「壱馬さん、もう大丈夫です」壱馬さんの腕の中から、そっと顔を上げた。そんな言葉が、嘘にも似たように聞こえたのは、今の居心地が愛おしかったから。この静かな空間。抱きしめられている温度。それが、当たり前のように自分に向けられていることが嬉しくて、離れるのが怖くなっていた。心臓の音が耳の奥で静かに鳴り続けていて、彼の腕の温度が、背中にじんわりと染みていた。今すぐ離れてしまうのは、ちょっと惜しいと思ってしまうくらい、心地よかった。だけど、このままでは心が持たない。壱馬さんが優しくしてくれるたびに、期待してしまいそうになる。それが、怖かった。このぬくもりが壱馬さんの気まぐれではないかという疑念が、心の奥で静かに重なっていく。この安らぎが一時的なものなら、嬉しさがあとで痛みに変わってしまう気がした。「えぇ、もう少しこうしてちゃ駄目?」その声は、思っていたよりもずっと甘くて、耳元でふわりと響いた。心が跳ねる。もう少しという言葉が、まるで永遠を願っているように感じられた。私の気持ちを揺さぶる言葉を、何の気なしに口にするなんて。「もしかして、本当にこうしてたかっただけですか?」気づけば、ぽつりと問いかけていた。 想像していた理由は、きっと慰めるためだった。私が泣きそうだったから、彼は抱きしめてくれた。そう信じようとしていたのに、今の壱馬さんの言葉が、その前提を静かに揺らしてしまった。「最初からそう言ってるじゃん?」壱馬さんの返事はあまりに軽くて、ちょっと拍子抜けした。でも、同時に心が静かに跳ねる。それは、言葉の軽さとは裏腹に、隠しようもない本音みたいだった。「は、離れてください」声が不自然に高くなってしまった。喉の奥がざわついて
Última actualización : 2026-02-11 Leer más