All Chapters of 偽物クズ夫に別れを告げ、スパダリと政略結婚します: Chapter 81 - Chapter 90

156 Chapters

第81話

柊馬は瞬時に何か理解したらしく、鋭い目つきになり一花に電話をかけた。「もしもし、伊集院さん?」電話に出た時、一花はちょうど和彦と敬子、三人で食事をしているところだった。一花が誰と電話しているのかを察し、和彦と敬子は瞬時に息を潜め緊張しはじめた。一花はそんな二人の変化などに気づいておらず、頷いた。「ええ……だけど、どうして知っているんですか?}柊馬は開口一番、一花に今日この二人が会いに行っていないか尋ねたのだ。「今あの二人がどこにいるか知っていますか?」柊馬の声が再び耳に聞こえてきた。一花はそれでやっと二人のほうへ視線を向けた。彼らは突然姿勢をぴしっと正し、一花に向かって必死に首を横に振っていた。「私の……」一花は少しためらった。「私のところにはもういませんよ」彼女はそわそわした様子で、そう嘘をついた。柊馬はそれ以上は何も尋ねず、そのまま電話を切ってしまった。しかし、この電話から一花は突然悟った。「お二人は……伊集院柊馬さんの……まさか祖父母だとか……」一花はこの時二人を見つめ、特に和彦が柊馬と顔の輪郭が同じで、顔つきもそっくりであることに気づいた。もしそうであれば、今日、この二人の数々の行いには納得がいく。「一花さん、実を言うとね、確かに私たちは……柊馬の祖父母なのよ」敬子はすまなさそうに言った。これ以上隠すことはできないようだから、いっそ全て打ち明けることにした。二人が今回ここへ来たのは、一花と柊馬の婚約パーティーを開くためだった。会場はすでにセッティング済みで、明日の夜八時に南関市で最も有名な七つ星ホテルで行われる。急なことなので、そのパーティーの招待客は多くはない。しかし、二人の身分に相応しい婚約パーティーの内容は一つも欠いていない。伊集院一族は、明日の夜に会場に到着する予定だ。西園寺家のほうにはきっと今頃招待状が届いている頃だ。二人がこのように急いで計画し、この情報が漏れないように厳戒態勢をとっているのも、全て柊馬にばれないようにするためなのだ。「うちのあの可愛い孫ったら、何をするのも完璧なんだけど、こういうことには疎くて……以前、実は婚約が決まりそうだったの、だけどね……」その話をし始めると、敬子は怒りが込み上げてきた。当時、やっと婚約までこぎつけたというのに、会場で柊馬が
Read more

第82話

しかし玄関を開けると、そこには柊馬ではなく、午後のあの高級ブティックのマネージャーが立っていた。彼は手に二つの豪華な箱を抱えていた。金色のリボンがつけられ、いかにも高価なものが中に入っていそうだ。マネージャーは恭しい態度で、両手でその箱を一花の前に差し出した。「お客様、お邪魔いたします。こちらは和彦様、敬子様のお二人から頼まれた品物でございます。午後、ご試着されましたドレスとアクセサリーはすでに一花様のサイズに仕立て直してございます。それを私がお届けにあがりました」一花は体を硬直させ、かなり驚いていた。「私に?」一花は話し終わる前に、視線を箱の側面に貼ってあるタグに移した。そこにははっきりと彼女のサイズと、それからあの真っ白なマーメイドドレスの型番が記載されていた。まさに午後試着している時に、敬子が一目で気に入ったあのドレスだ。この時彼女は、敬子が一花に試着してもらいたいと言った理由を思い返していた。それは、敬子の孫の嫁となる女性のために選びたいというものだった。試着をする時から、あのドレスとアクセサリーはそもそも自分のために用意するものだったのか。一花はとりあえずその箱を受け取るしかなかった。「どうも、ここまでご苦労様です」一花は玄関を閉めて、箱をテーブルの上に置き、まだ思考を整理できていなかった。するとまたポケットの中の携帯が鳴り始めた。今度は柊馬からの電話で、しかも玄関の外からまた聞き慣れたインターフォンの音がした。この時、柊馬が携帯片手に、すでに家の前に立っていたのだ。「開けてください。あの二人がここにいることは分かっています」柊馬の冷ややかなその声に一花は心臓をドキッとさせ、仕方なく玄関を開けるしかなかった。「伊集院さん、あの、私わざと嘘をついたわけでは……」あの二人のご老人たちから懇願する目つきで見つめられて、どうすることもできなかったのだ。「会いたい人にも会えたし、十分遊んだだろ?」すると柊馬はまっすぐに二人の前に歩いていった。この時の彼はかなり不機嫌そうで、ピリピリと張りつめた空気をまとっていた。「柊馬……」敬子はまるで悪戯をして怒られる子供のように柊馬を直視することはできず、和彦のほうも視線を逸らした。「私を見るな、私だっておばあさんに引っ張られて来ただけなんだからな!」「恐らく、
Read more

第83話

柊馬はまた祖父母のほうを向き、かなり穏やかな声に戻って言った。「まずは車に乗って、送っていくから」そして一花のほうを向いて言った。「二人の世話が終わったら、後でまた連絡します。明日の夜のパーティーについて細かいところの確認を一緒にしましょう。何か意見があるところや、変更したいところがあれば、忌憚なく教えてください」敬子と和彦を有頂天にさせるようなこの柊馬の回答に、二人はすぐに反応できなかった。つ、つまり柊馬はオッケーサインを出したということか?すると敬子は一花の手をぎゅっと握った。「一花さん、明日の夜お会いしましょうね!いくら仕事が忙しくてもあまり苦労してはダメよ。明日は会社をお休みしてね。こちらからあなたのところにメイク担当を送るから。明日は時間になったら直接ホテルの会場まで来てちょうだい。私からの婚約のお祝い、はずむから期待しててね」「そうだよ、一花さん。安心して何でもやりなさい。これからは私もおばあさんも、柊馬だってついてるんだ。今後は大きな顔でどこでも闊歩できるぞぉ!」二人はもはや一花を宝物のように、大事にしたくてたまらないようだった。彼らが帰っていった後、一花も急いで自分のチームにメッセージを送った。明日の婚約パーティーへの招待と合わせて、自分がお金を出すからと言ってみんなにドレスを買いに行くよう伝えた。チーム全員はもちろんそのメッセージに狂喜乱舞だった。それぞれ一花に祝福のメッセージを送った。夏海は大袈裟に柊馬のことを褒め称えた。【伊集院社長、ほんっとにカッコいいー!一花さん、私自分のことじゃないのに、感動して涙が出そうです。あの黒崎慶とか大した男じゃないですよ。伊集院社長こそ、運命のお相手だったんです!】夏海はそんな話をしながら、あの日、柊馬が一花を抱きかかえて去っていった時の詳細まで話し始め、グループ内はざわついていた。しかし、当の一花はこれ以上話している暇はなく、さっさと仕事に戻りたいと思っていた。ただ、婚約のことを考えると、どんなデータもまともに頭に入ってこなくなった。頭の中は柊馬の姿でいっぱいだった。昨晩、雨の中自分を迎えに来てくれた彼の姿。そして触れた彼の肌、それにあの傷跡……冷たそうな人なのに、一花に対しては何があっても頼りになる男だ。今日、彼は祖父母から婚約を急かされて明らかに不
Read more

第84話

慶は何かに憑りつかれたかのように、思わず一花の名前を口にした。一瞬のことだったが、その女性は大勢に守られる形で視界から消えていった。「一花って、こんな時にまであの女のことを考えてるわけ?」その名前を聞いた瞬間、綾芽は瞬時にぴりぴりとした空気を出した。しかし、慶は前方を指差して、少し声を詰まらせながら言った。「さっき、彼女だったような……」あの女性の姿は本当に見覚えがあった。顔は見えなかったが、それが一花だと慶は思った。「そんなバカな、このホテルは貸し切られてるのよ」綾芽はただ慶がまた一花のことを思い出したのだと思い、すぐに気分が落ちてしまった。「まさかあなた、さっき車から降りてきた女が水瀬一花だっていうの?」綾芽は嘲笑するように口角を上げた。今日、この婚約パーティーに出席できるのは南関でもトップクラスの大物だけだ。彼ら黒崎家ですら招待されていないというのに、一花がどうしてここに来られるというのだ?「申し訳ありませんが、お二人ともすぐにお帰りください。関係者以外の方には出ていただきます」慶がホテルの中に足を進めようとしたのを見て、スタッフが彼の前に塞がった。その後、またボディーガードの一団がやってきて、ホテルのすべての出入口とエレベーターを警戒し始めた。二人がホテルを出た後、ホテルから数百メートルはテープで仕切られた。これから入る人は招待状を持っていなければならない。「ここまで厳重にやるなんて、さすがは伊集院家ね」車に戻り、綾芽は思わず小さな声でぶつくさと呟いた。しかし、彼女は慶のほうを向き、視界の端で慶の携帯をちらりと見た。「まさかあの女に連絡しようとしてないよね?」「顧客に他のホテルにする連絡を入れただけだ」慶は綾芽の声を聞くとすぐに携帯を閉じた。彼の声は淡々としていて、聞いただけでは如何なる感情も読み取れなかった。しかし実は、さっき綾芽が言ったように、彼は一花のSNSを確認していたのだ。数時間前に一花がLINEのステータス表示を取り込み中に切り替えていたのを見て、ひそかに彼は安堵していた。一花は仕事をする時の癖で、毎回忙しい時にはこのステータス表示に切り替えるのだ。これはつまり、彼女は何かに忙しいということだ。もし、会社の事でないなら、もしかすると個人的に仕事を受けに
Read more

第85話

それに柊馬の祖母である敬子が一花のことをひたすら絶賛するものだから、美穂は余計なことは言わず、用意してきたお祝いを一花に渡した。それは相当高価で希少性の高いスペシャルカットのアレキサンドライトだった。美穂が夜中に隣国へ飛び、オークションで多額の金を使い手に入れたものだ。「美穂さん、これは高価すぎて、私には……」「一花さん、これは絶対に受け取って。私は柊馬さんの実母ではないけれど、彼は私のことを尊重してくれているの。昔からずっと彼には感謝していたのよ。それに、私は心からあなた達二人に幸せになってもらいたいって思っているから」すると美穂は一花を軽くポンポンと叩いた。彼女の声は心にしみるほど優しく、話しているうちに瞳を潤ませていった。彼女は柊馬が結婚できると思うと、心から嬉しく思った。柊馬は父親との関係があまりよろしくない。母親は早くに他界していて、柊馬は小さい頃は祖父母に可愛がられたが、その時期は長くなかった。逆にずっと父親からは厳しい要求をされ続けてきた。美穂は柊馬と接した時間は長くはないが、彼の身の上を知り、心から同情していたのだ。しかし、美穂は一花に多くを語る間もなく、近くにいた知り合いに声をかけられた。この日招待されたのは伊集院家、西園寺家、それから各界の多くの重鎮たちだ。婚約パーティーが始まる前のこの会場は、まるで大規模のトップクラスの名家たちが集うビジネスパーティーのようだった。「一花さん、伊集院一族は多くて、遠い親戚すらも今日は来ているのよ。だから一人一人挨拶して知り合いになる必要はないわよ。今日の主役はあなたなんだから、もっと気楽でいていいわ。私と一緒にいれば、誰もあなたを困らせることなんてできないから」敬子は一花が疲れるのではないかと心配し、一花を美穂に会わせて、ほかの数人の年配者達に挨拶をさせてから、さっさと離れた。毎回、このような場に来ると、挨拶をするだけでかなりの時間がかかるので、敬子は嫌っていた。だから、絶対に一花にまでそのような鬱陶しさを味わわせたくなかった。これと対照的に、西園寺家から出席しているのは非常に少なかった。ただ勇が、侑李の家族たちを連れて来ているだけだった。それから勇の友人が数人と、一花の部下である仲良し五人組だ。和香は病気を理由に欠席し、陸斗も会社が忙しくて離れる
Read more

第86話

この時、一花は政略結婚に少し期待が出てきた。このように柊馬の優しい継母に、慈愛に満ちた祖父母が一花の心に今まで感じたことのない家族の温かさを与えてくれた。柊馬は彼が言っていた八時ちょうどに、パーティー会場の入り口に現れた。柊馬は今日、フォーマルの黒いスーツを着てスラリとしたスタイリッシュな姿だった。シャンデリアのキラキラした明りの下で、彼はいつもに増して格好良く、気品に満ち溢れていた。彼が一花の近くに現れると、会場は一瞬にして静かになった。会場全員の視線はこの二人に釘付けになった。一花と柊馬は会場の端の一角に立っているというのに、シャンデリアから放たれる眩い光がまるでこの二人にだけ降り注いでいるかのようだった。この瞬間、この理想的な二人を形容できる言葉が見つからないほどだった。「伊集院さん、お仕事お疲れ様でした」一花はすぐに柊馬の前にやって来ると、微笑んだ。暖かな色合いのメイクをした柔らかい雰囲気の彼女に見つめられると、氷すらも溶けてしまいそうだ。柊馬はそれに一瞬ぼうっと見惚れてしまい、その後頷いた。「遅くなって、すみません」「遅れてなんていませんよ、時間ちょうどです」一花は優しくそう言うと、自ら柊馬の腕に手を添えた。すると柊馬はドキッとした。この時、司会者が開始の挨拶を終えて、二人に会場の前に出て、指輪を交換するように伝えた。和彦と敬子が二人の隣に立ち、指輪を渡す役を務めた。その指輪はかなり前に柊馬が用意していたもので、シンプルなデザインながらも存在感を出していた。最高級の細工が施され、ダイヤの大きさや色、価値は言うまでもなく、誰もが羨むほどだった。一花は自分の薬指にはめられたエンゲージリングを見て、さまざまな感情が込み上げてきた。柊馬はとても綺麗な手をしていて、照明の下でダイヤが綺麗だからなのか、それとも彼の手に魅了されているのか分からなくなってしまった。「一花さん、今日はとても綺麗です」その時突然、柊馬のその言葉が耳に飛び込んできた。彼の声は低く、相変わらず穏やかで力強かった。しかし、このような至近距離で、低い声で言われると、心臓が飛び出してしまいそうだった。「ありがとうございます」彼女の顔は一瞬にして真っ赤に染まった。柊馬のほうへ顔を上げ、以前と変わらない冷たい瞳を見た時
Read more

第87話

柊馬のオーラは本当に桁違いだ。さっき彼が会場入りした時、遠く離れたところにいても、人を寄せつけない威圧感があった。きっと一花のように完璧な容姿と、強い心を持つ者だけが、冷静に彼の傍に立っていられるのだろう。「一花さん、伊集院社長とすごくお似合いですね。さっきお二人が指輪の交換をしているシーンなんて、すっごく感動してしまいました」夏海の隣にいた女性がそう言いながら、鼻をすすり目を赤くさせていた。「みんなどうしたのよ、婚約しただけなのに……なんで泣くの?」「だって、一花さんは素敵な女性で……」「そうよ、一花さん、やっと幸せを手に入れられたから……」「伊集院社長、一花さんは本当に、本当に素敵な方なんです!綺麗だってことは彼女の素敵なポイントのほんの一部分にすぎません。彼女の素敵なところはもっとたくさんあるんです。だから、絶対に彼女のことを大切にしてくださいね!」黒崎グループで、唯一慶と一花の関係を知る人間は彼女たちだけだ。一花と慶がこのような関係だったことも、彼女たちが黒崎グループを辞めてから、一花が教えたのだ。以前、黒崎グループにいる頃、一花は真面目に働いていただけで、慶と一花の関係を知る人間は一人もいなかった。一花が慶にされたことを考えると、もし彼女たちがその立場であれば、さっさと自分のチームを連れて会社を去っていたところだ!一花は柊馬の目の前でここまで褒められると、少し恥ずかしくなってすぐに止めに入った。「分かった、分かったから。伊集院さん、お忙しいでしょう?私に構わなくて大丈夫ですよ。彼女たちは大袈裟なんです、気にしないで……」「彼女たちは本当のことを言っていると思いますよ」柊馬は淡々とそう言ったが、去ることはなく席に座った。彼はテーブルについている彼女たちへ視線を向け、やはりクールな雰囲気を出してはいたが、口調はかなり優しかった。「もっと、一花さんの素晴らしいところを教えてもらいたいですね」柊馬の後ろに控えている秘書の湊はその言葉にかなり驚いていた。社長は伊集院グループの提携先にも、ここまで距離を縮めたことなどない。「それでしたら、山ほどありますよ!」夏海の隣にいる女性がまた口を開いた。すると一花はさらに顔を赤くさせた。「食事は始まったでしょ、あなた達お腹空いてないの?私はぺこぺ
Read more

第88話

その女性は、あの舞踏会で柊馬とダンスをしていた彼の幼なじみの陽菜だ。この日、陽菜もフォーマルなドレスに身を包んでいた。ライトブルーのキャミソールドレスだった。それは恐らくオーダーメイドで、使用されている生地もかなり高級そうだった。全体にキラキラとビーズがあしらわれていて、柔らかな白のシルクのショールを肩にかけ、彼女本来が持つ優雅さと気品がさらに増していた。ただ、この時、彼女の顔は真っ赤で、視線も焦点が合わず虚ろだった。どうやらかなりのお酒を飲んでいるようだ。「陽菜か、なぜここに?」柊馬は陽菜を見ると、声が幾分か沈んだ。「あなたの婚約パーティーなのに、お祝いに来ないわけないでしょ?」陽菜は柊馬にお祝いの乾杯をしてそう言い終わると、すぐに一花のほうへ視線を向けた。陽菜は瞼をピクリと動かし、サッと一花に目を通すと、うっすらと笑みを浮かべた。「一花さんでしたよね、本当にお綺麗な方ですね。さすが、柊馬が選んだ婚約者……どこから見ても、二人はとってもお似合いです」その言葉の端々に嫉妬が感じられる。どうやら、陽菜は柊馬に特別な感情を抱いているようだ。今日は自身の婚約パーティーなのだから、周りの褒め言葉が本心からであっても、嘘であっても、一花は全てを受け止めた。「お褒めいただき光栄です。あなたもお綺麗ですよ」陽菜も容姿端麗だ。クールで品があり、とても美しい。「運がなければ、いくら綺麗でも意味はないですよ。人ってよく、誰かを思った時にはいつもすれ違うし、ここぞって時に限って、タイミングが合わないものでしょう」声を暗くし陽菜はそう言った。話している時はまた柊馬のほうへ視線を向け、ふいに涙を浮かべた。一花は陽菜の言いたい事は、はっきりとは分からなかった。同じテーブルの友人たちは何かを察し、敵を目の前にしているかのように、みんな緊張した面持ちになった。結局はその場の全員、柊馬に視線を向けるしかなかった。「陽菜、飲み過ぎているようだぞ」柊馬はこの時すでに如何なる感情も顔に出していなかった。彼女は湊のほうへ顔を向けて指示を出した。「如月さんを送ってくれ」「はい……」湊はすぐに頷き、急いで陽菜の体を支えようとしたが、彼女はそれを避けて、足元をふらつかせながら柊馬の前にやって来た。「私たち、古い付き合いでしょ。
Read more

第89話

「あ、はい」「ありがとうございます」みんな好奇心を持っていたが、柊馬のオーラにおされて誰も余計な事を聞く度胸はなかった。一花は一瞬ためらったが、小さな声で尋ねた。「伊集院さん、如月さんはさっき取り乱していましたが……追いかけて様子を見なくていいんですか?」一花は侑李から陽菜が書道家家庭の出身で自分を律する人間だと聞いていた。それが今さっきのように取り乱しているのだから、相当ショックを受けているに違いない。この時、柊馬の口調はさらに穏やかになっていた。「今日は俺たちの婚約パーティーなんだから、一花さんが主役ですよ。来栖が彼女をきちんと家まで送りますから、関係ない人間のせいでこの場が乱されるべきじゃないでしょう。俺はあなたの婚約者なんですから、婚約パーティーで他の女を追いかけるなんて、そんな失礼な真似はできませんね」陽菜の登場によって、一花はこの政略結婚に対する期待が薄れてしまいそうになった。しかし、柊馬があっさりと陽菜を切り捨て、一花のことを重視する言葉を言ってくれた瞬間、気持ちに変化があった。一花はこの婚約パーティーは、ただ形式上のものだと思っていたのだが、柊馬は真剣に向き合い、彼女の気持ちもきちんと考慮してくれている。婚約パーティーが終わると、敬子と和彦は一花にすぐにでも柊馬の屋敷に引っ越してもらいたいほど、別れを惜しんでいた。その熱烈さに直接断わることなどできず、仕事の都合と言って、なんとかその場をおさめた。柊馬が自ら一花を家まで送り届けた。一花は連日の仕事の疲れがあり、車に乗ってすぐに寝てしまった。目を覚ました時には、すでに車は自宅の下に停まっていた。柊馬は隣で、静かに彼女が目を覚ますのを待っていたようだ。「伊集院さん……すみません、私、どれだけ寝ていました?」一花は時間を確認すると、驚いて思わず息を吸い込んだ。「もうこんな時間……起こしてくれればよかったのに!」……すでに夜中の一時だった。一花は一時間以上も寝てしまったのだ。「ぐっすり寝ていたから、起こさなかったんです。帰って早めに休んでくださいね」「はい、ありがとうございます」一花は頷き、これ以上彼の邪魔にならないよう、すぐに動きだした。彼女が車を降りる時、振り返ってみると柊馬が顔を下に向けて鼻根を指で軽く押さえてい
Read more

第90話

「柏木さん、急いで社長室に行ったほうがいいですよ」相手が催促するまで、綾芽はずっと呆然としていた。ハッと気づくと彼女は一言返事した。「すぐに行くわ。あなたは仕事に戻って」その人がいなくなると、綾芽はすぐに携帯を取り出して慶に電話をかけた。慶はこの日、ちょうど外出して会社にいなかった。「慶、どうしよう。あなたのお父様が今会社に来てるみたいなの!」綾芽のその言葉が聞こえると、慶は予想外のことにかなり動揺した。彼は今から顧客に会う予定だったが、それを聞くとすぐに慌て始めた。「本当なのか?」「私、社長室に呼ばれてて、行かなくてもいいかな……」綾芽はそう言いながらバッグを手にとり、外に向かった。彼女は今黒崎家に対して過剰な反応を見せる。「綾芽、落ち着いて。父さんが会いたいと言っているなら、行ったほうがいい。父さんは母さんより話がしやすい。きっと大丈夫だよ。俺は今からすぐに会社に戻るから、君は少し耐えていてくれ」慶は則孝の性格をよく理解している。綾芽が今逃げてしまえば、ただ則孝の怒りをさらに買うだけだ。その火の粉が慶にもふりかかるだろう。「嫌よ、私行きたくない……」綾芽は今回ばかりは慶の言うことを聞くつもりはなかった。しかし、彼女がいたフロアから出る前に、数名の警備員に捕まってしまった。則孝は事前にそう準備していたらしい。するとすぐに綾芽は社長室に連れて行かれてしまった。この時、則孝は会社の最近の事業と業績データに目を通したばかりで、すでに相当不機嫌そうにしていた。会社の状況がここまで荒れているというのに、慶は全くこの件に触れてこなかった。以前、一花が会社にいた頃は業績は好調だった。それで則孝は自分の席を完全に慶に譲ったのだ。それがまさか、まだ半年も経っていないというのに、会社はここまで落ち込んでしまった。もし株主の一人が電話でこの近況を訴えていなければ、則孝も一切知ることはなかった。一花がこんなに長い間会社を不在にしているというのに、慶は柏木綾芽という女を会社に連れ込んだのだ!昨夜、夜中過ぎに則孝がこの知らせを受け取った時、危うく妻の京子にまで手を出しそうになった。こんな大ごとになっているというのに、京子は息子のためにずっと隠していたのだ!京子は一晩中泣き、慶に伝えようと思ったが、携帯
Read more
PREV
1
...
7891011
...
16
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status