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第50話

Author: Hayama
last update publish date: 2026-02-11 12:00:00

「壱馬さん、もう大丈夫です」

壱馬さんの腕の中から、そっと顔を上げた。

そんな言葉が、嘘にも似たように聞こえたのは、今の居心地が愛おしかったから。

この静かな空間。抱きしめられている温度。

それが、当たり前のように自分に向けられていることが嬉しくて、離れるのが怖くなっていた。

心臓の音が耳の奥で静かに鳴り続けていて、彼の腕の温度が、背中にじんわりと染みていた。

今すぐ離れてしまうのは、ちょっと惜しいと思ってしまうくらい、心地よかった。

だけど、このままでは心が持たない。

壱馬さんが優しくしてくれるたびに、期待してしまいそうになる。

それが、怖かった。

このぬくもりが壱馬さんの気まぐれではないかという疑念が、心の奥で静かに重なっていく。

この安らぎが一時的なものなら、嬉しさがあとで痛みに変わってしまう気がした。

「えぇ、もう少しこうしてちゃ駄目?」

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