All Chapters of 生神様になったらめっちゃ思い通りになるんですけど: Chapter 221 - Chapter 230

305 Chapters

第222話・ノーム

 全身から煙をあげるリーダーと、散り散りバラバラに逃げていく山賊たち。「守護獣様が見ているぞ! 続ければ、いずれ天罰が下る!」 リーダーは腰を抜かして震えている。「……で?」 ヤガリはリーダーを見下ろした。「どちらが血を穢す者だって?」「しゅ、守護獣様がエルフと手を組むドワーフをお許しになるわけが……」「審判はついた。ドワーフの誇りを忘れ行商人を襲う貴様らが、業火で焼き尽くされなかっただけマシだと考えるんだな」「ひ……ひ……」 ずりずりと腰が抜けたままリーダーは後ずさり。「ひいいっ」 手と足を四足のように使って逃げて行った。「申し訳ない、サーラ」 相手が間違っていると教えるために審判を使って、と頭を下げるヤガリに、「いや、ヤガリが正しい」 サーラは軽く微笑んだ。「その為の審判だ」「さて、こちらは」 山賊が全員逃げて行ったと確認したレーヴェが、ボロボロながら幌のついた馬車の様子を見に行った。「無事か?」「ははは、はい、ぶ、無事です」 起き上がって来たのは、ミクンと似たような身長の、もう少しミクンより丸い人間たちだった。「ノーム」「のおむ?」 サーラの言葉にオウム返しするけど、サーラは教えてくれなかった。 自分で調べろ、と言いたいんだろうなあ。レーヴェが守護獣審判について教えてくれていたのも少し苦い顔をしてみていたし。 よし、【鑑定】【鑑定】。【鑑定結果:ノーム/人間族の中でもエルフに次いで魔力の高い人間。ハーフリングの次に小柄な体格だが、守護神や守護獣ではなくこの世界に存在する魔力を精霊と呼び信仰し、ノーム独自の精霊魔法と呼ばれる魔法大系を持っている。気性は穏やかで信仰心が篤く、嘘がつけない】 精霊魔法? と疑問を持つと、すぐさま【鑑定】が反応してくれた。【精霊魔法/主にノームが使役する魔法。他の人間は守護獣や守護神の魔力を借りて魔力を操るが、精霊魔法はモーメントに満ちる属性を持つ魔力と精霊と呼び、精霊に直接干渉することで、神の力を借りることなく魔力を使役する】 ああ、なるほど。レーヴェが良く使う聖域は俺の力を借りている、と以前彼女が言っていた。ノームは俺やサーラみたいな神的存在を介さずに直接魔力を操れるんだ。すげえな。 まあ、俺も魔力に直接干渉してるっちゃしてるんだが、魔力
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第223話・ケガ人

「ちょっと、傷見せてな」 小柄な行商人ノームのケガの具合を見る。「いつっ」 あ~。こりゃヤバいな。 錆びた斧で斬りつけられたせいで、錆の汚れが傷口に入っちまってる。消毒しないと破傷風……傷口から入ったバイ菌が原因で傷口が開いたままになったり熱が出たりと大変なことになる病気が発症する。 【浄化】を使えばいいんだが、今この人たちの目の前で端末を出すわけには……。 ……あ、そうか。 端末なしで出来るかどうか試せばいいんだ。 自然は時間さえかければ俺の思う通りに動く。神威も同じだ。要は、俺がイメージしやすいように魔法には名前が、神威には端末があるんだろう。 つまり、俺が冷静で集中できるなら、今の俺でも端末なしで【浄化】くらいなら使えるはずだ。「よし……」 傷口に集中する。 キレイな水で洗い流すイメージ……バイ菌を取り除くイメージ……元のように戻すイメージ……。 イメージの中でバイ菌が消えたのを確認して、俺は回復を唱えた。 よし。キレイに治った。「ありがとうございますです……」 深々と頭を下げたノームは、ミクンより年を取っているように見えた。年寄ってわけでもないんだけど俺よりは上かな? サーラは以前ハーフリングは幼い顔立ちと言っていたけど、ノームの【鑑定】にはそれがなかったので年相応の顔立ちなんだろう。「同じ行商人でございますですか」 俺の緑の外套を見て、同じ外套を着たノームは目を見開いた。「商売敵を潰すため、山賊を雇う輩までいると言うのに……助けて下さったのですか」 うわ、そう言うヤツもいるんだ。この世界が滅亡しようって時に山賊とか商売敵を陥れるとか。 人間ってのはどうしてこうも業の深い……。「しかし、わたくしは運が良かったでございますです。助け手に巡り合えたのですから。助け手の方、お名前をお聞かせいただけますですか?」「俺はシンゴ」 それから、と指をさす。「真っ先に辿り着いたのがレーヴェ。山賊と審判に持ち込んだのがヤガリ。あと、金髪のがサーラでフェザーマンがアウルム。後はコトラとブランとグライフ」「なんとまあ」 しばらく口をあんぐり開けていたノームは、顎に手をやってやっと自分の口が空いたままなのに気付いたんだろう、慌てて閉じた。「失礼しましたです。わたくしはノームの行商人、プセマと申し
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第224話・ご一緒

「何と……そのようなヒューマンがいらっしゃるのですか……。そのような才能を持つ方に初めて巡り合いましたです」「プセマさんは何を売っているんですか?」 これ以上突っ込まれるとボロが出そうなので、俺は無理やり話を変えた。「魔法、です」「魔法?」「そうです。ノームが使える精霊魔法で、ケガを治したり水を浄化したり……そのようなことをしてお礼に食事や宿代などを受け取っているのです」 なるほど、行商人って定義は随分広いらしい。スキルである魔法の使用を売り物にできる、そして行商人ギルドがそれを認めたってことになるから……。「皆さんは何をお売りに?」「主に食糧」 俺は即答した。「西の方は随分マシになっていて、そこから食糧を仕入れて売り歩こうって思ってる」「何と」 プセマさんは目を丸くした。「西が復興しているとは、聞いておりましたですが……食糧を持ち出せるほどになっているとは」 しかし、とプセマさんはこめかみのあたりに人差し指を抑えて続ける。「しかし、それでは、大赤字ではないですか? 東はこの通り、魔境と言ってもいいです。食糧は何よりもありがたがられますですが、等価になるのもはありませんです」「西の方からの頼みもあってね」 サーラが付け加えてくれた。「東の方がどうなっているかを見て来てくれとな。下手に東の民が西に流れ込んで来たら、せっかく復興なっている西も持たないだろう?」「ああ、確かに、です。しかし、東の民は西に辿り着くだけの余力もない、とわたくしは見ていますです」「どうして?」「そこのフェザーマンのお嬢さんのように翼がない限り、わたくしたちは地を歩いてゆくしかありませんです。ですが、この通り、地は危険に満ち満ちておりますです。少しでも安全で生き残る可能性の高い場所から動こうと考える人間は少ないのではないかと」 うん、地上が危ないのは俺も知っている。だから西で品物輸送にグリフォンを連れたフェザーマンを使ったんだけど。「新街道でも厳しいか……」「はい、厳しいと思いますです」 プセマさんは項垂れる。「この世界が滅亡に向かって突き進んでいるという噂も、あながち間違いではありませんです……」「まあ、とにかく、我々は品物が売れればいい。この先にケファルと言う街があるとは聞いているから、そこへ行こうと思う」「何と、それは奇遇です。実はわ
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第225話・看板猫

 プセマさんは御者台に座り、俺たちは馬の速度に合わせて歩く。 プセマさんは最初馬車に乗せてくれると言ったんだけど、俺は断った。 あんなに堂々と山賊が出てくるような場所で馬車に乗っていたら、奇襲に対応するタイミングを失う可能性もあると断ったら、「確かにそれはそうです……申し訳ありません、わたくしの考えが浅かったようです」と謝られた。むしろ好意を断って謝らなきゃいけないのはこっちの方なんだが。 ミクンとアウルムは相変わらずグライフに二人乗りしているし、ヤガリはブランを引いている。コトラはピンっと尻尾を立てて先頭を歩く。「子猫にしては足が太いです」 プセマさんはコトラを見て、うむむと唸った。「ただの猫ではないです……いえ、猫ですらないです。この正体は、一体……」「看板猫」 灰色虎を連れ歩いていると知られたら、何処から正体がバレるか分からないので、俺は地球の言葉で返した。「カンバンネコ?」「俺たちのマスコット。コトラを連れている行商人ってことで名前を売ってる、のかな」「なるほどです、そう言う認知のされ方もあるのですね」「俺も聞きたいんだけど」 俺は常々の疑問を口にした。「魔法を売り物にするのに、何で馬車がいるんだ?」「何で、と申されますと」「いやー、俺の知ってる魔法使いってのは、そんなものを持ち歩いているイメージなかったから……」「ああ、それは恐らく、皆さん、道具箱《アイテム・ボックス》を持っているんです」「道具箱?」「はい。魔法の一つで、その人間だけが取り出せる特殊空間に大量の荷物をそのままの状態で保管することができるです。あいにく、わたくしはそれが使えませんです」 と、プセマさんは苦笑した。「わたくしの売り物は魔法です。が、魔法をかけるだけでおしまい、と言う商売でもないです。病気の治療の為に魔法薬《ポーション》を作ったり、魔物から身を守るために村全体に結界の仕組みを作ったりするです。だからどうしても荷がかさむです」「なるほど……」 ポクポクと規則正しい馬の足音を聞きながら、俺は頷く。「道具箱、使えるようになろうとかは思わなかったんですか?」「神系魔法と同じ効果の魔法を使うのは、大変なんです」「そうなのか?」「はいです。神の力で魔力を動かす神系魔法は、容易く空間を捻じ曲げるです。精霊魔法で同じ効果を出そうと思ったら、
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第226話・もやもやする

 ビガスのように周りを深い堀に囲まれ、跳ね橋で四人の兵士が槍を組んで守っている。 プセマさんが手を振ると、少しばかり兵士の緊張が解けた。 でも油断していないのは、俺たちと言う存在があるからだろう。行商人の外套を着ているとはいえ、始めて見る顔だからなあ。 跳ね橋の一歩手前で、プセマさんは荷馬を止めた。「いつもの売り物と仕入れに」「よし」 プセマさんは一つ頭を下げて、先に街に入っていく。「で、お前たちは」「行商人です」 俺の言葉に、兵士は小さな箱のようなものを出した。小さな音がして、緑の外套が一瞬光る。これが行商人の外套が本物かを見る魔法道具なんだろう。「品物は」「これです」 ブランが両脇にぶら下げた樽にはワイン。グライフが背負っているのは干し肉。「まだある」 サーラがすっと手を翳した。 空間が歪んだようになって、その中にたくさんのパンが収められているのが見えた。「道具箱の魔法を持っているのか」 俺も初めて知ったけど、……神系魔法ではそんな難しくないと言う道具箱を、神みたいな守護獣に使えないはずがない。「しかも……これは……」「ひとついかがか」 サーラは湯気の立つパンを取り出して兵士に渡した。 最初、匂いを嗅いだり千切って見たりしていた兵士たちだったけど、小さく千切ったのを口に入れた兵士がひったくるように食べだして、終いには奪い合いになった。「売りに来たんだから、金を出せばちゃんと売る。取り合いなんて真似をするな」 サーラの呆れ声に、兵士たちは我に返ったかのように顔を見合わせ、そして気まずい雰囲気を出した。「……通ってよし!」 俺たち謎の行商人一行は堂々と街に入っていった。「結構活気が残っているな」 レーヴェの感想は俺も同じ。アムリアなんて人はいるけど活気はゼロだったもんな。「どこらへんで商売すればいいんだろう」「こういう街の中央部には大抵広場があり、外から来た人間が商売するのはそこだ」「へーえ」「プセマさんは何処で商売しているのだろう」「常連のようだからあ、何処か定位置があるんだろう。……ミクン、どうした?」「いやー……なんか……」 ミクンは首を捻っていた。「ノームって、嘘言わないんだよね?」「ああ」 ミクンの問いにサーラは頷く。「何て言うか……嘘はついてない……ついてないんだけど……なんだ
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第227話・開店大盛況

 荷物から葡萄酒と干し肉をおろし、サーラの道具箱からパンを並べる。 それが焼き立てパンの匂いだから、辺りには香ばしく胃袋をくすぐる匂いが辺りに広がる。 店の準備をしながら、ヤガリが小声で聞いてきた。「導きの球が示した、救いを求めている場所はここだったのか?」「ああ、間違いない」「だが、救いを求めているようには見えない」 確かに、街行く人たちはパンの匂いにこっちを覗き見に来た。空腹ではあるようだけど、アムリアの人たちのような無気力感はない。 救いを求めているのは誰なんだろう……。「シンゴ」「え? あ、おう」「そろそろ店開きをしないと暴動が起きるぞ」 サーラに言われて辺りを見回すと、よだれを垂らして取り囲む人々。「値段はいくらで?」「パンが銅貨十枚、干し肉が十五枚、葡萄酒が二十枚と言うところだね」 世故長けたミクンの言葉に頷くと、俺たちは店をオープンした。 それはすごかった。 ミクンの言い値は西側の標準だったらしく、値段を言った途端ものすごい勢いで人が奪い合おうとして、慌てて順番に待つようにと言ったけど「なくなったらどうしてくれるんだ!」と怒鳴られた。災害に遭っても大人しく列に並ぶ日本人は何てすごいんだろうと改めて思った。 ミクンとサーラがとにかく欲しがる人全員にちゃんと売る、と約束させて、並ばせ……それでもイライラしながら待っている、と言う状況。 これもベガが用意してくれたテントのように店を覆っている布の奥で俺はひたすら【増加】を使い続けていた。 もう出す端から売れる。後ろの人たちがかなり不安そうな顔をしている。いや、全員に売るって約束したんだからやりますよ、【増加】します。銀貨や金貨で買おうとする人もいて、釣りがないのに困ると、「この価値分の量を出せ」と来た。お客様は神様です、じゃない。お客様はクレーマーです。 人が減らないなあと思ってみたら、並び直してる人までいた。 もーう銅貨の山がいくつもいくつも積み上がっていく。金貨や銀貨も山になる。 最後の最後に、貧しい身形の少女が握りしめた銅貨でパンを買って行って、ようやく客が途絶えた。 全員、ぐったり。 店のオープニングセールは大混雑になるけど、需要と供給が合致すると戦争になると言うことが分かった。「魔獣百頭相手にした方がまだ楽かも知れない……」 弱音を吐かないレーヴ
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第228話・小さな声

 アウルムが一生懸命お金を数えているが、量が多すぎて筆算しても追いつかない。バーコードレジや表計算ソフトがないこの世界でこの金は……どうしよう……。「この銅貨、持ち歩くのか?」 さすがにヤガリも不安そうだ。「安心しろ、道具箱に突っ込むから」 なるほど、道具箱には財布代わりの使い方があるのか。「世界に滅亡が迫っている時に金などあっても仕方はないが……」 金がなくてもちっとも困らないサーラが道具箱に硬貨を突っ込みながら言った。「等価商売と言うことにしておこう」 最後の銅貨を放り込むと、サーラの道具箱の中は金銀銅貨でずっしり。でもまだ余裕はあるっぽい。「サーラ、今度、俺に道具箱のやり方教えて」「構わんよ」 あちこちで焼き立てパンの匂いがする。多分、街の人が全員買いに来て、家に戻って、食べているんだろう。すごいことだ。俺もここまで立て続けで神威を使ったのは初めてだ。「はー……疲れた」 誰が言ったか分からない程、疲労困憊。 疲れとは程遠い所に生きているはずのサーラでさえ、くったりしている。 「ぅなーお」 看板猫も疲れたと一声鳴いた。ブランやグライフも突っ伏している。「とりあえず……休もう」 サーラが言った。「俺は街の様子見てくるよ」 【増加】しかしてない俺は立ち上がった。「困っている人を見つけられるかもしれないし、この街で起きている問題が見つかるかもしれない」「そう……してくれ」 レーヴェの声に見送られて、俺は街へと繰り出した。 街はそこそこ大きかった。 行き来する人にもそこそこ活気があるけど、よそ者である俺たちは警戒されている。それは当然だと思う。 だけど。 何だろう、この違和感。 街に入る前ミクンも言っていた、何だかよくわからない感覚。「何だろ」 街なのか、人なのか。「ちょい兄ちゃん」 小さな声が耳に引っかかって、俺は足を止めた。「こっち、こっち」 俺がやっと聞こえるくらいの小声。 視線をめぐらすと、物陰から手が突き出て俺を招いていた。 お化けか、と一瞬身構えたが、俺もお化けみたいなもんだと思いなおし、その手の付いている方を見る。 少年……と言うか、まだ男の子と呼べるくらいの子供が、俺を呼んでいる。 姿を隠している様子を見る限り、他の人間には知られたくないらしい。 何か教えてくれる気配。だとす
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第229話・罠

「君は?」「スシオ。薄汚いスシオってみんなは呼ぶよ」 確かに、髪は洗ったことがないようにぺかぺかのバリバリだし、服にもカビが生えているし顔も泥や垢で薄汚れている。ツン、と据えた匂いもする。 だけど、そう呼ばれる彼は、「薄汚い」と言う形容とは裏腹に、真摯で真面目な目をしていた。「あんた、プセマと一緒に来た行商人だって話だけど……」 スシオは俺を見上げて言った。「プセマの仲間か?」「仲間? んー……」 多分これは重要なことだ。俺がプセマさんの仲間かどうかで、彼の進退が決まるかもしれない。「違う」「言い切れるのか」「ドワーフの山賊に襲われていたところを助けに入って、その後一緒にここに来ただけだ。どうせ目的地が同じならってだけ。だから、同行者ではあっても仲間ではない」「なら」 スシオはキッと俺を見上げた。「仲間連れて、すぐ逃げろ」 ケファルのスラムから、スシオの知る裏路地を走って、俺は中央広場へ戻った。 そこには、仲間がいるはずだったけど。 何もない。 誰もいない。 レーヴェも、ヤガリも、アウルムも、コトラやブラン、グライフ、サーラまで、そこにいた気配すらなく消えていた。「くっそ! 遅かったか」 スシオが塀の壁をガン、と殴る。「あいつに気取られないようにってあんたが十分離れてから安全な場所まで行って話したロスタイム……俺のせいだ、済まない兄ちゃん」「いや、スシオのせいじゃない」 俺はスシオの洗ったことがないだろう頭に手を乗せた。「君は、何にも、悪くない」 俺の言った言葉に、スシオは目を見開いて俺を見上げた。 そして、自分の頭に乗った手から逃げようとする。「や、やめろよ、薄汚い俺に触ったら、あんたまで汚れる」「こんなの、汚れなんて言わないよ」 俺は店を開いていた辺りを見ながら呟いた。「本当に汚れているっていうのは、あいつらの腹の奥だ」「兄ちゃん……」「っあ~久しぶりに人間相手に腹立った。これは本気で報復すべき案件。よって俺、全力で動く」「でも兄ちゃん」 スシオが心配そうな顔で見上げてくる。「あいつらはただの人間じゃない。俺にしたように、あいつらも」「分かってる。似たようなことをやらかしたヤツも知っている。そいつはきっちり冥土に送ってやったけど」 ぎ、とこぶしを握り締める。少し伸
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第230話・嘘を言えない

 魔族が同じく守護獣である天馬を捕えていたように、地上にある守護獣にちょっかいをかけられるようになったのは知っている。しかし、あの時、天馬は自ら仕込んだ封印で休養状態になっていた。その為上から封印をかけられ、守護対象を守れなくなっていたのだ。 完全覚醒を果たした守護獣が眠るなんてありはしない。 出来るとすれば、それは……。 サーラは目を閉じた。 気息を整え、眠っているような状態に自分を持って行く。 ただし、見た目だけだ。意識は完全に覚醒している。「ふほほ。よく眠っているです」 わずかに聞き覚えがある声。「この女はどのくらいの価値があるですか?」「言い値で買おう」「では…………」 低い声だったが、聴力に集中したサーラの耳にはしっかりと届いていた。「わたくしを、魔人にして頂ければ、お譲りいたしますです」 魔人。 目を閉じたまま、サーラはその言葉を頭に刻む。「じょ、冗談ではない」 相手の声が焦っている。「生物の貴様が死物、しかも魔人などとは!」「冗談も休み休み言え!」「わたくしが嘘を言えないのは、皆様方がご承知の筈ですが」「本気ならなお悪い!」「おやあ? ではこの女はいらないと言うことです?」「……それは」「あのエルフも、ドワーフも、ハーフリングも、フェザーマンも、獣たちも、同じ波長がありますです」 粘っこい声。「この女を捕えたのはわたくしの秘薬です。あなた方も御存知ではない秘薬の効果です。この女一人に、どれほどの価値があるか……ああそれは言われなくても分かっているですね」 おっと、と小さな声。「いけないです、さすがと言うかなんというか、湯気が薄れた途端に目を覚ましておりました」「なっ」 サーラは目を開いた。 肉体が完璧に眠りの状態に入っていたのに、意識は覚醒していると気付かれた。なら寝たふりは必要ない。気配でここに皆がいないのは分かっている。さっさとこの不埒者共を片付けるのだ。 炎水を呼び寄せ、部屋の中にいる全てを焼き払おうとする。 だが、次の瞬間。「ぶっ……!」 部屋に立ち込めていた湿気が、サーラの身体にまとわりつく。 ダメだ、これはまずい。危険なものだ。 守護獣の本能が警鐘を鳴らし、咄嗟に壁を破壊しようと炎をぶつけようとして……。 炎が熱気をより濃い蒸気に変えてしまった。(ま…
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第231話・眠り薬

 ぐつぐつと煮えたぎる鍋の中身は、獣を眠りに落とすとっておきの秘薬だ。 コトラと呼ばれていた灰色虎や、グライフと呼ばれていたグリフォン、ブランと呼ばれていた新種の生物も、この秘薬で眠りに落とした。 他の人間どもには、パンが買えない程貧しい暮らしを送るあの鬱陶しいスラム街の人間に渡した銅貨を使った。 接触性の眠り薬。皮膚から吸収された薬は、疲れをトリガーに対象を深い眠りに落とす。パン一欠片すら手に入れることのできない貧民は大喜びで銅貨を受け取り、店に走った。 自分が手を出したら、怪しまれる。だから自然に眠りに落ちるように待った。獣たちが異変に気付いた時にすぐ傍で秘薬の蒸気をかがせてやればイチコロだ。 それにしても、エルフ、ドワーフ、ハーフリング、フェザーマンか。「わたくしの研究に、非常に素晴らしい検体です……。どれもこれも、女で、一級品です」 検体は女でなければならない。男など物の役にも立たない。だから奥で何をやっていたかは知らないがあの青年が街を探索に行ったのを確認して、眠りこけた人と獣を捕えた。 まさか、金髪の美しいヒューマンが獣の本性を持っているとは思いもしなかったけど。 本性が獣で人の姿を取れると言うのは、実は死物では珍しくない。人熊や人鼠と言う魔族は人と獣の二つ姿を持つ。 だが、彼女は間違いなく生物で、獣でありながら、完璧に人の姿を取る。 そこで思い出したのだ。彼女らと会った時のことを。 どの種族からも失われたと思われた守護獣から、下った審判。 まさかと思いでも自分の秘薬は完璧で獣の属性を持つ全てを眠りに落とせるのであれば、よもやといつもの伝で連絡を取り、交渉……する必要もなかった。 あのけち臭い商売相手が言い値で買い取ると言ってきたのだ。 だから、無茶なことを言ってやった。 まさか、完璧に生物である自分が魔人になれるだなんて思っていない。自分は世界が滅亡した後も生き残りたいのだ。自爆したがる死物の内心なんて分からない。 でも、捕らえたこれには、商売相手が上に聞いてくる、と言うほど……価値があることが分かればそれでいいと。 もし交渉が決裂したとしてもそれはそれで問題ない。自分の研究に使うまでだ。「ふほほほ……どちらに転んでも、わたくしは痛くない」 男は笑って、眠るサー
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