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幕間 第26話 戦友

Auteur: 輪廻
last update Date de publication: 2026-03-10 19:51:57

政治資金パーティーの会場を後にし、某所にある自邸へと舞い戻った··こと神代 大和は、軽くシャワーを浴びた後、書斎で冷えた麦茶を飲みつつ、先刻の御陵 清とのやり取りをゆったりと思い返していた。

時刻は既に午前一時。秘書の如月も流石に、今は夢の中である。人ならざる者へと変容した神代にとって、睡眠という行為は最早不要。故に彼は、暇さえあれば書斎に篭もり、独り思索に耽る習慣を確立していた。

「────」

嘗ての命の恩人である、御陵 清。先刻彼女から、自分たち特務機関【敷島】の方針や最終目標に対して、明確な拒絶の意を示された訳だが、神代は彼女に対し怒りを覚えることはなかった。

御陵 清が自分たちを拒絶したのは、彼女個人の意思ではなく、あくまで裏御三家の代表としての意思である。神代はそのことを鋭敏に察していた。清個人の意思はまた別にあり、それらは自分たちに近しいものであると、彼女とのやり取りを通じて、彼は強く確信していたのである。

如何に強大なる裏御三家とて、決して一枚岩ではない。清のような···──人ならざる力を有する選ばれし者もいれば、そうでない力持たざる
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    氏子総代の加賀さんの去り際の言葉に、言い表しようのない恐れを抱きつつも、私は巫女長さんと共に社務所内の談話室で一時間ほど昼食を兼ねたお昼休憩をとり、その後またお務めに戻りました。 金剛さんが作った昼食は、神主さんや巫女さんたちからはとても美味しいと絶賛されており、健啖家ではなく食欲のない私でも、少々時間こそ掛かれども綺麗に完食する程に絶品でした。 さて、午後に入って私が最初に取り組んだのは、午前中ずっと和さんがしていた御朱印の練習でした。が、数回ほどで練習の必要なしと合格を言い渡され、その後は午前中と同様に、授与所で巫女長さんや和さんと共に、御守りやお札の授与に携わりました。 神社の敷地内の至る所で作業している氏子の方々と私が極力接することのないよう、どうやら優さんが配慮して下さったようで、今後も基本的には巫女長さんが、可能な限り私と一緒に行動して下さるとのことでした。 幸いにも加賀さんのような奇人変人は現れず、参拝客から変に絡まれることはありませんでした。目を合わせて貰えない、此方から声を掛けても基本無視という反応は相変わらずでしたが、加賀さんを目の当たりにした後だと、そのような参拝客たちの反応が却ってありがたいと思えるのですから、人間の感情というのは不思議なものです。 比較的平穏に時間は流れ、気が付けば午後四時半を回っていました。香々星神社は午後四時半を終業時間としていますので、一日のお務めはこれで終了です。 授与所を閉めると、巫女長さんと和さんは着替えのために更衣室へと向かいます。私は着替えには向かわず、巫女装束のまま事務室でお茶を飲みながら、皆さんが着替えを終えて降りてくるのを待ちます。 正直気は進みませんが、今夜も星降山に立ち入って天津甕星と接触を試みるつもりでしたから、洋服に着替えるのは二度手間になってしまいます。故に、表向きは優さんたちを見送ってから着替える、ということにして、彼らが神社から立ち去るのを待っていたのでした。「そろそろ、かな……」 帰宅する神主さんや巫女さんたちを見送るため、私は社務所を出て鳥居前へと向かいます。平坂さんに調査の進捗状況などを報告するには、彼らが全員帰宅するのをこの目で直に見届けなければなりません。 若し仮に、彼らの中に特務機関【敷島】の息がかかった者がいて、話を盗み聞きでもされ

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    シャワーと着替えを済ませた私は、ちょうど起床してきたと思しき金剛さんたちと顔を合わせ、一人一人に足首の内出血の処置をして下さったことや、意識を失っている間介抱して下さったことへのお礼を述べ、彼ら一人一人と固く握手を交わしながら、深々と頭を下げて回りました。 そのまま流れで、巫女装束の着替え方を習得し切れていない和さんの着付けを手伝い、皆で談話室にて軽めの朝食を摂りました。 食事中は何故か、各々が今朝に至るまでに経験した怪奇現象の話で盛り上がりました。曰く、和さんは消灯直後に部屋の片隅に浮かぶ生首を見て、周防さんは私と金剛さんが星降山に立ち入っていた頃に巫女装束の女の子を社務所内で目撃し、鈴木さんは入浴中に曇りガラス越しに小さな人影を見たとか。 この神社は実は曰く付きの場所なのではないか、と皆さん疑っていらっしゃる様子でしたが、事情を知る私と金剛さんはそうかもしれない、と言うのみに留めました。 宮司の平坂さんの奥さんと娘さんが、特務機関【敷島】の秋津に殺され、生首だけの状態で神社の鳥居前に見せしめとして置かれていたという痛ましい事件。それを不用意に話す訳にはいきませんでしたから。 朝食を摂り終えた後、私たちは各々歯磨きを済ませ、朝拝が始まるまで神社の敷地内とその周辺を掃除することにしました。 表向き、私と和さんは巫女、金剛さんたちはアルバイトです。平坂さん以外にも禰宜《ねぎ》や巫女長、神主に巫女といった関係者の方もいらっしゃいますので、彼らにだけでも好印象を抱いて貰わねばなりません。 竹箒を手に、私と和さんは神社の鳥居前の落ち葉を掃いて集めながら、目の前を行き交う此岸町の人たちに笑顔で挨拶をします。 時刻は午前七時半──通学中の小学生たちや、自転車に乗った中学生、高校生といった所謂《いわゆる》子供世代の方たちは、見慣れない二人の若い娘が巫女装束を纏って鳥居前を掃除している光景を物珍しそうに見つめながら、元気よく挨拶を返したり、挨拶を返さずとも笑顔で会釈してくれたりします。 閉鎖的且つ排他的と言っても、若者世代は必ずしもそうではないのだと、少し心が温まるのを感じました。 その分、大人世代の反応は冷ややかでした。私と和さんを横目で見やりながら、これ見よがしにひそひそと小さな声で陰口を叩いて、私たちの挨拶には耳を貸しません。無表情なが

  • 万有禊ぐ天津甕星   第三章 第27話 憂鬱な目覚め

    どうやら、泣き疲れてそのまま眠ってしまったようです。重い瞼を開くと、私は何度か頭を軽く振り、ゆっくりとソファーから身を起こしました。 左手首に嵌めている腕時計に目をやると、時計の針は凡そ午前四時半頃を指し示していました。鳴神山地周辺の梅雨明け頃、正に今の時期ならば丁度日の出の頃合いです。 「…………」 腕時計で時刻を確認する際、視界に映りこんだものを見て、私は陰鬱な気持ちになりました。 左手の甲に刻まれた、正五芒星状の大きな傷。出血も痛みも特にありませんが、今のように時間を確認しようと腕時計へと視線を向けると、否が応でも視界に入り込み、存在を主張してくるソレは昨夜、星降山の香々星之宮にて星を司る神・天津甕星《アマツミカボシ》によって刻まれたものでした。 「────」 泣きたいと思う反面、泣いたところで今更どうしようもないという諦念もあり、私は左手の甲を見つめたまま小さな溜め息を一つ吐くと、裸足のまま草履を履いてすっと立ち上がりました。 脱がされて床に置かれていた白足袋はどうやら、私が泣き疲れて眠っている間に誰かが洗濯するために持っていってくれたようです。代わりに、タオルに包まれた保冷剤が幾つか、私の足許に置かれていました。私の両足首の内出血を、夜通し金剛さんたちが処置してくれた証です。 お陰で、鈍い痛みこそ感じはするものの、歩行する分には何ら問題はなさそうです。金剛さんたちには、感謝しなければならないでしょう。後でお礼を言わなければ。 疲労とショックで思考能力は平時よりもやや鈍っていましたが、何とか私は今自分が置かれている状況を把握することが出来ました。 その時でした。 「…………?」 烏のけたたましい鳴き声が、私の思考を遮りました。一羽や二羽どころではありません。結構な数の烏たちの鳴き声が、外の方から聞こえてきました。 外の様子を探るべく窓際まで歩を進め、カーテンをほんの少しだけ開けてみます。暗雲に覆われて太陽光が遮られているためか、幸いにも逆光で目をやられることはありませんでした。 私の視線の先には、注連縄が巻かれた、御神木と思しき立派な大木が一本。その枝に無数の烏たちが留まっており、此方を見ながら次々に鳴き声を発していました。 嘴の形状から、どうやらハシブトガラスのようです。私の生まれ故郷や、第二の

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