All Chapters of ディリアン公爵様、奥様が離婚を望んでいます!: Chapter 421 - Chapter 430

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第421話

彼女たちは並んで食堂へと歩いていた。足音が大理石の床を静かに打ち鳴らし、規則的だがどこか不自然な音を立てていた――歩調を合わせるために無理やり作られたリズムのように。セレーネはモルウェンナの横を歩き、ヴィヴィエンヌは少し遅れてその後ろを歩いていた。その眼差しは穏やかだが、計算に満ちていた。沈黙が長引きすぎた。これ以上放っておくわけにはいかなかった。セレーネがついに口を開いた。声は柔らかかったが、語尾には鋭い棘があった。彼女は振り向かずに尋ねた。「モルウェンナ、あなたは本当に、ディリアンを愛しているの?」モルウェンナは小さく微笑んだ。まるでその質問が彼女を楽しませたかのように。小首を傾げると、赤い髪がランプの光を受けて輝いた。「あなたは、彼のことがお嫌いかしら?」彼女はほとんどからかうように、軽やかに返した。セレーネはゆっくりと首を横に振った。「そういう意味じゃないわ。ただ、知りたいだけよ」モルウェンナの顔から一瞬笑みが消え、そして、恐ろしいほどの確信を込めて頷いた。「ええ」彼女は短く答えた。セレーネは再び尋ねた。今度はさらに深く、静かな声で。「なぜ?」モルウェンナが顔を向けた。その瞳は言葉では説明し難い輝きを放っていた。それは単なる愛ではなく、もっと古く、もっと暗く、遥かに永遠に近いものだった。彼女はゆっくりと言葉を紡いだ。「彼を愛することで、私は真の永遠に触れることができるからよ」セレーネの足が止まった。彼女は鋭くモルウェンナを振り返り、心臓の鼓動が速くなった。愛は呪いであるという、魔女が定命の者になるためには全てを手放さなければならないというラミアの言葉が、再び脳裏をよぎった。モルウェンナの説明は……違った。あまりにも違いすぎた。立ち止まって自分を見つめるセレーネを見て、モルウェンナは言葉を続けた。声は依然として柔らかかったが、今はより深刻な響きを帯びていた。「ディリアンは神聖な血を持っているわ」彼女は言った。「時間の呪いに汚されていない血。彼と共にあることで、私は空虚な永遠の幻影ではなく……真の生を生きることができるの」セレーネはその言葉を消化しようとした。胸が苦しくなった。何かが間違っている――単なる愛についてではなく、目的に関して。モルウェンナがディ
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第422話

その言葉に、ディリアンは凍りついたように立ち尽くした。やがて、静かに片膝をついた。微動だにせず、立ち上がろうともしない。ほんの少しでも姿勢を変えれば、ようやく縮まった距離が再び崩れ去ってしまうと恐れるように。今や彼らの目線は同じ高さにあった。公爵とその後継者としてでも、大人の男と二人の幼子としてでもない。自らの血を分けた我が子から裁きを受けようとする、一人の父親として。背後では、二人の使用人が石像のように固まっていた。息を潜めて顔を見合わせている。この先何が起きようと、もはや自分たちが口を挟める場合ではないと痛感していたからだ。「何が……お前たちをそこまで怒らせたんだ?」ディリアンは慎重に言葉を選んで尋ねた。「パパが、僕たちを殺そうとしてるからだ」ディヴリオが迷いなく言い放つ。「そうよ!パパはそういう人だもん!」ダグニーも大声を上げた。「俺がいつ、お前たちを殺すと言った?」低く、穏やかな声。だがその奥には、酷く脆い響きが隠されていた。ダグニーとディヴリオは顔を見合わせた。すぐに答えられるはずの問いなのに、長すぎるほどの沈黙が流れる。ダグニーは小さな鼻に皺を寄せて必死に考え込み、やがてゆっくりと首を横に振った。「言ってない……」ディヴリオも首を振る。自分の答えが揺らいでいないことを確かめるように、ダグニーよりも力強く。「パパは、そんなこと言ってない」ディリアンはゆっくりと頷いた。ようやく自分の方に、ほんの小さなポイントが一つ入ったのを確認するかのように。彼は囁くように尋ねた。「それなら、どうして他人の言葉なんて信じたんだ?」いつものように、何の躊躇いも遠慮もなく、ディヴリオは即座に答えた。「ママがいなくなったからだよ」短い言葉。単純な理由。だがそれは、ハンマーのようにディリアンの胸を激しく打ち据えた。ダグニーは俯き、自分の服の裾をぎゅっと握りしめた。再び顔を上げた時、その瞳には涙が滲んでいた。彼女は消え入りそうな声で言った。「ママがいなくなっちゃうってことは、何か悪いことが起きたからだもん。そして大抵……私たちにも関係があることだから」ディリアンは深く息を吸い込んだ。胸がひどく締め付けられ、空気が足りないように感じた。「それに……」ディヴリオが続け、その眼差しは
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第423話

その問いは、ただ静かに落とされた。声を荒らげるでもなく、強要するような響きもない。だからこそ、ひどく重く感じられた。モルウェンナは彼の目の前に立ち、先ほどよりも距離を詰めていた。その顔に笑みはなく、ただ真っ直ぐに、鋭く見据えてくる。ただの質問ではなく、誓約の履行を迫るかのように。ディリアンは凍りついた。回廊が、再び息苦しいほど狭く感じられた。松明の光が石壁で揺らめき、二人の影を重ね合わせ、溶け合わせ、そして再び引き剥がす。ほんの一瞬、ディリアンは言葉を返せなかった。モルウェンナを見つめ、そして視線を逸らす。淀んだ空気の中に、呼吸のための隙間を探し求めるように。「俺は……」声が詰まった。深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。内側で何かが崩れ落ちそうになるのを、必死に食い止めるかのように。「今の状況は、お前も分かっているはずだ」彼はようやく口を開いた。「まだ、片付いていないことが多すぎる」モルウェンナは微かに眉をひそめた。「状況?」彼女は反芻した。「それとも、ただ先延ばしにしているだけ?」ディリアンは再び視線を戻し、今度はより鋭く見返した。「俺は嘘は吐かない。ただ、軽率な真似はできないだけだ」モルウェンナは短く笑ったが、そこに歓喜の欠片はなかった。「軽率?ディリアン、あなたは自分で言ったのよ。私の目の前で。私を妻にするって」ディリアンは黙り込んだ。自分自身の言葉が、逃げ場のない刃となって跳ね返ってくる。確かに言ったのだ――世界がまだ単純だった頃。二人の間に、これほど多くの人間や、傷跡や、秘密が立ち塞がる前に。彼は低く言った。「否定はしない。だが、今は――」「今は、セレーネがいる」モルウェンナが即座に言葉を遮る。「それに、あの子たちも」さらに冷ややかな声が続く。「ヴィヴィエンヌもね。あなたはいつだって『今』を言い訳にして、その未来を遠ざけようとする」ディリアンは奥歯を噛み締めた。「子供たちを巻き込むな」モルウェンナは言い返す。「巻き込んでなんかいないわ。あの子たちは、最初から巻き込まれているじゃない」再び、沈黙が落ちた。モルウェンナは彼を長く見つめた。その表情の裏に隠された何かを、見透かそうとするかのように。「答えて」彼女はようやく、
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第424話

ラミアは凍りついた。ラミアは手にしたカップを取り落としそうになりながらも、ゆっくりとテーブルに置いた。ジェイはラミアからディリアンへと視線を移し、その意味を完全に理解できずとも、空気の劇的な変化を感じ取っていた。ラミアは長くディリアンを見つめた。本来あるべき時間よりも遥かに長く。その目には驚愕と警戒、そして微かな……恐怖が混じっていた。「彼女が、あなたにそう言ったの?」静かに尋ねる。ディリアンは短く頷いた。彼は言った。「赤い月が山の頂に触れる時に結婚したいと。そして、月を映し出す湖で、とな」再び沈黙が降りた。今度は、先ほどよりも遥かに重く。ラミアはゆっくりと息を吸い込み、立ち上がった。歩み寄ろうとしたが、ディリアンから数歩離れた場所で立ち止まる。まるで見えない距離を保とうとするかのように。「赤い月はね」彼女はようやく口を開いた。その口調は決して軽いものではない。「単なる天体現象ではないわ」ディリアンは無意識のうちに拳を握り締めていた。「答えが欲しい、ラミア」ラミアは彼を真っ直ぐに見据えた。彼女は静かに、しかし断固として言った。「魔女の世界において、赤い月は束縛の印。魔力が頂点に達する時。そして、呪いが単に強化されるだけでなく……完全に完成する時よ」ジェイが息を呑む。ディリアンは瞬き一つしなかった。ラミアが続ける。「赤い月の下での結婚はただの誓いではないわ。それは契約よ。魂と魂。命と命の」ディリアンは生唾を飲み込んだ。「では、湖は?」「水は証人よ」消え入りそうな声で答える。「月を映す湖は、その絆が……完全に封じられる場所」静寂。ディリアンは少し俯き、顎を固く引き締めた。ほんの一瞬、子供たちの顔が脳裏をよぎる。セレーネ。ダグニー。ディヴリオ。全てが一本の糸で繋がれ、それが今、張り裂けそうなほど強く引かれているのを感じた。彼は静かに尋ねた。「もしそうなれば、俺はどうなる?」すぐには答えが返ってこない。彼女はようやく言った。「どうなるかと言えば、あなたはもう、完全には自分自身のものじゃなくなるわ」小屋の空気が一段と冷え込んだように感じられた。ディリアンは一瞬目を閉じた。再び開いた時、その眼差しからは迷いが消え、確かな決意が宿り始めていた
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第425話

誰もが言葉を失い、胸から息を根こそぎ奪われたかのように凍りついていた。その静寂の中、ラミアは青ざめた顔で立ち尽くしていた。遅すぎた気づきに、その瞳は暗く沈んでいる。骨の髄まで忍び込んだ冷気を払うように、彼女は自らの両腕を擦った。「赤い月……」やがて、低く重い声が漏れた。「それは、赤く染まった満月のことよ」生唾を飲み込み、さらに声を潜める。自分自身の言葉を恐れるように。「思い返してみれば……来月が、その時に当たるわ」誰も口を挟まない。全員の視線が彼女に釘付けになっていた。「そして、彼女の言う『山の頂に触れる』というのは……」ラミアは僅かに手を上げ、宙に緩やかな弧を描いた。「月の影が、湖面に完璧に映し出される時のこと。月が空の最も低い位置まで下り、水面に浮かぶその反射が、水に映る山の影に触れるほど低くなる瞬間のことよ」沈黙が、重圧へと変わる。部屋の空気が重く、粘り気を帯びたように感じられた。全員がラミアを見つめている。ついにセレーネが口を開いた。その問いの恐ろしさとは裏腹に、声はあまりにも平坦だった。「それが、彼女が……彼を『喰らう』時なの?」ラミアが顔を向ける。一瞬、その瞳に苦渋の色が走った。怒りではなく、底知れぬ疲労感だった。「『喰らう』という言葉の響きは滑稽かもしれないわね、セレーネ」と、静かに言う。「でも、この状況においては……」言葉を切り、ディリアンを見据える。「ディリアンの血が『生贄』に捧げられる時、と呼ぶべきでしょうね。その神聖な血が、湖に浮かぶ月の影を満たすのよ」全員が息を呑んだ。ジェイは反射的に呼吸を止める。ディリアンは喉が干からびるのを感じた。血という言葉が、直接肌に触れたかのように。セレーネは胸が締め付けられ、心臓が激しく打ち鳴らされるのを感じていた。ラミアは迷うことなく続ける。「赤い月は、白き魔女にとっての禁忌の時。その時、全ての浄化の呪文は力を失い、光の絆は脆く崩れ去る」顔を上げ、その眼差しを鋭く硬化させた。「でも、黒き魔女にとっては……至高の時。悪魔に対する、最も神聖なる崇拝の時なのよ」誰も動かない。何の音もしなかった。宣告を下すかのような響きで、ラミアが続ける。「モルウェンナは古の魔女よ。でも、悪魔と契約を交わした瞬間から、彼
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第426話

その言葉に、セレーネは弾かれたように顔を向けた。指先が強張る。ラミアはすぐには答えなかった。ディリアンを見つめるその視線は、単なる計画の是非を問うものではなく、支払うべき代償の重さを測っているかのようだった。「身を委ねるというのはね」彼女はようやく口を開いた。「ただ肉体を捧げるという意味ではないわ」立ち上がり、静かな足取りで二人に近づく。「それは、あなたがモルウェンナの世界へ完全に足を踏み入れるということを意味する。彼女自身が築き上げた嘘、決して認めようとしない恐怖、そして……誰にも与えたことのない信頼で満ちた、あの世界へね」セレーネは息を呑んだ。「モルウェンナは愛を探しているわけじゃないの」ラミアは続ける。「彼女が求めているのは、確信よ。あなたがただ世界を、妻を、あるいは自分自身の運命を救おうとしているだけの男ではないという、証拠」ディリアンは生唾を飲み込んだ。「では、あいつは俺に何を求めている?」ラミアは彼を真っ直ぐに見据えた。「帰る場所のない、絶対的な忠誠よ」判決のように、その言葉は落ちた。ラミアは囁くように言った。「もし、あなたが本当に自分のものになったと彼女が信じれば、たとえ共に呪われる運命だとしても……その時初めて、彼女は自らの命を手放すかもしれない。あるいは少なくとも、あなたを生贄にすることを先延ばしにするでしょうね」セレーネはディリアンの手をさらに強く握り締めた。「駄目よ!」彼女は鋭く言った。その声は震えていた。「そんなの、選択肢にはならない!」ラミアが顔を向ける。その眼差しは少し和らいでいた。「だからこそ、今こうして話しているのよ、セレーネ。ディリアンが中途半端に踏み込めば、モルウェンナは必ず気づくわ」再び、ディリアンを見る。「そして、自分が騙されていると知った魔女は……間違いなく、血を求める」再び、彼らを沈黙が包み込んだ。ディリアンは一瞬目を閉じ、ゆっくりと開いた。「もしそれが、呪いを解く唯一の方法だと言うのなら……」セレーネの視線が彼を突き刺した。「ディリアン!」ディリアンは小さく首を横に振った。まるで自分自身に語りかけるかのように。「お前が考えているようなことじゃない」彼はようやく口を開いた。声は低いが、断固とし
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第427話

セレーネは、長い間沈黙していた。その静けさは、もはや単なる無音ではなかった。嵐の前の空気のように重く、息苦しいほどの圧迫感を伴っていた。彼女の視線は虚ろで、自分自身でさえ踏み込むのを恐れるような遠い場所へと、思考ごと引きずり込まれているようだった。ディリアンは彼女の傍らに立ち、黙って待っていた。彼自身の胸も、口に出せない言葉の数々でひどく締め付けられていたが、今はただ彼女に空間を与えていた。やがて、何も言わずに、ディリアンが彼女を促した。セレーネはゆっくりと頷く。小屋から遠ざかる足取りは重く、まるで地面に縫い付けられているかのようだった。彼女は一度も振り返らなかった。もし振り返ってしまえば、これまで必死に堪えてきた涙が、一気に堰を切って溢れ出してしまうと分かっていたからだ。小屋の扉が閉ざされた。ジェイとラミアは、再びその狭い空間に取り残された。窓の隙間から夕暮れの光が忍び込み、部屋に満ちるハーブティーの香りが、今はひどく苦く感じられた。沈黙を破ったのは、ジェイだった。「彼を……救う方法は、他にないのか?」その声は弱々しく、微かな躊躇いを含んでいた。まるで、自分にその問いを口にする資格があるのかどうか、迷っているかのように。ラミアはゆっくりと顔を向け、彼を見つめた。あまりにも多くの苦しみを見てきたがゆえに、もはや容易には驚かなくなった瞳で。「彼のことを、心配しているの?」ラミアが尋ねる。ジェイは小さく首を横に振った。弱々しいが、嘘偽りのない動作だった。「正直に言うと、あのお二人のことは心配していない」彼は言った。「俺が心配しているのは……子供たちのことだ」ほんの一瞬、ラミアは微笑んだ。極めて薄く、脆い笑み――笑顔そのものというより、笑顔の影のようなものだった。「それが、あなたがここへ来た理由なのね」「ああ」ジェイの答えは短く、断固としており、微塵の迷いもなかった。ラミアは黙り込んだ。ティーカップを持つ手が止まる。視線を伏せ、ジェイの言葉によって、忘れようとしていた過去へと引き戻されているかのようだった。子供たちが、大人の野心と呪いの犠牲となった、あの時代へ。ジェイは言葉を続けた。必死に堪えようとしているにもかかわらず、その声は微かに震え始めていた。「ただ……心配なのだ。
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第428話

訓練を終えた直後だった。中庭の奥から、こちらへ向かってくる足音が聞こえた。ジェイが小さく息を吸い、「よし、今日はここまでに――」と締めくくろうとした、その時。「サイラーおじちゃん!!」二つの声が、見事に重なった。ディヴリオとダグニーが弾かれたように振り返る。中庭に足を踏み入れたばかりの長身の姿を認めるや否や、その目はパッと輝いた。合図すらない。二人は短い足を必死に動かし、一直線に駆け出していた。「お待ちを――!」ジェイが反射的に手を伸ばすが、遅かった。サイラーが両腕を広げ切るよりも早く、元気いっぱいの小さな弾丸が二つ、彼に激突した。「うおっ――!」サイラーはたまらず一歩後ずさったが、すぐに声を立てて笑い、二人をまとめて強く抱きしめた。「おいおい!お前たち、これは攻撃か?それとも歓迎か?」ダグニーが彼の腰にぎゅっとしがみつく。「会いたかったんだもん!」ディヴリオも彼の腕を掴んで離さない。「おじちゃん、来るのが遅すぎるよ!」サイラーはさらに大声で笑い、二人の頭を順番に撫で回した。「なんだよそれ。ほんの数日会ってないだけなのに、まるで何年も置いてけぼりにされたみたいな言い草じゃないか」ダグニーが顔を見上げる。「おじちゃん、プレゼント持ってきた?」サイラーは片眉を上げた。「随分と単刀直入だな」ディヴリオがニヤリと笑う。「ダグニーが先に聞いたんだからね」ジェイは数歩離れた場所から、無表情のままその光景を見守っていた……が、その眼差しには、明らかな柔らかさが滲んでいた。やがて、サイラーが彼の方へと視線を向けた。ジェイは短く一礼する。「伯爵閣下」サイラーはくすくすと笑った。「堅苦しい挨拶は抜きにしてくれ。さっきの突進を見ただろう。僕はそんな風に呼ばれるような立派な人間じゃない」ダグニーがサイラーの腕を引く。「おじちゃん!私たち、今訓練してたんだよ!」サイラーはわざとらしく驚いてみせた。「訓練?何の訓練だ?」ディヴリオが誇らしげに胸を張る。「護身術の訓練さ」サイラーはジェイを一瞥し、再び子供たちへと向き直った。「ほう?じゃあ、お前たちはもう立派な剣士様ってわけか」ダグニーが勢いよく頷く。「ジェイおじちゃんがね、自分の身は自分で守れる
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第429話

セレーネは言葉を返さなかった。だが、握り返したその手が全てを物語っていた。彼女が語り終えた後も、サイラーは長い間黙り込んでいた。湯気の消えたティーカップを両手で包み込んでいるが、一口も飲もうとはしない。焦点の合わない目で、色の薄い液体を見つめている。まるでその水面に、たった今無理やり頭の中にねじ込まれた光景――呪い、魔女、そして偶然と呼ぶにはあまりにも残酷すぎる計画の数々が映し出されているかのように。「正直に言うと……」サイラーはようやく口を開いた。互いにぶつかり合う感情の層を無理やり突き破るように、言葉が喉に引っかかる。彼は息を吐き出し、そして顔を上げてセレーネを見据えた。「完全には、信じられない」セレーネに驚きはなかった。ただ少しだけ顔を伏せ、膝の上で両手の指を絡ませた。その反応が、かえってサイラーの胸を痛ませた。彼女が信じてもらえないことに慣れきっているのを、彼には分かっていたからだ。「でも……」さらに深く傷つけるのを恐れるように、サイラーは早口で続けた。「それを口にしたのが姉さんだから……僕は、信じることを選ぶよ」セレーネが顔を上げる。その瞳が微かに震えていた。サイラーは薄く微笑んだ。手放しで安堵できるような笑みではない。「あの日のことは、忘れていない」彼は静かに言った。「姉さんがダグニーとディヴリオを産んだ日だ。あの時、姉さんは死にかけた。血の匂い、産婆の悲鳴……そして、僕の手をきつく握り締めて言った言葉を覚えている。もし自分が助からなかったら、あの子たちを守ってほしいと」セレーネは息を呑んだ。その記憶は、古く錆びついたナイフを胸の奥で捻られるような痛みを伴っていた。「自分の子供たちのために死さえ厭わなかった人間が、こんなことを言うのなら……」サイラーは続け、その声は先ほどよりも重みを増していた。「それを嘘だなんて呼ぶ権利は、僕にはない」セレーネは長く、ゆっくりと息を吐き出した。まるで、今になってようやく正しく呼吸することを許されたかのように。肩の力が少しだけ抜け、目に見えない重荷が、ほんの欠片ほどだが軽くなったように見えた。彼女は囁くように言った。「今日、私があなたに話したことは全て、あなたの胸の内にだけ留めておいてほしいの。ダグニーやディヴリオはもちろん、他の誰にも知ら
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第430話

ヴィヴィエンヌは唇をきつく引き結んだ。他人の非難めいた視線にはとうに慣れていたが、モルウェンナの眼差しには、首筋が粟立つような冷たい何かが潜んでいた。「彼はあなたを、酷く憎んでいるわ」モルウェンナは続けた。声は依然として穏やかだったが、一語一語が釘のように突き刺さる。「あなたを殺したいとさえ思っている。この手で首を絞めてやりたいと」ヴィヴィエンヌは息を呑んだ。一瞬だけ顔が強張り、すぐに短く、乾いた作り笑いを漏らした。「大袈裟ね」彼女は言った。「あいつは何も分かっちゃいない、ただのガキよ」モルウェンナは静かに首を横に振った。「いいえ」彼女は優しく、ほとんど同情するように答えた。「あれは、子供のような怒りじゃない。深い傷から生まれた、本能よ」モルウェンナは小首を傾げ、ごく当たり前の事実を述べるような口調で付け加えた。「もしあの時、公爵夫人が二人の間に立ちはだかっていなければ、間違いなく彼の手はあなたの首にかかっていたでしょうね」その言葉が宙に浮かんだ。ヴィヴィエンヌは生唾を飲み込む。ずいぶん久しぶりに、彼女は即座に言い返すことができなかった。サイラーの鋭く、憎悪に満ちた眼差しが、脳裏を掠めた。そんな顔、彼のような者が持つべきものではない。モルウェンナは薄く微笑んだ。その反応に満足したように。「興味深いわね」彼女は囁くように、ほとんど自分自身に語りかけるように言った。「とても、興味深い」ヴィヴィエンヌは顔を背け、顎を固く引き締めた。「私の家族のことで、知ったような口を利かないで」彼女は冷たく言い放つ。モルウェンナはただ低くくすくすと笑い、再び歩き出した。「知ったかぶりをしているわけじゃないわ」彼女は気楽に言った。「私はただ、観察するのが得意なだけ」ヴィヴィエンヌは答えなかった。ただ、足が勝手に動くまま、モルウェンナの後を追って歩いた。小道は温室へと続いている。少し前まで、セレーネとサイラーの軽やかな笑い声、磁器のカップが触れ合う音、そして温かい紅茶の香りに満ちていた場所だ。しかし今、その空気は変わっていた。使用人たちが片付けるために慌ただしく動いている。ナプキンが綺麗に折り畳まれ、ティーポットが下げられ、カップが銀のトレイへと戻されていく。モルウェンナは歩みを緩
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