ、今更。……大体俺は、イオリがいつになったら金銭を要求してくるのかと思ってたのに。オマエちっとも何にも言わないし。この間渡した時に受け取ったのに、やっぱりそれっきりで、変なヤツだと思ってた」 さらりと答えられて、俺はあんぐりと口を開けてしまった。  腹立たしいがグチ金の言った通り、真澄サンは俺のことなんかとっくにお見通しだったのだ。  まるっきり、お釈迦さまの
last update最終更新日 : 2025-12-23
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「でも、わざわざあそこでヒモなんて言ったの、なんか理由あるんでしょ?」 訊ねた俺に真澄サンは、今度はやりきれない感じの笑みを浮かべて振り返る。「ホントのところ、どこまで付き合ってくれる気なんだよ?」 「……どこまで……とは?」 「メンタルケアまで、面倒を見る気なのか? そんなコトしたら、いくら貰っても割が合わないだろうに……」 「確かに俺は金目当てのコマシだけど、でも俺、真澄サンのコトはマジなんだ。こんな商売やってなくても、あの店で真澄サンに会ってたら、絶対口説いてたって」 「さすがに口が上手いな」 かなり本気のセリフだったのに、軽くいなされてしまった。  でも俺の正体がバレてる以上、真に受けてもらえなくても仕方ないか……。「まあいいじゃん、俺が真澄サンの話を聞きたがってるんだから、テキトーに話してよ。真澄サンだって言えば軽くなることもあるんじゃない?」 「それも、そうかな……」 なんだかやっぱり意味深に笑って、真澄サンは俺の顔をチラッと見る。「お察しの通り、アイツに当てつけるために言った」 「ヒモ発言?」 俺の問いに、真澄サンは頷く。「自分でも、バカみたいだと思う。……本当は、自分の気持ちをジュンに知らせるつもりはないんだ」 「え? じゃあ向こうは真澄サンの気持ちを全然知らないの?」 「ああ、全くな」 「それじゃあ、当てつけにもならないじゃんか」 「うん、まあ、そうなる。……ただ、ちょっとさっきは……たぶん、急にあんな所でイオリに会ったから、動揺したんだと思う」 ポツリ、ポツリと、真澄サンは今までおくびにも出さなかった本音を語る。  簡単に言うなら、真澄サンはずいぶん以前からあの久我氏に気を惹かれていたらしい。 思春期の頃からあんまり異性には興味が無くて……というよりは、本人曰く「異性がコワイ」のだと言う。「上京して勤めに出て、でももう学生時代みたいには友達なんてできないだろう? 同僚とそれなりにはやっていけるが、それ以上はなぁ……」
last update最終更新日 : 2025-12-24
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「もしかして、婚約発表があったからDISTANCEに来たの?」 「まぁ、そうだ」 その一言で、俺が真澄サンに感じていた〝違和感〟の正体が判明した。  とどのつまり、あの晩の真澄サンはかなり投げ遣り気分で、相手は誰でも良かったのだ。  だけどその反面、断ち切れない恋慕を抱えていたから、ところどころで戸惑いを見せた……というワケだ。「誰でも良いとは思ってたし、いっそ手練手管に長けてる方が気が楽だと思ってたから、イオリに声を掛けられたのは運が良かったと思ってる」 真澄サンは俺が腹の中で思ったことを、察したらしい。「とりあえず、褒め言葉だと思っておきましょう」 「だから、褒めてるんだって」 意地の悪そうな顔で笑って、真澄サンは俺の頭をポスポス叩いた。 相変わらず生活感がまるでない部屋と、真澄サンが用意してくれた酒肴の簡素さに少し呆れながら。  この部屋のシンプルさは、すなわち上京後から現在に至るまでの真澄サンの〝孤独感〟を象徴していることにようやく気が付いた。 実際、俺のアパートだって散らかっちゃいるがなにもないと言えばなにもない。  ソファの上で、ワインに少し酔っている真澄サンの体を抱くと、これまたいつも通りになんの抵抗もなく俺の行為を許容する。  だけど今夜は今までと少しだけ違って、キスをしたら真澄サンの舌がおずおずと俺のそれに応えた。  それはつまり、今まではやっぱり意識的に応じてなかったってことだ。 ようするに、真澄サンにとって俺との行為は寂しさを紛らわせる為の娯楽でしかないのだし──。  俺はジゴロで、何も言わずに奉仕するのが当たり前なのだし──。 それどころか、今夜にいたって俺がジゴロで真澄サンがパトロンというハッキリしたビジネスを双方が認めたのだから、いっそ割り切って行為に及ぶのはやぶさかでないだろう。  だから俺はベッドの中で、いつもにも増して優しく、そして意地悪く真澄サンを抱いた。「真澄サンは、久我サンに言わないままでいるつもりなの?」 ベッドに寝そべって真澄
last update最終更新日 : 2025-12-25
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7.傷心

 結婚式……なんていう晴れがましい舞台に、俺は声をかけてもらったことはない。  俺の商売的にも、俺の趣味的にも、結婚という言葉とは対極の位置にいるから、当たり前と言えば当たり前なんだけど。 だから式をして披露宴をして二次会をして……なんていう流れもよく知らないし、きちんと新郎新婦に付き合う(二次会? 三次会???)と解放されるのがいつになるのか? なんてのは、ハッキリわからない。  だけど、真澄サンが久我氏の結婚式だと言っていた二週目の土曜日に、俺はちょこっと奮発して伊勢丹の地下にある食品売り場で洒落たボトルに入ったワインと、平素は横目で見るだけで絶対に手を出したりしない食材を購入した。  そして夕方になる前に真澄サンのマンションに出向き、先日受け取ったまま返していない合い鍵で部屋に入り込む。 リビングのローテーブルにテーブルクロスを広げ、中央にはクリスマスにしかお目に掛からないようなキャンドルを置き、ワインは冷蔵庫に入れて食材をキッチンに広げる。  帰ってきてから飯を食えるとは思えないが、ちょこちょこっとつまめる気楽なオードブルなら口当たりも良いだろう。  以前にホストをやっていた頃、客相手にギャルソンの真似事をして、ロマンティックなセッティングでご機嫌を取ったりしたことがあったので、こういった演出をするのは結構得意だ。  買ってきた食材に飾り包丁を入れて、市販のパイシートを小さく切ってオーブンで焼き、シャレこけた食材をちょこちょこっと盛りつける。 真澄サンは、九時を少し回った頃に帰ってきた。「おかえりなさい」 「イオリ? どうしたんだよ?」 室内の様子にも、俺の存在にも、真澄サンはビックリしたようだった。「ん〜? 俺のお誕生日?」 「ええ? それならもっと早く言ってくれればよかったのに……」 「ウソ」 ポカンとしている真澄サンのタキシードの上着を取り、ソファに座らせる。  疲れた顔の真澄サンの頬にキスして、俺は冷蔵庫から用意したオードブルとワインを取りだした。「それで、本当にどういうつもりなんだ?」
last update最終更新日 : 2025-12-26
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 ソファの上で動かなくなってしまった真澄サンを抱いて、俺は寝室の扉を足で開けた。  清潔なシーツの上に体を下ろして、ドレスシャツとタキシードのズボンを脱がす。  それから、着替えのパジャマを取りに行こうとしたが──。「……イオリ」 「なんだよ、起きてたの? それなら自分で歩いてくれればいいのに」 「……って、オマエが……全部やってくれるだろ?」 両手を伸ばし、真澄サンは俺に〝こいこい〟をする。  側に歩み寄ると、伸ばされた腕にそのまま絡め取られた。「パジャマ取ってこないと……」 「いらない……」 「洗濯物、置いてくるだけ」 「ダメ」 「言うコトきかない酔っぱらいは、このまま丸剥きにして、食べちゃうぞ……」 やんわり腕を外そうとした時、こっちを見ている真澄サンと目が合ったら、俺はそのまま動けなくなった。 真澄サンの目は、初めて逢った時からずっと俺を魅了してきた。 俺は、元々ちょっと強気な目つきをしたタイプが好みだけれど、真澄サンのそれはやや攻撃的とも受け取れる強い視線の奥に、摩訶不思議な悲しみの影がゆらゆらと揺らめいている。  その正体は、真澄サンが心に秘めた片想いの憂鬱なのだろうけれど──。  どこまでも透明なのに漆黒の輝きを持つそれは、俺を魅了してやまないのだ。 でも普段は、こうやって一緒の部屋で寝起きしてても、真澄サンが俺と視線を合わせてくれる事は滅多にナイ。  たまに合っても、落ち着かぬ様子ですぐに視線を逸らされてしまうので、まるで俺の存在が真澄サンを後ろめたくさせてるみたいに思えて、内心ずっと気になっていた。  それが突然、真っ正面から、ジッと俺のことを見ている。  焦るというか──俺の方が落ち着けなくなってしまう。「食えるモンなら、食ってみろよ……」 俺の肩に腕を回していた真澄サンは、そのまま体を起こして、うっすらとした唇を俺のそれに重ね合わせてくる。  俺は、ちょっとビックリして固まってしまった。  ほんの軽い接触だっ
last update最終更新日 : 2025-12-27
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 そうまでねだられて、俺が応えないでいられるわけがない。  俺は、手に持っていた洗濯物を床に落として、真澄サンの体を抱き寄せると深くキスをする。  下着を脱がすのも協力的で、あっさり全てを取り払えた。  真澄サンが苛立っている理由はあからさまにわかっていたから、俺は割と性急に真澄サンの体を責め立てる。「あ……んっ!」 ずいぶん前からベッドサイドに常備されるようになったローションを垂らし、俺の滑った指先は直ぐにも真澄サンの体内のポイントに辿り着いた。「……イ……オリ……」 「……なに?」 「なん……で?」 「なにが?」 「だって、……今日のオマエ……なんにも言わな……」 指で体内を掻き回される快感に溶けているんだとばかり思ったのに、不意に真澄サンはそんな奇妙なことを訊ねてくる。「……どういう意味?」 「いつもは……もっと、意地の悪いコトを……言うだろ?」 「言葉で、もっと責めて欲しいの?」 「ば……か……、そうじゃない。……けど……、らしくない……」 「だって、声が聞こえなきゃ、誰に抱かれてるかなんて想像でいくらも変えられるでしょ?」 俺の答えに、真澄サンは目を見開いて俺を見る。「ばかっ!」 それは、甘えてる様な声音でなく、きっぱり叱責するような鋭い声だった。  ビックリして、思わず全ての動きを止めた俺を、真澄サンはものすごく怒ったような顔で睨んでいる。「ど……どうしたの?」 「俺は……、俺は一度も、イオリを誰かの代わりにしたことなんかないぞっ!」 「……だ……って、真澄サンは……」 「後にも先にも、こんな事をした相手はイオリしかいないのに、誰をどうやって想像しろって言うんだよ」 真澄サンの言葉に、俺は叱られてるのも忘れて笑いそうになった。「……ゴメン。俺がバカです」 怒った顔にキスをして、それからとめていた指を再び蠢かせる。「あ……っ!」 キスに応えながら、真澄サ
last update最終更新日 : 2025-12-28
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 俺は指先を再び下へと降ろし、腰を支えて真澄サンが俺を体内に飲み込みやすいようにと導いてやった。「ああっ!」 「なかなか上手だよ。いつも、一番気持ちイイ所を突いてあげてるでしょ? 自分で探しながら、上下に揺れてみせてよ」 「あ……ふっ!」 指先をまた胸元に戻して、両手で脇を支えるような角度のまま、両方の親指で小さな突起を二つ同時にこねまわす。「や……っ! あ、……イ……オリぃ」 「大丈夫、上手だよ。むしろ、いつも俺がしてあげる時より、動きが激しいんじゃない?」 「う……そだ」 「ウソじゃないよ、ホント真澄サンのカラダってやーらしい。そんな、自分ばっかり楽しんでないで、俺にキスしてよ」 半ばしゃぶりつくようにキスをする真澄サンは、腰をグラインドさせてもどかしそうに身悶える。  いつもなら、奥まで激しく突き立てられている時は、俺がソレも一緒に煽ってやっているから、それで一気にイクことができるが。  今日は、敢えて上半身への愛撫だけで、直接の刺激は全く施してないから、イクにイケなくて苦しいのだろう。  とうとう堪えかねて、真澄サンが自分のソレを握ろうとした。  だけど俺はそれを許さず、手を取って背中へと回させる。  片手で真澄サンの両手を押さえ込み、ベッドの端に引っかかっていた真澄サンのシャツで動けないようにまとめ上げる。「なに……するっ!」 「なんにも。真澄サンだって知ってるでしょ? なんか都合が悪いほうが、煽られて快感が大きくなるコト」 「は……なせっ!」 「足、そんなに広げて、腰をそんなに振ってさぁ。乳首までこんなに勃起させて、スゲーやーらしい」 「い……あ……あぁ……」 「俺、そういうやーらしい真澄サンのカラダ、大好き。ねぇ、知ってる? セックスすればするほど、真澄サンのカラダはエッチで気持ちイイコトを覚えて、ますますやらしくなるって」 「……ちが……っ!」 「ウソつき。最初に抱かれた時と今じゃ、全然快感の深さが違うって、気づいてるクセに……」 唇から頬、顎に喉元
last update最終更新日 : 2025-12-29
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8.ブラックメール

「最近、すっかりご無沙汰だったよね?」 DISTANCEに顔を出した途端、開口一番、マスターが言った。「まぁ、ジゴロの本領発揮で、パトロンの家に入り浸りだったから」「へえ、まだあのベッピンと続いてるんだ」 ははは、なんて笑って。 マスターは〝いつも通り〟の水割りを作ってくれた。 久々の馴染みの味に、俺はなんとなく〝自分に戻った〟ような気がして、つい、ムダに口もとが緩んでしまう。「どうしたの? 一人でニタニタしてたら、気持ち悪いよ?」「ん〜? いや、俺ってホントは、自分がこの店の備品なんじゃないかと思ってさぁ」「莫迦なコト言うなよ? 第一、そんな一歩まかり間違えば公安のお世話になりかねない危険人物を、ウチで飼ってるなんて思われるような発言、やめてくれないかなぁ」「ひっでーなぁ!」 俺は、うはは……と笑ってみせた。 が、マスターは、入ってきた新たな客の注文を取りに行ってしまう。 でも──。 なんというか、カウンターのいつもの席で水割りを舐めていると。「ああやっぱりココが俺の場所なんだなぁ……」 なんて、柄にもないことを思ってしまったのだ。 実際、真澄サンのマンションでの生活は悪くなかった。 金の心配はいらないし、近所には洒落たカフェやレストランも揃っている。 自堕落に時を過ごしたら、浦島太郎よろしく、時間と日にちの感覚が無くなりそうだった。 以前、匿ってもらった時。 真澄サンの暮らしは、まるで家があってなきが如しだったけど。 久我氏の結婚がよほど堪えたのか、現在は急激に残業時間が減っている。 そんなに急に勤めぶりを変えて、会社に変に思われないのかと訊ねたら──。 会社はむしろ、残業代を支払いたくないから時間になったら帰って欲しいのだ……と、真澄サンは言うのだ。 俺のテリトリーではないが、渋谷も近く遊ぶのに困らないけど。 真澄サンが早々に
last update最終更新日 : 2025-12-30
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「こんばんわ〜!」 扉が開き、やたらと元気な声が飛び込んでくる。「よう、ハッチ!」「あっれ〜? イオリじゃん! 生きてたの?」 元気いっぱいでニコニコ顔のハッチは、ぴょんと俺の隣のスツールに座る。「え? 俺って死んだことになってたん?」「ミッチャンが、もう〝風前の灯火〟って言ってたから、死んじゃったのかと思ってた!」 ハッチの返事に、マスターがジタバタと羽ばたいた。 ちなみに〝ミッチャン〟とは、ホスト時代のマスターの源氏名〝ミツロー〟由来のニックネームである。 そして、ハッチはマスターのパトロンだ。 元は田園調布のイイトコのボンボンだったのだが、ミツローにいれあげ、店から引き抜き、このDISTANCEを持たせた……のだが──。 それが原因で勘当され、現在は〝ウリ〟をしている──という、ちょっと妙な履歴の人物だ。 ちなみにハッチがウリ専なのは、ハッチ自身がマスターを食うことを目的としているので、マスターに対する貞操を守る為に自分の目的とは逆の方法で稼いでいるから……と言っていた。「グッチーにお金借りたんだって? ねぇねぇ、グッチーってお金貸すヒトに、最初に生命保険に入らせるってミッチャンが言ってたケド、ホント? 俺と話する時は、そんなコワイコト言ったりしないのになぁ、グッチー」「マスター、一体ハッチにナニを吹きこんでんだよ?」 ハッチの爆弾発言に、マスターはそそくさとカウンターの奥に引っ込んでいった。「あっれ〜? ミッチャンいなくなっちゃったの? 困ったなぁ」「困ったって……、なに。ハッチは今日、仕事?」「うん、そーなんだ。スッゴイイイヒトでさぁ〜。お金イッパイ持ってて、しかも基本料金の他にお小遣いイッパイくれるんだよ! その上、エッチはあんまししなくていいの。今日もココで待ち合わせなんだ〜」「なにそれ、枯れた老人?」「ううん、違うよ〜。あ、来た! じゃあね〜!」 扉が開いたところで、ハッチは
last update最終更新日 : 2025-12-31
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 アイツは専務だか常務だかの娘と付き合って、めでたくゴールインしたんじゃなかったのかよ? なんだって、こんな場所に居るんだろう? アイツは一体なんなんだ? 俺は咄嗟に店を出て、二人の後をつけていた。 どうして、そんなコトをしたのか、最初は判らなかったけど。 でもしばらく後を追けていて、俺は自分がどうしてそんな行動に出たのか、だんだん分かってきた。 ものすごく腹が立っていたのだ。 アイツがやっていることを、なにもかも白日の下にさらしてやりたい──。 だって、どう考えたって酷い話だろ。 会社の上役から持ってこられた結婚話を何食わぬ顔で受け入れつつ、裏ではハッチみたいなファンキーボーイとアバンチュールを楽しんでいる。 真澄サンの傷つきなど知ったことかと、のうのうと遊び回っているんだ。 ポケットからケータイを取り出し、電池残量を確かめる。 ケータイのカメラはズームとナイトショット付きだ。 これは商売の都合上、ムードづくりでツーショットを撮るための必要経費だ。 とはいえ本物のデジカメほど高性能なわけではない。 プリクラ並みの画質が限界だし、盗撮防止のためシャッター音は消せないから、あまり近づくとバレる。 二人はオープンカフェに入った。 ハッチは「エッチはあんまししなくて……」と言っていたから、ここでしばらく話すつもりなのかもしれない。 ホテルに入るような決定的な場面を期待していたが、この様子では望めそうにない。 張り切った分だけがっかりして、俺は暗い街角で俯いてため息をついた。 待てよ──。 確か真澄サンの勤め先は丸の内に本社を置く名の通った老舗企業だ。 最近の新興企業とは違って、老舗は体面をやたら気にする。 上層部がスキャンダルに厳しいのは想像に難くないし、相手の〝嫁さん〟はその上層部の娘だ。 カフェの並んだ写真で少しでも怪しい雰囲気が掴めれば、向こうが勝手に動いてくれることだって期待できる。 ハッチはこの辺りでは
last update最終更新日 : 2026-01-01
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