萌花がその言葉を耳にした時、すでに個室からずいぶんと離れた場所まで歩いた。それでも、来希の叫び声ははっきりと彼女の耳に届いた。来希とはとっくに縁を切っていたとはいえ、最後がこれほど無様な別れ方になってしまったことに、萌花は胸に棘が刺さったような不快感を覚えている。時雄は、そんな萌花の心情を見透かしたかのようだ。彼は彼女のそばに歩み寄り、その肩を抱き寄せた。「つまらないことで悩むな。ご馳走してやるから、どうだ?」さっきの席は料理こそ並んでいるものの、二人ともほとんど箸をつけていない。その時、萌花はふとあることを思い出した。「和樹君のご飯、まだ作ってない」時雄は全く気にする様子もなく言った。「佳代がいるんだから、飢え死にするようなことはないさ」萌花は時雄を見上げて言った。「あの子、好き嫌いが多いじゃない」時雄は鼻を鳴らした。「じゃあ、君が料理を作らなきゃ、あいつ一生食わないのかよ。あいつ、もうすぐ大学受験だから大目に見てやってるが、そうでなきゃとっくに追い出してる。毎日うちに入り浸りやがって、邪魔で仕方ない」萌花自身は、特に邪魔だとは感じていない。和樹のことは結構気に入っている。怜と比べれば、雲泥の差だと彼女は思う。それでもやはり気になって、萌花は急いで帰宅した。案の定、佳代に聞くと、和樹は出された食事にほとんど手をつけていないという。萌花はすぐにキッチンに立ち、簡単な夜食として温かい卵雑炊を作って、和樹の部屋へ運んだ。大学受験まで、すでに一週間を切っている。和樹は机に向かい、熱心に受験勉強をしている。「おばさん。おかえりなさい」萌花は部屋に入った。「夜食を作ったから、少し食べなさい」和樹はペロリとそれを二杯も平らげた。萌花は少し困ったように言った。「そんなに好き嫌いばかりじゃ駄目よ」和樹は申し訳なさそうに俯いた。「ごめんなさい、おばさん。僕、迷惑かけてますよね?」萌花は微笑んで答えた。「ううん、和樹君は勉強に集中してくれればそれでいいの。受験が終わったら料理の仕方を教えてあげるから、そうすれば自分でも作れるようになって、お腹を空かせることもなくなるわ」「ありがとうございます、おばさん」時雄もいつの間にかドアの前に立っており、少しすねたような口調で言った。
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