6年後――。 明里は小雪を連れて帰国した。日本で医学サミットがあり、それに参加するために。 小雪の首がすわり始め、出産のダメージが癒えると、明里は涼の助けを借りて論文で発表したり、海外で様々なことを学んだりして、今では医学界のエリートとして有名人だ。 今回のサミットも、明里の教えを請いたいという医師が数人集まっている。 ホテルのロビーに着くと、明里はカバンから小雪の小銭入れを出し、ぬいぐるみと一緒に手渡した。「ママはお仕事で、色んな人とお話してくるから、ここでいい子に待っててね。喉が渇いたら、あそこの自販機でジュース買ってね」「うん、分かった」「ジュース買う時は、どれ使うんだっけ?」 小雪の小さな手のひらに、小銭を数枚乗せる。100円玉が2枚、50円玉が3枚、10円玉が4枚、5円玉、1円玉がそれぞれ2枚ある。「んーとねー、これとこれとこれ使えるんだよね。200円あれば、買えるよね」 小雪は100円、50円、10円を指さした後に、2枚の100円玉を手に取り、明里に見せた。「そうそう。えらいえらい。もうちょっとしたら、おじさんが来るから、それまでひとりでいい子にしててね」「はーい」 明里はキャラメルをひと粒だし、小雪に手渡してからサミットへ向かう。「んへへ、きゃあめる」 明里を見送った小雪は、キャラメルを頬張る。まだ6歳で、舌足らずだが、それが可愛らしい。「うーさん、くーさん、おままごとしましょうね」 明里から受け取ったうさぎとくまのぬいぐるみをソファに座らせ、おままごとを始める。通りかかる客人やスタッフが微笑ましく見守る。 同日同時刻、奇しくも月ノ宮成也も同じホテルに来ていた。彼は取引先と会食をする予定があったのだ。「ママ、ただいま。おかえりなさい、パパ。ママ、お腹すいた。今日のごはんは?」 可愛らしい声が耳に入り、成也は足を止める。そちらを見ると、小さな女の子がうさぎとくまのぬいぐるみでおままごとをしていた。「あの子は……」 その子を見た瞬間、何故かデジャヴが起こった。小さな子供がいる知り合いなどいない。なのに、見覚えがある。口元が誰かに似ている。 似ているのは口元だけではない。目元が自分に似ているような気がしてならない。「成也?」 ミアに名前を呼ばれ、我に返る。(何考えてるんだ、俺は)「ぼーっとしてどうした
Last Updated : 2025-12-28 Read more