All Chapters of 偽物クズ夫に別れを告げ、スパダリと政略結婚します: Chapter 301 - Chapter 310

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第301話

そしてすぐに、ある人物たちが親密そうにしている5枚の写真が一花の目に飛び込んできた。柊馬なら、彼女は一目ですぐ分かる。そして、彼と一緒に写っているのは如月陽菜だった。二人が同じ車に乗っている写真。二人が夜ホテルの前で至近距離で立っている写真。そして、二人が山の中手を繋いで近寄っている写真だ。写真は様々な場面のものがあり、全て遠距離から撮られたものらしく、記者が盗撮したもののように見える。明らかに柊馬と陽菜の関係が薄いとは言えないようだ。もし、二人が親密な関係かと言えば、それも違うようだ。一花は動揺したように手を少し震わせた。そして、その写真についている記事の内容に目を移した。【如月陽菜が新たな公益活動を行うことになり、謎多き大物社長と山に赴いた。どうやら二人はヨリを戻したようで、お相手の男性の横顔はイケメン。ネット民の関心が高まった】以前、ネット上では陽菜が芸能界を引退してから状態が悪くなったのは誰のせいなのか探る動きがあった。そして今、このようなゴシップが出ると、もちろん多くの人が柊馬の噂を始めた。柊馬は国際的にあまり顔を出さない人間で、伊集院グループも相当に目立たないようにしている財団だった。だから、今まで彼や会社に関する記事はあまり出てこなかった。それに、あったとしても国外でのトップレベルの国際的な活動だから、大々的に大きく宣伝されることはなかった。そして、陽菜とこの男が同じ場面に親密な様子でおさまっているところなど、まったく珍しい。もちろん、それはみんなにおかしな妄想を駆り立てさせた。それに、柊馬の容姿が良すぎる。写真はピントがぼやけているが、彼はスラリと背が高く、ちらりと見ただけでも、相当なオーラを持つ人物だと分かる。世間は美男美女カップルが好きなものだ。柊馬のようにただの横顔だけでも、見た人を瞬殺してしまうほどのイケメンぶりに、ネット民たちは大いに沸いた。確かに、この記事を見た多くの人が陽菜は恋愛脳だと悪口を言っていた。男のために自殺未遂を起こし、仕事を始めて数日で以前と同じような道を歩むとは……しかし、それよりもっと多くの人は、柊馬が陽菜の相手であれば、このような男だから彼女の行動には理解ができると思った。しかも、相手の男性が陽菜の素晴らしさを理解し、彼女を大切にしてくれたらいいと祝福
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第302話

この時、電話の音が響き、一花の意識を呼び戻した。彼女は電話に出ると返事をし、すぐに会議に向かった。ここ二日で、西園寺グループが開発した新商品が市場に出される予定だ。その商品は研究開発チームが十年もかけて研究し、三年も試作を重ねてできた薬品だ。チームの心血が注がれた重要な作品ともいえる。ここ数日、専門家がその成果の状況を確認しに来る。それから国際投資会社も何社も一緒に来て契約することになっている。一花は西園寺グループの管理職として、もちろん彼らをもてなし、契約を完成させる。特に、その検査には何か問題があってはいけない。それは会社の機密や薬品の安全性にも関わる問題である。会議中、一花はできるだけ集中していたが、やはりさっきのことが頭から離れず、よく気がそれていた。彼女はこの時、柊馬と空港で分かれる際に、彼が手を力強く握ってくれて、一日に三回電話をし、できるだけ早く帰って来ると言っていたのを思い返していた。彼は一花に安心して自分を待っていてほしいと言った。柊馬が出張から戻ってきたら、二人は結婚式を行う予定だ。その時、互いに完全に人生を捧げる。柊馬の瞳はまっすぐで嘘などなかった。一花も彼のことを本気で好きになっている。それは心のうちから自然と込み上げてくる感情だった。これは以前、慶に追いかけられていた頃に動かされた気持ちや、彼への依存心とは全く異なっていた。一花はもう二度と誰に対しても安心感を得たいと思っていなかった。一花は柊馬に対して、ただ単純に彼のことを賞賛し、心が動かされ、愛し慕っている。彼と手を携えて一緒に残りの人生を歩んでいきたい……将来何があろうと、彼女はただ彼と同じ道を歩いていきたいと思っていた。しかし、それは柊馬が彼女のことを騙していない場合だ。「どうしましたか?」一花は誰かの声でやっと我に返り、すぐに彼女の意見を待つ、モニターに映し出されている提案に目を向けた。彼女はすぐにいつもの状態に戻り、手元にある書類をめくって、いくつか注意事項を話し始めた。会議が終わった後、一花がオフィスフロアを通る時に、夏海たち数人が自分を見ていることに気づいた。一花は彼女たちに心配するなと伝える微笑みを作りだし、何も言わなかった。「夏海さん……一花さんの顔色があまり良くないですよね。私、悪い事をしてしま
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第303話

夏海はいつもと違う一花の様子を見て、眉間に皺を寄せた。それに、なんだか心がもやもやするのだ。夏海は一花が表面的に淡々と平気なふりをすることに慣れていることを知っていた。以前、黒崎慶が彼女を傷つけていた時、一花はずっと何かの異常を顔に表すことはなかった。黒崎グループを去る直前までずっと変わらずに静かで普段と変わらないようだったのだ。しかし、長年愛した男に騙され裏切られた後、今まで通りに行動し、やり返し、その気持ちに終止符を打つことなどできるのか、夏海はそれを想像するのも難しいと思った。夏海は一花のことを尊敬していた。夏海は自分の心に抱いてる恨みや憎しみを考えただけでも、少しの間も抑えることなどできなかった。夏海はただ、一花が二度と過去と同じように傷つかないことを祈っていた。男のために傷つくなど、価値のないことだと思った。夏海の親友のように……彼女は自分よりも家柄が良く、将来も明るかった。本来であれば、もっと良く、もっと幸せな人生を送れていたはずだ……しかしそれがあの男のせいで……夏海は一花が二度と過去と同じ苦しみを繰り返すことはないと分かってはいたが、それでも心配する気持ちは消えなかった。長く辛い思いに耐え続けてきて、危うく精神崩壊してしまいそうだった一花にとって、弱っている時に伊集院柊馬がどのような存在意義を持つのか、夏海はよく分かっていた。夏海でさえ、柊馬を見ると、一瞬恋に対してもう少し期待を持てるようになると感じた。「あの、一花さん」「なに?」一花は顔も上げず、ただ淡々と一言返した。「グループ内のあれ、気にしないでください。一体どういう状況なのか誰にも分かりません。それに、一花さんが正しい判断をすると私は信じています」この時、一花は顔を上げた。夏海が目をうるうるさせて自分を見つめているのを見て、思わず一花は微笑んだ。「心配させちゃったのね、私は大丈夫よ。柊馬さんは如月さんとずるずる引きずった関係を続けないって、私は思ってるから」夏海は一花のことをよく理解しているので、一花も何も隠さず正直に伝えた。実を言えば、さっき一花は少し苦しくなり、戸惑いを感じてしまった。昔の古傷がうずいたのだろう、しかし、それは少しのことで一花はすぐにいつもの調子を取り戻した。もしネットのあのゴシップが本当なの
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第304話

「あなた一人だけ闘わせることなんてできませんよ」夏海はすでに決心していた。「私も別に彼にそこまで近づく必要はないんです。ただ、彼は私のことを気にしているようだから、接触して弱点を見つけられると思って。いろいろ情報も手に入るかもしれないし……それに」夏海は少しためらった。やはりあの親友のことは言いたくなかった。あの男が女性を弄んで傷つけたその罪は死に値するほどだ。しかし、夏海は自分の親友の事も考慮するべきで、でたらめに誰かに話すようなことではない。「それに、なに?」「それに、私、あの男が大っ嫌いなんです。あいつの名声を傷つけてしまいたいです」夏海の声には突然力がこもった。一花はそんな彼女に驚いた。陸斗が夏海をからかった事に対して、彼女がここまで憎しみを抱いているとは、一花も知らなかった。しかし、それでも理解はできる。陸斗は確かにやり過ぎたのだ。夏海のようにまだ若く少女のような部分も残っているお嬢さんが侮辱されるような行為に耐えられるはずもない。「夏海さん、安心して。今後はあなたに代わってあの男にきつく当たっておくから。だけど彼のような男はそう簡単に傷つけられないわよ。あんなクズ男にこだわって苦しむのはあなたのほうになるわ」一花は夏海の手をとって、優しく慰めた。しかし、一花がいくら説得しようとしても、夏海の決意は変わらなかった。「一花さん、私のためにそう言ってくれていることは分かっています。でも、私もきちんとわきまえています。一花さんは私のために十分すぎるくらいの事をしてくれました。私が今日あなたにこうやって伝えたのは、誤解させたくないからです。今後、私がいくらあの男と親しげにしていたとしても、私は一生一花さんの味方ですからね!」それか、一花からまた説得されるのを恐れてか、夏海はそう言い終わると、お辞儀をしてそそくさと逃げるように去っていった。一花は夏海を引き留めることができず、どうしようもなくなった。夏海は……どうしてここまで陸斗に執着しているのだろうか。ちょうどここ暫くは陸斗が会社にいないのが幸いして、とりあえずそこまで心配しないで済みそうだ。しかし、夏海のこのような様子には一花も頭を抱えてしまった。あの子は自分同様頑固で、説得したとしても効果はないらしい。一花が悩んでいる時に、携帯が振動した。一花
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第305話

勇は深くため息をつき、低い声で言った。「伊集院柊馬君が事故に遭ったようだ」その言葉を聞いた瞬間、一花は体を震わせた。手を勢いよくテーブルの上につき、息を飲んで勇がその続きを話すのを待った。「彼に、何があったんですか?」勇は一花の目を見て話すことができず、ため息をついた。「山の中で事故に巻き込まれた手、重傷を負ったらしい。楽観視できない状況だ……彼が持ちこたえられなかったら、君の結婚にも支障が出るかもしれない」「持ちこたえられないってどういう意味ですか?」一花の震える声が勇の言葉を遮った。柊馬が重傷を負ったと聞いた瞬間、頭に急激に血がのぼり、何も考えられなくなってしまった。……午後。和香が外から帰ってきた時、陸斗はすでに玄関で待っていた。和香は彼をちらりと見て、傍についていた秘書をさがらせると、手に持っていた鞄とコートを陸斗の腕にのせた。「うまくやった?」「もちろん。母さんの予想通り、伊集院家は今きっと噂を聞きつけた頃だろう」陸斗は小さくそう言った。和香は少し前に陸斗にある人物に連絡させて、柊馬の予定を流させた。陸斗は柊馬に何か仕掛けるつもりなのだろうと察した。和香はビジネス界における地位は大したことはないが、人脈であれば、如何なる人物でも探すことができた。特に国を跨ぐような場合ならなおさらだ。陸斗も最近になってようやく知ったことだが、匠と結婚する前、和香は国際レベルで大物の人物についていたことがあるらしい。しかも、その相手は良い人間ではない。正当な方法で対処できない場合、和香は極端な手段に出る。以前、匠が西園寺グループで南関市における製薬事業を独占していた時、和香が何らかの形で助力していなかったとは限らない。書斎に戻ると、陸斗はドアを閉め、引き続き話した。伊集院家はすでに柊馬のところへ向かっている。それは敬子と美穂だ。修治は今国際サミットに出席していて、彼がそこを離れたという情報は入ってきていない。和香は今回の件がここまでスムーズにいくとは思っていなかった。あちらの人間は行動が非常に早い。情報が出てから半日もせずにすぐに動きだした。和香は少なくとも一日はかかると予想していた。しかも、その情報によると山での偶然の事故だった。しかし、あの人たちは昔、手を出すなら車に小細工をやっていたので
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第306話

和香は冷笑し、ワインを一口飲んだ。一花が今柊馬のためにこの場を離れれば、和香の思い通りになる。しかし、一花が柊馬の事故を構わないようであれば、伊集院家はもちろん彼女に失望するだろう。一花に伊集院家の後ろ盾がなくなれば、和香は一花に対処しやすくなる。一花がどちらを選ぼうとも、結局は散々な結果になるという筋書だ。陸斗はこの時、背中に悪寒が走った。しかし、それでも笑顔で母親に答えた。「一花のようにプライドの高い奴でも、やっぱり母さんの相手ではないな。あいつ、いつか絶対に後悔するぞ。どうして最初に母さんの言うことを聞いて、西園寺グループの後継者になるのを放棄しなかったのかね」和香はリラックスするように長く息を吐きだし、陸斗をちらりと見た。「もう休みなさい」「うん」陸斗は会釈して部屋を出ると、彼から笑みがだんだんと消えていった。彼はこの時、また一花が自分に言っていた言葉を思い返していた。和香のような人間が、どうして縁もゆかりもない彼を養子としたのか?これと同時刻、一花も秘書に頼んで一番早いフライトを予約させ、柊馬の所へ行こうとしていた。勇からこの件を知った後、一花の心は崩壊寸前だった。頭の中はすぐにでも柊馬に会いたい気持ちでいっぱいだった。彼の安否と状況を確かめなくては。もし、勇の言葉が誇張されたものであり、柊馬の怪我がそこまでひどいものでなければ、彼は絶対に自分に連絡してくれるはずだ。今、一花は突然柊馬との連絡が途絶えたこと、そして湊のあの自分を避けるような言動を考えていた。すると恐怖がさらに完全に彼女の理性を呑み込んでしまっていた。一花はどうしても冷静になどなれなかった。彼女は引き続き勇と話している気力もなくしてしまい、勢いよく立ち上がった時に、危うくバランスを崩して倒れるところだった。勇は一花が驚愕した様子であるが、体はもうふらふらになっているのを見て、彼女が想像していたよりもショックを受けて完全に取り乱しているので、思わずすぐに慰めの言葉をかけた。勇もこの噂を知らされた時、もしかすると柊馬は危険な状況にあるのではないかと思った。一花はなんとか呼吸を整え、真っ赤になった目に涙が溜まっていた。暫くの間一言も発することができない状態だった。勇はそんな彼女に運転させて空港まで行かせる勇気はなか
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第307話

勇が一花を姪として接しようとしても、一花ももう彼に近づくことはなくなるだろう。和香のそんな企みを知っていながら、勇は彼女の言う通りにする選択をした。彼はもう結構な年だ。実際、和香と一花の争いに巻き込まれるのはご免だった。それに……和香もかなり手に負えない人物だからだ。そして今の勇にとっては息子の侑李が彼の全てだった。彼はただ保身さえできればそれでよかった。一花に関しては……もし、彼女が柊馬と政略結婚をしても、和香に立ち向かえないというのなら……それは彼女の運命なのだろう。勇はすでに自分に言い聞かせてはいたが、一花の今の様子を見ると、どうしても心が落ち着かなかった。彼は一花にティッシュを渡した。「一花さん、そんなに焦らないで。良い人は神様に守られてるものだ、柊馬君はきっと大丈夫だよ。しかし君は心を落ち着かせたほうがいい。体が大切なんだから」勇の言葉を聞いて、一花はまるで何かを思いついたかのように、上の空だった瞳が急にはっきりとしてきた。「おじ様、西園寺グループは最近とても重要な時期ですね。会社は手配して誰かにしっかり見てもらっておきます。だけど、今回のプロジェクトには確かあなたも関わっていたはず。だから何もミスが出ないように、手伝ってもらえないでしょうか?」一花は自分が今会社を抜ければ、かなり無責任になるとよく分かっていた。こんなに重要な新薬を市場に送り出すという時だ。すでに完璧に準備は整えてきたし、ほぼ何か問題が起こるようなことはないだろう。しかし、最後の審査結果には彼女のサインが必要だ。今そんな彼女が会社からいなくなれば、傍にいる人で唯一信用できるのも、ただ西園寺勇、この人しかいない。彼は西園寺家の人間だから、会社の利益とは一致しているはずだ。「安心しなさい、私がちゃんとしておくから」勇はこの時少しそわそわした様子で喉を鳴らした。しかし、この時の一花はこの男の細かな表情の変化に気づけなかった。彼女はただ感激して頷くだけだった。「ありがとうございます、おじ様。サインの権限はあなたに移す手続きをしますので、何かあれば……すぐ私に言ってください」勇は頷いた。車はすでに空港に到着していた。一花は言い終わると、この時かなり冷静さを取り戻した様子だった。しかし、彼女がシートベルトを外す時、勇は彼女
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第308話

「もし、気がおさまらないようなら、他の方法を考えて、小林家のあの娘を苦しめてやっても……」「和香さん」勇はなんだか違和感があった。「小林家がどうなるかは私はどうでもいいんだ。ただ、侑李が無事戻ってきてくれればそれでいいんだよ」「お義兄さん、M国にはすでに人を派遣して交渉に行かせています。小林家が西園寺家を脅してきたのだから、そう簡単には済ませないですよ。どうしてあんな家のメンツなんて考えてあげる必要があるのです?そうは思いませんか?」和香のその言葉に勇は即座に驚いた。彼はどうも自分がうまく利用されてしまったような感覚になった。和香なら、小林家くらい余裕で扱うことができるはずだ。侑李を釈放させM国から帰すことは一言で済むくらいの簡単な事なのに、彼女はそうではなく直接小林家に何か仕掛けようとしている。これは勇の手助けではなく、明らかにさらに事をややこしくしようとしているだけだ!しかし、そうは言っても、和香は確かに侑李の気を晴らし西園寺家の面子を保とうとしているから、勇も和香のどこも責めるわけにはいかない。侑李の件はこれからどうなるか、彼女がこの後どう出るのかを待たなければならない。「和香さん、私もあなたも状況判断ができる大人なんだ。あなたは一体何を考えている?私を脅す気かね?」勇は腹に怒りをためて、声もかなり重さを増していた。「お義兄さんったら、どうしてそんなに焦る必要があるのですか?安心してください、一週間以内には侑李君は絶対無事に帰国できますから。ただ……」和香はさらに声のトーンを抑えた。「ここ最近は西園寺グループの新薬が発売されるタイミングでしょう。勇さんにまたちょっとお手伝いしていただきたいの」「あまり調子に乗らないほうがいいぞ、和香さん。匠はもういなくなってしまったが、西園寺家が勝手を許すとでも思っているのか?」勇はあまりの怒りに、その言葉を吐くとカッとなって電話を切ってしまった。まさか和香がこのように自分を脅してくるようになるなど、勇は全く思っていなかった。当時、彼女が匠と結婚する時、良妻賢母で、優しい教養と品のある模範的なお嬢様だった。しかし、勇はすぐに彼女は相当頭の切れる女だと気づいた。家柄、能力、美貌までも兼ね備えているのに、匠の傍では控えめに目立たず、子供すら生まなかった。このよ
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第309話

萌絵は侑李がトラブルに巻き込まれたと聞いてかなり面白かった。こんなことになれば、今後いくら萌絵が茉白をいじめようとも、誰も助け船を出す者は現れないだろう。しかし、茉白は侑李の件を知ると、萌絵にまで頭を下げて、彼に関する情報を教えてほしいと頼んできたのだ。萌絵は侑李に一体何があったのか全く知らないし、茉白が知りたい事なら萌絵はもっと教えたくなくなる。だから、茉白はどうしようもなくなり、勇を探しに来た。もちろん、彼女は勇が自分のことを嫌っていることはよく分かっていた。茉白の性格からすると、誰かから冷ややかな目で見られるのは耐えられない。西園寺家に来て自ら屈辱を味わうような事を彼女は死んでもするはずはなかった。「私が君を歓迎しないことはよく知っているだろう。二階堂さん、どうぞご自由に、私は見送らないからな」この時の勇はすでに怒りで爆発しそうなくらいなのに、茉白に対して礼儀をもって接しているあたり、人として教養をなんとか保っていた。そう言うと、勇は顔を彼女から背けてその場を去ろうとした。「あの、さっき、西園寺社長と電話されていたのですか?もし、私の考えが当たっているのなら、彼女は侑李を使って、あなたを脅し、何かさせようとしているのでは?」茉白はこの時、勇から自分がどのように思われているかなど無視して、直接彼の秘密を言い当てた。西園寺家の事に足を突っ込めば、誰もが悲惨な一途をたどる。これは、そもそも自分自身を守る手段を持たない茉白にとっては、言うまでもないことだ。勇は体をビクッと震わせ、振り向いて茉白の目を見た。その瞬間、冷たく厳しい目つきに変わり、相手を恐怖に陥れるほどの凄みを見せた。「二階堂さん、盗み聞きした内容は忘れるべきことだろう。これは私からの忠告だ」「おじ様、あなたが私を気に食わず、どう思っていても私は構いません。だけど、私は心から侑李君に何かあってほしくないと思っているんです。信じてください。今日ここへ来たのは、私が何か手助けできればと思ったからです」茉白は勇気を振り絞ってその言葉を出した。彼女は実は手がじんじんと麻痺した感覚だった。彼女が小さい頃から大人になるまで本気で信じている人間は、ただ一人、侑李だけだ。誰の目にも茉白は良い人間には映っていない。特に、西園寺家と二階堂家のような残酷で人
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第310話

和香が一花を蹴落とそうとしている事なら、彼ら上流社会の誰もが知っていることであり、茉白なら余計に詳しい。勇が和香に脅されるなら、それは一花が関わっているに決まっている。一花と茉白は友人同士ではない。茉白には友達すらいないが、誰かから何かしてもらった時はずっとそれを心に留めておいて、決して借りを忘れない。それに、一花は侑李の従妹にあたる。茉白は侑李が一族が仲睦まじいことを望んでいるのを知っている。彼自身もよく、自分のために誰かの利益を損なうようなことはしたくないと言っていた。「君は一体何をするつもりなんだ?」茉白がただの冗談で言っているのではないことが分かり、勇は真剣な顔つきになった。「おじ様、あなたはただ私に三日、時間をくれるだけでいいです。必ず侑李を助け出しますから」茉白はその場で勇の質問には答えず、少し瞳を暗くさせ彼にお辞儀をすると背を向けて急いで去っていった。……夜中、西南の辺境にある空港で。飛行機から降りたばかりの一花から、湊はメッセージと電話を立て続けに受け取った。彼は一花がこの状況を知っているとは思っておらず、彼女が来たからには成り行きに任せすべてを説明するしかなかった。「社長はまだ目を覚ましていません。でも、危険な状態からは脱しましたので、奥様、心配なさらなくていいですよ」湊は一花に慰める言葉をかけると、すぐに病院の住所を送った。伊集院家もここへ来ていた。敬子は来るまでに疲れていたので少し休憩しに行っていて、美穂が電話に出た。美穂の声はかすれていて、明らかに泣いた後のようだった。しかし、一花もすぐに駆けつけてきてくれたことに感激し、また心配もした。なんとか気持ちを落ち着かせながら一花に慰めの言葉をかけてくれた。電話を切ると、一花は車の中で我慢できずに下を向き、前屈みになって両手を組み、顔を埋めていた。秘書は一花が体を震わせているのに気づいた。彼女は泣いているようだった。一花に手を伸ばしかけたが、どう慰めの言葉をかければいいのか分からなかった。こんな時は何もせずそっとしておくのがいいのかもしれない。一花は本当に焦っていて、柊馬のことが心配でたまらなかった。彼女は柊馬の怪我を知ってから出発するまでに一時間少ししかかけずに急いでやって来た。だから、着替えの服も持たず、プライベ
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