All Chapters of 偽物クズ夫に別れを告げ、スパダリと政略結婚します: Chapter 401 - Chapter 410

471 Chapters

第401話

しかし、暫くしてもドアが開くことはなかった。綾芽はドアの前で三十分待ったが、夜遅く気温は下がっており冷気が身に染みてしまい、もう帰ろうとした。「何しに来たんだ?」するとこの時、ドアがようやく開いた。慶はだぼっとした黒のセーターを羽織り、憔悴した様子で彼女を見つめた。慶は頭に包帯を巻いていて、顔にある青あざは薄くはなっていたが、それでも一目でわかるほどだ。歩くときには足を引きずるような形で、よろけている。髪もボサボサだったが、見た感じさっき起きたばかりというわけではなさそうだ。綾芽はすぐに振り返り、すぐにドアから中へと入った。すると慶から濃い酒の匂いが漂ってきた。「お酒を飲んでいたの?」「……」慶は綾芽の言葉には構うことなく、背を向けて家の中へ戻っていった。彼は体が震えていて、ずっとピンと伸ばしていた背筋はこの時、曲がっていて、まるで別人のようだった。彼はリビングの奥までそのまま進み、カウンターキッチンの椅子に腰かけた。家の中は散乱していて、至る所にさまざまなゴミが落ちており、空になった酒のボトルが散らばっている。「慶、あなた、これは一体どうしたのよ……」自分が離れてから、慶が頑なに離婚すると言い張っていたが、身だしなみはちゃんとしている。それがまさかここまで落ちぶれてしまうとは、綾芽も全く予想していなかった。「いつ手続きに行く?」慶は引き続き酒のボトルを手にし、濁った声を出した。「どうしても私と離婚するっていうの?」数日会っていなかったのに、彼の第一声が離婚だとは思っておらず、綾芽の心は谷底に突き落とされたような気分だった。「柚葉さんからあなたが殴られたって聞いてすっごく心配したんだからね。今日はわざわざあなたの様子を見に来たのよ!」「ああ、君のおかげで、死にきれないな」慶は冷たく笑った。彼はただ手に持っているボトルだけを見つめ、陰険な口調で吐き捨てた。「なによその態度、黒崎グループだって再起不能になったわけじゃないでしょ。私と離婚しないで、あなたはおばあ様からまとまった資金が得られなくても、私たち本当にもう何もできないと本気に思っているの?」綾芽は慶がお金で頭を悩ませていると思い込んでいた。しかし、慶は彼女の話には耳を傾けず、上を向いて引き続き酒を飲んだ。綾芽は
Read more

第402話

「慶、あなた今私の気持ちを疑っているの?」綾芽はピクリと体を震わせた。今彼女の目尻に溜まった涙すら、皮肉に見える。彼女はこんなに犠牲を払ってきたというのに、彼は信じてくれないというのか。「お前は彼女じゃない」慶がニヤリと口角を上げた瞬間、綾芽の顔色が変わった。「どういうこと?」「お前は俺を十年もの間騙してきただろうと言ってるんだ。だからその芝居はそろそろ終わりにしてもいいんじゃねぇのか?」慶はこの言葉を口にする時、なぜだか笑えてきてしまった。しかし、心には憎しみが根をはって広がっている。慶は目の前の女を見つめ、以前感じていた憐みや、罪悪感、そして胸を締め付けられる痛みなど微塵もなくなった。ただそこには嫌悪、憤怒、尽きることのない憎しみしか残っていない。もし、この女に騙されてまだ若かった自分がこの荒れ果てた道に進んでいなければ……黒崎家が今のように落ちぶれていただろうか?彼もまたどうして自分ですら思いもよらぬ下劣な真似をしてしまっただろうか……しかも、心から彼を大切にしてくれるはずだった人を失ってしまった。過去のあれこれを思い出すと、慶は綾芽との甘い時間がまるで鋭いナイフになったかのように、彼の心を切り刻み始めた。綾芽はその瞬間、頭を何かで殴られたかのような衝撃が走り、驚きに目を見開いた。彼女は口を開けたが、暫く経っても彼の言葉の意味が飲み込めなかった。どうして慶がこの事を知っているのだ……「何を言っているの、意味が分からないわ。私が一体あなたに何を騙していたって……」綾芽はまだ抵抗しようとした。彼女はこの時の慶はただ酒を飲み過ぎたせいでおかしくなっているだけだと期待し、彼へ駆け寄って抱きしめようとした。しかし今度は、彼女の腕はそのまま払いのけられてしまった。慶の力は大きく、綾芽は危うく床に倒れそうになった。その時彼女は腰のあたりを後ろにあった壁にぶつけてしまい、手で壁を押して体を支え、どうにか転ばずに済んだ。「あの雪山での出来事を、俺の口から説明させる気か?柏木、お前恥ってもんを知らないのか?俺を救った女性だと偽り、こんなに長い間俺はお前に感謝し続けてきた。俺はちょろい男だと思ってたんだろ?」慶はこの時、頭に血がのぼるのを感じていた。抑えきれない怒りが込み上げ、彼は綾芽を
Read more

第403話

どうして……水瀬一花はあれだけひどいことをして彼から離れていったというのに、彼はあの女を許すのか。自分が全てを懸けて彼を愛したというのに、こうも簡単に絶縁を選ぶのか。……翌日の昼。茉白がたくさんのコーヒーを持ってエレベーターのほうへ急いでいた時、誰かにぶつかりそうになった。ちょうど昼食の時間帯で人がたくさんいた。手に持っていたコーヒーが危うくこぼれてしまうところだった。「こっちに」突然、誰かの声が肩越しに聞こえてきた。それはよく知っている声だった。茉白が顔をあげると、横を侑李が通り過ぎた。彼は秘書を連れて、まっすぐに専用エレベーターのほうへ向かった。一瞬彼女はおかしく思った。相手は自分に話しかけたのだろうか。きっと自分には気づかなかっただろう?「二階堂さん、上司が一緒にエレベーターに乗るようにと言っています」茉白がぽかんとしていると、後ろから秘書が近づいてきて、一言そう言った。すると茉白は少し気まずそうについていった。侑李はすでにエレベーターの中に立っていて、隣の秘書がドアの開くボタンを押し、茉白が入ってからその手を離した。「新しい仕事は順調?」侑李は感情のこもっていない淡々とした口調で尋ねた。非常によそよそしい感じだった。二人は帰国してから仲直りしている。友情関係も元に戻っていて、ここ数日で一度会話もしていた。それはただ茉白が家に着いたかどうかを確認する表情スタンプを送っただけではあるが。「ええ」茉白は頷いた。「ありがとう」その言葉が聞こえると、侑李は思わず彼女を何度も見てしまった。予想せず二人は視線を合わせてしまった。侑李がこっそり彼女を見ていた時、茉白も同じく彼をチラ見していたのだ。しかしまた同時に、互いに目線を逸らした。侑李はこの時エレベーターの中が少し暑くなったように感じた。彼は唇を噛み、咳ばらいをした。「お礼を言う相手は一花さんだよ。僕はただ、君の状況を彼女に伝えただけで、一花さんは才能のある人を放っておかないからね」「うん、もう彼女にはお礼を言ったわ」茉白はその言葉に返した。侑李はまるで彼女にまた好かれるんじゃないかと心配しているように、よそよそしい態度を取っているから、彼女も多くのことは言わなかった。二人は茉白がおりる階に到着するまで、それ
Read more

第404話

侑李の話を聞いて、その場の全員がしんとなった。みんな互いに顔を見合わせて、まるで何かに気づいたようだった。誰かが茉白を見て、口を開こうか迷っていた。数秒してまた誰かが慌てて言った。「ええ、分かりました!西園寺さん、気を使わせてしまいましたね!」茉白の顔が急に赤くなった。「侑李、じゃなくて、西園寺さん、同僚にコーヒーを頼まれたわけじゃなくて、私が勝手にみんなにご馳走しようと思って買って来ただけです。それに……みなさんが私一人にたくさん持たせようとしたんじゃなくて、私が、私がこうしたいって言ったんです」研究開発部はみんな茉白に対して態度が良かった。一花が事前に挨拶をしていたおかげかは分からないが、それでもこの部署の全員が、新人の面倒を良く見る良い人たちばかりなのだ。だから、茉白は部署の中で妹的な存在になっていた。彼女が来た初めの日、みんなから入職の祝いとしていろいろともらっていた。働き始めてから、茉白はどうすればいいのか、周りに尋ねることができずにいた茉白を彼女たちはとても親切に、自ら手取り足取り教えてくれていたのだ。茉白がもともとあまり情熱に燃えるようなタイプではないにしても、このような待遇に感謝を示したかった。部署のみんなが午後になるとコーヒーを注文しているのを見て、茉白はご馳走したいと言い出した。みんなが遠慮するものだから、茉白は一人でこっそり外に買いに行ったのだ。自分で買いに行けば、きっとみんな断わることはないと思った。そこにちょうど侑李と遭遇したのだ。茉白の言葉を聞き、侑李は瞬時に気まずくなってしまった。「そ、そうだったんだ?すみません、僕の誤解でした」「大丈夫です、西園寺さんは優しい方だから、部下のことを気遣っただけですよ。そんな、謝らなくたっていいですって」その場の空気を丸く収めるのに長けた社員が急いで口を開いた。「二階堂さんがたくさん買ってきてくれたみたいだし、西園寺さんも一杯いかがですか?」「いえ、僕にはまだやる事があるので、これで失礼します。みなさんは引き続きお食事されてください」侑李は気まずそうに鼻の頭をかき、そう言い終わるとそそくさと背を向けて去っていった。秘書も彼の後をすぐに追った。この時同僚の一人が茉白をトントンと叩き、コーヒーを手渡した。「さあ、西園寺さんが気を使ってく
Read more

第405話

茉白はまだ何か言いたげにしていたが、その時は何を言えばいいか分からないようだった。侑李はもう何も言わず、手に持っているホットコーヒーを握りしめて背を向けて去っていった。秘書は茉白をちらりと見た。彼もあまり良い顔はしていない。茉白が部署に戻ると、集まっていた同僚たちはサッと散らばっていった。茉白も思わず驚いた。この時、ある男性の同僚がコーヒーを持ってやって来た。「二階堂さんって西園寺さんのことはあまり好きじゃないんでしょう?なら、どんな男性がタイプなんですか?」「どのみちあなたではないことは確かです」茉白は冷たくそう吐いた。そして彼が自分が買って来たコーヒーを持っているのを見て、それを取り返した。彼女はただ部署の女性の分を買っただけで、男性の分はないのだ。……侑李は一花に用があって来た。もともと、彼は一花とは午後約束していたが、ちょうど昼に時間ができたので早めに来ていた。一花は昼休憩で不在だったので、彼はオフィスで暫く待っていた。彼はやることもなく暇で、茉白がくれたコーヒーを飲んでいた。ブラックコーヒーで、とても苦く、彼は顔をしかめていた。彼は小さい頃から苦いものが駄目だった。茉白ときたらコーヒーをくれるにしても苦いのを選ぶことはないではないか。まったく誠意の欠片もない。この時、一花がドアを開けて入ってきた。ちょうど侑李が苦味に顔を歪めているところを見られてしまった。「侑李さん、大丈夫?」社内で噂が広まるのは早い。一花がさっきオフィスに来る時にある噂を聞いた。それは、侑李がさっき茉白の部署に来て告白し、また彼女にアプローチしようとしているが、それを無情にも断わられた、という内容だった。一花はエレベーターに乗っている時に、心の中で侑李が茉白とは今後友達であるだけで、恋をしないと言っていたのを思い返していた。それがどうしてこんなに早くあの誓いを破ることに?しかも会社で告白など、これは……恥ずかしくないか?「うん、苦過ぎる」侑李はコーヒーを置き、恥ずかしそうに言った。「気持ちが分かるよ。侑李さんもあまり無理しないように」一花は誰かの恋に同情はするものの助けてあげることはできない。ただ侑李の肩を軽く叩き、こう言った。「でも、捨てることはできないよ、もったいないし」侑李は
Read more

第406話

侑李のコーヒーを持つ手に力が入り、コーヒーがそのせいでこぼれそうだった。一花が送ったボイスメッセージは……「二階堂さん、侑李さんがどうしてもあなたを諦められないって。だから一度だけ彼にチャンスをあげるっていうのはどうですか?」一花が茉白とお酒を飲んだ時、実際侑李はまだ諦めきれていないと言いたかった。茉白はどんどん慎重になっていく。つまり彼女もこの状況に耐えられないのだろう。二人が本気で互いに関わらないと決めてそれを貫けるなら別に構わないが、告白するならするで本当の気持ちをはっきり伝えたほうがいい。「い、一花さん!」侑李はまだ咳をしながら一花を呼んだ。彼はこの時顔を真っ赤にさせていた。一花はすぐに彼にティッシュを渡した。「ゆっくり飲んで、そんな興奮しないで……」「僕は……」侑李はむせながら、眉をひそめて一花を見ていた。そして喉が落ち着いてから一花に言った。「茉白に送ったメッセージを取り消してくれ!」「だって、手伝ってほしいってさっき」「僕が言っていたのはコーヒーのことだよ!苦くて飲めないから!」侑李のその一言に、一花も耳まで真っ赤にさせてしまった。携帯を侑李に取られ、彼は急いでさっきのメッセージを取り消した。茉白が暫く経っても返事をしてこないので、侑李と一花は胸を撫でおろした。「彼女はとても忙しいから、さっきのは見てないはず」一花は気まずそうに口角を上げた。侑李はチャット画面に映るメッセージの送信取消表示を見つめて暫く話そうとしなかった。明らかに不機嫌そうだった。今までずっと穏やかな性格の彼がこのように冷たい表情を見せると、非常に驚いてしまう。一花もまるで何かやらかしてしまった子供のように、声を出せずにいた。暫く経って、侑李は携帯を返した。「もし、彼女が聞いていたら……」「その時は私がどういうことか説明しておくから」一花は焦ってそう言った。侑李は頷き、すぐに自分の気持ちを整えた。茉白のあの性格からして、メッセージを聞いていたとしても聞かなかったことにするだろう。だから侑李もそこまで気にする必要はない。侑李は一花との約束を果たすために今日は来ていた。彼は会社の5パーセントの株をすでに一花に譲る手続きを終えた。ここ数日、彼は父親に相談して、一花と勇たちの会社
Read more

第407話

侑李の話を聞いて、一花はどうやら勇は何か隠しているわけではないと分かった。幸雄はただ単純に一花と会ってみたいだけなのだろう。「どうかした?」侑李は一花が何か考え事をしているのが分かった。一花は笑った。「何もないよ。ただちょっと緊張しちゃって。和香さんもおじい様のところにいるみたいだし、彼女が何かしてくるんじゃないかって思っちゃって」「だったら、僕も一緒に行こうか?」侑李は言った。「来週は特に会食や接待とかの予定はないし」「いいの、あなたは最近M国から帰ってきたばかりでしょ。だからちょっとね」一花は軽く笑って、侑李をからかった。侑李はどうしようもなく鼻を鳴らした。それでも侑李は帰る時に、真面目な様子で彼女に言った。「一花さん、あまり心配しないで。西園寺家はなんにせよ、君の家なんだからね」この落ち着いた優しい言葉のおかげで、一花は勇気をもらったような気がした。彼女は嬉しく思い、しっかりと「うん」と返事をした。侑李が帰ってから少しして、一花はいろいろと整理してから早めに仕事を終えた。今日から彼女は会社を休んで、家で数日柊馬と一緒に過ごし、それから幸雄に会いに海外へ行く。夜、敬子たちが家に食事をしに来る予定だから、一花は自分で料理を振舞うつもりだ。一花が疲れるのを心配し、柊馬は事前に多くの食材を用意させていた。朝、彼女が出かける時に、お手伝いの人たちが来て食材の下準備をしていた。それで、一花はどんな料理を作るにしても、基本的に自分で炒めて味付けをするだけでいいのだ。しかし、柊馬はやはりそれは忍びなく、一花がオフィスを出る前にすでにどんな料理を作るのか尋ねていた。一花は頭の中で考えている料理を柊馬に送って教えようとした時、陸斗が夏海の席に向かっているのが見えた。「夏海さん」夏海はちょうど陸斗と話そうとしたところに、一花に呼ばれてすぐに立ち上がった。「一花さん!」「忙しい?」一花は夏海のデスクの上に散乱している書類をサッと見る時に視界の隅に陸斗の姿を捉えていた。その時、彼は手を夏海のデスクの角に置き、スラリとした体を後ろにもたれかけていた。夏海が返事をする前に陸斗が先に口を開いた。「一花君、あまり須藤さんに仕事を任せないでよ、食事に誘うのに時間がないと言われるんだ」「あのね、あなたも
Read more

第408話

夏海は陸斗と関わった女性の結末が最悪なものだということを、誰よりもよく分かっていた。西園寺陸斗という男は悪魔だ!彼は女性の気持ちを弄んで、真心を踏みにじり、人の命など軽視している……あいつは本当に最低な人間なのだ。しかし、それを知ってしまったから、夏海はあの男に近づいているのだ。「夏海さん……」「一花さん、私は自分のことは自分でどうにかできますから、構わないでください。副社長が私に気があるのだとしても、まだどちらが勝つかはわからないのですから」夏海は初めて一花の言葉を断ち切った。夏海は揺るがない表情をしているが、その瞳の奥に宿る氷のような冷たさを一花はこの時初めて感じた。あの、いつもふんわりした可愛らしい娘さんが、まるでこの瞬間人が変わったかのようだった。彼女の口調には意志の強さが表れ、やらざるを得ないといった感じだ。「夏海さん、あなた一体どうしたの?あなたと彼の間には私の知らない何かがあるのね?」一花は夏海の手をとると、彼女の手がとても冷たくなっていた。夏海は下を向き、エレベーターのドアが開いた。駐車場に着いたので、一花はもう帰らなければならない。「ごめんなさい、一花さん。これは私自身の事だから。自分でも極端でバカな考えを持っているって分かっています。だけど……自分でこうするって決めたんです」彼女は目的のためなら、手段は選ばず陸斗に復讐するつもりだった。確かに一花の言うとおり、陸斗との駆け引きは、火遊びと変わりない。夏海がこのような陰険なやり方を考えていると知ったら、一花はきっと許さないはずだ。あの男の名声を奪うだけでは、夏海の心に宿る憤怒の炎を消すことはできない。夏海の手段は効果があるようで、ここ数日、陸斗は明らかに夏海のために自分を変え始めた。彼女の褒め言葉がまるで犬を調教しているかのように、彼の小さな欠点を変えていた。陸斗は毎晩、決まった時間に夏海におやすみの挨拶をする。会社ではいつも何かにつけて夏海の前に現れる。陸斗から見ると、夏海はまさに餌に食いついてきそうな魚なのだろうと彼女は思った。彼女がその彼に気がある態度をとればとるほど、内心どんどんあの男のことを恨んでならなった。自らの命で罪を償え、と思うようになっていく。人の心の奥底に眠る悪魔が呼び覚まされると
Read more

第409話

「合うか合わないかは、俺と彼女が付き合ってみて分かることだろ」陸斗はわざと一花を怒らせようとしている。彼は確かに、ここ最近夏海に非常に興味を抱き、毎日彼女をからかいたい衝動に駆られている。しかし、彼は夏海と深い仲になる気はさらさらなかった。しかし、見た感じ、夏海は自分に惹かれているのではないか?そうでなければ、一花が夏海と話した後、こうやって怒って自分に警告してくることはないだろう?一花が夏海と自分を引き離したいと思えば、夏海に自分から遠ざけさせたらいいだけの話だろう?そう思うと、陸斗は思わず面白くなってきて、口角をにやりと上げた。「やってみればいいわ。私だってあんたを徹底的に西園寺グループから追い出すことだってできるんだから」一花はそう言うと、電話を切った。陸斗に持論を展開させる機会を与えなかった。しかし、陸斗は利益を最も先に考えるタイプだ。夏海が好きだったとしても、一花のこの警告が何かしら彼を尻込みさせるだろうと思った。一花はこのようなスッキリしない気持ちのまま家に帰った。エレベーターから出てくると、彼女は急いで何度か深呼吸し、笑顔を作った。西園寺陸斗、このクソ野郎!一花が玄関のドアを開けると、敬子がまず中から出てきて、温かさを感じる柔らかい体で一花を抱きしめた。「あらまあ、一花ちゃん、おかえりなさい!」たった数日会ってないだけで、敬子はまるでもう何年も会っていないくらいの熱量で一花を抱きしめた。敬子はキラキラと輝く表情をしていて、見るからにとても気分が良さそうだ。美穂も玄関までやって来て、笑顔で一花を見つめた。「お仕事大変だったでしょう?さっき紅茶を淹れたばかりなの、ちょうどよかったわ。飲んでみて」「はい!」美穂と敬子の姿を見て、さっきまでの不愉快さがすぐに消えてしまった。温かく迎えてくれる家族がいる家こそ、本物の家だとこの時一花は身に染みて感じた。玄関を開けると優しさと温かさが満ちている。外でどれだけ雨に打ちのめされたとしても、家族がいればそんなものなど平気だ。和彦は部屋の中にいて、柊馬と何かの話題で盛り上がっていた。一花が帰ってきたのを見ると、柊馬はすぐに立ち上がりリビングから出てきた。一花が美穂がさっき淹れたお茶を持って一口飲んだのを見て、彼は近寄って
Read more

第410話

敬子は今でもまるで夢であるかのような気分だった。小さい頃から殻に閉じこもり、冷たく厳しい性格になってしまった孫が、実は内に優しい情熱を秘めていたのだ。敬子は以前柊馬は愛や恋などよく理解できず、ただ冷たく面白くない性格だから、女性を悲しませてしまうのではないかと心配していた。それが今、あの二人がこんなに親密で仲良くしていることに、敬子はとても安心できた。一花は数分ほど休んでから、すぐにキッチンに行って数人いるお手伝いさんたちと一緒に料理に取り掛かった。柊馬は本来、一花について行こうとしたが、和彦が柊馬にくっつくように、ゲストルームから出てきた。さっき話していたニュースの続きを聞かせたいらしい。そうであっても、一花が料理の半分を作り終えた頃には、柊馬はやはり彼女の傍に行っていた。彼は一花の後ろから抱きしめたい衝動をなんとか抑え、黙って食器を運ぶ手伝いをしていた。「こんなところに立っていたら疲れるでしょ、あっちで座って休憩してて」一花はコンロの火を見ながら、彼にキッチンから離れるように急かした。彼女が話している時、柊馬はそっと彼女の額の端の方を触った。うっすらと汗をかいている彼女を見て、柊馬は眉をひそめた。美穂は柊馬が一花の周りをくっついているのを見て、エプロンをつけて手伝いに来た。「お義母さん、手伝いは必要ないですよ……もうすぐ出来上がりますから」一花も別に一人で料理しているわけではなく、お手伝いさんが一緒にやってくれているので、この時にはもうすぐ出来上がる頃だった。「さあ、一花さん、料理も何品も出来上がってるんだから、そろそろ終わりにしましょ。まったく、私は今大切な奥さんを見て今にも泣き出しそうになっている、とある人物が可哀想なのよ」美穂は柊馬をからかうように言った。それを聞いて柊馬は気まずそうだった。「母さん」柊馬は低い声で彼女に声をかけた。その一言で、美穂は心がとても満たされるのを感じた。美穂は手を振り柊馬に合図した。柊馬は一花を無理やりに連れていった。二人は夕食が始まる十数分前に、二人っきりで寝室に行き、こそこそ話をした。一日中一花に会えなかった柊馬はすでに耐えられなくなっていた。家族が家にいたとしても、ひと時も我慢できない。柊馬は一花を抱きしめてキスの雨を降らせていた。
Read more
PREV
1
...
3940414243
...
48
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status