Alle Kapitel von 生神様になったらめっちゃ思い通りになるんですけど: Kapitel 231 – Kapitel 240

305 Kapitel

第232話・本当は言わない

 わびしい造りに見せかけて、実は何重もの織りと魔法で強化されたテントの布が、あっさりと切り裂かれた。「ななな、な?」「俺の大事なみんなに手ぇ出してくれるとは……」 次の瞬間、吹き込む暴風。「いい覚悟してんじゃねーか嘘つかないプセマさんよぉっ!」 飛び込んできたのは、脚。 鋭く蹴りつけられ、貧弱なノームの身体は吹っ飛んだ。 その間にも暴風は秘薬の鍋をひっくり返して蒸発させ、その薬効を遠くに運んでしまっている。「大丈夫か、サーラ」 軽く頬を叩かれ、覚醒したサーラが叫んだ。「ベガ!」 ケンタウロスの草原で別れたベガが、そこにいた。     ◇     ◇     ◇     ◇ 俺は、スシオからプセマに関することを聞いた。 プセマはノームの魔法使いで魔法を売る行商人なのは、この街の皆が知っている。 そして、スラムの人間などを捕えては何処かに連れて行くことも知っている。 ただ、プセマが持ち帰る食糧や魔法の恩恵にあずかっている街民は、スラムの人間や余所者が被害者の間ならと目を背けていた。 スシオは、プセマに掴まっていたことがある。 何かの実験を受けて、逃げてきたはいいが、自分の身体に何が埋まっているか分からず、スラムに留まるしかなかった。 そして、プセマの被害者が増えないように見張り、プセマが実験体として執着する若い女ばかりの行商人……俺たちが来たのを見て、絶対にプセマが手を出すと思い、しかしプセマの恩恵を受ける街民がその妨害を知れば最悪殺される可能性もあると、俺たちの周りにいる人が消えるのを待っていたけど、人が消えたら消えたで近付きようがなく、俺が離れたのを見て声をかけてきた、のだそうだ。 本能的に、それは真実だと思った。 ノームは嘘を吐けないと【鑑定】に出ていた。 だけど、「本当を言わない」ことは可能だとも。 仲間たちが連れ去られたと分かり、心話でもサーラに繋がらないと知った俺は、シャーナを呼んだ。 シャーナとは心話は無事に繋がり、「それならわたくしより頼れる神子がいらっしゃるのでは?」と答えてくれて、それでやっとベガの存在を思い出した。 目を閉じたり開いたりしている俺を見上げていたスシオに、この街で人目につかない、風の吹く場所を知らないかと聞いて、立入禁止だけどスシオが隠し入り口を知っている崖に案内してもらって、そこで
Mehr lesen

第233話・獣の属性

 一連の話を聞いたベガは、顔をしかめた。「いき……いや、シンゴ。コトラの存在は掴めるか?」「コトラ? なんで」「サーラはこの街にいるはずなのに、気配が全く感じられない」「まさか、死……」「いや、違う。コトラとも心話ができるほどに信頼関係と信仰心が深まっているならば、コトラの声も届くはずだし気配も感じ取れるはず」 俺は小さな灰色虎を念じた。 だけど、あの元気なコトラの返事は帰ってこない。「そうか」 返事を聞いたベガは難しい顔をした。「ならば、属性で捕らわれたな」「属性?」「シンゴは我々の属性で力を揮えることは知っているだろう?」 頷く俺に、ベガは丁寧に説明してくれた。「そう。普通の薬であれば我々には絶対に効かない。だが、属性を設定して作られた薬であれば別だ」「属性・獣!」 俺は目を見開いた。「そっか、ベガがコトラのことを聞いたのは……」「コトラは獣たちの中では唯一の神子だ。そのコトラまで引っかかっているとなれば、獣の属性で括った薬か魔法の可能性がある」「思い出した!」 それまで目の前で繰り広げられる事態についていけていないと思っていたスシオは、突然大声をあげた。「プセマのヤツ、属性で括る薬を作るって言ってた!」「属性で括る薬?」「うん、それなら生物でも死物でも関係なく効くからって言ってた!」「間違いないな」 ベガは怖い顔をした。「しゅ……サーラの正体を知って捕らえたなら、何をしでかすか分からん。とにかく薬を遠ざけなければ。属性括りの薬とは言え相当な量与えなければサーラを潰せない」 ベガはスシオを見た。「スシオと言ったな。我々をその薄汚いノームの元へ案内してはもらえまいか」 頭を下げるベガに、スシオは心底驚いた顔をした。「ちょ、頭下げんなよ。あんたみたいな偉い人が俺なんかに頭下げても……」「我の真実の姿を知っているのか?」「いや、知らない、知らないけど」 スシオは難しい顔をした。「風の中から突然出てくるなんて、相当レベルの高い魔法使いだってのは間違いないよな。プセマなんか目じゃないってくらいに。そんなお偉い魔法使いさんが俺みたいなスラムの小僧に頭下げて……」「これは君にしかできないことだ、スシオ」 ベガは真剣に言った。「どうか、我々を、仲間の元へ、案内してはもらえないだろうか」「……ああ、もう
Mehr lesen

第234話・怒り

「心当たりがあるんだな?」「いつかプセマに一杯食わせようと、色々調べてた。あいつの秘密の研究室とか、実験材料の捕獲場所とか。その中の一つにヤツはいるはずだ」      ◇     ◇     ◇     ◇  で、俺たちはプセマの研究室に殴り込みをかけに来たのだ。「ひ、ひぃ」 プセマがずりずりと後ずさりする。「薬は散らしたが影響はあるか?」「あ……ああ、頭がぼんやりするが……」「ぅなあああああごおおおお!」 怒りを秘めた鳴き声が、布の向こうから聞こえてきた。「コトラ、ブラン、グライフ!」 爪が簡単に布を切り裂いた。 布には防御の魔法がかかっているようだけど、コトラクラスの聖獣やブラン、グライフと言った神獣の侵攻を留められるはずもない。 プセマは俺やサーラ、ベガ、コトラたちに取り囲まれて、震えあがるばかりだ。「ノームは嘘を吐けない。だが、真実を語るだけではないと、もっと早く私が気付いておくべきだったな」 サーラの細く繊細な指が,バキボキと凶悪な音を鳴らす。「ぅなあーごおおおぉ……」「ぶしゅうううう……」「ぐるごるぐるるる……」 三頭もジリジリと間合いを詰めていく。「シンゴ、ベガ」 サーラが美しくもそこに秘めた……彼女の司る炎水のような破壊力がこもった声で言った。「そこの彼を連れて、残りの四人を救出してくれ」「……止めないけど、殺しちゃダメだよ?」「ああ、もちろんだとも」 サーラは笑う。「こいつが死物に手を貸して私を売るかどうかという話も聞いていたんでな、死物が帰って来るにはこの本当言わないノームをボロボロにしておくよ」「OK。餌にかかった魚は逃がすなよ」「無論だ」「ひ、ひぃ、お、お助け……」「そう言った人間を何人死物に売り渡した?」「お、お、お……」「みんながいいって言えば助けるけど……まあ薬で眠らされた獣が簡単に許してくれるとは思えないよな。なあ?」「ああ」「ぅなーお」「ぶしゅう」「ごる」 その後はフルボッコを見ないふりして、スシオの案内でベガと一緒に恐らく四人が囚われているであろう場所へ向かう。「獣、よく言うこと聞くな」 スシオの言葉に俺は頷く。「仲間だからな」「仲間、かあ」 はあ、とスシオは溜め息をついた。「君には仲間や友はいないのか?」「いねーよ、姉ちゃん
Mehr lesen

第235話・空気の力

 派手な音と共に板張りの壁がバラバラになる。 空気って甘く見てたけど上手く使えばここまでの破壊力があるのか。いい勉強になった。「す……すげえ、姉ちゃん」 スシオが目をまん丸にする。「すげー姉ちゃんだろ」 言ってやると、スシオはコクコクと赤べこのように首を縦に振った。「言っとくけど、こっちの姉ちゃんは優しい方だ。プセマの所に残った姉ちゃんはもっとおっかないぞ」「……そんな気はしてた」 一応、捕らえられているのは女性ばかりと聞いていたので、俺は入らない。 実験体や人身売買の対象になっている女性たちがどんな姿をしているか分からない以上、男が勝手に入って行っていいとは思えないんで……。「大丈夫だ、全員……おまけもひっくるめて全員無事だ」 ベガの声が届き、俺はスシオと共に壁の破壊された住宅へ向かった。 そこにいるのは、やっぱりみんな女性だった。 半分眠ったような眼をしている彼女たちは、いずれもボロボロの服を着ていて、鼻につく臭いがする。スシオの話だと、プセマは街民の非難を浴びないようにスラムの女性ばかりを集めていたそうだ。 となると……あとがちょっと厄介だな……。「シンゴ!」 奥の方から女性たちを掻き分けて出てきたのは、レーヴェだった。「レーヴェ! 全員、無事か?」「ああ。薬で眠らされていたが、我々に効きが弱いことに気付いたんだろう、原薬を直接浴びせられてな……。だが、大したことじゃない」 ミクンが眠たそうに眼をこすっているアウルムと一緒に出てきて、最後にヤガリが出てきた。「くそっ、あの忌々しいノームめ……あいつはどうなっている?」「サーラと、コトラと、ブランと、グライフに預けてきた。きっと今頃ボロボロだ。けっけっけ」「人の悪い笑みをしているな」「人が悪いのは俺じゃなくてプセマの方。嘘を吐かないってところを悪用してとんでもないヤツだ。……だけど、この後が厄介だな……」 プセマがスシオに聞いた通りの話だったら、多分……。 俺は背後から突き刺さる視線を無視した。「兄ちゃん」「放っとけ」「だけど……」「お前のことも、この女の人たちのことも、俺が何とかすっから」 それは、俺の本心で。「レーヴェ、ヤガリ」 いろんな種族の貧しい女性たちが、外を見て怯えている。 怒りの気配を感じる。罵声が聞こえる。思った通りだ。「彼女た
Mehr lesen

第236話・大馬鹿だよ

「世界が滅んでも、自分たちだけ無事なら、それでいいってか?」 俺は振り向いた。 ビクゥッと、俺たちを取り囲んでいた街民が怯んだ。 俺は、笑っている。 怒りの感情がある程度以上行くと、俺は笑う。 その笑みが心の奥から怖いんだそうだ。 まあ、それは間違いないだろう。 街民がほぼ全員集まっているんだろうに、俺の顔を見た途端凍り付いてるもんなあ。「ふざけんなよぇえ? そんな自分勝手な人間を助けるほど、俺は慈善家じゃないんだよ」 笑ったまま、俺は周りを見回した。「俺は人間を助けるのが役目のように思われてるけど、助けたくない人間だっているんだよ。助けたくない人間が俺の仲間や俺の気に入った連中にひどい目遭わせてんのに、助けろって方が間違ってるだろう? そうだよなぁ?」「な、なんだよ、お前……お前は……!」「何だろうねえ」「本来はお前たちを助けに来た者だよ」 風で街民が女性たちを追おうとした連中を留めていたベガも参戦してくれる。 ベガの笑いもかなり凶悪なものだけど、俺とどう違うんだろう。「だけど、助けるべき人間は、助け切ってしまったようだな」「そうだなあ。じゃあ、ここを出て行こうか」「そうだな。パンの行商人を襲ったということは、もうパンも干し肉も葡萄酒もいらぬと言うことであろうからなあ」 出て行ったレーヴェ、ヤガリ、ミクンにアウルムと言った異人種なのに一緒にパンを売っていた行商人の一行を思い出したんだろう。「行商人ギルドに伝えないとなあ」「もうこの街に何も持ってこなくとも構わぬと言うのであろうからなあ」「お、脅しか!」「脅しぃ? まさか」 俺は「にっこり」付きの笑顔で言った。「本心だよ」「ひ、人でなし!」「自分より貧しい人間を見捨てて自分たちだけ快適な生活を送っている人間に、人でなしって言われるとはなあ。人でなし度はどっちが高いだろうなあ」「あ、あの、スシオみたいなクソを助けるなんぁ……」「スシオがクソなら、お前らはクズだな」 更に口角が持ち上がる。「俺たちに危険を教えてくれて、仲間を助ける手伝いをしてくれたスシオと、パンを売った俺たちの仲間を見捨てたお前らと。俺たちがどっちを助けたいって思うかは分かるだろ?」「街のことも知らないくせに!」「知らないけど分かったことはある」 俺はゆっくりと手を前に突き出した。「
Mehr lesen

第237話・笑顔

 プセマを袋にしているはずのサーラたちの所に行くと、裏路地に近いプセマの研究室に押し寄せたスラムの男たちが、妻や娘や恋人たちに駆け寄っているところだった。「スシオ、済まない、悪かった……!」 老人が孫娘の肩を抱きながら、涙にくれている。「いいから、長老、俺がやりたくてやったことなんだから」「本当に悪かった、スシオ」 若い男がスシオの肩を掴んで頭を下げている。「お前がスラムを売ったと思っていた。でも、違ってたんだな……!」「プセマの野郎がとっちめられる所を、この目で見る日が来るとはな……!」 プセマはと言うと、切り傷擦り傷打ち身ヤケドひっかき、まあ傷と言う傷が全身についてボッロボロ。「でも、俺たち、このままじゃここにいられないよ……。街のヤツラが俺たちを追いだすのは確実だ……」「あー、それ、気にすんな」 俺が手をひらひらさせた。「俺が何とかする」「何とかって」「プセマ」 俺はゆっくりとプセマの所に歩いて行った。「お前が誰を怒らせたか、分かってるのかな?」 また口角が持ち上がる。「ひ、ひぃ……」「なあ、お前が捕まえて、魔物に売り飛ばそうとしたのが誰か、分かってるよな?」「あ。あああ……」「俺は分からなくても、サーラは分かっていて捕まえたんだよな?」「ご、ごめんな、ごめんなさいぃ……」「ごめんで済めば生神はいらねえんだよ!」 俺は地にはいつくばって土下座をしているプセマの顔の横にダスッと足を叩きつける。「俺だって助ける人間は選ぶさ! お前みたいなのがいるから、モーメントから種族の争いが絶えないんだ! 本当ならつるし上げてやりたいけど、俺はそう言うことはしないって決めたんだ! だけど、お前らをこのまま無視することはできねえ。お前とこの街の人間みんな、心から反省するまでこの街から出さねえから覚悟しろ!」 ガタガタ震えているプセマに、護身用の剣を抜いて、ザンッと顔面の横に突き立てた。「今から、このことを街民に報告に行くんだ。お前が怒らせ、街民が犠牲にしようとした者の正体も、全部、全部だ!」「はぁぁぁ……」 涙と鼻水とよだれでぐちゃぐちゃになったプセマがよろめきながら去って行ったのを見送って、俺は肩の力を抜いた。「……お兄ちゃん、大丈夫……?」 怯えながらも俺の服の裾を掴んで聞いてくるアウルムに、俺はプセマに向けたの
Mehr lesen

第238話・すげえから

 ああいう風に育った使用前のアウルムを知っているから、この年のアウルムにはよく言っておかなきゃいけない。「もしや、貴方様は……」「助けを求めているのはあんたらで間違いなかったようだな」 俺はアウルムの頭を撫でて息を吐いて、スラムの長老に話しかけた。「これから、どうする? どうしたい?」「どうしたい、と言われても……」 相当歳を重ねたらしい長老が困り果てた顔で言う。「儂らはここで生まれて育ってきました。街民は儂らを追い出そうとするでしょうが、儂らがここを出て何をできるか……」「シンゴ、彼らは我々が引き受ける」「ベガ?」「馬厚織を織れる人間が減っているんだ。ここの者たちが覚えてくれるならありがたい」「このスラムの中にケンタウロスはいないみたいだけど……」「構わない。広く見ればヒューマンもケンタウロスも同じ人間だから」「ケンタウロス?」 さわさわと辺りがさざめく。「姉ちゃん、何モンなんだ……?」 スシオの声に、ベガは笑った。「済まないね、ヒューマンやノームの守護獣は目覚めていないから血の審判は出来ない。だが、このスラムに住む人間たちが一生懸命生きていて、どうにもならず助けを求めていたのは我らに届いたから、ヒューマンもエルフもハーフリングもドワーフも、例えノームであったとしても、我らは救う」 ベガとサーラもプセマに向けていたのとは全然違う、励ますような笑みを浮かべていた。「姉ちゃん、あんたら……」「ビガスや無窮山脈でも人は要る。畑仕事や力仕事ができる人間がいればありがたい」「や、やったことはないんだが……」「誰だって初めてはある。誰も初めての人間が失敗しても驚きやしない。少しでもやる気があるなら、何処へ行きたいか言ってくれ」「何処って……」「えーと、ケンタウロスの草原で織物を作るか無窮山脈の鉱山か、ビガスの畑仕事か」「ケンタウロス? 無窮山脈? ビガス?」 スラムの民は目を白黒させている。「この街からあんたらは解放された。だけど、それは、働いて自分の食べる物を手に入れなきゃならなくなったってことだ。もしかしたら、スラムの生活の方がいいって思う時が来るかもしれない。それでもいいってんなら、俺が頼んであんたらに働く場所を与えてやれる。どうする?」「働いて、糧を得られるならそれはどんな仕事でも……!」「うん、じゃあ、取り
Mehr lesen

第239話・恩人

 スラムの人間を全員、持って行きたいものも全部持ってくるように言うと、スラムの人間は駆け出した。 その間に、スシオがプセマに何らかの術あるいは改造を施した可能性があるので、【鑑定】してみた。「……ああ、お前にかけられたのは簡単な催眠術だな」「簡単、な?」 スシオは目を丸くする。「俺、プセマに逆らえなくされたんだぜ? プセマの言うことなら何でも……」「やらなきゃいけないっていう、催眠術……魔法の一種でもあるけど……を仕込まれたんだよ。心の奥深いところで、プセマの言ったことは絶対やらないといけない、って言う催眠。単純だけどその分強い。プセマが女を連れて来いって言ったら、逆らえなかったろ?」「……ああ」「でも、今回の件については、プセマの催眠術は「言ったことをやれ」で「言われたことをするな」じゃないからな。だからお前に口留めはなかった。さすがのお前でも、プセマが魔族と関わっているとは思わなかったろ?」 こくりと一つ、頷くスシオ。「俺に何も言うな、と言う命令もなかった。だからお前は俺に警告できたんだ。おかげで俺は早く動けた。本当に、お前が、プセマに牙を剥かなかったら、どうなっていたか分からない。……ありがとうな」「い、いやいやいやいやいいよ! そんな、兄ちゃんが、俺に礼を言わなくても!」「『薄汚い』の二つ名も、お前がプセマの使いっ走りさせられてるからついたものだろ?「……ああ」「でも、その裏で、お前は反撃の機会をうかがっていた。プセマのアジトを探り、さらわれた女性の数を調べ、プセマがこっちに一服盛ろうとしていると知って俺に警告してくれた。お前はちっとも『薄汚』くなんかない。お前は勇敢で真っ直ぐだ」「ち、違うよ」「違わないよ。なあ、ベガ?」 スラムから街に通じる通路を見ていたベガが、微笑んで静かに頷いた。「君は、プセマの呪縛を受けながらも、我が友を救うべく奔走してくれた。我が友に何かあれば、この世界はどうにかなっていたかもしれない。君は密かにこの世界を救ったかもしれないな。感謝する。……ありがとう」「いや、姉ちゃん、俺はそんな立派な人間じゃ……」「そんな立派な人間だよ、君は」「サーラ」 プセマで存分に鬱憤を晴らして、多少はスッキリした顔をしたサーラも、スシオに頭を下げた。「この一件はほぼ私の油断と慢
Mehr lesen

第240話・お湯

 一人が聞く。「あの風?」「スラムを取り囲んでいる風だよ。街の人間が入ってこようとすると跳ね返して追い散らしている」「ああ、この街を閉鎖する、と言っただろう?」 ベガがさらりと言った。「今更後悔して何とか連れて行ってくれと頼んでいる街民だ。しかし、我はあの中に救うに値する者なしと考えている。シンゴがいいと言えば……」「俺は言わない」 言うと思った、とベガが笑う。俺の顔は多分苦々しくなっているだろう。「血の審判とやらをやったっていいぜ。絶対俺勝つから」「全員集まったようだな」 ベガに言われて、俺は顔をあげた。「おう、大事な物持ったか?」「しかし、本当に? おれらみんなを雇ってくれるのか?」「ああ。それは約束する」 しかしまず、と俺は考えた。「体を清潔にしなきゃな」 心話で用は頼んであるし、それが終わったとも連絡が来ている。「ベガ、俺の言葉を街民やプセマに伝えることは出来るか?」「もちろん」 すぅ、と俺は息を吸い込んだ。「ケファルの街民! そしてプセマ!」 俺の声がうわんうわんと街中に響く。「お前らは俺たちの品物を買いながら、俺たちを売り飛ばそうとした! だから! 俺もお前らを見捨てる!」 ひぃっと言う声が、遠くから聞こえた。「反省するまで、お前らはこの街から一歩も出さない! 言っておくが、プセマに八つ当たりしても呪縛は解けないぞ! お前らもプセマと同じ穴の狢だからな!」 ベガとサーラが力を放った。街を閉鎖する力。遠くから跳ね橋の降りる音がする。頑丈に作った塀と堀が彼らを閉じこめることになるとは、この街を作った人間は誰も思わなかったろう。「よし、とりあえずは原初の神殿に行こう。神威【帰還】!」 風が途切れた途端、押し寄せようとした街民の目の前から、俺たちは消えた、と、思う。 次の瞬間、俺とスラムの五十人近い人間が、原初の神殿の祭壇に到着した。「はいとうちゃーく」「え? え?」 スラムの人たちはきょとんとしている。「お帰りなさいませシンゴ様!」 シャーナが袖まくりした姿で出迎えてくれた。「さて、皆様、こちらへどうぞ」 スラムの人たちを連れて行った先は、サーラの力を借りて造った温泉である。「男性の方はこちらで、女性の方はこちらでどうぞ!」「え? どうすれば」「お湯で体を洗って下さいな。
Mehr lesen

第241話・温泉

 スラムの人たちを、別に俺の【浄化】で綺麗にしてもよかったんだけど、俺は汚れて帰った後はお湯に浸かって体をキレイにし、それまでをリセットするのに最適な手段だと思っている。 で、一番俺が好き勝手出来る原初の神殿に、炎水の守護獣であるサーラに頼んで温泉を創り出し、色々なことがあると【帰還】で帰ってはお湯に浸かっていたんだけど、どうせならと範囲を広めて男性用と女性用で大露天風呂にしてしまっていたのだ。 これまでのスラム生活から新しい生活に切り換えるのにちょうどいいと思ったので、今まで神子かこの神殿の子供たちしか入ってなかったのを大解放したのだ。「シンゴ様、よろしいですわ」「ああ。じゃあ」 もう誰のとも分からないボロ布の群れに、【浄化】と【再生】を使う。 辛うじて布の体をしていたボロは、一瞬にして清潔な新品の衣服と化した。 温泉の方からは、溜め息や鼻歌が聞こえてくる。どうやら気に入ってくれたようだ。よかった。「悪いねシャーナ、温泉の掃除は俺も手伝うから」「構いませんとも。わたくしがシンゴ様のオフロの恩恵に一番預かっているのです。子供たちも泥だらけで入りますし、何より掃除をするのが楽しいですから」 ニコニコ笑顔のシャーナ。「あの方たちも、きっと今、至福を味わっているでしょうね。そして、新しい生活への希望も。【浄化】や【再生】では味わえない、シンゴ様の神威ですわ。そしてその神威のお手伝いできること、大変光栄に思っています」「風呂掃除が?」「はい。あんなに心地よい思いをさせてくれるオフロをピカピカに磨き上げる。最高に心地よい仕事ですわ。むしろ毎日入れて申し訳ないくらい……」 今のところ、俺が行った場所に風呂の文化はない。お湯で体を拭くとか、水浴びとかだ。 世界がゆっくりと滅びに向かっていくのに、地震とか火山の爆発とかそう言う派手な大破壊がないのは、例えばサーラが炎水を守っていたり、ベガが風を守っていたりするためらしい。守護獣の半分以上がモーメントを見捨てて天界に還って、残った守護獣はサーラのように自らを封印して微睡の中にいる。眠りながら世界を破壊から守っているのだ。 そして、目が覚めてしまえば世界は滅びかけているから呑気に自分を封印している場合じゃない、と言うのがサーラやベガの方
Mehr lesen
ZURÜCK
1
...
2223242526
...
31
CODE SCANNEN, UM IN DER APP ZU LESEN
DMCA.com Protection Status