All Chapters of 悪魔祓い(デビルブレイカー): Chapter 71 - Chapter 80

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第36話 命の選別

次の日の明朝4時半。この日もグレンとドグマはいつも通り川で魚を獲りに行った。「(もう慣れてしまったな。)」昨日と同じ様に手掴みで流れる様に魚を獲っていく。そして獲った魚を竜の遺跡へと運び、家に戻ってから朝食を食べた。「今日は龍脈樹には行かん。」グレンは朝食を食べた後、ドグマにそう言われ家を出た。この日、グレンはドグマに連れて来られたのは竜の遺跡から更に奥にある祠(ほこら)だった。その祠の入り口前には巨大な竜の像が建てられており、ドクマはその入り口の前に立ち止まった。「何だ、ここは?」グレンは立ち止まったドグマに質問する。「ここは[竜の試練洞(しれんどう)]。竜の民が龍技を極める為に用意された修行の場だ。竜の試練洞。この祠は竜の遺跡で祀られている龍神が、かつて龍技を極めたいと願う者の為に用意した神聖な修行場。数世代にわたり、伝承されてきた場所である。入り口は森の中にひっそりと隠されてあり、入り口から流れる空気が重い。龍脈樹(りゅうみゃくじゅ)の様に祠の中からまるで生き物の様に魔力が渦巻いているのを感じられた。「ここは龍技を極める為に用意された修行場。グレン、昨日説明した竜挐(りゅうだ)を覚えているな?」「ああ。3つの龍技を同時に使う事で起こる龍技の真髄の最終奥義。昨日、あんたが言ってたよな。」「そうだ。[心眼点睛]、[技之乖離]、[戮力体竜変]。この3つを極めた竜の民が使える奥義だ。この竜の試練洞では竜挐を極める為の修行を行う。」そしてドグマは竜の試練洞へと近づいていき、中へと入っていく。入った瞬間、空気が身体に張り付き乗し掛かる感覚がした。心眼点睛を習得してるグレンには周囲に充満している魔力の流れを目で見る事が出来る。試練洞の中に充満している魔力は、上からグレンに圧を掛ける様な流れ方をしている。まるでこの祠がグレンを試しているかの様だった。「生きてるみたいだろ?だが、試されるのはここからだ。」「ふん、だろうな。これくらいは試練の内には入らねえだろ。」「当たり前だ。こんな事で怖気つく様な奴をここに連れては来ない。」ドグマの発言から、この祠は修行場所であると同時に危険な場所なのだと感じた。その理由をグレンはまだ知らないが、すぐ分かる事になる。昨日までの修行が天国の様だったと。「…よし、もう着くぞ。」前を歩く
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第36話 命の選別②

「うわぁぁぁぁぁ!!!ガルムが!…ガルムがあぁ!!!」ティアは胴体が分かれ絶命したガルムの上半身を抱きしめながら叫んだ。靴に血が滲むほど急いで走りドグマ達を呼びに行ったティアは決して遅くなかった。しかし、間に合わなかった。「誰が…こんな事を。俺達竜の民をこんな…こんな…。」ドグマは目の前の惨状を受け入れられずにいた。つい竜の試練洞に行く半日前までは普通の平和な生活を送っていた。昨日は龍神の祭日で民の皆んなが共に飲み食いしながら楽しんだ。ティアとガルムはもうすぐしたら祝言を挙げる予定だった。ーー皆んな今日を生き、明日を楽しみに過ごしていた筈なのに。修行が長引かずここに俺達が居ればこんな事には…。「チクショウ……チクショウ!」ドグマの目からはこの場に居なかった自分に対する悔しさの涙を流していた。「……」グレンは2人と違い、この現状をただ茫然と見ていた。それは彼が他人を想う気持ちが無いからでは無い。ここでの生活を思い出していたからだ。不便な生活であったが、他所者のグレンに優しくしてくれた民達。ドグマが言っていた。ここに住む民達は生活の為にそれぞれ役割を全うしながら助け合って生きていた。それぞれが良い人生、良い流れを築く為に。そんな人達が居るここの生活をグレンは好きになりかけていた。一瞬思っただけであるが、故郷の様な平和なこの竜の遺跡にこれからも住みたい。そう少しだけ思えた。それを、こんな…こんな酷い形で終わらされた。まるであの時のキュアリーハートと同じだ。何の脈絡も無く平和な日々を終わらされた。「…許せねえ。」ポツリと小さく、そして力強い声でグレンは呟いた。ーー竜の民達をこんな風にした奴を、絶対に許さねえ!激しく怒るグレンは心の中でそう叫んだ。「あれ?まだ生き残りが居たんだ。」グレン達が向いてる方向とは反対方面から声が聞こえた。グレンとドグマはその声に反応し、振り返った。漆黒のローブを身に纏った緑髪の男と後方には黒い皮膚をした悪魔が20数体、そして他と比べて身長が低い奴が1人居た。すると漆黒のローブを纏った男がグレンの方を不思議そうに見ていた。「赤い髪…その魔力。…もしかして、グレン?」「何で俺の名前を知ってるんだ?」初対面と思っているグレンは突然面識の無い相手に名前を呼ばれた事に驚いていた。グレ
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第37話 繋がり

ウィリディスが使用する魔法属性は空間。空間属性の神級魔法、[デリート・コネクト]。指定した部分に「シフト」と唱えると四角い透明の立方体が現れ囲う事が出来る上に、必要に応じてその立方体を広げる事が出来る。立方体の範囲を自在に広げて囲み、「デリート」と唱えればその指定された範囲を跡形も無く消す事が出来る。例えるならパソコン画面上の矢印カーソルを目的の場所に合わせて範囲指定し、一気にdeleteキーを押すイメージだ。この「シフト」による範囲指定と「デリート」による削除能力を、ウィリディスは現実世界の空間に存在する物質、生物、そしてあらゆる環境を対象に使用する事が出来る。ウィリディスが最初に竜爪の錯林(りゅうそうのさくりん)の木々を一瞬で消し去ったのもこの力のお陰であった。そして。「シフト」「コネクト」ウィリディスは両手を上空に挙げると巨大な立方体を展開し、「コネクト」と唱えた。その範囲は竜の遺跡を全て覆える程。しかもその上空に展開された立方体の中には最初に消し去った森の木がギッシリと敷き詰められている。そう。この木は「デリート」によって消された森の木の残骸であった。「コネクト」とは接続という意味。ウィリディスは「デリート」で消した範囲の木を「コネクト」する事で上空の立方体内に配置したのだ。そう。[デリート・コネクト]は空間を透過的に選んで削除し接続できる魔法。「シフト」で範囲指定した空間を支配する事が可能。そして上空の立方体の底がパカッと扉の様に開かれる。開き始めた隙間から木がどんどん竜の遺跡がある地上に向かって落ちていく。1本1本が大きく質量のある木。落ちる度に地面の砂埃が舞った。まるで雨の様…いや、そんな生優しいものでは無い。逃げ場を与えない広範囲を覆い尽くした木々による酷(むご)い圧殺方法。そして一度に落ちてきた大量の森の木によって竜の遺跡は飲み込まれてしまった。一方、ウィリディスは空間移動で上空に転移しており、木に押し潰され跡形も無く消え去った竜の遺跡の惨状を見下ろして見ていた。「…やっぱり、こんな程度でグレンは死ぬ訳ないか。」見下ろしながらそう言うウィリディス。どうやらグレンが攻撃を回避してる事に気付いている様だ。「出てきなよ。…決着を付けよう。」「紅の悪魔祓い、グレン。」ウィリディスの言葉と共にグレ
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第37話 繋がり②

そして更に日が経ち、イフリークがPDO(プロジェクト・デビル・オペレーター)によって壊滅状態に陥った翌日。(第9話参照)レミールも同様に危機が迫っていた。その理由は巨大な力を持った悪魔が悪魔の軍勢を率いてこのレミールに近づいていたからだ。悪魔祓いは悪魔の魔力に対する感知能力が高い為、ウィリディスはすぐに気づく事が出来た。そしてその事をすぐにレミールの国民達に伝えた。伝えられた国民達は全員恐怖に満ちた表情をしていた。「あぁ、悪魔達がまたここへやってくる…嫌だ、嫌だぁ!」「もう…お終いだ。」悪魔の脅威を目の当たりにし目の前で国を壊されてきたレミールの国民達。絶望した国民達の中には誰1人として戦おうとする者は居なかった。「……」国民達は絶望するだけで誰1人として打開策を口にする者は居ない。ーー自分以外の誰かがやってくれるだろう。国民の中にはそう言ってるかの様に、チラチラとウィリディスの方を見てくる人がいた。「(皆んな、僕の方をずっと見てくる。…当然か。)」悪魔祓いの力があるウィリディスに戦って欲しい。そう言われているかの様な空気感を出され、いつの間にか自分が行くしかない状況になっていく。「…僕が、行きます。」ウィリディスは歯切れの悪い感じで言った。まるでこの状況に言わされたかの様だった。それを聞いた国民の1人、バッカスが急に笑顔になってウィリディスの手を握った。「悪魔祓い様!…ありがとうございます!」そのお礼が既にウィリディスが行くのが決まってるみたいな言い方だった。「本当にありがとうございます!」「彼が戦ってくれるならもう安心だ!」「ああ!もし悪魔祓い様に何かあったその時は、俺達が助けに行きます!」「そうだ!困った時はお互い様!」ウィリディスが行くと言ってから重苦しい緊張状態から解き放たれた様に、次々と口を開いていく国民達。気が楽にでもなったのか?僕が戦いに行くって言ったから?ーー本当に、都合の良い人達だな。しかし、例え心の中でそう思っていたとしてもウィリディスはレミールの国民達との"繋がり"を断ち切る事は出来なかった。だから頼まれれば言う通りに戦うし、自分が出来る限りの事をしたいと思っていた。「では、行ってきます。」そう言ってウィリディスは空間移動し、悪魔の元へと向かった。ウィリディスが向かった悪魔の
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第37話 繋がり③

時は現在に戻る。グレンとウィリディス。悪魔祓いの2人は互いに激しい空中戦を繰り広げていた。「シフト!」「シフト!」「シフト!」ウィリディスは動き続けるグレンに指差しながら連続で「シフト」を唱え、透明の立方体で閉じ込めようとする。しかしグレンは竜の翼を羽ばたかせながら急速旋回し、出てくる立方体を避けていく。シフトは狙いを定めた場所にしか立方体を出せない為、動き回る対象を閉じ込める事が出来ない。その為、動き回るグレンは捕まらない。しかしその一方でグレンも立ち止まってしまうとウィリディスの「シフト」に捉えられる可能性がある為、常に動き続ける必要がある。現にウィリディスの「シフト」を繰り出す早さと瞬発力はグレンも反応が遅れる程のレベル。少しでも隙を見せて「シフト」による立方体に捕まれば詰み。「デリート」されたらグレンは確実に消されてしまう。そんな中で動き続けるグレンはウィリディスに対する決定打を見つけられず、体力だけが削れていく。「(指先の向きと魔法を発動するタイミング。魔力の流れが分かってるから今の所あの立方体に捕まらずに済んでいる。)」グレンがウィリディスの「シフト」を避け続けられるのは魔力の流れを読める事も理由の一つである。しかし、グレンは違和感を感じていた。「シフト」で指す向きのタイミング。そして立方体の位置関係が妙に等間隔に感じられた。ウィリディスが「シフト」で出す立方体は複数同時に出す事が可能であり、グレンを捉えられなかった立方体はそのまま宙に浮かんでいた。まるでグレンを誘導する様に避けさせ、気付けばグレンは宙に浮く複数の立方体に取り囲まれていた。その立方体の数10個。グレンの周りに浮かんでいた。「ドラッグ・シフト」両手を上げながらウィリディスは両手の指を素早くランダムに動かすと、10個の立方体が指の動きに合わせて高速に動き出した。ウィリディスの空間魔法で作られた立方体はパソコンで範囲指定した図形の様なもの。その立方体はパソコンのマウスでドラッグ操作するみたいに動かす事が出来る。動かせる立方体の数は指の数。つまりは10個まで。ウィリディスは10個の浮いた立方体を指で操作する事により、高速で動く立方体をグレンに当てようとしていた。あまりの速さによって逃げ場のない10個の立方体に襲われるグレン。そして1つの立方体が
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第37話 繋がり④

「グアッ!何だ…この打撃は…身体が、動かない。」 竜挐(りゅうだ)を喰らったウィリディスは身体が燃えていき、何故か分からないが身体が硬直した様な感覚に陥った。 心眼点睛によって相手の弱点を見極め、そこから技之乖離(ぎのかいり)による威力強化。 更にそれらの効果を更に向上させる戮力体竜変(りくりょくたいりゅうへん)。 それらを併せた一点集中型の竜挐(りゅうだ)による攻撃は、相手に流れる魔力の"歪み"を的確に見つけ当てる事が出来る。 身体に流れる魔力の"歪み"とはその人の弱点となりうる急所の部分。 その急所の部分に強い外力が加わる事で魔力の流れは緩やかに停止していく。 ーー魔力の流れは生命の流れ。 ドグマが20体の悪魔を殴っただけで生命活動を停止させたのも同じ原理。 龍技を極めし者は全ての流れを理解し、それら全てを制する者でもあった。 「くそ!…身体が…それに、意識がどんどん…と…。」 魔力の歪みに竜挐(りゅうだ)を喰らったウィリディスは魔力の流れが弱まり、意識が朦朧としていた。 そしてウィリディスの動きは緩やかになっていき、意識が遠のくと全身の力が抜ける。 立ったまま肩が落ち上半身が前へと傾き俯いた。 この時点でウィリディスは戦闘不能に陥った…様に見えた。 ドォォォオオ!!! ウィリディスの全身から掌に溜めた時と同じ様な黒い魔力が溢れ出す。 「……ククク。やっとだ。やっとこのガキから解放されたぜ。」 前に俯きながらウィリディスは口を開いたが、声質とその喋り方はまるで別人の様であった。 そして顔を上げると先程とは違い、歯を剥き出しにした野生的な表情でグレンを見ていた。 「ありがとよ、悪魔祓いのガキ。このウィリディスにダメージを与えてくれて。お陰でこの身体は俺の物になったぜ。」 「何だと?…もしかして、あいつの中に居る悪魔…おい、リフェル。あいつはどんな悪魔だ?」 すぐにウィリディスの中に居る悪魔だと察したグレンは、自分の中に居る悪魔であるリフェルに確認をする為に声を掛けた。 (ああ。奴は悪魔だな。だが、今までの悪魔や獄魔とは違う性質の悪魔って感じがするな。) (俺がお前の身体を乗っ取る時と同じ。いや、あいつは完全にあのウィリディスって奴の身体の主導権を握ってやがる!) 悪
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第38話 グロード・リオ・イシス

今から400年ほど昔、一人の王がいた。その王は人々に知識、魔法、武術。その全てを国民に広めていき、その中でも魔法の知識量はこの世で一番だった。王には3人の弟子がいました。その内の1人、1番弟子のグロードは無口であるが根は優しく、王の次に強大な魔力を持っていた王国最強の魔導師。そう。これはグロード・リオ・イシスという男の物語。彼は400年前の人間であるが現在も変わらず生き続けていた。その400年前の話である。400年以上前。ここは現在でいう神の遺跡と呼ばれる場所。当時はまだ4大国が建国されておらず、世界ではこの神の遺跡が1番栄えていた。神の遺跡。またの名を[リオ王国]と呼ぶ。[リオ]とは神の遺跡で祀られていた森羅万象を司る神の名であり、この世界を創造した創世神とも呼ばれている。そしてこの国の国民はこの世界の創造によって生まれ落ち、リオが眠る大地で暮らす事を許された一族。[リオの一族]とそう呼ばれていた。リオの一族は神が眠る大地に住める事への感謝を表す為、国民全員が自分のファーストネームとラストネームの間に[リオ]の名を入れていたのだった。そんなリオ王国の国王であるリオ3世。ソルロ・リオ・リュミエール。彼はこの世で初めて魔法を使えた人物であった。現在では当たり前の様に生活の中に魔法が介在しているが、この時の魔法というのは空想上のおとぎ話と同等の存在であった。しかし、リオ3世は人には魔法を使う為の魔力が先天的に備わっているという事を見つけ出した天才であった。それからリオ3世はリオ王国の生活を豊かにする為、色んな人が魔法を使える様に国中に広めていった。だが、魔法を使う為の魔力量には個人差があり、誰しもが魔力量の多かったリオ3世と同じ様には出来ずあまり生活の豊かさには直結しなかった。長年の課題であったが、それを解決に導いた人が 居た。グロード・リオ・イシスである。彼は当時10歳であったが、既にこのリオ王国の中でリオ3世に次ぐ魔法天才児であった。赤髪に優しい顔立ちのグロードはとても物静かでいつも机で魔法学の本を広げている子であった。無口であるが実直で真面目な性格の彼は生まれつき強大な魔力を保有しており、それに気付いたリオ3世から養子の誘いを受けた。元々の家族は居たのだが、6歳の頃家が貧しかったグロードは家の負担を減らす為とリオ
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第38話 グロード・リオ・イシス②

そして次の日の朝。グロードとアガレフは月の遺跡へ向かう準備をしており、王宮の外には2人を見送る為に沢山の国民達が集まっていた。2人はリオ王国内では沢山の任務を受けていたが、国外に出て何かをするのは初めてであった。更にリオ王国内では英雄の様な存在である2人は皆んなの憧れであり、国民達全員から愛される存在であった。「グロード様!アガレフ様!お気を付けて!」「ああ。行って来る。」王宮の兵士に言われたグロードとアガレフは一礼し、王宮を出た。王宮を出た途端、国民達による大きな歓声が飛び交った。「お二人共ー!どうか無事に帰って下さい!」「月の遺跡の化け物なんかに負けないで!」「グロード様とアガレフ様が組めば敵なんて居ないさ!」「そうさ!何たってリオ王国最強の魔導士だぜ!化け物なんて全部倒してくれる筈さ!」「頑張れー!!」向けられる歓声に対し、それに応える様に2人は国民達に手を挙げて振った。リオ3世とベリエルはその場に居なかったが、王宮のベランダから2人が歩いて出て行く姿を見ていた。「ベリエル。お前もいつかきっとあいつらみたいになれる筈だ。」「…はい。僕も兄さん達に追いつける様に努力します。」リオ3世は2人の姿を見つめながらベリエルに向けてそう言った。ベリエルはそれに対し表情を変える事なく、リオ3世と同じ様に2人を見つめながらそう答えた。何を思っているのか分からない程、表情が全然変化しないベリエル。グロード達と暮らしていく内に嬉しかった時の表情だけは作れる様になったベリエル。だが、大きくなってもそれ以外の感情による表情は作れない様だった。その表情の裏に潜む感情を読み取る事は誰にも出来なかった。数週間後、グロードとアガレフはようやく月の遺跡の近くに着いた。月の遺跡の周りは乾燥地帯である。現在はティラーデザートと呼ばれる砂漠地帯となっているが、それでも当時は所々に草木が生えていた。しかし月の遺跡に近づけば近づく程、乾燥が酷く草木もあまり生えていなかった。そしてようやく月の遺跡には着いた。月の形をした石像が上に飾られた神殿が遺跡の中央に建てられ、その周りには[月の民]と呼ばれる民族が住む石造の家が多数建てられている。化け物が居ると聞いていた為、酷く荒らされているイメージを持っていた2人であるが、見た感じその様な形跡は見られない
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第38話 グロード・リオ・イシス③

それからもグロード、アガレフ、ベリエルは共にリオ王国で平和な日々を過ごしていった。グロードはあれから魔法の鍛錬を積んでいったが、時々月の遺跡へ出向いてアマルとサマスに修行を付けてもらう事が増えた。アガレフもグロードと一緒に月の遺跡へ出向き、修行を付けてもらっていたが彼には既に沢山の弟子が居た為、都合が合わない日が多かった。そしてベリエル。彼はこの頃になると部屋に閉じ篭もる事が増えた。理由は分からないが、何を聞いても調べ物をしてるだけだと言い、詳しい事はグロードとアガレフに教えようとしなかった。一度気になったグロードとアガレフはベリエルの部屋に行ってみた。扉の前でアガレフがグロードに言った。「ベリエルの奴、朝から部屋でずっと何かしてるみたいなんだが…どうも様子が変なんだ。」「ああ。確かに変だ。ベリエルがこの部屋に閉じ篭もってる間、一切の魔力を感じないからだ。」異変に気付いたのはグロードも同じであった。魔力を感じない。というよりも、まるでそこにベリエルが存在していない様に感じられた。気になったグロードはベリエルの部屋の扉をコンコンとノックした。数秒待っても反応は無く、静かなままであった。「…やはり様子が変だ。扉を開けるか?」「待て、アガレフ。流石に勝手に入るのは…。」すると目の前の扉がギィィッとゆっくり開く音が聞こえてくる。中からは相変わらずクマが酷いもののいつもの変わりない表情と姿、そして魔力のベリエルが出てきた。「…どうしたの、兄さん達?」何故か扉の前にグロードとアガレフが居た為、キョトンとした表情で2人を見ていたベリエル。「…いや、…何でもない。ずっと部屋に閉じ籠ってるから心配になってな。」「そ、そうだ。偶には、外に出て身体を動かしたらどうだ?」さっきまで魔力が感じられなかったベリエルはまるでそこに居ない様な気配であったが、突然その場に現れた様な気配に2人は驚く。しかし、一先ずベリエルに変わりがない事を確認して2人は安心した。「……んー、確かにそうだね。偶には身体を動かさないとね。…明日、久し振りに兄さん達に稽古を付けてもらおっかな!」グロードとアガレフにそう言われて頭を傾げ、少し考える様な間が気になるがすぐに笑顔になった。それを聞いたグロードとアガレフもベリエルに釣られて笑顔になった。「ああ。勿論だ。」「
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第39話 選択

月の遺跡から現れた古の化け物達が世界中を暴れ回った事により、多数の他国の人が亡くなったこの事件は世界中で瞬く間に広がった。現去流時(げざると)で生き返るのは、同じ種族の人間のみ。つまり、月の民が生き返った事により他国の人間は殺されて亡くなったままであった。これにより、今回の首謀者は今まで古の化け物達を野放しにし続けてきた月の民の責任だと言われ、これが更に月の民達への差別が助長される要因となった。この差別は風化される事が無く、時間と共に他国からの恨みばかりが募っていった。一方、古の化け物達を倒し世界の人々を救ったと持ち上げられたグロード。彼は世界の英雄として一躍有名人となった。沢山の人に賞賛され、感謝される日々。中にはグロードが古の化け物達を倒した事を記す為、絵物語を書きたいと懇願してきた絵師も居た。ーーもう、好きにしてくれ。投げやりに全てを受け入れるグロードは、ほとぼりが覚めるまで、人々の"英雄ごっこ"に付き合った。そして50年が経った頃には彼の事を知る者が死に去っていき、その頃にはもうグロードの事を英雄と呼ぶ者は居なくなっていた。50年も経てば時代の流れもそうだが、人々の価値観や文化も大きく変わっていく。しかし、変わらないものもあった。1つは月の民の差別。これはいつまで経っても、古の化け物達が世界中を暴れ回り、その生まれ変わりが現在の月の民だと後世に語り継がれていた。その為、実際古の化け物達が暴れた所を見た事がない後世の人々も、月の民が恐ろしい存在であるという価値観だけ植え付けられていた。そしてもう1つ変わらない事がある。これは50年経つ前から感じていた事だ。歳を取っていない。グロードは40歳の姿から変化が見られ無かったのだ。何故変化が無いのか?それはベリエルが掛けた呪いのせいであった。ベリエルはリオ王国の人達を超月食の日に自身の生命エネルギーに変換させ、それによってベリエルは不老不死となった。そんなベリエルに掛けられた呪いにはある条件があった。「この呪いは、術者が死ぬまで継続されるものである。」つまり、これはベリエルが死ぬまで呪いが解けないという事だ。不老不死になったベリエルは死なない為、呪いを掛けられたグロードとアガレフも必然的に不老不死となってしまった。これが、2人が400年間死ぬ事なく生き続けてきた理
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