All Chapters of 偽物クズ夫に別れを告げ、スパダリと政略結婚します: Chapter 351 - Chapter 360

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第351話

ただ、柊馬は陽菜のことを大事にしすぎて、時には面白さに欠けることがあった。陽菜はもう少女時代のうぶな女の子ではない。大学を卒業して社会に入ってから、二人の関係は親友のような家族のような愛情に変わってしまった。いくら柊馬が彼女に良くしてあげても、陽菜はその時すでに昔のように彼に対してドキドキすることはなくなっていた。友人たちは彼氏ができては、また新しい男にとっかえひっかえしていたが、柊馬と陽菜の雰囲気は昔からずっと変わらなかった。陽菜はそのまま彼と結婚すると、一生このままつまらない人生を終えるだろうと思っていた。しかし、結婚を先延ばしにするために、陽菜は数年の海外留学を決めた。彼女は柊馬が自分のことを絶対に待っていると確信していた。柊馬は責任感が非常に強いうえに、不安を感じやすいところがある。生涯の相手を一度決めたら彼はそう簡単に諦めることはない。しかし彼女のほうは、自分の心と向き合って答えを出す時間が必要だった。彼女は柊馬のことを本当に愛しているのか考えた。彼のために結婚をしたいと思うほどなのだろうか?陽菜が決めた事なら、柊馬は自分が苦しくても、無条件で受け入れる。ただ、陽菜が留学してしまい、二人の関係が180度変わってしまうなど、彼らは思ってもいなかった。柊馬はもともと仕事が忙しい。そんな中休息の時間を削っても、数日おきに陽菜のところへ行っていた。陽菜が彼を必要としている時は、柊馬もできるだけ彼女のために尽くしていた。しかし、柊馬がいくら非の打ちどころがないほど完璧にしていても、人というものはどうしようもなく足るを知らない生き物なのだ。陽菜はそんな柊馬に慣れてしまっていた。逆に新鮮な刺激を感じられず、彼とは遠距離であったこともあり、彼女の交際範囲はどんどん広がっていった。陽菜は美人で気品に溢れているし、若いので、彼女を追いかける男性は自然と増えていった。彼女は誰とも境界線を越えることはなかったが、遊ぶ相手は女性からいろいろなタイプの男性へと変わっていった。やがて、陽菜が留学を終える間際に、柊馬の祖父母が結婚を催促し始めた。すると柊馬はもちろん陽菜に結婚について相談し、彼女が帰国したら婚約することになった。しかし、正式に婚約する前夜、柊馬がトラブルを起こしてしまった。陽菜が聞いたところによる
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第352話

ちなみに柊馬は行き過ぎているほどに完璧主義で、陽菜とは手を繋いだこともほとんどなかったし、キスに関しては……言うまでもなく、したことはない。しかし、彼がこれほど彼女のことを大事にしてきた行動は、彼女にとって、全く重要ではなかったようだ。陽菜とある男の親密な様子を目撃してしまった瞬間、柊馬の心はズタズタに引き裂かれた。彼は小さい頃からの習慣で、誰かに捨てられてしまいそうになると、必死にもがいていただろうが、しかし実際にこのような場面に遭遇してみると、彼は意外にも何も感じなかった。柊馬はただその場で、陽菜が自分の存在に気づくまで静かに待っていた。そして彼女が慌てて必死に弁解する中、彼は彼女に別れを叩きつけた。婚約パーティー当日、陽菜は会場へ来たが、柊馬は姿を見せなかった。彼は言い訳一つすることなく、婚約を勝手に取り消し、両家からさんざん責任を追及された。そして、二人の幼なじみという関係から生まれた情はこの時、終わりを告げた。それから時間が経ち、陽菜と柊馬が再会したのは三年後だった。陽菜はその三年間に二人の男性と付き合ったが、それも長くは続かなかった。彼女はずっと柊馬のことを忘れることができずにいた。彼女のほうが心が揺れたくせに、結局それを後悔することになってしまった。時間が経てば経つほどに、彼女はますます後悔していった。激しい恋の愛情はいずれ落ち着き穏やかになる。そして、穏やかで何の変哲もない毎日にこそ、幸せが潜んでいる。柊馬と別れてからの毎日、陽菜は彼と初めて出会った時に戻りたくて戻りたくてたまらなかった。陽菜も常に柊馬の近況を探らせていた。自分が去った後、彼の傍には一切女の影はなかったらしい。彼女はもうじっとしていられなかった。そして、彼女が帰国して参加したチャリティーパーティーに、柊馬が現れた。陽菜はてっきり、彼が自分のために来てくれたものだと思っていた。それで、あの日の夜、ダンスパーティーで彼女は勇気をふり絞って、大勢の前で柊馬にダンスを申し込んだのだ。柊馬に断わられないようにするため、陽菜は柊馬とのダンス演出費をチャリティーの募金としてつのった。それで柊馬が誘いを受け入れるまえに、二人のダンスがみんなの注目を集めてしまった。それにより何千万というお金が集まったのだ。柊馬はそもそもチ
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第353話

「今日の調子はどう?どこか違和感があるところとか、痛むところはある?」そう尋ねる時、一花はそっと囁くように声を出した。まるで声が大きいと彼の傷に障るとでも思っているようだ。「痛くないよ、もう大丈夫」柊馬は咳払いして喉を整えた。それでも少しかすれた声だった。「何時に終わるの?迎えに行ってもいい?」「あなたはちゃんと横になって休んでなさい。動かないのよ、分かった?できるだけ早く終わらせて帰るから」一花はすぐに相手があの傷で動くという恐ろしい考えを阻止しようとした。携帯越しに、彼女は柊馬がまた笑っている声が聞こえた。自分のために一花が慌てるのを聞きたいと思って言ったかのようだった。そしてすぐに答えた。「分かったよ、君が帰ってくるのをおとなしく待ってる」この時、柊馬の傍から誰かの足音が聞こえてきた。彼にちゃんと家にいるのか尋ねようとしたところに、ちょうど勇がドアを開けて入ってきた。彼が来たのを見て、一花もさっさと通話を終わらせるしかなかった。きっと湊か医者がまだ帰っていないのだろうと思った。彼は勝手に動き回らないと一花に約束していたのだから。勇が今日一花を食事に誘ったのは、彼女に打ち明けたいことがあったからだ。一花は会社に自分の情報網がないわけがない。和香の小賢しい動きには遅かれ早かれ気づくだろう。それならば、勇は自分から一花とのわだかまりを解いたほうがいいと考えた。しかし、勇も一花に明らかにした後、彼女が自分に対してもう信用をしてくれなくなるだろうという心の準備はしておいた。「おじ様、あなたのやり方は理解できます。だって、誰だって右にも左にも動けないような困難に直面するものでしょう。私が西園寺家に戻ってきてから、あなたが一番に私のことを助けてくれた人です。今後私たちがどのような立場になっても、あなたがおじであることには変わりなく、家族として見てくれたらいいなって思っています」勇が打ち明けてくれた後、一花も自分の気持ちを伝えておいた。一花は心から勇とは仲良くしていきたいと思っているが、彼に自分の味方になってほしいと強いることはしたくなかった。そのような一花の態度が、勇に余裕を与えてくれた。二人は敵か味方かどちらかという関係ではない。だからもちろん衝突したり確執が生まれたりすることはないだろう。一花が勇を
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第354話

しかし、玄関のドアを開けて目に飛び込んできたのは、しんと静かな真っ暗闇だった。一花はおかしいと思った。リビングの全面ガラスの窓からは街の光が集まり、悠々と対面にあるソファの傍に敷かれたカーペットに注いでいる。部屋に人の気配はないように感じた。「柊馬さん?」なぜだか、一花は不安になった。彼女は無意識に声を小さくしていた。何かを驚かせないように慎重な感じで。しかし、彼女がソファの横まで来た時、男の体が隅のほうに縮こまっているのが見えた。彼は薄いブランケットに身をくるみ、目を閉じて静かにしているが、その様子が見る者の心を痛める。「……柊馬」一花はほっとして、すぐに鞄を置くと、ソファの傍にしゃがみ込んだ。彼女は小さく柊馬に何度か呼びかけ、どこか体調が悪いのかと彼の額に手をあてて触ってみた。「帰ってきたんだ」ひと眠りして目を覚ましたばかりのように、柊馬の声は重かった。彼は目を開け、何度か瞬きをし、優しい眼差しで一花を見つめた。「早かったね。もっと遅くなるかと思ってたよ」「なんで電気つけてないの?疲れた?疲れたならベッドで寝なくちゃ、どこか調子悪い?」一花は一気にさまざまな質問をして、柊馬は答える隙がなかった。彼女が話しながらまた何かをしに行こうとするのを見て、彼は手を伸ばして彼女を掴み、懐に引き寄せて自分の膝の上に座らせた。「ちょっと眠くてね。さっきまではまだこんなに暗くなくて、いろいろ考え事をしていたらいつの間に寝てしまってたんだ」柊馬の軽く微かに熱をおびた声が一花の耳元をかすめ、彼女は一瞬で取り乱しそうになった。一花は急いで彼の顔から距離をとり、また彼の額に手をあてて、自分の額の熱と比べてみた。「……柊馬さん、様子がおかしいわ。まさか熱があるんじゃないの?私よりも熱いわよ!」柊馬は低い声で言った。「ないよ」「体温を測らないと!」今度は彼が何を言っても一花は聞かず、素早く彼の腕から離れてすぐに薬箱を探しに行った。それには柊馬も呆れていた。しかし、確かに体が少し重たく感じられ、立ち上がって彼女については行かなかった。一花が体温計を持って来ると、少し前屈みになって額を彼女のほうへ向けた。ピピッという電子音が聞こえて、一花は顔色を変えた。「37度、やっぱり熱があったのね」「少し
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第355話

しかし、一花は帰ってからもおかしな様子はない。まだ陽菜は一花に何も言っていないのだろう。「先生が、炎症があるから時間通りに薬を飲みなさいって」この時、やっと一花は電話を切って戻ってきた。彼女はそう言いながら柊馬に薬と水をとりに行こうとした。柊馬が軽く咳をすると、一花はすぐに駆け寄ってきた。「このままだと心配だわ、やっぱりお医者さんに来てもらって、もう一度診てもらわなきゃ!」「先生が帰ってからまだ二時間も経っていないよ」柊馬は一花の腕をつかんだ。「ゆっくり休んで薬を飲んでいれば大丈夫だから」「でも……」「一花さん、病人の意見もたまには聞いたほうがいいよ、ね」彼の声は小さかったが、真剣そのものだった。「分かった」一花もただ諦めて、水を持ってくると、彼に薬を飲ませた。彼がゴクッと薬を飲み込むのを見届けてから、彼の膝にかけられたブランケットをずらして、体を支え部屋に連れて行こうとした。「まだ寝たくないんだ」柊馬は小声でそう言うと、一花の手を引いて自分の横に座らせて抱きしめた。「今日、君のおじさんは何の用事だったの?」「やっぱり西園寺家の事だったわ。和香さんはずっと私が会社でヘマするのを待っていたみたいだけど、誰も使えないから、今度はおじさんに……」一花はそこまで話すと、柊馬が気にするのではないかと思い、それ以上言えなくなった。「でも、おじさんとは和解したから。彼は和香さんとは違って、地位や権力には興味ないみたいだし」「今回、君を混乱させるために、あの女は俺を利用したのか?」一花が口に出さなかったとしても、柊馬はだいたい予想できた。彼が怪我を負い、意識を失いそうになる前に湊にこの事は外に漏らさないように言いつけていたのに、一花は知ってしまったのだから。「安心して、彼女も私をどうこうできやしないから。西園寺グループの継承権は私にあるのよ。あの人には何もできない」一花はすぐに口を開いた。柊馬の瞳が暗くなるのを察したからだ。和香はただ裏で汚い手を使うしかない。それに伊集院家は一花の親戚になったから、和香がいくらどうにかしようとしても、一花を脅すことなどできはしないのだ。それでも、一族に頼れる存在がなく、常に危険を察知するためのアンテナを張り巡らせる日々は疲れるものだと柊馬はよく分かっていた。
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第356話

一花は柊馬の言葉を聞いて笑うと、彼の言葉を遮った。一花は柊馬が小さい頃、甘やかされて育っておらず、修治はかなり厳しい父親だったと聞いていた。彼にはきっと卑屈になるような心理があるのだろう。それでも柊馬は柊馬だ。伊集院家の唯一の跡取りであり、伊集院グループで最も地位の高い社長だ。ビジネス界は彼の思い通りにできる。そんな肩書きがなくても、柊馬自身に人を惹きつける魅力がある。彼と初めて会った時、一花もまさか彼と恋愛関係になるとは思ってもいなかった……どちらが自信がないと言うなら、一花は自分こそがその自信のないほうだろうと思った。「教えてほしい」柊馬はからかう一花をよそに、本当に真剣な様子で彼女を見つめた。絶対に彼女からきちんとした答えをもらいたいという眼差しだった。「確かにあなたと一緒にいて私が助かっている部分もたくさんあるの。だけど、あなたのことを好きなのは……ただそういった部分なんじゃなくて、一緒にいるとね、人生って幸せなんだなって、希望が持てる感じになるの。あなたと一生こうやって生きていきたいって思うわ。それに、誰かを好きになるのって、必ずしも何か理由や理屈があるわけではないと思うの。誰かを好きになったら、自然と一緒にいたいっていう感情が湧いてくるよね。その人の本当の姿がどうだろうと構わず、受け入れて包み込んであげたいって思うわ。その人がその人であることが好きな理由なんだと思う」一花は考えながら、きちんと柊馬の質問に答えた。この時の柊馬は彼女に見入っていて、険しい表情で何か考えているようだった。すると彼女はまたにこりと笑った。彼女は彼の頬に手をあてた。「安心して、恋愛して時間が経ったり、結婚してから少しは変わるものだってのは知ってる。だから、私のことばかりに気をとられずに、あなたは自分の事をやってくれていいから。それに、約束したでしょ?お互いを信頼する第一歩は、まず私たちが最後までずっと一緒にいるっていうことを信じることよ。」「……」柊馬は一花を見つめて口角を上げたが、目は笑っていなかった。彼女の言葉にとても感動していたが、だからこそ自分が許せないと感じた。彼女はこれほどまでに真摯に向き合い、彼を受け止めてくれている。それなのに、自分は過去の事を彼女に話せないでいるのだ。彼は一花を失うのが
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第357話

「直接見に行くのもいいね」柊馬はその意見に賛同したが、やはり落ち込んでいるようだった。「結婚した後に暮らす家が決まってから、結婚式か。こんなに長く待たせることになってしまうなんて」一花が心の中に留めておいた話を柊馬は見破った。彼女は顔を赤くさせた。結婚式をこれほど期待しているなんて、今まではなかったことだ。以前、慶との仲が良かった頃に彼から結婚式はしないと言われても、彼女は落ち着いていた。結婚式などただの形式だと考えていたのだ。しかし今は、ただの形式だとしても、心から愛する人とするのは人生において意味のあることだと気づいた。一花は柊馬にとってこの世で最も美しく幸せな、本物の新婦になるのだ。「おとなしく静養してくれていれば、そんなに長く待つことはないわよ」ここぞとばかりに一花は柊馬にまたしっかり注意しておいた。医者の言いつけを守って、穏やかな気持ちで、しっかり睡眠をとり、決まった時間に薬を飲む。一花の話をきちんと聞いたおかげか、薬が功を奏したからか、二人がベッドに横になってすぐに彼は一花を抱きしめて眠ってしまった。ただ、一花のほうは結婚式のことを考え出すと頭が冴えてしまい、逆に眠れなかった。彼女も寝返りを自由にうつことはできず、静かに柊馬を見つめ、彼の呼吸を聞いていた。するとだんだん眠たくなってきたが、完全に眠りに落ちてしまう前に柊馬が何か低い声で寝言を言うのが聞こえてきた。彼女はすぐに緊張した彼の背中をさすり、リラックスさせてあげようとしたが、耳に突然よく知る名前が飛び込んできた。「……陽菜……嫌だ……」「……」……翌日の昼、西園寺グループ。夏海が一花のオフィスに入ると、彼女がぼうっとしているのに気づいた。夏海はドアをノックしたが、中から一花の返事がなく、ドアも少し開いていたので、入って様子を見るしかなかった。「一花さん」夏海が目の前まで来て、やっと一花はまるで夢から覚めたように我に返った。「あ、ちょうだい」さっき夏海がメールでいくつかの書類の審査をお願いしてきたのだ。一花はその場でさっと目を通して、サインした。しかしこの時、夏海は一花が目を通している時に指で見ている文字を指しながら読み進めているのに気づいた。これは一花が集中できていない時に見せる仕草だ。夏海
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第358話

茉白は大学で確かにその分野の専攻だった。母親が製薬開発に携わっていたので、それを継いだとも言える。母親はかなり実力を持った人物で、多くの製薬開発の監督をしていた。亡くなる前には努力してグローバル的にも誉れ高い特許技術を獲得したのだ。ただ、茉白には母親のような天賦の才はなかった。彼女が大学時代にいくら努力しようとも、優秀な成績を打ち出すことはできなかった。卒業した後、専攻に関連した多くの会社を探したが、能力が足りず、また二階堂家の令嬢という肩書きもあり、採用されなかった。茉白はそれが二階堂家の両親のせいだと分かっていた。彼らは茉白が自分たちから離れると管理できなくなると考えたのだろう。母親と同じように彼女が成功するのを恐れ、道を全て断ってしまったのだ。しかし、茉白は心の中で彼らは考えすぎだと思っていた。この間、侑李と結希が店で揉めてから、どうにか茉白にはお咎めなしになっていたが、彼女は仕事上の評価点はすでにゼロになっていて、このままだと、二階堂家から離れるために必要な評価は得られない。それが、西園寺グループに採用されれば、この苦境から脱却できる。もし、西園寺グループで働けば、二階堂家は彼女を管理することができなくなり、基金を運用する団体から十分な評価を得られる可能性が生まれる。ただ、一花がどうして突然このように自分を助けてくれるのか茉白にはよく分からなかった。一花は彼女に電話をする前に、すでに二階堂家には話を通していた。二階堂家はとても現実的な一家だ。西園寺グループは歯向かえる相手ではない。一花が私生児であったとしても、彼らは一花の面子を潰すようなことはできなかった。どのみち、茉白は彼らのせいで性格が悪く扱いにくい人間になっているから、西園寺グループでもそう長くは続けられないだろう。一花が茉白を助けるつもりなら、自分が迷惑を被ることになるだけだ。この間の侑李が良い例だと言える。だから二階堂家は静観することに決めた。一花が彼女を採用した理由をいくら与えても、茉白はやはり誰かが無条件で自分を助けてくれるのはどうしても気が引けた。それに対して一花は遠慮なく、条件を出した。西園寺グループは成果を出せない怠け者を雇う気はない。もし、茉白が三か月の試用期間に耐えられないようであれば、すぐに辞めてもらうつもりだ。
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第359話

「いえ、結構です」茉白は陸斗とあまり会話したくなかったので、そのまま立ち上がって離れようとした。しかし、陸斗はとても自然な動きで彼女の手を掴んだ。彼の力は強く、ただ少し引っ張っただけのつもりだったが、茉白の動作には勢いがあった反動で陸斗のほうへ戻されてしまった。ヒールの靴が滑ってしまいそのまま陸斗の胸に倒れ込んだ。陸斗は女性の扱いには慣れていて、すぐに茉白の体を抱きとめた。彼は、スタイルの良い茉白の体を抱きしめるのを堪能していた。しかし、陸斗が彼女の腕に触れようとした瞬間、茉白から強い力で太ももを押されて、彼はその痛みに顔をしかめて、唸り声をあげそうになってしまった。茉白も床にドタンと転んでしまい、またすぐに起き上がった。「二階堂さん……」陸斗は痛みに歯を食いしばっていた。「よかれと思って手助けしようかと言っただけなのに、なんでこんなことするんですか?」この女はどうしてこんなに乱暴なのだ?噂では多くの男が彼女を追いかけていると聞いていた。侑李もすっかり彼女の虜になって骨抜きにされたらしい。陸斗は彼女に会うたびに、高飛車な態度の下には燃えるような情熱を持っているのではないかと予想していた。今考えると、あの男たちはただのドMなだけではないのか?どうであれ、陸斗はこのようなタイプは好みではない。「二階堂さん!」この時、聞こえてきた夏海の声で、陸斗は思わず意識が飛びそうになった。夏海はさっきこの二人が触れ合う一部始終を目撃していて、心の中に嫌悪感が込み上げていた。このクソ男、こんな真昼間から発情しているのか?夏海は手を差し出し、茉白の手を引いた。「遅くなってしまって、申し訳ありません。あの……驚かれたでしょう?」「おい、須藤さんは何を言ってるんだ?彼女が自分から転んで、俺のほうが怪我をしてんだぞ」陸斗は我慢できなかった。さっき夏海は話すときに、視界の隅でちらりと彼のほうを睨んでいたのだ。彼を軽蔑したような視線だった。それを聞いて、夏海は陸斗のほうへ顔を向けて、害のなさそうな笑みを見せた。「別に何も言っていませんよ。副社長、敏感に反応しすぎだと思いますが」茉白は自分の体をパンパンと叩いて服を整えた。さっきのことにあまりこだわりたくなくて言った。「行きましょう」「ええ」夏海はすぐに返事をし、
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第360話

この時、綾芽の友人である紬から電話がかかってきた。三谷紬の名前を見て、慶は瞳を少し暗くし、そのまま切ってしまった。こんな時に紬から連絡が来るということは、だいたい綾芽に関することだろう。綾芽と紬は仲の良い親友だ。ここ数年慶が綾芽と何か揉めた時には、綾芽は彼女を頼るしかなかった。彼女は仲裁役に回り、別れより、いつも二人を仲直りさせるようにしていた。毎回慶に会うと、必ず人の道理を説いては責めてくる。それが続き、慶は紬に会うのが煩わしくなっていた。この時に紬が電話をしてくるということは、絶対に彼と綾芽の離婚のことで話があるからだ。慶が電話に出なくても、紬はしつこく何度もかけることはなかった。しかしすぐに、慶も入っているグループチャットで、誰かがアットマークをつけて彼にメッセージを送った。それは大学時代の同級生で、子供が生まれたのを祝うから。今夜夕食をしようと誘われたのだ。一花が慶と綾芽に関するゴシップを流してから、慶は大学時代のほとんどのグループから抜けてしまった。ただ、よく一緒にゲームをしていた仲間との二つのグループだけは脱退していない。このグループはずっと誰も使っていなかったので、慶はその存在自体を忘れるところだった。自分あてにメッセージが届いたので、慶はそのグループからも抜けようと思ったが、相手がまた彼を指名してチャットしてきた。【黒崎君、今夜一緒に集まろうよ。俺、結婚したばかりでさ、みんなのことが懐かしいんだ】慶は一瞬指の動きを止め、すぐに文字を打った。【結婚したのか、おめでとう】その言葉を送ってから、何か理由をつけて断わろうとした。しかし、相手はすぐに結婚の写真を送ってきた。【黒崎君、覚えてる?俺の奥さんはさ、水瀬さんの昔の友人なんだ。あの時、彼女から紹介してもらって妻とは知り合ったんだ。でも、卒業してからは交流がなくなってて、まさかの縁で、外国のある会社でまた偶然出会ってさ、縁がまた繋がったわけ】その話に、慶は少しピクリと瞼を震わせた。一花と付き合いはじめたばかりの頃、この人物がいつも一花に友達を紹介してくれと頼んできていたのだ。一花は大学ではマドンナ的存在で、彼が目をつけたその友達というのも、なかなか魅力的な女性だった。当時、一花はよくその友達と一緒に講義に出席していて、
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