All Chapters of 偽物クズ夫に別れを告げ、スパダリと政略結婚します: Chapter 311 - Chapter 320

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第311話

国境付近にある医療はまだそこまで発達していない。しかし、柊馬は重傷を負い、臓器からの出血もあるため、すぐに救命措置が行われなければならなかった。この辺りではこの病院が最も良い病院で設備も整っているほうだ……危うく柊馬は助からないところだった。柊馬は事故に遭った瞬間、きっと自分が死んでしまう可能性が大きいと予測し、湊には一花に伝えずにおくように言ったのだろう。湊は顔を下に向けて、一花に謝った。「奥様、社長のことを怒らないであげてください。彼もあなたを心配させたくなかったから……」「一花さん、この子のことは私もよく理解しているの。彼はね、誰かに自分の状態が悪い姿を見せたくないのよ。きっと、自分にもしも何かあったらって……」美穂はそう話しながら耐えられずに嗚咽を漏らした。彼女は柊馬のこのような姿を見てとても心が締め付けられていた。柊馬は伊集院家に生まれたが、小さい頃からその恩恵や幸せを受けず、ずっと苦労してきた。しかし、柊馬はとても強い人間だった。今まで一度も自分の弱い一面を見せたことはない。風邪を引いても自分で何とかしてきた。そして、祖母である敬子ですら、柊馬がこのような姿になったのを初めて見たのだ。「分かっています……」一花は呼吸もするのがやっとだった。彼女はなんとか数回呼吸をした。涙は絶えず頬を伝わって流れ落ちている。巨石に押しつぶされて、どれだけ痛かったことか……一花は頭の中で美穂から聞いた彼の事故当時の状況を思い出し、頭がどうにかなりそうだった。そんな状況にも関わらず、彼は意識を失う前に一花が心配しないか気にかけていたのだ。そんな彼をどうして責めることができるだろうか。「一花さん、先生が今はもう落ち着いたって言ってた。傷ついた内臓の出血も止まっているそうよ、脊髄の損傷は運良くそんなにひどくないんだって、もうすぐ目を覚ますはずよ……」美穂はこの時言葉を詰まらせた。一花の状態もあまり良くないので、一部の病状については隠しておくことにした。だから、ポジティブに聞こえる話だけにしておいた。「あの、私、彼と二人っきりで暫くいてもいいですか?」一花は柊馬を見つめ、とても小さな声でそう言った。美穂は頷くと、湊に他の人たちを連れて病室から出るよう目配せし、自分は一花の肩を軽く叩いてから出ていった。そ
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第312話

「ということは……西園寺さんが来ているんですか?」それには陽菜は驚いた。柊馬は自分の状況を周りには隠しているのではなかったのか?伊集院家ですらようやく柊馬の事故を知ったばかりだし、彼らの様子を見るからに一花には伝えていないようだ。それなのに……どうしてあの女がここまで来たのだろう?湊は冷ややかな顔をした。「そうです。奥様が今中にいらっしゃいますので、如月さんはどうぞお帰りください」陽菜は寂しげな瞳で、口を少し動かしたが何か言うことはなかった。手には柊馬の入院の見舞いの品を持っていた。彼がこの日、目を開けた瞬間、一番に自分を見てほしいと期待していたのだ。しかし、一花が来たと聞き、彼女のその考えは空振りに終わった。陽菜が気を落として帰ろうとした時、病室のドアが開いた。「如月さん」一花は外の話し声を聞いて、中から出てきた。陽菜は一花と目が合った瞬間、心が落ち着かずすぐに一花から視線を外した。「西園寺さん、伊集院社長の状況は良くないので、彼のことをお願いしますね」そう言いながら、陽菜は下を向いて、手に持っていた物を一花に渡した。湊は一花が気分を害すのではないかと心配し、すぐにそれを止めようとしたが、一花は顔色も変えずにそれを受け取った。「如月さんのお気持ちは私が夫に代わって受け取っておきます」一花は今はいろいろと考える余裕はなく、口角を上げたが笑ってはいなかった。「ですが、彼のことを任されるのは妻である私の役目ですから、そんなふうにあなたが心配する必要はありませんよ」陽菜は一花が自分を責めていることが分かっていたが、今の彼女は言い返す気力もなかった。ただドアの隙間から柊馬を覗いた。そして何も言わずに背中を向けて去っていった。陽菜がいなくなってから、湊がすぐに一花に駆け寄り彼女が持っている物を受け取った。「奥様、これは私が処理しておきます」一花はそれを断わらなかった。夕方、敬子が急いで病室にやって来た。一花はここへ来てからずっと柊馬の傍を離れず、彼を見守り続けていた。食べ物だけでなく、飲み物すら一口も飲んでいなかった。敬子はわざわざ温かい食べ物を持ってきて、一花を休ませようと思っていた。敬子と美穂を見て、一花はすぐに傷ついた様子を隠し、言われた通りに食べ物を口にした。しかし、彼女は本当
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第313話

敬子は一花と一緒に病室で夜を明かそうと思っていた。それを一花が時間をかけて説得しても頑なに頷いてくれず、仕方なく強気の態度で敬子に戻って休ませた。一花は敬子を見送った後、病室に戻ると美穂が隅の方で電話をしているのが聞こえた。彼女はきっと夫の修治に状況を説明しているのだろう、美穂は嗚咽を漏らしていた。電話の向こうが何を言ったのか分からないが、彼女はどうも不機嫌そうになった。暫く沈黙が続いてから出た言葉は「彼はあなたの実の息子なのよ」で、そう言うと彼女はすぐに電話を切ってしまった。一花は暫く待ってから、やっと病室の中へ入った。美穂は顔を背けて表情を整えてから、一花のほうを向いて優しそうに笑った。「じゃあ、今夜は一花さんに柊馬のことをお願いするわね。何かあればすぐに私たちに連絡して。体が限界になる前に休んでね、私たちも彼に付き添えるから」「分かりました」一花は頷いて、美穂を抱きしめに行った。「美穂さん、ありがとうございます」美穂は少しおかしいと思ったが、すぐに一花の心を理解した。一花は柊馬のために、お礼を言ってきたのだ。柊馬は小さい頃に実の母親を失ったが、継母となった美穂はまるで実の子供のように彼のことを大切にしている。「そんな、お礼なんて必要ないわよ。私たちは家族でしょ……一花さん、もし柊馬が」美穂は柊馬のほうをちらりと見て、何か言いたげにしたが、少し経ってもその言葉を吐き出さなかった。さっき、彼女は電話で修治に柊馬の状況について説明した。修治も心配していたが、それよりも柊馬が目を覚ました後に、伊集院グループを率いていけるのかのほうを心配したのだ。修治には柊馬という息子しかいない。もし、彼が回復できないようであれば、早めにどうするか検討したほうがいい。一花はまるで美穂が何を言おうとしていたのか理解したようで、美穂が話す前に小さな声でこう言った。「柊馬さんがどうなっても、私はずっと彼の傍にいます」「あなたはまだ若いから、もし、彼が目を覚まさなかった時は……」美穂は目頭が熱くなった。彼女は一花がこのような言葉を口に出し、柊馬のことをとても大事に思ってくれていることに感動していた。しかし、長い闘病生活になれば耐えられないはずだ。その上に、一花と柊馬は結婚したばかりで結婚式すら挙げていないのだからつまり、さらに耐え
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第314話

侑李は自分が拘束されて取り調べを受けることが分かっていた。ビジネス上での犯罪行為を疑われてから出国を禁止されていた。誰かが彼を陥れたのだ。小林家とM国には長年ビジネス上の付き合いがあるから、彼らが侑李に報復する可能性はある。それに、西園寺家の発展と国内経済は密接に繋がっているからM国が外交政策により、国内経済を抑え込みたいなら、侑李に仕掛ける可能性も考えられる。しかし、侑李は全く不安ではなかった。彼は全く違法行為などしていない。裁判にかかるとしても、解決するのは時間の問題であるだけだ。最悪の場合、彼が帰国できなくなったとしても、勇と西園寺家への影響もそこまで大きくないはずだ。彼も苦境に立たされることを恐れてはいない。西園寺家の利益を守るためなら、彼は相手と消耗戦になっても構わないと思っている。ただ、侑李はこの時、父親と連絡を取ることができずにいるので、勇が自分のことを心配して余計な行動を起こさないか心配だった。それで彼はずっと家族と連絡を取らせてほしいと相手にかけ合っていた。しかし、突然職員が彼を釈放したのだ。侑李は訝しく思わずにはいられなかった。「侑李!」侑李が不安そうに拳を握りしめた瞬間、ある聞き慣れた女性の声が耳に響いた。彼が立ち上がって声のしたほうへ視線を向けた時、自分が幻覚でも見ているのではないかと思ってしまった。「茉白?」「大丈夫だった?」茉白は職員に連れられてきて、侑李を見た瞬間小走りで彼の傍へ近寄ると、サッと彼の体を確認した。侑李は怪我もなく、シャツやスーツも一切乱れていなかった。ただ、憔悴している様子で目の周りにひどくクマができていた。数日ずっとよく眠れなかったようだ。「僕は大丈夫だよ……」侑李は数秒呆然として、信じられない様子で目の前にいる彼女を眉をひそめて見つめた。「だけど、君は、どうしてこんな所に……」「とりあえず、今は黙って私たちについてきて」茉白は侑李の手を引き、まじまじと彼を見つめた。「いい?私たちは恋人同士で、あなたは私の婚約者よ」「婚約者だって?」侑李の瞳が微かに変化した。しかし、茉白の手にはうっすらと汗をかいていて、彼をからかっているようではなかった。この時、M国の人も数人入ってきた。彼らの国の外交官が相手と少し交渉をしているらしく、相手は茉白のほうを見た
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第315話

侑李は茉白の額から瞳まで視線を移した。彼女の様子は以前と変わらなかった。二人は長い間このように至近距離まで近づくことはなかった。しかし、この時、過去のあれこれがまるで昨日の事のように感じられた。心の奥底に溜まっていた溢れんばかりの感情が込み上げ、見入ってしまい、本能のままに行動した。そして、思考するよりも体のほうが先に動いていた。彼はその長い指で彼女の顔の輪郭をなぞり、顔を傾けた瞬間、唇が茉白の額に触れた。軽く触れる程度のキスだったが、咄嗟の出来事に茉白は驚いてかたまってしまった。彼女は目をぱちぱちと瞬かせていた。少し困惑した様子で侑李を見つめたが、すぐに眼差しは、はっきりとしてきた。茉白は侑李の体を抱きしめて、おとなしく彼に身を寄せた。侑李は本当に以前と全く同じだ。今わざと恋人のふりをしていても、きっちりと、ある境界線からは踏み出さない。しかし、今回の彼の行為は今までで一番大胆だった……実際、これには彼女の心は震えた。そしてすぐに、二人はホテルに戻ってきた。茉白は周囲をしっかり見まわし、ホテルには監視カメラや盗聴設備がないのを確かめ、さらに部屋に入るとしっかり内鍵をかけた。「何もトラブルがなければ、明日の夕方には一緒に帰国できるはずよ。だけど、それまではその……婚約者って関係を続けてもらわないと」茉白は咳ばらいをして、そう言った。なんだか彼女はわざと侑李をからかっているみたいで、気が引けた。侑李は彼女の腕を掴んで、じっと見つめながら尋ねた。「一体これはどういうこと?」「あなたは気にしなくていいの。私がM国のお偉いさんと話をつけたから、あの人たちはもう私の要求をのんだわ。ただ、私とあなたの関係は嘘をついたから、ここでは私と婚約者を演じてくれるだけでいいわよ」「何を交換条件にしたんだ?」茉白のその返事に、侑李は納得できず彼は眉間に深い皺を寄せた。M国の高官と交渉するなら、何かしら彼らにとって利益となる事を交換条件にするはずだ。しかし、茉白の一体どこからその利益を持って来られる?侑李はとても不安だった。「だから、あなたには関係ないんだってば。これは私の問題よ。あなたへの借りを返したってことで十分よ。どのみち、帰国したら私たちはこれで清算完了ね」茉白は侑李を押しのけようとしたが、侑李のほう
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第316話

茉白は今の侑李には本当に慣れなかった。「さ、そろそろどういう事なのか話してくれるか?」侑李は少し焦った口調だった。冷たく厳しくもあり、有無を言わさぬような迫力もあった。茉白は強気な態度にされるとさらに反抗したがるタイプだ。彼女は体の向きを変えて傍にあったソファに座った。「あなたは構わなくていいから。帰国することだけ考えて。お父様がすっごく心配していたわよ。あの西園寺和香と協力するくらいにね。西園寺家って、陸斗さんと和香さんは良い人ではないでしょ。やっぱりあの二人とは距離をとっておいたほうがいいと思うよ」「父さんに電話するよ」侑李は携帯を取り出したが、電話は繋がらなかった。茉白は自分の携帯を彼に渡した。「私のを使って」侑李はお礼を言うと、彼女の携帯をとって隣の部屋に入った。勇はこの時西園寺グループの会議に出ていた。一花は不在で、彼が薬品の最終審査の件を代理で受けていた。彼は税務報告の項目にサインをしなければならなかった。サインは一花の名前だ。一花は自分の一部の権限を勇に渡していた。しかし、勇はこの報告書は和香の手下が細工していると分かっていた。彼がこれにサインしてしまうと、一花は絶対にその重い責任を負うことになる。彼は一花と別れる時に、彼女の自分のことを信用しきった様子を思い出し、内心迷っていた。茉白は彼に三日待ってほしいと言った。しかし、和香は頭がよく切れ、一花が去ってからすぐに実行に移れと催促してきた。勇は手に持っている書類を見つめ、暫く経っても行動を起こそうとしなかった。この時、会議室の中は静寂に包まれていた。和香が寄越した手下は彼の対面に座っていて、じいっと彼の行動を観察していた。「この事業はもう延期できませんから、早く彼女に代わってサインしてください」勇が顔を上げ、サインをしようとペンをおろした瞬間、携帯が突然振動し始めた。携帯画面に映る「二階堂茉白」という名前を見て、彼はハッとし、会議室にいるメンバーに一旦中止の合図を送った。「申し訳ない、先に電話に出てくる」彼は立ち上がると窓辺に行き、電話に出た瞬間、侑李の低い声が聞こえてきた。「父さん、僕だよ」勇の携帯を握る手に突然力が入った。声は普段と変わらず落ち着きを保っていた。「侑李か?大丈夫だったのか?」「大丈夫だよ、明日の
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第317話

もし、侑李が早くに勇に連絡していたら、きっとそれも自分に構うなと言うだけだっただろう。「小林家かな?」侑李は小声で言った。「その通り、あの小林結希って子。あなたが彼女を怒らせたから。だけど、西園寺社長もあなたに代わって鉄槌を下したから、小林家は今あっぷあっぷしてるわよ。帰国したら、彼女に容赦するんじゃないわよ。きっちり仕返しして、西園寺家とあなたは怒らせると厄介な相手なんだって思い知らせなさい」茉白はそれを話したが、スッキリするのは感じていた。和香は残酷な手段を使うが、ここでその手を使ったのは、確かに痛快だ。「僕は確かに彼女の面子を潰すようなことをしたんだ、彼女から復讐されても理にかなっていると思うよ」「何が『理にかなってると思うよ』よ?どんな理由があったとしても、誰かがあなたを傷つけようとしたのよ、怒って、憎んで、やり返すのが筋ってもんでしょ!」侑李のその言葉には茉白もほとほと呆れてしまった。毎度、侑李とこのような話題になると、彼女はいつもイライラしてくる。すぐに彼を教育したくてたまらなくなる。「その道理なら、僕がまずやり返すべき相手は君じゃないの?」侑李から突然、言い返されて、茉白は即座に言葉を詰まらせた。彼女は大きな目で侑李を睨みつけたが、ある種の無力感と敗北感があった。侑李もよく言うようになったものだ。「侑李、今回私が助けてあげたんだから、これでチャラよ。だからこれからは……私があなたに申し訳ないことをしたっていうような考えはもうやめてよ。茉白は下を向いて、少しイラついているようだった。実際、ずっと彼女は侑李の気持ちを知らないわけではなかったが、彼とは一緒になれないのだ。侑李が優しすぎるから、茉白はそんな彼の気持ちを利用したくなかった。そして、昔のあの侑李が彼女のせいで命を落としかけた事件で、茉白はずっと心の中で自分を責め続けていた。その時、どういうことがあったのか彼に説明したかった。しかし、彼はもう話を聞いてくれなかった。……そしてずっと彼から責め続けられて、もう長い時間が経ったし、今回のことで借りを返したと言うことで、そろそろ終わりにしてもいいじゃないか。「君は前、僕に弁明しようとしていたじゃないか。茉白は僕に対して全く好感を持っていないわけじゃなかったのに、あの時はどうして
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第318話

当時、茉白も相当挫折を味わった。萌絵が言った言葉はまさにその通りと言える。茉白と一緒にいる人間は散々な目に遭う。それから、勇も家にまで来て、きちんとした説明や責任ある対応を求めた。きっと茉白が侑李から離れることこそ、彼にとって最善なのだ。だから、茉白は勇にもう二度と侑李にちょっかいを出すことはしないと約束したのだ。しかし、茉白はそれに関して侑李に言うことはできない。彼女はプライドが高いから、侑李から同情されたくなかった。「僕だと思って他の人の手をとったって?そんな言い訳、信じると思う?」侑李は少し笑いたくなった。「それなら、僕が入院している間、どうして一度もお見舞いにも来てくれなかったんだ?それに、君は誰かと僕が死ねばよかったって言ってたじゃないか」「お見舞いに行かなかったのは……あなたの父親に言われたからよ。それと友達に言った言葉はもちろんカッとなって出た言葉にすぎないわ」茉白の声はかなり小さくなった。珍しく彼女が一歩引いたような姿勢だった。それでも、茉白の話は本当だった。彼女は自分の体調が回復してから、前、こっそりと病院に侑李の様子を見に行った。しかし、勇の手配した部下たちが病室の前をしっかりと固めていて、茉白が侑李に会うのは許してくれなかった。それにその頃、萌絵が茉白と侑李のことを至る所に広めていたから、茉白は周りから侮辱されていた。茉白はとても意地っ張りだ。本音と口から出る言葉は違っている。興奮するとひどい言葉を出し、自分の中のつまらないプライドをどうにか守ろうとするのだ。しかしまさか、あの言葉を侑李に聞かれれていたとは思いもよらなかった。結局、茉白は自分の口の悪さをとても後悔していた。侑李があの言葉を聞いたなら、もちろん傷ついたはずだ。侑李はきっとひどく傷ついたのだと気付いたから、他人に弁明したり説明したりするのが元々好きではない彼女は、あの時、どうしても侑李に本当はどういうわけなのか説明したかった。ただあれから、侑李は彼女と完全に関係を断ち切るとはっきり示した。彼がようやく茉白のことを本気で諦めると決めたのだから、彼女はもちろん彼のその決意を惑わせるようなことはできなかった。もしかしすると、このようにするのが二人にとって最善な方法なのだろう。「それは、本心から出た言葉なの?」
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第319話

茉白は口を開き、少しぎこちなさそうに息を吸った。「あなたが分かっているならいいの」するとその場の空気がまた凍り付いた。茉白は気まずさに耐えられず、そそくさと浴室に行った。翌日の午後、侑李と茉白が帰国する時、M国の人がホテルまで見送りに来た。相手は紺色の制服を着ていて、見た感じ軍の関係者のようだった。侑李は隣で、茉白が何かの書類にサインをして渡しているのを見た。その書類を確認した後、相手は茉白にお辞儀をして、ようやく車がホテルを出発した。侑李はすぐに何かに気づき、茉白に近寄って彼女の手を引っ張った。「さっきあの人たちに渡していたのは何?」彼はこの時突然、茉白の母親が国家レベルの特許技術をいくつか持っていることを思い出した。その中の一つは、世界に先駆ける技術であり、ずっと二階堂家が保管している。まさか……茉白はそれを交換条件に、自分を助けて帰国させることにしたのだろうか?「だから、言ったでしょ。あなたには関係ないって」茉白は眉をひそめて、小さな声で言った。しかし、侑李は彼女のそわそわした様子に気づき、自分の考えが間違いないと確信した。「茉白、自分が何をしているのか分かっているのか?」彼女が誰かに引き渡せるものは、ただ母親が遺した物だけだ。しかし、それは茉白の母親の心血が注がれた努力の結晶であるだけでなく、国や南関のビジネスにも関係するものだ。茉白は普段わがままで、何をするのも後先考えずに行動する。国に関係する大きな状況では侑李は彼女に勝手なふるまいをさせるわけにはいかなかった。「私はあなたを助けて、借りを返しただけよ」茉白は冷たくそう言った。「それなら、借りなんて返してもらわなくていい」侑李はそう吐き捨てると、腹を立ててさっき去っていった人物を追おうとした。それに茉白が追いかけてきたが、侑李を止めることができず、彼の引き締まった腰に手を回すので精一杯だった。「侑李!何をしてるの?あの人たちにはもうあげちゃったの。今返してもらいたくてももう遅いわ。今は海外にいるんだから、騒ぎを起こさないで!」茉白の言葉を聞いて、侑李はさらに怒って顔を真っ赤にさせた。彼は彼女の腕を掴んで自分の前に引っ張り出した。「茉白、君の中ではどんな事もどうだっていいのか?そんなに好き勝手なことをして、自分が何をやっているの
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第320話

「あの古い技術は三年前にはもう淘汰されてるわ。お母さんが亡くなる前に、記念として残しておいただけ」彼女は低い声で説明した。「新しい重要なデータは二階堂家が保管している。特許費が二階堂家に渡っても、お母さんの意向や国を裏切るわけないでしょ」侑李は強情な彼女の横顔を見つめ、心の中に複雑な感情が湧いてきた。茉白は彼が思っている彼女とはかけ離れているらしい。彼女は物事をよく理解しているし、冷静に考えることができる人だ。「そうだったとしても、あの技術と僕の帰国を交換するには、代償が大きすぎるよ」彼はため息をついた。「僕なんかのために、こんな危険な真似をしたらダメだ」この時茉白はようやく彼のほうへ向いて、侑李がよく知っている意地が強い目を見せた。「侑李、そうやってうだうだ煩いわね。ほんと、ちっとも変わってないのね。これは私が望んでやったことよ、あんたには関係ない」その言葉は今までなら、侑李にはきっとまた彼女がわがままなことを言っているように聞こえただろう。しかし、この時、彼は他の意味を感じ取った。もし、今回彼女自らここまで来る必要がなかったのなら、それは当時誤解した時と同じように、彼女は一言も彼に弁明しなかったのだろうか?帰国する途中、二人はそれぞれ考え事をしていて、長い時間全く話すことはなかった。茉白は飛行機の中で眠った。起きた時にはフライト時間は残り五時間弱になっていた。彼女は退屈で、食事を頼もうかと思った時、隣の席にいた侑李がいないことに気づいた。茉白は焦って立ち上がり、同行していた人に尋ねた。「侑李はどこに?」「ここにいるよ」すると、侑李の声が突然聞こえてきた。侑李がすぐ傍からやって来たのを見て、茉白は少し気まずくなった。彼女は慌てて言った。「私はてっきりあなたが……」「僕のことを心配してくれたの?」侑李は微笑んだ。彼は茉白がとてもぐっすり寝ていたので、後ろの席に行って仕事の処理をしていた。まさか彼女が目を覚ますとすぐに自分を探すとは思ってもいなかった。どうやら、今回M国まで来て、彼女は相当なプレッシャーだったようだ。茉白は何も答えなかったが、つまり黙認したのと同じだ。侑李もそのまま彼女の隣の席に戻った。「帰国したら、何か予定あるの?」茉白は下を向いて、無造作に服の裾をいじりだした。「別に何
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