その朝、セレーネはひどく穏やかだった。執務机の後ろに真っ直ぐ背筋を伸ばして座り、髪もいつものようにシンプルにまとめている。高い窓から差し込む朝日が、整然と積まれた書類と机の上を撫でていた。しかし、その平静が完全に作り物であることは、彼女自身だけが知っていた。書類を握りしめる指先が、微かに白くなるほど強張っていた。数歩離れた場所に立つイラルドは、いつも通りの硬い姿勢を崩していなかった。だが、女主人の性格を熟知している彼は、セレーネが同じページをあまりにも長く見つめているだけで、何かが彼女を苛立たせていることに気づいていた。やがて、セレーネが顔を上げた。声は低かったが、刃のような鋭さを秘めていた。「つまり、彼女がお茶会を開きたいと?」イラルドは短く頷いた。「はい、奥様」セレーネはゆっくりと息を吐き出した。ただの疲労からのため息ではない。押し殺した苛立ちが色濃く混じっていた。手にしていた書類を机に投げ出す。紙の束そのものが不快であるかのように、乱暴に押し退けた。再びイラルドへと向けられた眼差しは、氷のように冷たく、ひどく理性的だった。「何も知らないのだと思っていたわ」セレーネはようやく口を開いた。「でもどうやら、自分が何をしているのかを完璧に理解しているようね。自分の立ち位置を誇示したいのよ……自分が公爵の女なのだと」イラルドは反射的に息を呑んだ。そして、沈黙を選んだ。言葉を一つでも間違えれば、一瞬で引火する。こんな朝からセレーネの感情を逆撫でするほど、彼は愚かではなかった。数秒の沈黙の後、セレーネが再び口を開いた。彼女は平坦な声で言った。「それなら、望み通りにしてやればいいわ」イラルドは明らかに驚いた顔でセレーネを見た。「奥様……この城では、もう随分と長い間宴が開かれておりません。彼女のために、本当に宴を開かれるおつもりですか?」セレーネはすぐには答えなかった。机の上で両手の指を絡ませ、反論を一切許さない響きで告げた。「彼女が望んでいるの。なら、やって頂戴」「それでしたら、公爵閣下にご報告を――」イラルドは意を決して言った。「必要ないわ」セレーネが遮る。「彼女の思い通りに手配しなさい」イラルドは黙り込んだ。セレーネを見つめ、過去から今まで決して変わらない一つの事実を思
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