波はすすり泣きを止め、彼にそう問われて一瞬、呆然とした。どうしていいかわからないまま、困惑と哀れみを滲ませた目で彼を見上げた。「龍司……やっと帰ってきたのね。今日は……」「外して」龍司の声は穏やかだったが、そこに疑いを差し挟む余地はなかった。胸いっぱいに用意していた告げ口の言葉は、一つも口に出ることなく、不意を突かれた彼女は思わず聞き返した。「……え?」龍司は辛抱強く、もう一度繰り返した。「そのジュエリーは、君のものじゃない」「でも、私……」「言うことを聞け」何か譲れない執念でもあるかのように、彼はどうしても波にそれを外させようと、じっと視線を向け続けていた。波はたまらなく悔しかった。先ほどまで演じていた作り物の悔しさとは違い、今の気持ちは、本物だった。これまで長い年月、龍司が彼女に与えることを惜しんだものなど、一つもなかったのだから。それでも龍司がそう言い切った以上、名残惜しさを胸に押し込み、波はジュエリーを外し、順番通りに一つひとつ、ケースの中へと収めていった。そして最後に、しぶしぶ龍司へ差し出した。龍司は受け取ると、何も言わず、そのまま車椅子を操作してエレベーターの方へ向かった。「そういえば」乗り込む直前、ふと思い出したように足を止める。「前に、君が真帆の髪飾りを借りていたよね。もうずいぶん経つ。用が済んだのなら、真帆に返して」そう言い終えると、波の反応を待つこともなく、彼はエレベーターで二階へと上がっていった。真帆が忙しく立ち回っていた頃とは違い、彼女のいない寝室は、どこかひんやりとしていた。龍司は翡翠のジュエリーを手に持ち、長いこと見つめ続けた。脳裏から離れないのは、あの時、真帆が彼に投げかけた問い。「……あなたは、本当に変わっていないの?」小さく息をつき、胸の奥に重苦しさが広がった。ジュエリーをひとまずドレッサーの上に置き、スマホを取り出しては、何度も文章を消しては書き直し、ようやく一通のメッセージを真帆へ送った。返事は早かった。そして、それは予想通りの拒絶だった。彼女が怒っていることなど、龍司にわからないはずがない。誰であっても、あんな扱いを受けて、腹を立てずにいられるはずがなかった。真帆には、すべてを受け止め、消化する時間が必要なのだと悟り、彼はそれ以
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