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呪われた巫女様 のすべてのチャプター: チャプター 11 - チャプター 20

34 チャプター

オスワサマ 4

 家のドアを開け、入る。「ただいま」「おかえり、今日は朝早かったわね。夕飯はもう出来てるから、食べちゃって」 手洗いとうがいをさっと済ませ、夕食に手を伸ばす。今日はキノコを和えたものに、昨日のお浸しの続き。親に今日のことを悟られない様に、笑顔を取り繕って食べる。味は全然しなかった。 夕食と風呂を済ませ、ベッドに寝っ転がる。オスワサマが封印されていた箱を手に取ってみても、ただの古びた箱だという認識しか出来ない。しかし、これだけ厳重に封印されていた理由は何なのだろう。やはり、厄災なのだろうか。だとしたら、最悪俺は自害させられるかもしれない。S市は、時代の流れが何処かで止まっている奇妙な町だ。ことオスワサマに関しては、古くからの住民は気にかけている人間も多い。だからこそ、早く見つけ出して封印し直さなくては。俺の霊感は微々たるものだが、外部から有名な神職の人間を引っ張ってきてその力を借りれば容易いことだろう。 朝起きると、快晴だった。嫌になる程の。俺の心はこんなにも曇っているのに。天気に八つ当たりしても仕方がないので、制服に着替えて朝食を済ませる。歯磨きをし、家を出て桃華を迎えに行く。俺たちの仲は、周囲の人間も公認でひやかされることもあるけれど概ね上手くいっていた。「桃華、おはよう」 俺が彼女の家に着くと同時に、玄関のドアが開いた。「おはよう、信。……ねぇ、オスワサマ見つかった?」 首を横に振ると、「今日から私も協力するから! 一緒に探そう」と言ってくれた。どこまでも真っすぐな存在だ。そういうところが好きなのだが。しかし、放課後使える時間は限られている。効率的に捜査しなければ。 オスワサマのことばかり考えていたら、あっという間に放課後になっていた。昨日の疲労もあり、寝ていたのも一因かもしれない。「信、ほら行くよ。二手に分かれて探そっか」 桃華から差し伸べられた手を取り、立ち上がる。「俺は駅の方見てくる、望みは薄いけど」「じゃあ、私は公園を中心に見て回るね!」 役割分担が決まり、一時間後に桃華の家の前で集合することになった。  しかし、当たり前なのだが人目につくような場所に蛇神はいない。駅前なんて尚更だ。こんな田舎でも観光客が来るくらい、世界の人々は旅好きらしい。全く理解が出来ない。自分の見知った土地でしか安心できない俺の方が珍しいのかもし
last update最終更新日 : 2026-01-15
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オスワサマ 5

 翌日、ついに犠牲者のニュースを聞いた。ただ変死したというだけなので確証はないが、俺にはオスワサマの仕業に思えた。「物騒ね、信。気をつけるのよ」「何に気をつけるんだよ……」 変死体のニュースで、一気に気分が悪くなった。朝食を残し、家を出る。桃華を迎えに行くと、第一声で「今朝の事件って、やっぱりオスワサマの仕業?」と訊かれた。「わからないけど、そうじゃないかと俺は踏んでる。今日帰ったら、母さんにオスワサマが居なくなったこと伝えてみようと思う」「うん……」 話をする気にもなれず、無言のまま学校に着いた。そのまま別れ教室に入ると、変死体の話でもちきりだった。「S湖で発見されたらしいぞ……あ、信。おはようさん」「おはよう、佐久間。今朝からこの話題でもちきりって感じか?」佐久間はうっすら緑がかった黒髪に触れ、「そうなんだよ。まぁ、こんな田舎であんな事件があったらニュースになって当たり前だけど」と一言。確かに都会に比べ刺激に飢えている俺たちには、格好の餌だ。「それにしても、気味が悪いよな。頭蓋骨が破壊されてるんだとよ。人間の所業とは思えねえよな」 その言葉にドキリとしてしまったが、佐久間には当然ながら俺を責める意図はなさそうだ。「本当にな。これ以上犠牲者が出る前に逮捕されてほしいよな」 多分、俺のせいなのが確定した訳じゃない。頭蓋骨を割る猟奇的殺人犯がこの町に潜んでいる可能性もある。その可能性はかなり低いが。「なあ佐久間、これが……本当に人間の所業じゃなかったらどう思う?」「何だお前……信らしくねえな。人間がどうにかやったんだよ。ああでもそっか、お前の家特級呪物があるんだっけ」「オスワサマは呪物……ああ、そんな考え方もあるか」 あまり深く考えたことはなかったが、そういった捉え方も出来る。神様を封印って、やっぱり曰く付きなんだろうし。担任が教室に入って来たので、この話は打ち切りになった。昼。屋上で桃華と弁当を食べている時のことだった。彼女は唐突に「……ねえ、今朝の事件。本当にオスワサマのせいだったらどうする?」「どうしよう……」 珍しく弱気になっている自分に気がつく。食欲も湧かないし、気を抜けば涙が零れそうだ。「大丈夫。信のせいじゃないよ。ちゃんと説明すれば、おばさんも事情分かってくれるって」「そうかな……」 桃華はそう言うが
last update最終更新日 : 2026-02-02
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オスワサマ 6

 帰り道。家が近づくにつれて、足どりが重くなる。「大丈夫、正直に伝えれば……。それに、私もついてるから」 桃華はそう言ってくれるが、憂鬱なことに変わりはない。道中はほぼ無言だった。 家のチャイムを鳴らすと、母親が出てきた。「あら、桃華ちゃんも一緒? とりあえずあがって」 これからのことを考えると、平静を装っていられなかった。家の中に入るだけで、涙が止まらない。「私はお茶を淹れるから、居間で待っててくれる?」「わかりました」 口を開けば嗚咽が漏れる俺の代わりに、桃華が返事をしてくれた。深呼吸しても収まることのない酸欠は、どう対処したら良いのだろう。桃華が背中をさすってくれる。しかし、それだけでは酸欠は収まってくれない。「お茶よ……って信!? どうしたの!?」 茶碗を床にぶちまけた母が寄ってくる。実の息子が大泣きしていたら、それもそうかと何処か俯瞰して考える俺も居た。「ごめ、なさっ」 言葉が思うように出てこない。何度も深呼吸をして、ようやく少しマシになったところで話し始める。「俺、が、ちゃんと見てなかったから、オスワサマの封印が解けて」「それって本当なの!? あの箱は、どうなっているの?」 母親は冷静に、箱の在り処を訊ねた。「俺の、部屋」「大丈夫よ、大丈夫だからね。信が悪い訳じゃないのよ」 母親は、俺の頭を撫でながらそう言った。まるで小さい頃に戻ったみたいだ。 俺の部屋の箱を見ると、母親は「確かに、破られてるわね……」と呟いた。「俺、どうしたら」「とりあえず、オスワサマを探しましょう。オスワサマの神話にはS湖が出てくるから、きっとそこに居ると思うわ。急ぐわよ」 母親は、車の鍵を玄関からとり出て行った。「桃華は先に帰っててくれ」「ううん、私も行く。いくらおばさんが一緒とはいえ、心細いでしょ?」 確かにそれはそうだ。「……そうだな。じゃあ、隣に居てくれ」「うん」 重ね合わせた手は、お互いに震えていた。車に乗り込み、S湖に向かう。俺のわずかな霊感が、作用すると良いのだが。オスワサマの気配を感じようと、目を瞑り集中してみる。すると、微かに気配を感じる。この世のものではない何かが這っている気配。「……母さん、右だ」「わかってるわよ。伊達に信を産んでないわ」 車を右に曲がらせ、しばらくし停車させた。「オスワサマは、こ
last update最終更新日 : 2026-02-02
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オスワサマ 7

「何だ」「どうやって、封印から抜け出したんです?」 途端に黙ってしまったオスワサマ。それと同時に、母親と桃華がやって来た。「ねえ、隣の人は誰?」 状況が把握できていない桃華に、「オスワサマ」と教える。彼女はびっくりしすぎて、言葉を発せなくなっていた。母親はと言うと、目星はついてたようで「いくつか訊きたいことがあるんだけど、良いでしょうか」 とかしこまった口調でオスワサマに語りかけた。「構わん」「今朝の変死体事件は、オスワサマの仕業でしょうか?」「違う。あれは、俺の封印を解いた大巫女様のなさったことだ」 大巫女様。初めて聞く言葉だ。神様の世界も色々あるらしい。「大巫女様?」「貴様らに話す必要はない。どうせ俺から情報を聞くだけ聞いて、また封印するのだろう。御免だ」 当たり前だが、俺たちは好かれていない様だ。それにしても、大巫女の存在は気になる。「そもそも蛇神だったのに何故、人の形を?」「大巫女様に合わせるため、だな。彼女は人型だから」 大巫女は、やはりただの巫女ではないらしい。オスワサマを心酔させる様な何かを持っている、強大な敵と捉えて間違いないだろう。「もしかして、箱の封印を解いたのも」「大巫女様だ。それにしても、真田も何代目かはわからないが随分と霊能力の質が落ちたな。こちらに攻撃も出来ないなんて」 大巫女がどうやって部屋に入ったのかはこの際置いてくとして、オスワサマはこの場で何とかしなければならない。「オスワサマ、再び封印されてはくれませんか。これは貴方の身を守ることにも繋がります」「俺を自分の監視下に入れたいだけだろう。物は言い様だな」 その言葉を聞き、母親は用意していたらしいお札を貼る。途端、オスワサマは伝承通りの蛇になってしまった。『無礼者が!』 俺の頭に、直接声が響いた。これが神の力なのか……と変なところで納得していると、『今この場で、全員殺すことも出来るのだぞ』と圧力をかけられた。確かに、オスワサマなら出来るだろう。しかし、お札を貼られた状態でどこまで出来るかは未知数だ。あの札は遅効性の毒みたいに、オスワサマから素早さを吸い取っている。衰弱化させる効果があるのかもしれない。だとしたら、俺たちにも勝ち目があるかもしれない———その時だった。「こんなところで、何をしているの?」 長い黒髪を一本に結い、巫女服
last update最終更新日 : 2026-02-02
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ヒスイサマ 1

 私の住む町には、特別な神様が祀られている。名前は「ヒスイサマ」。元々翡翠産業で稼いでいたこの町らしい名前の神様だ。人々から、ここまで愛されている神様もなかなか居ないだろう。毎日の様にボランティアで神社が清掃されているし、お供え物が欠けた日もない。ヒスイサマは女性とされ、町の至る所に彼女を模した像がある。その姿は髪の長い全裸の女性で、いかにも像らしい。 ヒスイサマは、実在するらしい。私は本物を見たことはないけれど、噂では大層な美人だったとか色々言われている。私もたまに気になって、様子を見にいっている。そういえば、今月に入ってからは一度も様子を伺っていない。行こうかな。 思い立ったら、行動するのが私だ。靴下と靴を履き、少しだけかしこまった格好で家を出る。ヒスイサマの神社は、今日もお供え物だらけだ。お酒、お菓子、食べ物が目立つ。いや、今はそれよりもヒスイサマだ。「ヒスイサマ、いらっしゃいませんかー?」 声をあげてみても、返事はない。無視されているのか、それとも何か他に理由があるのだろうか。「ヒスイサマー?」 再び呼びかけても、結果は同じだ。私が視えない体質なのかもしれないが、返事がないのは少し寂しい。不意に、からんと絵馬が翻った。あまり人の絵馬を覗き見するのは良くないけれど、強いメッセージ性を感じたのでそれを手に取り読む。 内容は、「旅に出ます。皆様、今までありがとうございました。ヒスイ」と達筆で書かれていた。 私は絵馬をもとの位置に戻し、「大変なことになりましたわ……!」と呟いた。 とりあえず家に帰ってこのことを伝えよう。私は走りづらさを感じながらも、家まで猛ダッシュした。鍵を開けると、双子の姉である春妃が「どうしたの?」と出迎えてくれた。「ヒスイサマが、いらっしゃいません……!」 私は、一連の流れを伝えた。春妃は無言で聞いていたが、「それ、あんまり人に言わない方が良いと思うよ。この町でヒスイサマが居なくなったなんて知れたら、混乱するだろうし」と口を挟んできた。「私もそう思います……。このことは、私たちだけの秘密ですよ」「うん」 指切りげんまんをしたのは、いつぶりだろう。あまり良い内容の約束ではないが、仕方がない。人に言わない方が良いのは、事実だからだ。「とりあえず、探さなきゃね。見当はつく?」「いえ……。元々ヒスイサマには詳しくない
last update最終更新日 : 2026-02-02
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ヒスイサマ 2

 翌日、私たちは海沿いに来ていた。日本海は今日も、少し波が荒い。「じゃあ、私こっちから探すから」 春妃は東へ走っていってしまった。私も気を取り直して、西側で手がかりを探すことにした。 ……とは言っても、何が手掛かりになるのかわからない。ヒスイサマの見た目は像でしか見たことがないし、他の特徴なんて知らない。完全に手詰まりだ。その時だった。「翡翠姫、お身体にお変わりは?」 遠いながらも、ここには騒音がないのではっきりと聞こえた声。翡翠姫、なんて名前は恐らくヒスイサマのためのものだ。「見ればわかるでしょう。相変わらず、全身翡翠よ」 少し近づいて、聞き耳を立ててみる。声の主がヒスイサマなのかを確かめるためには、必要なことだと己の良心を納得させながら。「翡翠姫はそうでなくっちゃ。ところで、例の件考えてくれたかしら」 もう一人の声は、凛とした雰囲気がある。「……私は、人を呪わない。大事にされてきたから」「そう……残念ね。昔からあなたはそう。でも、そこがいいところだと思うわ」 話が見えないが、これってオカルト的な内容なのだろうか。だとしたら、危険な目に遭う前にヒスイサマを救い出さなくては。私は声のする方角へ走った。しばらくすると人影が見えてきて、それが声の主であると判別するのにそう時間はかからなかった。「ちょっと……待ってください」 一人は、長い黒髪を一本に結っている巫女服姿の女性。もう一人は、服こそ着ているものの肌の色が透きとおった翡翠の色だ。彼女がヒスイサマであるのは、間違いないと言える。顔も噂通り、パーツが整っており美人だし。 二人は私の方を見ると、怪訝そうな顔をした。「今、大事な話の途中なの。向こうへ行っていてくれる?」 巫女が言う。しかし、ここで引くわけにはいかない。「私は、ヒスイサマを連れ戻しに来たんです! 向こうへは行けません」 今じゃなければ、いつやるというのか。「知り合い?」「いや……残念だけど。でも、もしかしたら地域の人かも」 ヒスイサマは、昔からこの土地に鎮座している神様だ。人間の一生なんて、一瞬で終わってしまうほどには時間間隔のズレがあるだろう。だから私のことなんて、覚えているはずがない。そもそも、私からも関わりに行くのは初詣くらいだ。「そうです、神社のすぐそばに住んでいる上杉桜子と言います」 自己紹介をす
last update最終更新日 : 2026-02-02
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ヒスイサマ 3

 海岸の東側には、打ち上げられているゴミ以外のモノは見つからなかった。ということは、もしかして西側? その予感は的中し、妹が帰ってきた。片腕が何故かなくなっているが。「桜子!? どうしたの、それ……」 見間違いかと思って、自分の頬を抓る。しかし、そんなことはなく私の妹は本当に片腕を失くしてしまったみたいだ。「あ、はい。ちょっと……」 桜子は多くを語ろうとしない。それだけ嫌な経験だったのだろう。「でも、ヒスイサマは見つけました」「……どうだった?」 恐る恐る訊いてみる。「この傷は、ヒスイサマのせいではないのです。もう一人居た、巫女のせい」「巫女?」「はい……」 ようやく桜子は、全てを説明し始めた。ヒスイサマと謎の巫女、逆らったら片腕がなくなったこと。「……こっちでも、仲間を集める必要がありそうだね」「でも、どうやって」 そう言われると手詰まりだ。私の周りには当然ながら、巫女に対抗できるような特殊能力を持った友人はいない。友達の友達、とかなら居るかもしれないが。「桜子、後ろ!」「え?」 桜子を振り向かせると、そこには恐らく彼女が言っていた巫女服の女性が立っていた。「やっぱり、見られたのはこちらにも痛手だったわ。あなたたちは、今ここで葬る。ちょうど海もあるし、綺麗に死ねるはずよ」 どう抵抗すれば、彼女に勝てるのかわからない。立ち尽くしていると、「抵抗しないのね」 まずは、桜子に狙いを定めたのか巫女はそちらを向いている。「……」 桜子は、怯え切った表情で微動だにしない。先程植え付けられた恐怖が、そうさせているのかもしれなかった。「うわああああああ!!」 と、思ったら巫女に突進していった。流石に想定外だったのか、それをモロに食らった巫女は倒れ込んだ。「春妃、逃げて! 一人でも助かれば、希望があるかもしれないから」 私は、姉として失格だ。これから確実に殺される妹を見捨てて、ただ走って逃げた。「逃がさないわよ」 もう、桜子の声は聞こえなかった。それはきっと、そういうことなのだろう。私は、自称霊感のある友人にこのことをメッセージで伝えた。それが効果を発揮するかはわからない。だが、この巫女にそれを悟られなければそれでいい。私はスマホの電源を切った。「私は、逃げない。どんな呪いだって受け止めて見せる」 それが、桜子に対す
last update最終更新日 : 2026-02-02
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巫女の語らい

 翡翠姫は、少し遅れてこちらに歩み寄ってきた。「むごいことするの、変わってないのね」 彼女からすれば、守るべき人々が死んでいるのだから良い気分ではないだろう。「でも、二人揃って殺したのは慈悲よ」 死んだ二人は、顔もよく似ているしきっと姉妹だ。姉妹、という単語で思い出しそうになったことがあったが、いいことではないのでまた記憶に蓋をした。「……残念だけど、私はあなたに協力できない。ここで祀られている方が、私の性には合っているみたいだから」「そう」 流石に、彼女と交戦したらこちらも無事ではいられないだろう。人材は、また新しく探せば良いだけだ。ここは、神とまじないの宝庫日本なのだから。「じゃあね、少しの間だけど楽しかったわ」「うん、また会えたらいいわね」 翡翠姫は、恐らく本心ではない言葉で私たちを見送ってくれた。さあ、次は誰を探そうか。 大分、現代の事情もわかるようになってきた。私の故郷から人が都市に流出していること。やっぱり、藤原氏が世間を牛耳っていた時期があること。私が封印されている間に、様々なことが変わってしまった。私そのものが、生ける都市伝説みたいになってしまったことは、不本意ながら受け入れるしかないだろう。 T県には、兎神が鎮座している。昔は大層私に懐いていたが、今ははたして。私も随分変わってしまったから、認識してくれないかもしれない。 まだ鎮座していると良いのだが。
last update最終更新日 : 2026-02-02
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白兎の神 1

 白兎神社。兎を神として祀る、不思議な神社。僕は、そこに参拝しに来ていた。友人が送ってくれたメッセージに、気になる点があったからだ。「巫女服姿の女に気をつけて。彼女は人間ではない。見かけたら真っ先に逃げるか、それか私たちの仇をとってほしい。そのためには、こちらも多くのこの世ならざるものを味方につけておく必要がある。悪いけど、一生のお願い。仲間を集めて、巫女を止めて欲しい」 それ以降連絡がとれないということはそういうことだろうと思いながら、仲間探しを決意した。それが、せめてもの供養だろう。僕には、霊感が少しだけだけどあるから適任と言えなくもないかもしれない。こんな少しの霊感で仲間に出来る存在と言えば、小動物がいいところだろう。「白兎様、いらっしゃいませんか」 そう呼びかけても返事はない。当たり前か。一人一人に反応していても、疲れるだけだ。神社に背を向け立ち去ろうとすると、「待って」と声がかかった。「何か、僕に用事だった?」 白い髪を二つに結った少年がそこに居た。目の色が赤いことで、一層浮世離れして見える。「白兎様……?」 僕の第六感が、そうだと告げている。彼も頷き、「そうだよ。人間の姿の方が気がつかれやすいかと思って支度してたら時間がかかっちゃった。ごめんね」と謝られた。「あと、様はつけなくていいよ。僕は確かにこの世の存在ではないけど、崇められるのは苦手なんだ」「じゃあ……白兎」 神様を呼び捨てなんて、バチが当たりそうだ。「うん、それでいいよ。お願い事聞いていたけど、仲間を探しているの?」「そうだよ。僕の友達が呪殺されたから、かたき討ちってやつ」 白兎は、しばらく考える素振りを見せてから「僕で良いなら、力になるよ。微々たる力だけど、無いよりは役に立てると思う」 と、僕に手を差し伸べた。「勿論、君が良ければ。だけど……」「ここまで来た甲斐があった……。ありがとう」 僕は、白兎の手をとった。そのまま握手すると、小動物特有の体温が伝わってくる。やっぱりこの姿はかりそめなんだな、と実感した。「呪殺……まさかね」 白兎がぼそりと何かを口にしたが、小声すぎてよく聞き取れなかった。 ホテルに着き、ベッドの上で考える。春妃はどうして、大事な仕事を僕に任せたのだろう。普段から関わりがある訳でもないのに。僕が、自称霊感持ちだから、賭けてみる気
last update最終更新日 : 2026-02-02
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白兎の神 2

 翌日。旅の疲れからか比較的よく眠ることが出来た。『おはよう。ところで、君の名前を聞いていなかったね。なんて名前?』「新井惣。これが、僕の名前だよ」『良い名前だね』 ホテルから出て、どうしようか考える。もっと沢山の怪異を味方につけておいた方が良いのは、明白だ。白兎は神とはいえ、巫女と戦えばただでは済まないだろう。 とりあえず買っておいた朝食のサンドイッチを食べながら、白兎から話を聞くことにする。「ねえ……他に仲間になってくれそうな存在って居ないかな」「どうだろう。ここは、多分君が戦うことになる巫女の出身地から近いからね。この近辺は諦めて、別の場所に行った方が良いかもしれない。例えば、巫女が唯一敗北した東の武神とか。今も生きているのかはわからないけれど」 いつの間にか人間の姿に戻っていた白兎が、駅の列車を見ながら言う。「東の武神?」「日本神話の時代にまで遡るけど、そういう神様がいらっしゃったんだ。国譲り神話って知ってるかい? あの時、巫女を崇めていた民から国を奪った……言い方悪いけれど、そうなるかな……神様だよ。僕は、その二柱にお会いしに行く価値はあると思う。仲間になってくだされば、それほど心強いこともないとも思うよ」 僕が思っていたより、ずっと壮大な話で頭が追いつかない。ただ、何となくわかるのは長時間ここに居てもやることはないということだけだ。「わかった、行こう。ところで何処に鎮座されてるの?」「ええと……今の単位に直すと……C県とI県だね」 ここからだと、大分遠い。夜行バスで行くのが一番早いだろうか。スマホで検索しても、そのルートが一番に表示される。僕は夜行バスの予約を済ませると、残金を確認した。当初は余裕だと思っていたけれど、意外とギリギリかもしれない。溜め息をつくと、「君には苦労をかけるね。ごめん」と白兎から謝られた。別にそんな意図はなかったのだけれど。 夜まで暇になったので、白兎から巫女の詳細を聞くことにした。「出雲の話? 前にも言ったけど、僕の親代わりで強大な力を持つ巫女だよ。今で言うと……N県に行った時にその力の強大さ故に封印して殺されてしまったけれどね」「どうしてN県に?」「国を奪い返そうとしたんだよ。返り討ちに遭うとわかっていても、やらずにはいられなかったんだろうね。それが民の願いでもあったから」 僕の思い描い
last update最終更新日 : 2026-02-02
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