All Chapters of 偽物クズ夫に別れを告げ、スパダリと政略結婚します: Chapter 411 - Chapter 420

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第411話

「旦那様、いらっしゃられたのですね……」家政婦の声が聞こえてきた。美穂はさっき夫の修治ではないかと予想していた。そうでなければ、家政婦もそのまま玄関を開けることはない。今日、修治は帰国した。彼は事前に美穂に連絡し、飛行機は夜のフライトだと伝えていた。美穂は彼が家に帰った時に、誰も家にいないとよくないと思い、一花のところに行くと事前に連絡をしていたのだ。柊馬が怪我をした時、修治はただ何回か電話をして状況を確認したくらいで、自ら柊馬に会いに来ることはなかった。その事が、柊馬の心を冷たくさせただけでなく、美穂も修治は薄情者だと感じていた。家族みんな、ずっと彼には不満を持っていた。「修治、何しに来たの?」敬子は修治が来たのを見ると、顔から笑顔が一瞬で消えてしまった。「一家揃って食事をするのに、どうして私を呼ばないんだ?」修治は冷ややかな口調でそう言うと、コートを家政婦に手渡して、食卓の前までやって来た。一花は立ち上がろうとしたが、柊馬に腕を引っ張られた。柊馬は片手に茶碗を持ち、もう片方の手で一花の腕を掴んでいた。彼は顔をあげることもせず、修治が自分に視線を向けていることにも気づいていないふりをしていた。「柊馬……」「食事を続けよう」柊馬は低い声でそう言うと、目の前にある皿からおかずをとって一花の皿に入れた。「まったく、無礼な奴だ」修治の目線は柊馬から一花に移った。一花は少し体を震わせ、どうすればいいか分からないようだった。美穂は傍まで近寄ると、修治の腕を叩いた。「何しに来たのよ。来てすぐに息子にそんな態度?今日は一花さんが私たちを招待してくれたから家にいないって伝えたでしょ。あなたは家に帰って早めに休んでって意味だったのよ!」「私は息子と嫁さんの様子を見に来たんだぞ。なんだ、私にさっさと帰れと言うのか?」修治がすでにイライラしてならなかった。彼の氷のように冷たい口調が周りの空気をさらに圧迫させた。一花は柊馬を見て、声を出した。「お義父さん、そんなことないですよ。さあ、早く座ってください」柊馬が修治のことを面白く思っていないのが一花は分かっていたが、それでも彼の父親の面子は潰すわけにいかない。しかし、一花はただ口でそう言っただけで、柊馬は彼女が修治のために行動するのは見たくないらしく、一花もた
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第412話

しかし、美穂はその場の雰囲気を壊したくなく、強制的に修治の腕を掴んで引っ張った。「長旅で疲れたから、気分を悪くしているのでしょ?さ、帰ってもう休みましょ。私も一緒に帰るから」美穂は修治の性格を一番理解している。彼は今日怒りを抱いてきたから、父と子の二人が落ち着いて話すことは難しいだろう。みんなと気まずい雰囲気で食事をするよりも、この場を離れるほうがマシだ。しかし、それでも修治は柊馬を睨みつけていた。家族みんな口を開いたというのに、柊馬だけが全く動かず、その場にまるで仏像のように座っている。静養中なのだろう?何様だと思ってるんだ!修治はそもそも誰かに嫌われるつもりでいたわけではない。彼はわざわざ柊馬のために様子を見にきたのだ。それがまさか柊馬が自分の気持ちを汲み取ってくれず、傲慢な態度で偉そうにしていやがる。修治の胸に湧いたその苛立ちを抑えることができず、勢いよく美穂の手を振り払い、前に一歩踏み出した。そして、柊馬が持っていた茶碗を床に叩き落としてしまった。「なんだ、怪我をしたらそんな腐った態度に成り下がってしまったのか?私がお前に教えた教養は一体どこにいってしまった!」この言葉が巨大な石となって静かだった水面に音をたてて落ちた。ずっと黙っていた柊馬がこの時ようやく反応した。「お義父さん!」一花は驚き、無意識に柊馬の前に立ちはだかった。柊馬と修治を引き離そうとした。「柊馬さんはまだ傷の回復途中です……そんなに怒らないでください」敬子と美穂も驚いて、サッと修治を止めようと飛んできた。しかし、修治は怒りが頂点に達していて、みんながなだめようとしても効果はなかった。そこへ和彦がステッキを持って、きつく修治に振り下ろした。「修治!いい加減にしろ!」「……」柊馬はゆっくりと顔をあげ、静かな目で怒りに満ちた父親の視線を受け止めた。しかし、この時柊馬の瞳には恐れや怒りはなかった。ただ、疲労感漂う眼差しをしていた。「俺に教養がないって。それは昔からずっとあなたが気に入らない子供だったからですよ。だから教養がないのは当たり前のことでしょう?」いくら柊馬が努力しても、いつも修治に認められることはなかった。それを小さい頃から彼は受け入れていた。彼は何も期待しない。永遠にあの幼い頃の嵐が続かないことだ
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第413話

柊馬はその瞬間、立ち上がり、耳を突きさすほどの大きな音をたてて椅子が勢いよく倒れた。柊馬の情緒が不安定であるのに気づき、美穂は急いでその場を収めるために言った。「修治!今すぐ私と一緒に帰りましょ!」修治は一花を叩いてしまい、この時気まずく思っていた。彼の手はヒリヒリと麻痺した感覚だった。さっきは確かに力を入れすぎていた。彼は頭に血がのぼりすぎて力加減を忘れていたのだ。今度は修治も美穂を押しのけるようなことはしなかった。敬子は怒りを爆発させていたが、修治を睨みつけるだけで、すぐに一花の体を支えに行った。一花はかなりの力で打たれたので意識がぼうっとしていた。家政婦と敬子に支えられながらやっと起き上がった。「柊馬」しかし、彼女は意識を取り戻すとすぐに柊馬の名前を呼んだ。彼女はとても柊馬のことが心配だった。修治が家に入ってきてから、彼の状態がおかしかったからだ。彼女はそれに気づいていた。柊馬は暫くの間一花だけに目を引かれていた。彼が視線をあげると、その真っ赤に染まった目が寒気が走るほど恐ろしかった。一花も一目見るだけで思わず彼に対する畏怖を感じてしまった。彼女は少し眉をひそめて、口を開いたが、何を言えばいいのか分からなかった。「待てっ!」修治が彼らに背を向けて美穂と一緒に帰ろうとしているところに、柊馬の声がまた響いた。「人を殴っておいて、そのまま帰るというのか?」柊馬は一歩ずつ近寄っていった。彼の声は低く、聞く者に悪寒と圧迫感を抱かせる。食卓まで来ると、彼はそっと鋭いナイフを手にとった。一花は彼のその動作に気づき、瞬時に緊張が走った。「柊馬、そんなことしちゃダメよ。私は大丈夫だから……」一花はどうにかして柊馬の理性を呼び戻そうとしていたが、微かにその声は震えていた。敬子は一花のことに気をとられていた。この父と子の二人はよく喧嘩していたので、彼女はただ今日、孫の嫁にこのような見せてはいけない恥ずかしい場面を見せてしまったと思っているだけだった。敬子は一花の体を支えて部屋に連れていこう思っていたが、一花が頑なに動こうとしなかった。修治は息子が自分を責めるような態度をとっていることに再び腹を立て、さっきの罪悪感が全く消えてしまった。「なんだ?お前は私の息子だろ、これでもまだ懲りないのか?彼女は
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第414話

「一花さん!」「一花ちゃん……」美穂はほぼ泣きそうになっていて、敬子のほうはあまりの驚きで立てなくなりそうだ。和彦が一番に我に返り、柊馬を叱責した。柊馬は一体どうしてしまったのか彼には分からなかった。柊馬はこの時、目の焦点が合っていなかった。彼は目の前に広がる光景を見つめ、眉間に皺を寄せていた。まるで混沌の中に堕ちていくようだった。一花の手のひらは一瞬にしてナイフの切り傷ができていた。血がゆっくりとその細い腕からツーッと滴り、ポタポタと床に落ちていく。しかし、柊馬は手の力を緩める気はないらしく、さっきと同じまま、ナイフの先がゆっくりと前に移動していった。一花は周りのみんなが絶句している中、力を込めて柊馬の力に対抗しようとしていた。痛みに呼吸ができなくなりそうだった。「柊馬、どうしたの?」彼女はこの時の柊馬はまるで魂が抜けたように、意識を失っているかのように感じた。そして周りはこの時ようやく一花たちの傍に駆け寄ってきた。一花の手の怪我はひどく、柊馬がナイフを持つ手を離そうとしないのを見て、みんな強制的にこの二人を引き剝がしたら、二人とも傷つけてしまうのではないかと恐れ、柊馬に声をかけ続けていた。しかし、柊馬には誰の言葉も耳に入っていないようだ。「大丈夫です」みんなが緊張している様子を見て、一花のほうは逆に落ち着いていた。彼女の言葉は周りに言っているようにも、柊馬に対して言っているようにも聞こえた。「……」柊馬はじっと一花を見つめると、少し我に返り、瞬きをしたが、彼の顔を見ると怒りはおさまっていないようだった。彼は全身に力が入りすぎている。「柊馬、怖くないから、私はここにいるよ。大丈夫……本当に私は大丈夫だから……」一花は今一体何が起きているのかよく分かっていなかったが、彼を見ていると心が苦しくなった。しかし、相変わらず寛容で、優しい目で柊馬を見つめている。しかし、彼女の気力はもう持ちそうになかった。この時もまだ柊馬の力は緩まっていないのだ。血が彼の服の袖を赤く染めていた。敬子はこれ以上見ていられなくなり、この時まだ呆然としていた修治にどうにかするよう目配せをした。突然、一花は手を開き、ナイフの先を自分の喉へとあてた……「柊馬」「……」その瞬間、周りはみんな驚き、冷や汗を
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第415話

柊馬は今だいぶ冷静になってきたので、一人になる必要があった。敬子は家政婦に一花の怪我の手当てをさせて、床の血の跡をサッと綺麗に拭き取った。美穂は何も言わず、和彦は敬子の体を支えて、心配そうにあの二人を見ていた。みんながそっとその場を離れて、ダイニングには一花と柊馬だけが残された。二人は黙ったままで、お互いの鼓動と呼吸の音だけが部屋に響いた。一花はこの時もまだ柊馬を抱きしめていた。彼女は顎をそっと彼の頭にあて、傷のないほうの手でこわばった彼の背中をさすっていた。そして彼の体の震えがどんどん小さくなっていくのを感じ取った。「ほら、もうみんな行っちゃったから。大丈夫だってば、もう大の大人のくせに、子供みたいにカッとなってどうしたのよ」一花は落ち着いた口調で話していた。その声はまるで彼のやったことに全く気にしない様子だった。しかし、二人とも心の中では一花が平静さを保っていることが、逆に事態の異常さを鮮明にさせていることが分かっていた。「一花さん」この時ようやく、柊馬が小さな声で彼女の名前を呼んだ。彼女は彼から離れた。「ちょっとは落ち着いた?」彼は頭をだらりと下に垂れて落ち込んだ様子だった。長い足を片方だけ曲げ、普段のピンと背筋を伸ばした姿とはかけ離れていた。彼は返事をしなかった。彼は無意識に小刻みに震える手をゆっくりとあげた。そして恐る恐る一花の包帯が巻かれた手にそっと触れた。大切なものを自分の手で壊してしまったかのような眼差しで見つめている。全てを壊してしまいたいという衝動の苦痛と自己嫌悪に彼は苛まれていた。「痛い?」彼は喉の奥の方からかすれた声でこの言葉を絞り出した。「傷は見た目よりも深くないから、そんなに痛くないの。だけど、もしあなたが見て辛く思うなら、すぐに良くはならないかも」一花は心を癒やす穏やかな風のように優しい声で人を慰めることができる。「俺はさっき……俺は」柊馬は一花の顔を見ることができなかった。彼は今罪悪感から、自分が生まれたことさえ呪っていた。彼はまた同じことを繰り返し、自分という存在を拒否したくなった。自分自身にさえきちんと向き合えない人間が、大切な人とどう向き合えばいいというのだ?「いいのよ。まずは落ち着いてから、ね」一花はもちろん、さっき柊馬がとても複雑な心境に
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第416話

柊馬は一花が自分を止めようとしているのが聞こえていないかのようだった。この時初めて彼は一花の気持ちを考えなかった。一花は突然、柊馬がもし自分を騙していたらどうするか尋ねてきた時のことを思い出した。「だから?」一花も彼の言葉を否定することはせず、小さな声で聞き返した。彼女の声からは余計な感情など聞き取れなかった。まるで嵐の前の静けさのように落ち着いていた。「だから……」柊馬は言葉を詰まらせた。その声は普段の優しさではなく、まるで人が変わったかのように冷たかった。「だから、君が俺の本性を知って結婚したことを後悔しているのなら、俺たちの関係もここまでにしていい」彼は視界の隅で一花を見た。一花は首を垂れて、怪我をしたほうの手を微かに動かした。柊馬はさっきのことを思い返したくなかった。もし、あの瞬間自分が我に返っていなかったら……一花は無事に今目の前に座っていなかったのではないか?彼は最近今までにない幸せな時を過ごしていた。しかし、夢から覚める時が来たようだ。いくら彼がその幸せにしがみついていたいと思っても、それは……自分のために、幸せを渇望しすぎたあまりに、彼女を傷つけるわけにはいかない。陽菜の言葉は正しい。彼は折れた翼で必死に飛ぼうともがいているだけだ。「何を言っているの?」一花がこの時顔をあげ、彼と視線を合わせた。すると柊馬は即座に視線をそらし、苦しげにこう言った。「さっき言った通りだ。君が無理に我慢し続ける必要はない。俺から離れてくれていいよ」「無理に我慢する?」一花はその言葉にかなりのショックを受けた。彼女は確かにさっきの柊馬の様子に驚いたから、そんなに簡単に消化することはできない。しかし、それでも彼女はどうにかして彼を慰めてあげたかった。それがまさか、二人で育ててきたこの愛を、彼のその一言で全否定されてしまうのか?柊馬がくれた優しさを、今返してくれと言われて返さなければならないと?陽菜にした事を同じく一花にもしようというのか?その瞬間、一花は彼には安心感をもたらし続けることのできる女性しか必要ではないのかと激しく疑ってしまった。「君を苦しめたくない」柊馬は沈んだ声で言った。一花はこの瞬間、何も言わなくなった。二人は暫くの間リビングで黙っていた。かなり
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第417話

湊は本当にこれ以上嘘をつき続けられなかった。柊馬の体はまだ完全に回復していない。夜中に迎えに来いと連絡が入り、伊集院家に帰るのだとばかり思っていた。それがまさか、柊馬は会社の近くに行くよう指示を出してきた。以前、柊馬が休息をとるのに便利なように、会社の近くにマンションを二つ購入していた。いつでも帰って休めるし、重要な顧客を招くこともできるからだ。部屋のレイアウトはまるで会社のロビーのようにシンプルなものだったが、毎日掃除をさせているので、とても綺麗で快適だ。その途中、湊はずっと遠回しに何があったのか聞き出そうと思った。しかし、話し始める前にそれは失敗に終わった。柊馬はただいろいろと準備させ、ここ数日は会社の近くの部屋で過ごすとだけ言った。伊集院家の邸宅に戻らず、唯花の元にも戻らないという意思だ。それから家に到着するまでずっと柊馬は目を閉じていた。車内の空気は窒息しそうなほどに重苦しかった。そして一花からメッセージが届いて、湊は自分の予想が当たっていたと分かった。二人はきっと喧嘩でもしたのだろう。この世に喧嘩をしない夫婦などいないらしい。柊馬と一花のようにアツアツの新婚夫婦であっても、それは免れないのだ。柊馬が家について落ち着いてから、湊は帰っていった。湊が帰る前に、柊馬は余計なことは話すなと注意した。つまり、特に一花に知らせるなということだ。それから、夫婦が喧嘩をすれば家族が心配するのは当然で、同じく敬子たちにも教えるなということだった。だから、湊は一花のメッセージを受け取ると、ただ適当に誤魔化しておいた。そして彼はわざと柊馬が「体調が悪い」というのを強調しておいた。そうすれば一花がきっと自分から柊馬を探すだろう。しかし、一花が自分に必死にいろいろと尋ねてくるのを見て、湊はこれはそう簡単なことではないと悟った。まあ、夫婦はいつかは仲直りするだろう。一度の喧嘩でまさか離婚するはずがない。一花は一晩中寝られず、翌日は会社を休もうと思っていたが、昼まで悩んで結局会社に行くことにした。いくつかのプロジェクトの会議がある。彼女は体調は問題ないので、行くことにした。しかし、会議が終わって、一日がなんとなく過ぎても、一花は成果が全く耳に入ってこなかった。夏海は会議の報告書を持って一
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第418話

携帯を見てもメッセージも電話も来ていない。柊馬は今……休めているだろうか?敬子たちもいるから、きっと彼をしっかりお世話してくれているはずだ。一花はとても怒っていたが、実際はとても彼を心配し、不安も感じていた。それに、彼女は昨晩、自分が彼に腹を立ててしまったことを後悔していた。だけど……確かに柊馬はあのことに対して心を痛めているだろうが、一花が全くつらくないわけではないだろう。なにが彼と結婚して後悔しているか、だ。二人はこれで本当に終わってしまうのか?なにが離れていい、だ?彼の冷たい言葉に、一花は心が砕け散ってしまいそうだった。彼のほうが互いに信頼しようと言っていたくせに、問題にぶち当たると、彼のほうが先に一花を疑い、突き放そうとしてきた。彼女の気持ちも聞こうとせずに?一花が彼のもとを去ると決めても、気持ちを取り戻そうと、もがこうともしないのか?それに、彼女は自分の気持ちを何度も彼に伝えたはずだ。それを思うと、一花は腹が立ってきた。彼にだけではなく……自分自身にも腹が立つ。この時、柊馬も同じように仕事に身が入らなかった。医者がいつものようにやって来て体調を見てくれた。その時、心拍数が上がっており、ずっと難しい顔をしていた。湊は傍にいてとても焦った。「先生、ここ数日社長の状態はとても良かったんですが、別に大きな問題はありませんよね?」「時間通りに薬を飲んでいますか?」「ええ、そうです。毎日奥様からも電話がかかってきますので」湊はわざと一花のことを出した。しかし、柊馬の表情は少しも変わらない。「おかしいですね。昨日血液検査でも正常だったのに、どこか気分の悪いところはありませんか?」医者は柊馬の顔を見て、きちんと休めていないのではないかと感じた。体の内側から治すにはやはり休息が最も重要だ。薬はすでに最高の物を使っているから、静養するには心の状態を明るく保つ必要がある。「ええ」柊馬は小さな声で答え、無意識に携帯を触った。「鬱々とするし、イライラします。心臓もなんだかズキズキするし」一花が自分のもとを去るかもしれないという心の準備はしていたものの、実際にその言葉を口に出してしまって、彼はこの時あの言葉を撤回したくなっていた。以前、陽菜が去っていった時、自分に迷いは
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第419話

敬子の言葉はどうすることもできないといった感じだが、彼女は完全に柊馬の味方だ。実際は、敬子の話以上に散々なものだった。昨晩、帰ってから美穂はかなりショックだったらしく、修治と大喧嘩してしまい、離婚まで申し出た。彼女はこの長年、修治の荒い気性にはもう我慢の限界だった。しかし、彼への愛と責任感、そして伊集院家への愛もあり、美穂はいつも物分かりの良い善人を演じていたのだ。それに、美穂だけが、修治の扱いづらいあの激しい性格を制御することできた。しかし、柊馬と一花があんな目に遭ったのを見てしまうと……特に柊馬のほうだ……明らかに修治は息子が小さい頃から心に傷を負ってきたことを知っているくせに、自分のプライドを優先して彼の気持ちを逆なでするような態度をとった。そして結果一花に怪我をさせてしまったのだ。昨晩のあの危ない場面を思い出すと、美穂は動悸がしてきて受け入れられない。そして美穂が喧嘩して実家に帰ると言い始めてから修治はやっと慌て始めた。敬子と和彦から柊馬に謝罪しろと命令される前に、彼は美穂の実家まで彼女を追いかけていった。家庭内は午前中大荒れになり、今やっと落ち着きを取り戻したところだ。敬子はすぐに柊馬と一花のところに様子を見に行きたかった。しかし、敬子はこの日、一花は会社を休んで柊馬と一緒にいるものだと思っていたので、あまり早い時間に連絡すると二人の邪魔になってしまうと思って連絡していなかった。一花もかなり驚きショックを受けたはずだ。敬子はどうやって一花の気持ちをなだめてあげればいいのか分からなかった。そして今、電話をかけたのは、まず夫婦二人を心配したからと、一花のところに会いに行きたいと思ったからだ。「ばあちゃん、俺たちは……大丈夫だよ」柊馬は心にもない言葉を吐いた。「今日はこっちに会いに来る必要はないよ。一花さんの手の怪我は俺がちゃんと見てるから」「そう?」柊馬がそう言うので敬子も理解した。昨夜の出来事は柊馬が最も苦しんでいるはずだ。「分かったわ、それなら、数日してからあなた達に会いに行くわね。一花ちゃんは昨日とっても勇敢だったわ。だけどとても驚いたでしょうね……しっかり彼女の気持ちに寄り添ってあげなさいね。二人はきっと大丈夫だから」敬子はなんだか少し不安を感じていた。柊馬のこの時
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第420話

敬子は暫く遠回しに話していたが、最後にさりげなく言いたい本題に入った。「ねえ、柊馬、私の友達にね、海外で心のケアに長けた方がいるのよ。時間を見つけて会ってみない?おばあちゃん、あなたが心に傷を負ってずっと癒やせていないって知ってるの。現代の人は何かしら心に問題を抱えているものだから、そういうのは病気とまで言えないわ、しっかり専門家にケアをしてもらえば大丈夫よ」「……」敬子はそれは気にする必要のない、大したことではない、という口調にするよう心がけていた。しかし、相手にはそれがわざとらしく聞こえてしまい、やはり柊馬の心に重たい石となって負担をかけてしまった。彼は呼吸するのも辛く感じた。自分はもうこんなに大人なのに、年寄りを心配させてしまった。どうであれ、自分はやはり伊集院家を支える存在になる資格はないと感じた。「分かったよ」柊馬は多くを語らず、そのまま敬子の提案を受け入れた。通話を終え、柊馬は我慢できずに携帯の連絡帳に入っている番号を開いた。「奥さん」と書かれたそれをタップした。そしてこの時、一花はさっき電話を切ってあまり時間が経っていなかった。柊馬は通話中だったが、まさかお互い同時に電話をかけていたわけじゃあるまい?一花は暫く待ってから、自分のその考えに笑えてきた。もし彼が自分に連絡したいなら、早い段階でそうしてきていたはずだ。一方、慶は綾芽との離婚について進めていた。今日離婚手続きをする予定だったが、まずは弁護士と相談することになった。綾芽はそれから逃げることはできないと分かっていた。慶はどうしても彼女と離婚すると言って考えを変えない。ずっと泣きついたら、逆に状況がエスカレートする一方だ。それに、慶は昔綾芽が彼を騙していたことを知り、まだ怒っている。この時、彼女が離婚したくないと意地になっても、二人の関係が悪化していくだけだ。綾芽は自分の心にある程度の余裕を作ることにした。少なくとも、二人の矛盾を緩和するしかない。綾芽はもう離婚したくないと騒ぐことはせず、弁護士に会った後、慶と一緒に食事に行った。食事中ずっとしんと静まり返っていた。綾芽が彼におかずを取り分けてあげても、彼は拒否することもなく何の反応も示さなかった。彼女も今までのように余計な話をすることはなかった。帰る途中
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