彼が明確な態度を示さないのを見て、綾芽は恐慌に陥った。「あなた……本気で、私にそんな仕打ちをする気?」「黒崎家は今……その基金を、どうしても必要としているんだ」慶は喉に重いものが詰まったように、沈んだ声で呟いた。だが、彼女の目をまともに見ることすらできなかった。綾芽は涙が頬を伝い、突然、嘲るような笑いを漏らした。「基金のため? それとも、水瀬一花のため?」彼女にもよく分かっていた。慶が利益を重んじるのは間違いない。基金も欲しければ、一花も手に入れたいのだろう。たとえ今、自分とは離婚しないと言われても、もう信じられるわけがなかった。だから慶は、もう綾芽に対して、噓をつく気すら失っていたのだ。「……悪い」慶はまぶたを閉じ、そのまま低い声で絞り出した。あの日、彼が一花に頭を下げに行った時点で、二人の関係はもう、完全に戻れないものになっていた。「なんでもして償うよ。何か望みがあれば、何でも叶えてやる」「償うって?」綾芽は鼻で笑った。その目から、最後の光が完全に消え失せていた。人はあまりにも何かを得ようとすれば、それだけすべてを失っていくものなのだろうか?それとも、これはすべて、自分の報いなのだろうか?記憶が突然、二十歳のあの年へと遡った。彼女が実家から離れ大学で勉強していた頃、虚栄心から巨額の借金を負ってしまった。両親に真実を打ち明けられず、やむを得ず水商売の世界へ足を踏み入れ、そこでバイトし始めた。バイト先では唯一の女子大生として、かなりのお得意さんに紹介されることになった。相当な資産家の年配の紳士だった。綾芽は最初、お酒を付き合うつもりだった。だが、あの時の彼女はあまりにも未熟で甘かった。その人は毎晩のように通い詰め、その豪快な散財ぶりに、彼女は完全に抗えなくなっていた。間もなくして、その男は彼女に「値段をつけろ」と言い出した。今回は最後にここで会うのだと告げた。綾芽は相手の真意を悟っていた。だが激しい葛藤の末、結局、彼女は妥協してしまった。ただ、あの一度きりの行為が、まさか神様にいたずらされるようなことになったのだ。その後、彼女はすぐに慶に出会った。年齢は六つも離れていたが、綾芽は彼の放つ少年のような気質と魅力に吸い込まれ、抗えぬほどに溺れてしまった。幼い頃から溺愛されて育った
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