「じゃあ、いただきます」 壱馬様がフォークを手に取り、オムレツにそっと刃を入れる。 その動作を見守る私は、まるで自分の心まで切り開かれるような気持ちで、息を詰めていた。 焼き加減はどうだっただろう。 味つけは薄すぎなかったか。 壱馬様の口元に運ばれるその一口を、私は祈るような気持ちで見つめていた。 まずいと言って、配膳をひっくり返してしまったらどうしよう…なんて。 もちろん、そんなことを本気で思っているわけじゃない。 心が弱っているときは、ありえない最悪の想像ばかりが浮かんでしまうものだ。 「ど、うですか?」 壱馬様の表情をうかがうように見つめた。 すると、その表情が柔らかく変わった。 「すっごく美味しいよ」 私は、初めて誰かに喜んでもらえるという感覚を知った気がした。 「ありがとうございます。喜んでいただけて良かったです」 料理を作ることは、これまでどこか義務のように感じていた。 けれど今は違う。 誰かのために美味しい料理を作りたいと、心からそう思えたのは初めてだった。この人のために、また作りたい。 そんな気持ちが、自然と湧き上がってくる。 私も少しずつ朝食を口に運び、その味を楽しんだ。 壱馬様と同じものを食べているというだけで、その味が、いつもよりずっと豊かに感じられた。 食卓を囲むということが、こんなにも心を満たしてくれるなんて。 外の庭からは鳥のさえずりが聞こえ、穏やかな朝の雰囲気が広がっていた。 私はふと、こんな朝がずっと続けばいいのに、と思った。 何も特別なことはない。 ただ、壱馬様と一緒に朝ごはんを食べて、他愛もない会話をして、笑い合う。 それだけで、心が満たされていく。 こんなふうに思える自分がいることが、少し不思議で、でもとても嬉
Última actualización : 2026-01-13 Leer más