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DISTANCE のすべてのチャプター: チャプター 41 - チャプター 50

54 チャプター

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 メモリが一杯になるまで写真を撮ってから、俺はその場を切り上げた。 あまり粘って久我氏に気付かれても困る。 靖国通りに出てコンビニに入り、サービス端末に携帯を繋いで、撮ったばかりの画像を出力した。 ほとんどは手ブレで使い物にならなかったけど、数枚ちゃんと顔が判別できる程度に撮れていて、頬を寄せるようにして話をしている様子は、実にあやしい雰囲気満点だ。 これなら例えハッチが全くそういったことに無関係の〝真っ当な〟人間だったとしても、とりあえず調べてみたい気分にはなるだろう。 俺はコンビニを出て、知り合いのナンバーをコールした。 確かに俺は友人の少ない人生を歩いているが、知人は無駄に多い。 この界隈を根城に〝社会のダニ〟な生活をするには、貸し借りの多い知人関係を作らざるを得ないからだ。 会社とその所属部署、それに本人の名前までハッキリわかっていれば、調べてくれる知人はいくらもいる。 そして、その道のプロにお願いすれば、カミサンの実家の住所と電話番号ぐらい、半日もすれば手に入る……というわけだ。 さっそく打診したところ、快い返事が返ってきた。 ちゃんと依頼をすれば証拠写真まで撮って貰えてしまうが、そこまで頼むのは得策じゃないだろう。 なんたってそんな胡散臭さMAXなヤツらだから、調べてくれる内容に対しての信頼はあっても、連中の人格や行動には数mgたりとも信頼なんてできない。 証拠写真なんか頼んだら、ほくほくと久我氏を強請りに行きかねないような輩なのだ。 俺は久我氏から金を搾り取ることになんて、全く興味は無い。 むしろ、気分的には〝正義の味方〟なんだから。
last update最終更新日 : 2026-01-02
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 件の知人に頼んだら、ホントに呆気なく「久我氏のカミサンの実家の住所」は判明した。 さすがにハイソな高級住宅街の住所が記されたメモを、数枚の紙幣と交換したところで、俺は古典的な切り抜き文字のブラックメールを作成した。 俺は金を強請ったり、企業を恐喝したり……ってつもりは全くなかったけれど、そもそも同封する写真だけではインパクトが薄いってこともわかっていたし、ありきたりな郵便物ではダイレクトメールと間違えてポイされてしまうかもしれないと思ったからだ。 禍々しい切り抜き文字の封筒を開けば、中には夜間のカフェで男と密会している久我氏の写真。 同封の手紙には、ハッチの簡単な身上書……ってな感じだ。 根は無精なんだけど、こういうことって始めると凝るんだよなぁ。 ゴム手袋をして新聞を切り抜き、糊を塗って封筒に貼る……なんて作業に没頭していたら、すっかり夕方になっていた。 郵便物の投函と夕食を兼ねて出掛けようとしたら、俺のケータイが着信を告げた。「はい、イオリで〜す」『イオリ、今ドコだ?』 耳に流れ込む心地よい声音に、俺は心が浮き浮きと浮き立った。「今、自宅ですけど?」『自宅って、西新宿?』「はい、そうです。嬉しいなぁ、真澄サンがわざわざ出張先からラブコールくれるなんて!」『いや、今もう新宿駅にいるんだ』「どうしたの? 帰ってくるの、明日じゃなかったっけ?」『うん、実は予定より早く仕事が終わったから、戻ってきた。これから、夕食でも一緒にどうだ?』「そりゃあもう、願ってもナイっすよ!」 通話を切って、俺は真っ直ぐ約束の場所に飛んでいった。 食事をした後は、もちろん真澄サンのマンションに向かった。
last update最終更新日 : 2026-01-03
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 自宅から駅までは、一分一秒でも早く真澄サンに会いたくて真っ直ぐ向かい──。 合流したあとは、真澄サンの目に触れては不味いから、結局手紙は投函できなかった。 でも、そんなことは今はどうでもイイ。 甘口のカクテルをちょっぴり舐めて、すっかりゴキゲンの真澄サンが屈託無く笑いながら、俺との会話と楽しんでくれていることの方がずっと重要だ。 部屋に戻って、キスをしようとしたら、簡単に遮られてしまった。「どうしたの?」「いや、イオリのペースに乗せられたら、俺の話が全然できないから……」 なんて言いながら、カバンの中をごそごそやってる。「なにを捜してるの?」「ああ、うん……、あった、コレだ」 真澄サンはカバンから何かを取り出すと俺が座っているソファの隣に腰を下ろした。「真澄サン、イイニオイ……」「こら、よせって。……ええっと、どうやったら自分の番号が分かるんだ、こりゃ?」「ん? そのケータイどうしたの?」「イオリが個人の携帯を持てって言うから、買ったんだ」「え?」 思わず、真澄サンの肩にくっつけていた鼻を引っぺがし、俺は真澄サンの手元からその小さな機械を取り上げる。「うわ〜、契約会社、俺とお揃いにしてくれたんだ。これならショートメール送り放題じゃん。やった!」「一番安いプランっていうのしか入ってないぞ」「充分でございます」 早速、真澄サンのケータイから俺のケータイに電話とメールをさせ、そのまま返信をさせる事で双方の番号を登録する。「ああ、なるほど。これなら番号をいちいち伝えなくても、簡単だな」「メールが着信すると、ここにアイコンが出ますから。中身を見て、返信ボタンはここ」「ふうん。……使ってみないと覚えられそうにないなぁ」「大丈夫。毎日イヤってほどメールしてあげるから」「やめろ」「忙しく
last update最終更新日 : 2026-01-04
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「おい、イオリ!」 不意に激しく揺すられて、俺は目を覚ました。 寝ぼけマナコをこすると、真澄サンが枕元に立っている。「あ〜……真澄サンさん、おはよ……」 昨夜の続き気分で、俺は腕を伸ばすと、抱き寄せてキスをしようとしたのだが。「寝ぼけるな! さっさと起きてちょっとこっちに来い!」 キツイ口調と共に乱暴な仕草で、振り払われてしまった。 なんか様子が変だ。 俺はベッドから起き上がり、言われるまま隣の部屋に行く。「イオリ、これはなんだ?!」 やや苛立たしげに俺を待ちかまえていた真澄サンは、俺の目の前に一葉の封筒を突きだしてきた。 それが、昨日投函し損ねた特製の切り抜き文字封筒だということに気付き、俺は少し焦る。「どうして、真澄サンがそんなモノ持ってるの?』「オマエの服を洗濯しようとして、ポケットを改めたら出てきた」 全く、うっかりしていた。 この人はそういう、変にマメな性格をしていたんだった。 どんな無神経なヤツでも不審に思って、絶対に封を開けるように仕向けた封筒は、想定外の最悪の人物によって開封されてしまったのだ。 だけど、真澄サンの気持ちをないがしろにして上司の娘と結婚し、あまつさえ二丁目で遊んでたようなヤツに、俺は1mgたりとも同情するつもりは無かった。 あまつさえ許せる部分なんてあるワケ無い! と確信していたから、最初はちょっと焦ったけど、直ぐに落ち着きを取り戻していた。 そもそも俺は、先に真澄サンに言うつもりはなかったケド、事態が一段落したら事後報告はするつもりでいたのだから──。 なので俺は、俺を睨み付けている真澄サンを尻目に、真澄サンが洗濯をするために集めたと思わしき自分の服を拾い、何食わぬ顔で身支度を調える。「一体、どういうつもりなんだ!」「うわっ!」 いきなり胸ぐらを掴まれて、今まで見たこともないような怒った顔を間近に寄せられ、俺はたじろぐ。「どういうも&
last update最終更新日 : 2026-01-05
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 俺を見下ろしていた真澄サンは、自分の拳と俺の顔を交互に見比べた後に、ハッとなって俺に手を差し伸べてくる。「だ……大丈夫か?」「……ちょっと、口の中切れたみたいだけど……、そんだけ……」 ジワッと広がってくる血の味に、思わず眉を顰める。「済まない、イオリ。こんな暴力を振るうつもりなんて、無かったんだが……」 俺を立ち上がらせた後、真澄サンは大きくため息を吐きながら再びソファに腰を下ろす。「……真澄……サン?」「……悪いが、帰ってくれ」「……でも……」「頼むから、帰ってくれ。……今の俺は、口を開くとイオリに酷いことを言ってしまいそうなんだ。でも、言ったら後でものすごく後悔すると思うから……頼むから、一人に…………」 ソファに座った真澄サンは、俺から顔を背けるようにして両手で頭を抱えている。「わかったよ。……ゴメンナサイ、真澄サン……俺、真澄サンを傷つけるつもりはなかったんだ」「…………………………」 返事はなく、ただ頭を抱えている両手に力がこもって、ブルブル震えだしたのがわかったので、俺はそのまま黙って真澄サンのマンションを後にした。 全く、なんてぇ莫迦な話だ。 最初から、こんなことをしたら真澄サンを傷つけるだけって、分かり切っていたのに。 俺は自分が沸騰した後は、そんなことを微塵も考えていなかった。 俺のやり方に多少抵抗があったとしても、非道な
last update最終更新日 : 2026-01-06
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9.正義の使者

 部屋を後にして、俺はもう本当に自分自身にうんざりしながら電車に乗った。 上着のポケットは、真澄サンが洗濯の為に中身をあらためたせいだと思うけど、なんにも入っておらず。 尻のポケットに財布と昨晩貰った封筒が入っていただけで、ケータイやらの小物は全部、真澄サンの部屋に置いてきてしまったらしい。 だけど、それを取りに戻る訳にも行かず、俺は惰性で電車に乗って、惰性で新宿駅に降りた。 だけどまだ昼前だ。 知ってる店は全部開店前だから、どこに行くアテもなく。 ぶらぶら歩いていたら、不意に肩を叩かれた。「なんだよ、イオリ。ずいぶんシケた顔してじゃん?」 声を掛けてきたのは、カガミンだった。「これから出勤? それにしちゃ、早くねぇ?」「うん、今月は同伴推奨キャンペーンで、同伴するとボーナス出るからサ。時間が中途半端だからちょっとDISTANCEでメシ食って、その後デートなんだ。そう言うイオリはどうしたのさ? こんな時間じゃ、営業とも思えないけど?」「うん? いや……、今日はちょっと、失敗しちゃってサ」 俺は結構意地っ張りだし、こんな商売をしているからあんまりへこんだ顔を他人に見せない。 だけど、今日ばっかりはさすがにもう体裁を取り繕うだけの気力が無かった。 だから決まり悪げにそう答えたのだが、当たり前だけど俺のコトを多少なりと知っているカガミンはやや驚いた顔をしてみせる。「大丈夫? イオリらしくもないじゃんか。良かったら、一緒にメシでも食わない?」 もう、気分はどん底だったから、俺はカガミンの誘いに素直に従うことにした。 もちろん、DISTANCEだってこの時間はまだ営業時間じゃない。 だけど、マスターはだいたい昼前ぐらいにはもう店にいる。 マスター曰く「自宅のキッチンよりも店のキッチンの方が使い勝手が良いんだよ」だそうで、要するにマスターは半ばあの店に常駐しているのだ。 もっとも、誰でも構わず持てなしてくれる訳じゃない。 カガミンはマスターの友人だから、気が置けない
last update最終更新日 : 2026-01-07
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 そりゃあ確かに、あの電柱男がやってることは、褒められたもんじゃない。 だけど、俺はそれを非難してやり玉に挙げることで、自分が真澄サンにやらかそうとした悪行の数々を帳消しにしようとしただけで、正義なんて一欠片も無かった。 あの電柱男は、真澄サンを傷つけていたかもしれないけれど。 俺はもっと酷く、真澄サンを傷つけたんだ。 今更ながら、自分がどれほど真澄サンに惚れていたかを再認識して、それでもなお、もう逢うこともできないなんて。 ため息以外に、出てくるモノなんてあるわけがない。「なんかイオリってばスッゴイテンション低いね〜?」「誰だって、ヘマをすればそうなるよ」 諭すように、カガミンはハッチに答えた。「ん〜。俺だって年中ヘマッてるよ! でも気にしてたらキリないじゃん。この間も、せっかくの上客をなくしちゃったしさ!」「ハッチ、イオリの気持ちも察してやりなよ」「構わないって。それよりハッチ、上客ってどんなヤツさ?」 ヘコんでいる俺に気を遣って、カガミンはハッチを黙らせようとしたが、俺は敢えてそれを制して、ハッチに先を促した。 気分が沈みすぎていて、もうこれ以上ないってくらいだったから、いっそ他人の与太話でも聞いていたい気分だったからだ。「それがさぁ、イオリにこの間の時、話したじゃん! お小遣いいっぱいくれて、サービスあんまりしなくていいっていう、あのヒト!」「え? あのでんちゅ……いや、背の高い?」「そうそう! あの電信柱みたいなヒト!」「ハッチ、あのヒトにフラレちゃったの?」「違うよ。この間さぁ、弁護士ってゆーヒトが来て、もう絶対にあのヒトと逢ったりしませんって、誓約書って言うのにサインさせられたんだ。も〜、せっかく見つけた上客だったのに、ちょ〜残念!」「ええっ? ちょっと待ってよ、ハッチ! 弁護士って……なんで?」 俺のブラックメールは、真澄サンに回収されて、まだ電柱男の自宅には送っていない。 それなのに、なんでそんなモノが出現す
last update最終更新日 : 2026-01-08
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 それから数日、俺はまるっきり魂が抜けたみたいな生活をしていた。 こんなに真澄サンに惚れきってたら、もう他の誰かの機嫌なんて取れないし、取りたくもない。 まして色事のサービスなんて、グチ金にツブされなくたって、今の俺は全くの役立たずだ。 おべっかの使えないジゴロなんて、粗大ゴミだって引き取っちゃくれないだろう。 考えるのは、真澄サンのことと、愚かなブラックメールのことばかり。 結局、俺はダラダラと酒を飲んで、クダを巻いて、なんとかして全部を忘れてしまおうとしたけど。 でも、どんなに飲んでも、むしろ俺のバカさばかりが際だつだけで、ちっとも効果は発揮されなかった。 そうして日中を過ごし、夜になると未練たらしく表参道に出掛けていく。 真澄サンのマンションを下から眺めて、ため息を吐いてはスゴスゴとねぐらに戻るのだ。 そんな馬鹿げた毎日を繰り返したところで、何の役にも立たないが。 だけど俺は、自分で自分の人生を終わりにできる程の勇気も持ち合わせて居なかった。 そう考えると、ますます自分が救いようのないクズだと痛感する。 こんなに真澄サンに惚れていて、そして真澄サンはもうきっと俺のコトなんて許してはくれないだろう。 だけど真澄サンが俺を許してくれないことよりも、俺の愚かな行動で真澄サンを深く傷つけてしまったことの方が、俺にとっては後悔のタネだった。 もう、絶対に許して貰えなくても良い。 ただ、傷つけてしまった真澄サンの心を癒せるんだったら、俺はなんでもできる。 だけど俺ができることなんて、何一つありゃしないのだ。 真澄サンのマンションの前で、俺は大きなため息を吐いた。 こんなに毎晩ココにやってきては、マンションを見上げて逡巡しては、俯いてため息を吐き、またそこらをグルグル歩き回る……そんな不審な行動をとり続けていたら、そのうち警察に通報されるんじゃ無かろうか? とか思っても。 夕方になってくると、そうせずに居られなくなって、部屋を出てココに来てしまう。 だけど俺の顔を見るだけで
last update最終更新日 : 2026-01-09
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「イオリ」 後ろから声を掛けられて、俺はギクリとなった。「ねぇ、そこにいるの、イオリでしょ?」 だけど、さらに続けて呼ばれた声音に、それが真澄サンではない事に気付き、俺は振り返る。「久しぶり」 ニッと笑った元パトロンに、俺は思いっきり不愉快な顔を向けた。「今更、俺になんか用?」「なにそれ、久しぶりだってのにさ」「白々しいな。だってオマエ、ずっと俺のコト追けまわしてただろ?」「なんだ、知ってたの?」「グデグデに酔っぱらってたって、ケイタの顔ぐらい見りゃワカルさ」「ふうん、気がついてたんだ」「だったら、なんだよ?」「なのに声掛けなかったんだ」「当たり前だろ。今更ケイタを誘うほど、暇じゃないぜ」「失敬しちゃうな。俺の方こそ、今更イオリに誘われたってお断りだよ」「じゃあ、なんだって追けまわしてンだよ?」「俺さぁ、イオリが頭下げて悪かったって謝ってきたら、許してやっても良いって思ってるんだよ?」「許す? なんだそりゃ。やっぱりオマエ、俺とヨリを戻したいンじゃないの? だいたい俺は、ケイタに頭下げるいわれなんかないね」「あ、そう」 これ以上、ケイタの顔を見ているのも不愉快だったから、俺は早々にケイタに背を向けて、表参道の駅に向かって歩き出した。「ホンット、自己チューでサイテーだよな! 最初から、こうしてやれば良かった!」 また捨て台詞と共に殴られるのかと思って俺が振り返った時、ケイタは俺の横っ腹に思いっきり体当たりを喰らわせてきた。 否──。 ケイタは両手で握りしめたバタフライナイフを、俺の横っ腹に突き立ててきたのだ。 反動で俺の体は倒れ、立ちつくして俺を見下ろしているケイタの手は、真っ赤に染まっていた。 その両手に握られているバタフライナイフが、いやにギラギラと光って見えて──。 腹に開いた穴から血液が流れ出ていく感触が、やたらリアルで生々しく、そこだけが燃えるように熱くて──。 手足が冷たく
last update最終更新日 : 2026-01-10
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10.DISTANCE

 次に目を開けた時に見えたのは、キラキラした天国でもなければ、真っ暗な地獄でもなく──。 灰色の壁とシミの付いた天井が見える部屋の中で、消毒薬のニオイがプンプンするベッドに寝かされていた。「いっっってぇ!」 なにがなんだか良く解らないで、体を起こそうとした瞬間に、まるで腹を刺された(?)ような激痛が走る。「絶対安静だ、動くんじゃない」 聞き覚えのある声にそちらに振り返り、やっぱりそれが間違いなく真澄サンだとわかった瞬間、俺はやっぱりココは天国なんじゃないかと思って、もう一回飛び起きそうになった。「いってええええ〜!」「だから、動いたら駄目だと言ってるだろう」 スッと伸ばされた腕が俺の肩を掴み、ベッドに体を横たわらせる。 真澄サンは、掛布とんを直してくれてから、改めて俺の顔を覗き込んだ。「絶対安静だと言われたが、傷はさほど深くないらしい。静かにしていれば命に別状ないそうだ」「真澄サン! なんで真澄サンがココに?」「残業から帰ってきたら、マンションの前でイオリが倒れていた」 さっきまではすぐにも真澄サンに謝りたいと思ってたのに、いざそれができる状態になったら、セリフが全然思い浮かばない。「イオリ」 改まった調子で声を掛けられて、俺もまた改めて真澄サンに顔を向けた。「あの時は悪かったな」「え? あの時……って?」「俺は、イオリに酷いことを言いそうだ……とか言ったけど。出て行け……とかって、充分酷い言い様だったと思うし。それ以前に、あんなふうに暴力をふるったことも申し訳なかったと思ってる」 真っ直ぐ俺を見て、真剣に謝罪する真澄サンに、俺は狼狽えた。 直ぐにもベッドから飛び起きて、土下座でもなんでもしたい気分だって言うのに。 体を起こすこともままならない自分が、モノスゴクもどかしかった。「ちょ……、なんで真澄サンが俺に謝るんだよ? 謝らなきゃイケナイ
last update最終更新日 : 2026-01-11
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