All Chapters of 偽物クズ夫に別れを告げ、スパダリと政略結婚します: Chapter 361 - Chapter 370

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第361話

デートか?ちょっと前までは陸斗の前で純真無垢な子ウサギを装っていた女が、実はあざとい小悪魔タイプだったのか?陸斗はここ数日ずっと気分がさえなかった。何度も一花によって挫折を味わわされ、和香の彼に対する態度は今かなり冷たくなっている。重要な事を陸斗にはもう任せることがなくなり、陸斗は会社でただのお飾り副社長のようになってしまった……さらに、一花が以前彼に言った言葉が頭の中から抜けてくれない。彼はここ数日秘密裏に両親の過去を調査していた。ただ、時間がかなり経っているので、正式に得られる残された手がかりはほとんどなかった。人生のどん底にいるせいなのか、彼は突然、人生で初めて迷いを生じていた。しかし、さっきの夏海の出現によって、陸斗の意識は他所に向いた。今朝のあの茉白の体と、夏海の表情を思い出し、陸斗は体が熱くなるのを感じた。三十分後、夏海は車で市内にある高級ホテルに到着した。彼女はヒールで颯爽と中に歩いていった。小柄だが美しいボディラインできびきびと動くその姿は非常に魅力的だった。陸斗はこの時すでに車を路肩にある駐車スペースに停めていた。彼女のほうへ視線を向けると、そこにいる夏海は普段とは全くの別人だった。会社にいる時の彼女はカジュアルスタイルでポニーテールをしている。たまに、長い髪を後ろに流したスタイルだ。まだあどけなさが残っていて、おとなしそうな顔立ちをし、まだ世間を知らない未熟な女子大生といった感じだ。それが今、そんな彼女がここまで魅力的な女性に変化するとは陸斗も思っていなかった。セクシーで純粋。性格は確かに少し強気なところがあるが、やはり弱々しい子ウサギちゃんだ。このようなタイプの女性なら、どんな男も引っかかるに決まっているだろう。陸斗は口角を指で触り、ネクタイを外して車を降りると、大股でそのホテルに向かった。夏海がホテルでよくビジネスで使われるような個室に入っていくのを見て、陸斗は彼女がここへ商談に来たのだとほぼ確信した。この時からは、朝プロジェクト事業部を通り過ぎる時に、彼女と誰かが今夜は会食があって、取引先の責任者に会うのだと話していたことを思い出した。恐らく、製薬事業の延長線上なのだろう。しかし、一花は以前自信満々に言っていた。一度も自分の部下の女性をこのような接待には
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第362話

その後、一花は夏海に和香は確かに勇と手を組もうとしていたらしいと伝え、陸斗の言葉は本当だったことが分かった。陸斗を利用するのはそう簡単なことではない。夏海は彼が自分に少しだけ興味を持っているからといって、彼から有力な情報を聞き出せるのは難しいことがよく分かった。だから、彼女は危険な賭けに出たのだ。夏海は陸斗を完全に自分にはハマらせる気だ。それがたとえ一時的な事だったとしても、誰かにからかわれる醍醐味を味わわせてやりたかった。それができなくても、少なくとも、一花のために陸斗の弱点を見つけ出すことも、親友の仇をとることもできるはずだ!夏海は陸斗に関する過去や噂を調べて、彼の性格をだいたい分析してみた。女性をその気にさせて付き合うものの、それは長続きしない。自分に自信を持ち自惚れていて、かなりの負けず嫌い。実際、手強い相手ほど、弱点が明確なものなのだ。西園寺陸斗とはこのような人間だ。彼は節度などなく多くの女性に囲まれていたわけで、刺激を求める性格なのは明らかだ。逆に言い換えれば、彼はかなり愛情に飢えているのだ。自信家で自惚れ、負けず嫌いなら更に都合が良い。彼は欲しいもの、好きなものが手に入らないと、そのものへの執着は続くはずだ。夏海が大学時代に専攻していたのは心理学。彼女は実戦経験はないものの、知識なら十分ある。それで、朝茉白を迎えに行った時、夏海はわざと自分の彼への感情を作りだして相手に分かるように見せたのだ。それに、彼がプロジェクト事業部を通り過ぎる時に、今日の接待の話も聞こえるように言った。陸斗の一挙一動を夏海は観察していた。彼は女性のスタイルや格好に敏感に反応する。夏海はわざわざ彼の目を引くような服を着て行った。陸斗がもし自分についてくれば、成功したということ。もし来なかったら、一人で神田に会うなんてしない。そして今、陸斗は外にいる。夏海が計画した筋書きはこの時やっと始められる。「須藤さん、すみません、友人は今日ちょっと都合が悪くて」神田は立ち上がると、そう言いながら夏海のほうへ近寄ってきた。彼はニタニタと夏海の格好をじろじろ見つめ、とても満足そうにしていた。どうやら、彼の目は間違いなかったようだ。夏海のような普通の会社員はもとは良いが、お洒落などしない。実のところ、清楚そうに見えて実
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第363話

「すまない、勢いが止められなくて」陸斗は素早く体勢を整え、気だるげな声を出しながら、癖なのかスーツの端を整えていた。彼の力はとても強かったようで、神田の部下は地面を転がるように悶絶していて、暫く起き上がれなかった。神田は誰かが喧嘩でも売りに来たのかと思い、怒って誰かを呼ぼうとしたが、相手が西園寺陸斗であると分かった。「西園寺副社長で?」神田は一年に西園寺グループには何度か足を運ぶので、もちろん陸斗に会ったことがある。陸斗が来たので、神田の顔色はガラリと変わった。意外そうにもしているし、慌ててもいる。「副社長がどうして……どうしてこちらへ?あ、商談か何かでしょうか?」陸斗はフッと笑い、夏海のほうへ頭を傾けて夏海をチラ見した。「こっちに来い」夏海はぎゅっと服の端を掴み、一瞬躊躇したが、すぐに陸斗の後ろに隠れた。このような典型的な流れには嫌気がさすが、陸斗の得意そうな様子を見ると、彼は明らかにこの状況を楽しんでいるようだ。確かに、陸斗の目には彼が夏海を救ったヒーローにでも映っているだろう。「副社長、あなたとそちらの須藤さんは……」神田は夏海と陸斗を交互に見つめ、内心どぎまぎしていた。まさかこの二人は何か特別な関係ではないだろうな?悪人でも身内には手を出さないというではないか。陸斗がまさか自分の会社の社員にまで手を出すわけないはずだ。「あまり自分と関係ない事には口を挟まないほうがいいと思うけどね」陸斗は軽くそう言った。そのように言っているが、わざとらしく手を伸ばして夏海の手を掴んだ。夏海は避けようとしたが、失敗し、無理やり彼の傍に引き寄せられた。「神田君、君は勝手にうちのプロジェクト事業部の社員を呼び出して、何か用でもあったのかな?」陸斗の質問を聞いて神田は全身に悪寒が走り、唇を噛みしめてびくびくした様子で答えた。「わ、私はただ、その、須藤さんと単純に……お知り合いになりたいと」「あなたは結構なお年でしょうし、奥さんも子供もいる身なのでは?仕事を理由にして社員を騙して呼び出すとは、そんな悪い噂が出回れば、きっと予定よりも早く退職するだけでは済まなくなるでしょう?」陸斗は鼻で冷たく笑うと、また夏海のほうをちらりと見た。今日夏海がお洒落していて、更に可愛らしくなっているのは言うまでもなく、彼女が
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第364話

「副社長がどうするか決めてください。私は先に外に出ています」そう言うと、夏海は無理に陸斗の手を引きはがして出ていった。陸斗は注意を全部彼女に奪われて、後ろからついて行こうと、ドアに向かおうとしたところをまだ謝罪し足りない神田に引き留められた。夏海がこの場にいないので、陸斗も容赦なく、直接神田の膝に蹴りを入れた。神田はそもそも結構な年なので、痛みに床に倒れてしまい、部下に支えられて起こされた。「明日自分から退職願いでも出せ。お前みたいな奴が上にいたら厄介な事しかないだろ。言うことを聞かないと、どうなるか知らねえからな」陸斗はうんざりしてそう一言吐き捨てた。その乱暴さからは普段の紳士な姿など影も形もなかった。言っていることは正しいが、その言葉が彼の口を通すと、まるで毒でも吐き出しているかのようだ。ドラマに出てくるような悪役に見える。陸斗は個室から出てきて辺りをサッと見回した。彼は夏海はすでに逃げ去っていると思っていたが、彼女は入り口の片隅に立っていた。「俺を待っていたのか?」陸斗は後ろから夏海の体に手を回そうとしたが、少し触れると彼女はすぐに身をかわした。「副社長、今日は……どうしてここに?」やると決めたら完璧に芝居を打たねば。二人っきりになると夏海はすぐに警戒心をむき出しにし、不安そうにしてみせた。陸斗はその質問をされることが分かっていて、口を開いた。「出てから話そうか」夏海は下を向き、何も言わなかった。しかし、この時はおとなしく黙って彼の後ろからついてきた。夏海が自分に触れられるのを嫌っているのを知っていて、陸斗は彼女に手を伸ばしたい衝動をなんとか抑え込んだ。二人がホテルを出た頃には気温がすでに下がっていた。夜風が吹き、陸斗は夏海が身を縮ませているのに気がついた。彼女は淡いピンクのショート丈のワンピースを着ていた。体にフィットする肩紐のないベアトップだ。透き通るような白い肌を露出させ、首回りも何もなく寒そうだ。それを見た陸斗はどうしようもなかった。彼は女性に服をかけてやるような優男は好きではない。何か目的がある以外の話だが。しかし、夏海もちらりと彼を見ているのに気づき、陸斗はやはりジャケットを脱いで彼女の肩にかけてあげた。「何してるんですか?」思わず夏海はまた避けようとした。
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第365話

陸斗の顔は男らしく輪郭がはっきりしていて、暫く見ていると、とてもカッコいい。ただ夏海にとってこの顔は永遠に許すことのできない憎むべき顔だった。空気が重く、陸斗は適当に音楽をつけた。歌がサビにさしかかると、彼はそれを口ずさんでいた。その歌は外国語の歌詞で、彼の発音はネイティブ並みにとても良く魅力的な低音だった。もとの歌手よりもうまいくらいに歌が上手だ。陸斗が暫く歌っていても、夏海からは何の反応もなかった。「須藤さん」この時、やっと陸斗が彼女に声をかけた。「何ですか?」夏海は彼に顔を向けることはなかった。「俺、歌うまいか?」ちょうど信号にさしかかり、陸斗は片手をハンドルの上にのせ、もう片方の手で鼻の頭を触っていた。夏海は口角を微かに下げていた。彼がアピールし始めた。彼女は彼に向いて答えることはなかった。「私は、伊集院さんのような男性がタイプですので」「?」陸斗はまるで頭のおかしい人間でも見るかのように眉をひそめて夏海を見た。「ちょっと、俺は歌が上手かってきいてるんだけど」夏海はやっと顔を陸斗のほうへ向けた。「副社長がここまで私を追いかけてきて、さっきは助けてくださって、また私の注意を引こうとしていますよね。つまり私に対してそういうことじゃないんですか?だけど、言いましたが、私はあなたとは同じタイプの人間じゃないです。それに、副社長と微妙な関係や欲を満たすだけの関係になんかなるつもりありませんから」「俺が一体いつ須藤さんとそのような……」陸斗は彼女の言葉に声を詰まらせていた。しかし、考え方を変えれば、夏海は彼とは一時的な関係になるのは嫌だということだが、逆にそうでなければいいと彼にほのめかしているようにも聞こえる。彼は再び笑った。「須藤さん、伊集院柊馬のどこが好きなのか言ってみなよ。彼の家柄は確かに俺より少し上だし、顔は……ほんの少し俺よりもカッコいいくらいだろ」「副社長には分からないでしょ。伊集院さんの長所はたくさんあるんです。彼は一途で責任感が強い。その二つの長所だけ見ても、そんな人は世間ではほんの一握りですよ」柊馬の事になると、夏海は得意げにあごを上げていた。夏海がわざと自分に挑発的な事を言っているのは分かっているし、彼女が柊馬を好きなはずはないが、陸斗はその言葉を聞いておも
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第366話

一花は寝言など何でもないと分かってはいた。しかし、何度もあの言葉が頭の中でこだまして、時間が経っても心にひっかかっている。しかし、自分が怒っていることを柊馬にはどうしても言えなかった。言ってしまえば、彼が不安になり、罪悪感を抱き、何度も謝罪の言葉を言ってくることが目に見えているからだ。それに……彼の心にまだ如月陽菜の存在があったとしても……それを言葉で認めるはずがないだろう?一花は暫くの間ためらっていてから、やはり立ち上がって荷物を整理し、帰る準備を始めた。そしてオフィスのドアを開けた瞬間、外に茉白が立っていた。彼女は一体いつからそこでそうやっていたのか、暗がりの中に立っていた。一花が出ると廊下の明りが自動的につき、茉白は急いで足を前に進めた。「どうしてまだここに?入職手続きは問題なく終わりました?」一花は茉白のほうへ近づき、心配そうに尋ねた。茉白は頷いた。「あなたに誘われて来たんだから、滞りなく終わりましたよ。みんな良くしてくれるし」「どうせ研修もあるし、ゆっくり焦らずやってください」一花は彼女を安心させるような言葉をかけておいた。「一緒に行きます?」茉白は一言「ええ」とだけ返事し、一花の横を黙って歩いた。二人は一緒にエレベーターに乗り込んだ。この時間帯、社員たちはみんな帰っている。茉白と一花の仕事場は違う階にある。茉白は一花に用があってさっきオフィスまで来ていたのだろう。だが、一花はずっと何も話さなかった。茉白はあまり人と距離を縮めるのが好きではない。一花も今あまり気分が良くなかった。最近陽菜に関するニュースを見たせいだろうか。さっきも携帯にあるニュースが飛び込んできた。それは陽菜が海外へ行く前にアップしたライブ動画に関するニュースだ。そこには、陽菜が今日国を離れてF国へ児童福祉のチャリティーへ向かうという内容が書いてあった。F国は貧しい国で、公益活動をするには時間も労力もかかる。陽菜は今回の活動をいつ終わらせられるか分からない。ライブ動画も暫くはお休みすると伝え、多くのファンから心配や残念な声が寄せられた。この間の柊馬の公式発表で陽菜には悪い影響がかなり出ていた。多くのファンがきちんと説明してほしいと思っていた。もしかして陽菜が他人の家庭を壊そうとしていたのでは
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第367話

「一時間程度しかいられませんけど」バーへ行く前に一花は柊馬にメッセージを送っておいた。彼には自分の帰宅を待たずに先に寝ていてほしい。自分は友達と少し一緒にいてから帰ると伝えた。そのメッセージを見て、柊馬はほぼ秒で「分かった」と返してきた。一花はどうも後味が悪かった。柊馬はずっと彼女の帰りを待っている。一花も後ろめたく感じたが、陽菜のことを考えるとまた心臓をチクチクと刺されるような気持ちになった。もう考えるのはやめよう。まずは気晴らしして気持ちを落ち着かせたほうがいい。帰って柊馬とギクシャクしてもよくないし。余計な心配をかけるだけだ。一方、柊馬は携帯のメッセージを見て、顔色を暗くさせていた。……「十人の大部屋を予約してます」夜遅く、モダンなバーの受付に多くの男女がやって来た。その中で先頭にいた夫婦がスタッフに予約していた旨を伝えた。スタッフは彼らを大部屋の個室に通し、その夫婦は二手に分かれ、妻のほうはみんなと一緒に個室に入り、夫のほうは入り口で誰かを呼んでいた。「黒崎君」慶はこの時、入り口の前でタバコを吸っていた。相手が来たのを見て、すぐにタバコの火を消した。彼らはさっき食事を済ませ、今は二次会で昔話でもしようとバーにやって来た。今日、あの夫婦は昔仲が良かった同級生たちもたくさん呼んでいた。その中には慶の知り合いもいるし、初めて会う人物もいた。慶に関する事をその中の誰かが知っているはずだ。しかし、彼は一花と一緒ではなく一人で来たので、みんな気まずく思い、誰もその話題を出す人はいなかった。「実は、頼みたい事があるんだ」慶は少し熟考してから、やっと口を開いた。さっきの食事の時はそのタイミングを見計らっていた。そして今は彼と二人で話せる機会がやってきたから、慶はすぐに今日ここへ来た意図を説明した。慶は一花と今仲違い中で、同級生の妻から一花に連絡してもらえないか頼んだ。一花は義理堅い人間だ。昔の旧友の頼みとあらば、少なくとも顔を出してくれるはずだ。もちろん、もし同級生の妻が二人の間に入ってくれて、仲を取り持ってくれればこの上なく助かる。慶の話を聞いて相手は明らかに訝しそうにしていた。しかし、すぐに快く応えてくれた。ただ一花に連絡するだけだし、彼の妻も断わることはないはずだ。
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第368話

「そうですよ」茉白がどうしても聞きたいようだったので、一花は言うことにした。「二階堂さんも心では分かっているのだから、わざわざ尋ねる必要はないでしょう。相手に借りを作りたくないのは相手だって同じです。だから聞かないでください。それに、今いろいろ考えたって意味はないですよ。今あなたがするべきことはまずは二階堂家から離れること。目標が定まっているのだから、勇気を出して前に進みましょう」普段、一花は誰かに教えを説くようなことは好きではない。きっと今自分の心の調子が悪い分、少し相手を説教するような言い方になってしまったのだ。茉白も特に気にしなかった。彼女は普段から周りに聞こえのよくないこともいろいろ言われていて、一花のように自分のために言ってくれる説教には逆に心があたたかくなった。茉白はお酒をぐいっと飲んだ。「侑李でしょう、彼、こんなに焦って前回の借りを返したいのね」一花は気持ちが重たくなり、一言「ええ」と答えた。「彼には口止めされていたから、あなた自身が分かっているのならそれでいいです」茉白のストレートな性格は楽な気持ちになれる。一花は確かに侑李の手伝いを買って出た。しかし、隠し通すことのできない嘘はどうにもできない。茉白は今回侑李を助けたが、二人は気まずい雰囲気のままだ。侑李は茉白に世話を焼こうと思っても拒否されるだろうから、自分から表だって行動できなかった。一花はそんな二人の仲介役になるしかない。侑李は自分が持つ会社の5パーセントの株を差し出した。一花に茉白が仕事で成長できるように手助けしてもらいたいのだ。少なくとも、一花と一緒なら、茉白も二階堂家の監視から逃れる理由ができるはず。一花も二人には互いに正直になってほしかった。茉白は侑李に気持ちがあるのであれば、侑李もさらに彼女のことを諦めきれない。それなのにこんな面倒臭いことをして何だというのだ?しかし、侑李に懇願されて、一花も結局引き受けてしまった。もしかすると、相手が気になりだすと余計に慎重になってしまい、関係はごたごたしてしまうものなのだろう。答えが得られると、茉白はほっと安心するのではなく、心がざわついて仕方なかった。そして一気に手に持っていたグラスの酒を飲み、また強い酒を注文した。「一杯と言ったのに、まだ飲む気ですか?」一花が小声で言った。し
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第369話

「それは、だって私は結婚しないといけないから……」茉白はふいに怒った口調で言った。これに関してはうまく言葉にできない。母親の遺言書には条件がもう一つあり、彼女が結婚できれば二階堂家から離れてもいい、その時には二階堂家が管理している遺産の一部を持っていけるようになっている。当時、茉白はまだ幼く、これらの意味をよく理解していなかった。そして今大人になってよく分かった。母親は自分に対して完全に失望し、信頼を持っていない。だから、彼女の人生の選択権を他人の手に委ねようとしているのだ。二階堂家でないのなら、次は夫の手に。まるで彼女には頼れる人間など存在せず、この社会の不適合者であるかのようだ。茉白は以前母親を恨んだことがある。父親が最低な人間だったから、娘である自分も同じく最低な人間だとでも言いたいのか?だから母親がこのように自分を定義しているのだと思えば思うほど、彼女は自暴自棄なり、自分を高めようと思えなくなっていった。いっそ、腐った人間になり果てて、使い物にならない、他人からボロクソに言われていればいい。しかし、これだけ長年が過ぎ、自分が考えていた復讐は何もならず、結局虚しい結果しか残らなかった。そして最後に残ったのは自分に対する嫌悪感だった。母親からの失望を自分の中に取り込んでしまった。「結婚?」一花はこの時何かを思いついたようだった。茉白は話の途中でやめてしまった。彼女は訴えたくなかった。そんなことをすれば、卑屈さと苦痛がさらに大きくなるだけだ。茉白は自分が大した人間ではないと分かっていた。彼女は母親の遺したものを取り戻す力がないだけでなく、嫌っている二階堂家に反抗することすらできない。だからもしかすると、結婚しか彼女を二階堂家から解放する方法がないのかもしれない。しかし、茉白はすぐに二階堂家は自分が思っている以上に卑劣で、裏で汚い手をたくさん使っていることに気がついた。茉白と関係がよくなった男たちはみんな何かのトラブルが発生し、自ら別れを切りだしてくるのだ。侑李が以前重傷を負ったのは、巻き添えになったからだ。実は侑李と一緒になることを考えなかったわけではない。二人は小さい頃、無邪気によく遊んでいた。侑李のほうが先に彼女に優しくしてくれるようになった。生身の人間なのだから感動しない方が
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第370話

それに、侑李と茉白には現実問題がある。勇はきっと二人が一緒になるのを許さないはずだ。恋愛脳の侑李がやっとのことで茉白に対する気持ちを諦めたのだ。もし、茉白がきちんと向かい合えなけえば……二人とも苦しむだけだ。人の持つ感情というものは、本当に奇妙なものだ。愛さないことはできない、でも愛しすぎるのも問題がある。一花もこの時グラスを手にもって半分飲んだ。彼女はここへは気晴らしのためにお酒を飲みに来たのだが、茉白に影響されて多感になり始めてしまった。一杯だと言ったのに、一花まで立て続けに三杯飲んだ。彼女が注文したお酒の度数は高くなかった。そろそろ帰る時間になり、運転代行を呼んでトイレに行った。茉白はテーブルに伏せて、携帯を持ち連絡帳を見ていた。そしてまた侑李の電話番号を開いた。この時、バイブの音で茉白は我に返った。向かいに座っていた一花が携帯をテーブルに置いていたのだ。彼女が携帯画面を目を細めて見ると「伊集院柊馬」と表示されていた。すぐに携帯画面は暗くなったが、相手は諦めずにまた電話をかけてきた。茉白は少し酔いが回っていて、そのまま携帯をとって出てしまった。「もしもし、伊集院社長?」「……あなたは?」柊馬は電話の向こうで少し驚いていた。「二階堂茉白です。今一花さんとお酒を飲んでいて」茉白は淡々とした口調で言った。「彼女はお手洗いに行っていますよ。もう少ししたら帰るところです」「店の場所は」柊馬は短くそう尋ねた。口調は少し重たく、冷ややかで、まるで命令しているようだった。茉白は少し眉をひそめた。本当に遠慮がない。しかし、彼女はやはり相手に店の場所を教えた。「西園寺グループの付近ですよ。とても近いです。一花さんを迎えに来るんですか?私たち、もう代行業者に連絡したので、社長がここまで来る必要はありませんよ」「俺は近くにいるので、彼女には待つよう伝えてください」柊馬はそう言うとすぐに電話を切ってしまった。茉白はまだ何か言おうと口を開けていたが、電話の切れた機械音だけが耳に入ってきた。この男……付き合いやすいようなタイプではないだろう?一花と柊馬が一緒にいるのを見かけるたびに、茉白は二人がとてもラブラブに見えていた。しかし、愛する者同士の甘いひと時など、限りがあるものだ。
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