All Chapters of 生神様になったらめっちゃ思い通りになるんですけど: Chapter 211 - Chapter 220

305 Chapters

第212話・祝福を

「おじさんは俺の金にほとんど手を付けないで俺を養って、十六まで育ててくれた。事情を知って手伝ってくれた人もいるし、晩ご飯を分けてくれた人もいる。結局、俺を生かしてくれたのは悪意より善意だったよ」「……その考えが変わらぬことを祈ろう」 ベガは呟いて、そっと俺の額に手を当てた。「生神に無意味だとも思えるが、どうか、深く沈む悪意に囚われぬよう、大地と風の祝福を」 すっと、何かが俺の中に入ってきた。 柔らかい風。俺の中にこびりついていた滓《おり》をそぎ落としてくれるかのような。「なるほど。では」 サーラも微笑して、ベガの手が離れた額に手を当てた。「どうか、微かに灯る善意の種に巡り合えるよう、大地と炎の祝福を」 今度は、暖かい温もり。冷え切った俺の身体に火を灯すような。「生神相手に何を、とも思うが、今この瞬間に我らができることは祝福しかなかった。乏しい力ではあるが、どうか大地と風と炎の力が貴方と共にあるように」「ありがとう」 俺の口角が自然に上がるのを感じた。「嬉しいよ」 ……そう。 二人とも、俺のことを心配してくれてるんだ。 祝福は、彼女らなりの応援と……気遣い。 俺は自分の奥底に眠る俺を知っている。執念深く、執拗で、徹底的に相手を叩き潰さなければ気が済まない……。 それをコントロールしなければならないと言ったのも、また、おじさんだった。 そう、封印ではなく、制御しろと言ってくれた。忌々しいまでに暗く根深く俺の中に潜む、俺、を、拒絶するのではなく、受け入れて、武器にしろと。方向性さえ間違えなければ、きっと、それは、お前の武器になると言ってくれた。 俺は、この世界に来てから、一つの不安があった。 生神となるのにこの武器は必要だったのか。世界を再生する神が、そんな破壊衝動を秘めた裏の顔を持っていていいのかと。 だけど、多分おじさんなら、言うだろう。 制御しろ、と。 潰す必要はない、それも確かにお前の一面なのだから。ただ、揮うべき場所を吟味し、揮うべき相手を選び、揮うべき時に、その相手を潰せるように、制御するんだと。 そう、俺は、人の内に潜む悪意が俺の中にもまた潜んでいることを知っている。 いつ誰に牙を剥こうかと考えている悪意を、あのよくわからない空間の役所の人間みたいなおっさんは知っていて俺を生神
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第213話・魔神

 何処とも知れぬ、仄暗い世界。 ここに生物は存在しない。 存在するのは、死物だけ。 ただ周りを巻き込んで滅びゆくことを宿願に己を鍛え、魔力を高め、そして生物の世界に向かう死物が生まれ出る世界。 建物も何もかもが、壊されることを限定で建てられているのだから、並ぶ家々はみすぼらしい。そもそも住人がいない家の方が多い。 その中で、唯一、建物の体を成して……いや、この世界には不釣り合いなほど豪奢に飾られた神殿に住まうのは、魔神……滅亡の神である。  ぱちん。ぱちん。  ぱちん。ぱちん。 魔神は、侍女に爪を切らせながら、憂鬱にその報告を聞いていた。「オグロが、生神に滅ぼされたと」 オグロと同じダークエルフにして、同じ魔族であるモストロは、忌々しそうに言葉を続ける。「ケンタウロスの研究成果から魔族にしてやったというのに、己だけが死に、生神を巻き込めぬとは……」「生神は、未だ健在なのだな」「は。そればかりか、守護獣を滅ぼすことにも失敗したと。無駄死にですな」  ぱちん。ぱちん。 この世界では、誰も巻き込めずに死んでいく者を、無駄死にと言う。「次はこのモストロにお任せください、魔神様。必ずや生神、神子をも巻き込んで滅んで見せましょう」 モストロの目がキラキラと光っている。 ダークエルフと言うが、生物のエルフとは関係ない。ただ、関係ないと言うにはあまりにもその外見は似通っているので、エルフは我々とは別の存在なのだと彼らにダークエルフの呼称をつけた。ダークエルフたちはむしろ喜んだ。滅びの道を目指す我らに相応しい、と。「二の舞にならねばいいが」 低い声に、モストロが反論しようとしたが、魔神はそれを、爪を切り終えた右手で留めた。「生神の【再生】はそれは恐ろしいそうだ」  ぱちん。ぱちん。「神威ですな。確かに滅びかけたものを元に戻すのは恐ろしい力でしょうが、人間を【再生】することは出来ません、何も恐れる必要は……」「アルクトスを忘れたか」 剛健で鳴らしたワー・ベア。魔神がその名を知っていたように、手柄を立てれば魔神と直接面会できる魔族にさえなれたと言われていた彼の無駄死に。「アルクトスは、【再生】の前に屈し、一人で殺してくれと頼んだという」「それは……その」「死に続く苦痛であれば、我らは喜んで受けただろう。その先にあるのは滅
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第214話・滅亡の神

 魔神の爪を見事に整えた侍女に、魔神はほんの少し、表情を変えた。 慈悲さえ感じさせる、柔らかな笑み。「爪を切るのが上手くなった」「勿体ない……お言葉でございます」「褒美は何がいい」「それは、無論」「ならば」 魔神は言葉を続けようとした侍女を止めた。「お前の技術を受け継ぐ者を作るのだな。今更以前のお前のように粗相するたびに死なない程度に折檻するのも面倒だ。……ああ、お前の次の者にも言ってやれ。褒美が欲しければ精進するのだとな」「ありがたきお言葉……!」 侍女は爪切り道具一式を持って下がった。きっと、これから彼女は爪切り係を探すだろう。魔神にそば近く仕える侍女の中から……そして、侍女の腕が上がった頃には。「魔神様」「なんだ」 柔らかな布に寄りかかるようにして、自分の爪を眺めている魔神に、モストロは言った。「侍女程度の輩に、御自らの手を下される必要など……」「侍女だからこそ私が手を下すのだ」 魔神は視線をモストロに向けた。「私は滅亡の神だ」 モストロは反射的に膝をついた。「そうではないのか?」「は、はい……」「滅亡は誰にも等しく与えられるもの」 感情のない声に、生を恐れない魔族さえもが縮み上がる。「そうではないのか?」「はい……!」「ならば、私に尽くしてくれた者に、平等に滅亡を与えなければ理不尽ではないか。生物を殺して手柄を立てるのは魔獣や魔物にやらせておけばいい。私は、私の傍で死を願う者にそれを与えてやる。無駄死にしかできない者たちへの慈悲……それを、お前は、無駄と言うのか?」「も、申し訳ございません……!」「私の為に生の苦痛を背負っている者を、解放してやる。それこそが滅亡の慈悲ではないか? 私はその為にここに来たと思っていたが、違っていたか? なあ、モストロ?」「……畏れ入りましてございます……」「死にたくて仕方のない者が大勢いるのに、それを生かしておくような無慈悲は私はしない。死にたい者に安らぎを。それが私の存在理由ならば、モーメントと言う世界自身が死にたいと言うのだろう。私は無意味に生の苦痛を撒き散らす生神を滅ぼす。苦痛を感じながら生きろと言う無慈悲の塊にとどめを刺す。そして世界もろとも滅びゆく。……生神が間近に迫るまでは、好きにやらせてもらう。その為にお前たちに好きにさせてやっているのだ」
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第215話・真名

 俺は十九で鬼籍に入ったので、何となくあと一年は酒を飲まないと決めていた。……元々神が酒飲んで酔っ払うのかと聞かれれば、知らないと答えるしかないが、日本にはお神酒があるし、キリスト教には葡萄酒がある。神様はお酒に近い所にいる存在なのだ。 と言うわけで、酒は散々勧められた。が、「俺は飲めないから」と断りまくって、代わりにヤガリに回した。 ドワーフの酒好きはケンタウロスにも知られていて、みんな面白がってヤガリに飲ませた。いつもどちらかと言うと生真面目なヤガリは、初めて見る上機嫌でかぱかぱと杯を空にして、「この程度楽勝だぞケンタウロス? おれに勝てる奴はいないのか?」と挑発までして、ケンタウロスの名うての飲兵衛共と飲み比べを初めて連続十人ほど潰して、大声で歌い出して宴を盛り上げて鼻歌を歌いながら布団代わりに出しておいた自在雲に毛布と一緒に転がって大いびきをかいていた。 ミクンは甲斐甲斐しくアウルムの世話を焼いて、実は好色なのだと言うケンタウロスの、更に特殊な性癖の持ち主が寄ってくるのをコトラとブランとグライフと一緒に追い払って、アウルムをさっさと寝かしつけてしまった。 そう言う方向で狙われていたのはレーヴェも同じだが、こっちにはきっちり実力があって、しつこく誘ってくるケンタウロスに一睨みくれて、「……ベガにチクるぞ」ととどめの一撃を刺してゆっくりと酒を味わっていた。 サーラとベガは、その様子を微笑ましく見守って……そして、俺は自在雲に戻って早めに寝た。 おかげで、朝の新鮮な空気を胸いっぱいに吸うことができた。「……~っあっ」 思い切り背伸びをする。 続いて、欠伸が出た。「起きたか」 ベガが歩いてきた。「ああ。……サーラの時も思ったんだけどさ。何でヒューマンの姿な訳? サーラはドワーフじゃないしベガもケンタウロスじゃないし」「名付けがお前だからな」 ベガは薄く笑みを浮かべた。「人間と言ってお前が思い浮かぶ姿を取ってしまう。だから、もしお前がハーフリングであればサーラもハーフリングになっていただろうし、アウルムが名付ければフェザーマンになる。守護する者の姿を取ることもできるが、ヒューマンの姿の方が目立たない、そう言うわけだ」「いや目立つ」 サーラのナイスバディな爆裂お姉さまとか、ベガの凛
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第216話・自分の名前

「……文句があるのかないのか」「いや、苦情はない。ただ、名前には意味があり、お前がつけた名は我らの力を縛るものではなかったということだ。そうだな、生神の名も意味あってつけられたものだろう?」「ああ。真悟。……真実を、悟る、そう言う意味があるんだって、随分小さなころ聞いたなあ」 名前のことは、母親が嬉しそうに教えてくれたことがある。その名前が古臭いと思っていた俺は、何で人気アニメキャラの名前にしてくれなかったのかと駄々こねたのを微かに覚えている。「良い名だ」 ベガは頷いた。「生きて神となりし者は真実と見えることになる。その真名は助けとなるだろう」「そうだな。……今なら俺は、俺の名前が好きだって言えるよ」「仲良さそうだな」「ヤガリ」 くしゃくしゃになった髪を手櫛で整えながら、昨日飲んだ酒はどこ行ったんだってくらいけろりとしていた。「……ベガ、ケンタウロスの酒って言うのは弱いのか?」「酒の強さという意味であれば、強い方だとは思うが、……そうだな、底なし樽と一緒にされるとケンタウロスも困る」「あの程度ならドワーフなら軽く行ける。……だが、久しぶりに飲んだから、少しばかり調子に乗ったな」「二日酔い?」「いや? あの程度で二日酔いになるヤツなんかいない」「ヤガリは十分酔ってたように見えるけど……」「そうだな、おれは酔うと陽気になるらしい。昨日は少しばかり酔いが回った」 ドワーフ、すげえな。あれだけ飲んで少しばかり酔いが回ったとか化け物か。底なし樽なんて異名は伊達じゃないってか。「で、次は何処に向かう?」「ん~……」 俺は端末を取り出して、マップを広げた。 端末のマップは世界を正確に映し出すが、俺が知っている場所しか映し出さない。 一度でも行った場所は位置も現状もしっかり分かるんだがなあ。 行ったことのない場所はすぐに分かるから、それはありがたいんだけど。 ただ、行ったことのない場所……人が生き残って助けを待っている可能性のある場所が分からないってのは痛い。このマップ最大の弱点だ。 そして、かなりの間旅してきたはずなのに、まだ半分も地図が埋まっていない。 大陸の中央、最西、最北、最東、北東はそこそこ埋まってるんだが、中央部はほとんど埋まってない。「導きの球の効力をあげるべきだな」「サーラ」「お、おは
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第217話・たくさんの種族

 言われるがまま、俺は導きの球を取り出し、【鑑定】した。 【鑑定】を使った感、これまで使っていた【観察】より踏み込んだ深い知識が手に入る。 【観察】がヘルプ機能なら、【鑑定】は新聞やラジオやテレビやネットをまとめたようなものだ。見た物ならいつでも頭の中に浮かんでくる。便利な神威だ。 で、導きの球は。【鑑定結果:神具「導きの球」レア度B 助けを待つ生物の波動に同調し、その居場所を探り当てる水晶。光跡での反応だけではなく、地図上にもアップされ、そこまでの道筋や地形などの大まかな造りを記す】 え? そんなんあるの? 知らなんだ! てかいつも端末と一緒に使ってたのに、何で今までそんな力出さなかったの? それがあれば古い地図頼りに街道になってない街道歩いてたんだぞ! と、サーラに文句を言うと笑われた。「いくら能力があっても、自分の知らない力は使えない。他の力も同じだ、存在を知らなければ使えない」「ああああ~神の力って不便だあああ~」「まあ、そう言うな。これからどんどん【鑑定】して、新しい知識を身に着けて行けばいい。安心しろ、神の力が切れるのは信仰心が失われた時だ、それ以外ではどれだけ使っても何の問題もない」 そんなもんなのかねえ。 とりあえず使ってみるか。端末と導きの球を持って……。「導け!」 俺の右掌に載せた球が、バチンッと火花を散らした。いや、それだけ眩しい力……これまで発揮することのない力を見せたんだ。 四方八方に散った光は、少しの時間をおいて球に戻ってきて、それから端末が光った。「!」 端末のマップに浮かんだのはいくつかの光点。光点に向かう旧街道や商人が使っている道、獣道など、そこに安全に辿り着けるルートがいくつも出ている。 そりゃ、世界は滅亡寸前とは言え、商人は商売しなきゃおまんまの食い上げだ。 里なんかを周る行商人は、多分世界が滅びるその日まで旅を続けるだろう。そりゃ安全な道も見つけるさ。 この光点を巡れば、世界中がマップに入るのも遠くはない。「行商人のふりをした方がいいかも知れぬな」 ベガが口添えしてくれた。「今のモーメントを旅する者はそう多くはない。だが、このケンタウロスの草原にも行商に来る人間はいるからな」「種族バラバラでも大丈夫なものなの?」「大丈夫だろう。今は人間自体が少ないから、行商人が手を組むことも多
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第218話・馬厚織

 ケンタウロスの女性たちが一時その場を去って、何やら持ってくる。「おいベガ、あれとはもしかして……」「ああ、あれだ」「いいのか? あれはケンタウロスには必要だろう」「これからは我がここにいる。そしてここは生神の再生した草原だ。残ったケンタウロスたちを直接守護してやれるし材料も採れる。安心しろ」「いやしかしだな……」 守護獣同士で分かってる会話やめろ。全然分からんわ。「お待たせいたしました」 ケンタウロスの女性たちが手に手に持ってきたのは、布、だった。「守護獣様が戻っていらっしゃるまで、生神様がいらして下さるまで、ケンタウロスの誇りと技術を絶やしてはならぬと祈りを込めて織ったものです。馬厚織はケンタウロスの祖母が母に、母が娘に教える一子相伝の織り方です。保温具にして防具、分厚く保温と防水力もあって、以前は人間の王族たちがこぞって買いあさった物です。その時に比べて材料は質素になりましたが。どうぞ、こちらを」「んな、そんな大事なもの売り歩けないって」 女性たちは笑った。「この織り方は私達が身に着けた技術です。生神様が再生してくださった草原なら、新しい材料も手に入ります。ケンタウロスが生き残った証として、どうぞ」 手に取ると、すごく滑らかな手触り。 朝露が表面に浮いている。朝露ですら弾くんだ。すげえな。 厚い割りに軽く、鮮やかな緑や青の糸で織り込まれた美しい模様。これで質素だって言うなら、草原の材料が完全に戻った今、一から作ったらどんなのが織れるんだ。想像つかない。「こんなとんでもなく素晴らしいもの、もらっちまってもいいのか? 場合によっては売るかも知れないんだぞ?」 ケンタウロスたちはにっこりと笑った。「……ありがとう」 分厚いのに折り畳める。すげえ。軽い。すげえ。神具並みにすごいんじゃないか?「草原の民ケンタウロスが織り伝えた逸品だ。売らなくてもマント代わりに使ってくれてもいい」 試しに【鑑定】してみた。【鑑定結果:馬厚織/草原に生える魔力草を穀物で染め、ケンタウロスの尾を織り込んで織った織物。その模様はケンタウロスの女性が一子相伝で受け継ぎ、新しい文様を付け加えて進化していく。魔力を秘めた聖具で、大抵の物理攻撃を吸収し、保温・防水に優れている。本来はケンタウロスが眠る時や天候不順時
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第219話・鍵師

 俺たちは、俗に「新街道」と呼ばれる細い道を道幅いっぱいに広がって歩いていた。 俺、レーヴェ、ヤガリ、ミクン、サーラ、アウルム、ブランにコトラにグライフ。種族はバラバラだけど、共通点がある。 緑色の、全身すっぽり入るポンチョみたいな造りをした外套だ。 ブラン、コトラ、グライフも、緑色の布を胴体に巻いている。 行商人ギルドに所属する証だそうだ。 行商人ギルドは世界が滅亡に向かって数十年、もう機能していないと言うけれど、その緑色の外套と布を見ればこの世界の人間は行商人だと思ってくれるのだとか。 サーラが調達してきたのは「紛れもなく本物」で、外套や布には魔法がかかっている。小さな魔法だけど、見た目だけ行商人に見せかけた奴隷商人なんかと見分けがつくようになっている魔法だ。商売の神様が与えた奇跡。 なるほど、これがなかったから今までミクンとかに奴隷商人と間違われたわけだ。 やっぱりこの世界の仕組みをしっかり知っている守護獣の存在はありがたい。「おーかーはー、はーるかー、たーび、ゆけばー♪」 ミクンが歌いながら先頭を歩いている。「何の歌?」 アウルムの言葉にミクンは笑顔で答える。「ばあさんが旅してた頃に歌ってたって歌。あたしに教えてくれた」「おばあさんが作ったのか?」「うん。旅の鍵師やってたんだって。当然行商人ギルドにも入ってたって言ったけど。丘を出て旅をしてた頃が一番楽しかったって言ってたなあ。もし世界が戻ったら、あんたも旅をしなさいって言ってくれた」「良いご祖母殿ではないか」「うん、自慢のばあさん。アペリエンスって言えば知ってる人は知ってるて聞いた」「アペリエンス?」 ヤガリが目を丸くした。「まさか、鍵開けのアペリエンス殿か?」「知ってるの?」「知っているとも、一級の腕前で、無窮山脈に直接道具を注文に来た。最高品質でないと受け取らないから、最高の造り手が慎重に慎重を重ねて造ったと言う。文字通り伝説の鍵師だ」「へえ。そうなんだ。あたし、ばあさんの使ってた鍵開けの道具もらったんだけど」「見せてくれ」 草原で暮らしている時も手入れは欠かさなかった、と言う鍵開けの道具を、ヤガリは恭しく受け取った。「すごい……鍵開けの道具を造る工具師の一級品……いや、名前入り……? マイスター・シュリュッセル! すごい、伝説の工具師ではないか! 
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第220話・山賊

「ほう。伝説の鍵師か」 こくこくとサーラに頷きながら、鍵開けの針金や金てこ、合い鍵なんかをすっごいガン見してる。「へえ。そんなにすごい道具なんだ」「ああ、大事にしてくれ。マイスター・シュリュッセルの品はドワーフには使えないからほとんど残っていないんだ。ここで現役で使える品が出てくるとは思いもしなかった」 はあはあと興奮までしてる。 オレも興味を持ったので、それを見て【鑑定】してみた。【鍵具:無窮山脈の伝説の鍵工具師・シュリュッセルが作り上げた最高の逸品。魔法の力はないが、鍵開けの道具としてはモーメント一と言っても過言ではない】 へーえ。【鑑定】でここまで出るかあ。「もういーい? 返して」「いや、もう少し、もう少し」 さすがにミクンがヤガリの手から道具をひったくって取り戻した。「ああ……」「夜にでも見せてあげるから、とりあえず今は進もうよ」「あ」 ヤガリは興奮のあまり立ち止まって観察モードに入っていたことに気付いていなかったらしい。「す、すまん」「あっはっは。あたしには勿体ない品かもね」「いいや、そんなことはない」 ヤガリの声に力が入った。「ハーフリングの鍵師が使ってこその道具だ。しかもそのお孫さんであれば決して無駄にはするまい。錆一つ浮いていないのがその証拠だ」「ばあさんの形見だからね」 ミクンは腰のポーチに工具を片付けて歩き出そうとして、強張った。「どうしたの、お姉ちゃん?」 アウルムの声にピッと手を出して、黙ってと合図をする。「悲鳴……」「悲鳴?」「うん。前の方から聞こえる。人間の悲鳴と怒鳴り声。……山賊に襲われたかな」「魔物じゃないのか?」「うん、魔物の気配はない」「このご時世に今だ自分たちだけが良ければいいと言う連中がいるのか」 サーラがうんざりしたように呟いて、目を閉じた。「ああ。山賊だ。行商人を襲っている」「よし、コトラ一緒に来てくれ」 レーヴェが剣を抜いて駆け出した。コトラも後をついて駆け出す。 「俺たちも急ぐぞ」  俺の声に、ヤガリやミクンも駆け足になる。グライフも足運びを速めてくれる。 わあああ、と怒声と悲鳴が聞こえてきた。 先行したレーヴェとコトラが、ボロボロの服とボロボロの武器を持った山賊たちと戦っていた。「ドワーフの山賊か」 サーラが情けなさそうに呟いた。「ど
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第221話・守護獣の審判

「エルフの小娘があ!」 ドワーフの山賊が斧を振りかぶってレーヴェを狙った。「ふんっ」 レーヴェが剣の柄でその手をしたたかに叩きつける。「ぐわっ」 思わず斧を手離す山賊から、駆けつけたヤガリが斧を蹴り飛ばす。「ドワーフだと!?」「ああドワーフだとも、血を穢す者が!」「どっちがだ!」 別の方向から襲ってくるドワーフのボロ斧を戦斧で叩き壊す。「エルフなんぞと手を組みおって、ドワーフの誇りを忘れたか!」「忘れたのはどっちだ、馬鹿野郎!」 ヤガリの罵声が辺りを震わせた。「山賊に成り下がった貴様らと、無窮山脈を守り続けたおれたち、どっちが血を穢す者か、守護獣様にお聞きしようか!」「なっ」 一瞬山賊たちが強張った。が。「守護獣なんぞもういない!」「助けてくれない守護獣などいないのと同じだ!」「ならば試すか、守護獣様の審判を!」 守護獣様の審判? 初めて聞いたな。なんだそれ。「同族同士で争いになった時、守護獣にお伺いを立てるんだ。正しい者には祝福が、誤っている者には天罰が下る」 レーヴェが小声で教えてくれた。「守護獣は守護神の次に偉い存在。その守護獣が下した審判は絶対のものだ。……当然ながら、守護獣が応えられる時でないと何も起こらないが」 ドワーフの守護獣、サーラはここにいる。 もちろんサーラが守護獣としてこの場で彼らに天罰を食らわすこともできるけど、サーラや俺たちの正体がバレると色々厄介になる。だからヤガリは守護獣が直接罰を下せる審判を持ちかけたんだろうとレーヴェがそこまで教えてくれた。「さあ! 守護獣様の審判、受けるか受けないか!」 詰め寄るヤガリに、山賊たちは一瞬気圧されたように見えた。が。「は、はん! 小娘が、しかもエルフと同行している小娘が思い上がるんじゃない!」 小娘? ああ、ヤガリか。出会ってからしばらく俺はヤガリを男性と勘違いしてたし、ヤガリの言葉遣いや戦いぶりなんかにも、俺が知る女性らしさってものがないからしょっちゅうヤガリの性別を忘れるけど、ドワーフ同士では見分けがつくらしい。「血を穢す者がどちらか、審判を下そうじゃねえか」 山賊のリーダーらしき傷だらけのドワーフが前に出てきた。「どうせ何も起こらないだろうがな!」 リーダーは小刀で右手の親指の腹を軽く切った。ヤガリも同じく戦斧の刃で親指を傷つけ
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