「シグ」ディリアンは振り返りもせずに言った。「俺の馬を出せ」命令を伝達して戻ってきたばかりのシグは、一瞬だけ動きを止め、即座に深く頷いた。「はっ、公爵閣下」シグには、主がどの馬を指しているのか痛いほど分かっていた。あの漆黒の馬。巨大で、気性が荒く、ディリアンが本気で死の戦場へ赴く時以外には、決して誰も騎乗することのない孤高な馬だ。シグが馬小屋へ走る中、エリックや他の兵士たちも慌ただしく出陣の準備を始めた。彼らの顔は強張り、その目には言葉にできない深い焦燥感が満ちていた。セレーネは、刺すような冷気と混乱を掻き分けて前へ進み出た。「私も行くわ」その声は微かだったが、ディリアンの歩みを止めるには十分だった。ディリアンはゆっくりと振り返った。彼の赤い瞳がセレーネを捉えた。そこに爆発するような怒りはなく、ただ氷のように冷たく、絶対的な決意だけが宿っていた。「ダメだ」彼は短く切り捨てた。「ここでただ黙って待っているなんて、できない」セレーネは首を振り、荒く息を吐いた。「ダグニーとディヴリオは、私の子供たちよ。私は母親なの。ただ待っているなんて――」「お前は戻れ」ディリアンがその言葉を断ち切った。セレーネは完全に凍りついた。「えっ?」「母上と一緒に、戻るんだ」ディリアンは続けた。その声は極端に低く、強烈な威圧感を放っていた。「今すぐだ」「ディリアン……」セレーネの声が震える。「あの子たちの無事を確認するまで、私は絶対に――」「だからこそだ」ディリアンが距離を詰め、二人の間はほんの数センチしか離れていなかった。「だからこそ、お前はここを離れなければならない」セレーネは涙ぐんだ目で彼を見つめた。「……どういうことなの?」ディリアンは少しだけ身をかがめた。その声はさらに低くなったが、紡がれる言葉はナイフのように鋭利だった。彼は極めて静かに言った。「これ以上、すべてを最悪な事態にしたくないのなら、俺の言う通りにすることだ」セレーネの世界が、一瞬にして崩れ落ちたかのように感じられた。それは明白な脅迫ではなかったが、そこに含まれる意味は、いかなる脅しよりも遥かに恐ろしいものだった。セレーネは微かによろめき、顔面から血の気が引いた。彼女はディリアンをよく知
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