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呪われた巫女様 のすべてのチャプター: チャプター 21 - チャプター 30

34 チャプター

白兎の神 3

 翌朝、日差しが差し込んできたので目が覚めた。景色を見るとビル群で、ああ、首都に来たのだと実感する。しかしこれは、始まりに過ぎない。首都の名を冠するT駅から、更にバスで一時間半。それでやっと、神様のところへ参れる。 バスの終着点はT駅ではなかったので、電車を使って移動する必要があった。それにしても、首都はどの駅も迷路だ。目的の路線に乗るまで、二度ほど迷った。出来ればもう来たくない、そう電車に揺られながら思った。 T駅は、改札の外は意外とシンプルだった。バス乗り場に行くと、既に神社の方面に行くバスが停車している。この街の朝は、随分と早いみたいだ。バスに乗り込むと、まだ朝だからか需要があまりないのかは不明だが、人が少ない。それにしても、夜行バスってこんなにお尻が痛くなるものなのか。ここから一時間半も耐えられるかいささか不安だ。白兎はそんな僕の憂いも気にせず、辺りを見渡している。『この国も変わったね。東国には本当に何も無かったのに』「……今は、首都だよ。ここは」 小声でやり取りしていると、エンジン音が聞こえた。出発するみたいだ。駅からどんどん遠ざかり、高速道路に入ると沢山の工場が見えてきた。その光景は新鮮で、思わず見入ってしまう。しばらくすると、それは僕の地元でも見られる農村地帯に変わったので興味をなくし再び眠りについた。「お客さん、終点ですよ」 運転士に起こされると、大きな神社が目の前にあった。いや、これは門前町というものか。規模の割に賑わっていないのは、今日が平日だからだろうか。休日でもこうなら、大分過疎地域だ。「お客さん?」「あ、すみません。今降ります」 慌てて荷物を持ち降りる。改めて観察すると、『歓迎』と堂々と書かれた門は威圧感がある。中に入ってみる。名物らしいお団子が、美味しそうな匂いで僕を誘惑してきた。……そういえば、朝ごはんを食べていなかったな。「醤油味のお団子、一つください」「はいよ!」 僕はお団子を食べ、再び神社の方角へ歩みを進めた。この神社の主神に参拝し、事情を説明するために。『ここの神様は、コキヌサマって名前なんだ。少し気難しいかもしれないけど、味方になってくだされば心強いと思うよ』「コキヌサマ……か。緊張してきたな」 本当は、人と話すのは得意ではないのだ。いや、今回は人が相手な訳ではないけれど。人以上に緊張する相手
last update最終更新日 : 2026-02-02
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白兎の神 4

「……そんなところです。僕らは、コキヌサマの力を借りに来ました。僕の友人を殺した巫女に、立ち向かうために」「巫女……ああ、あの根暗そうな女か。まだこの世に残っているとはな。すっかり封印されたものだと思っていたが」 巫女とも面識がある様だ。あまり良い印象を抱いているとは言えなさそうだが。「それで、貴様は何を望む?」 まっすぐな眼差しで見つめられると、言葉に詰まる。僕は桜子と春妃以外の女性とは関わっていないから女性耐性がない。『勘違いしているみたいだけど、コキヌサマは性別とかないよ。好んで小柄なだけ』「えっ」 思わず声を出してしまった。コキヌサマも吹きだし「貴様、私のことを女神だと思っていたのか!? 面白い。一本取られたな。願いを聞こう。今の私は気分が良い」 くっくっと笑うコキヌサマ。結果オーライなのだが、余計な恥をかいた。「巫女を、出雲を封印したいんです。そのためには、コキヌサマの力が必要だと思っています。どうか、お力添えを」「ふむ……封印、か。封印でことが足りると良いが。それに今の私は封印されているからな。大したことは出来んよ。精々、加護を授けるとかお守りを授けるとか、簡易的なことしか不可能だ」「封印されている?」 コキヌサマは、とてもそんな風には見えない。第一武神を封印するなど、相手はどんな存在なのだろう。「情けない話なのだが、私と相方イカヅチはこの辺り一帯を治めた後に封印されている。私たちも封印し返したので、お互い解けない封印という訳だな。 相手は、星を司る神だった。まあ、星男とでも呼ぼう。彼を味方につけられたら、こちらが不利だから会いに行くなら今が良いかもしれんな。イカヅチは、巫女に決して味方しないが星男がどうかはわからん」 星男。確かに自然物の神様って強そうだ。それこそ、アマテラスオオミカミも。「さて、星男の話をしている間にお守りを作ったぞ。この勾玉は、いわば厄除けだな。私特製だから、大事にすると良い」 つやつやの勾玉を渡された。色は、コキヌサマの瞳の色と同じ。有難く受け取る。「では、加護もかけておいてやろう。頭が高いから、少し落とせ……そうだ、そのまま……」 体そのものが軽くなる感覚があった。これが、加護なのか。「終わったぞ。これなら、巫女の攻撃も少しは耐えられるだろう」 どういう理屈なのか聞きたかったが、こう
last update最終更新日 : 2026-02-02
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白兎の神 5

 星男のところへ行くには、一度C県のN駅に戻り、そこから支線に乗り、乗り換えて二時間。遠い。遠すぎる。資金が底を尽かないか心配すぎる。それに、僕のお尻ももう限界だ。座るだけでも痛いし、かといって立ちっぱなしは疲れる。こればかりは我慢するしかない。加護も貰ったことだし。 お昼ご飯に、支線の終点A駅で有名らしい唐揚げ蕎麦を食べた。一つ一つの量が多く、満腹になったところでまたJ線に乗る。眠らない様に気をつけないと。最悪白兎に起こして貰えばいいが……気を引き締める。 目的地であるO駅は、駅前に大学があり学生らしき人の乗り降りが多かった。それに混じって大学へは向かわず、体の赴くままに神社へ向かう。「こんな神社に何の用だ」 黄土色の髪をした男性に話しかけられた。僕は咄嗟の切り返しが凄く苦手なので「あ、えと……参拝に」 としか答えられなかった。「こんな人から忘れられている様な神社に? ……あぁ、なるほど。あいつの遣いか。お前に話すことは何もない。封印は解けていない、それだけ聞けば安心するだろう。あの武神も」 話を一方的に切り上げられてしまっては、打つ手がない。「ま、待ってください! 僕は貴方にお願いがあって来ました!」「お願い?」「巫女……出雲が、封印を解かれて各地を徘徊しているんです。また彼女を封印したいんです、どうかお力添えを」「嫌だ」 即答だった。彼の口元は怪しく歪んでいるのを見ると、ロクなことを考えていない様に見える。「あの武神に一泡吹かせる良い機会だな。俺は、巫女の側に回ることにする。どうせそのうち会いに来るだろう、向こうから」 男は、瞬きをしたらその場にはもう居なかった。仕方ないので、神社から去る。無駄な時間を過ごしてしまったが、これで少しは神慣れしたかもしれない。 I県の県庁所在地であるM駅まで戻り、昔ながらの路線に乗り今度はイカヅチ様の鎮座する神社へ向かう。海沿いの景色は、中々に絶景だった。普段海とは遠い生活をしているので、尚更だ。絶景に見惚れていると、神社の最寄り駅に到着した。もう夕方だ。神様は寝るのが早いと聞くし、走って神社に行こう。僕の体力も、もう限界だけど。
last update最終更新日 : 2026-02-02
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白兎の神 6

 神社に着くと、地元のプロサッカーチームの応援幕が飾ってあった。地域との結びつきは、相当強いらしい。中に入ると、広大な敷地に圧倒された。もう参拝客はほぼ居なかったが、念のため人を避け「イカヅチ様……いらっしゃいますか」と呼んでみる。「あぁ、俺がそうだが……何の用だ」 僕の真正面に、光が溢れて大男の姿が形成されていく。髪は乱雑に伸ばされ、瞳は綺麗な橙色をしている。コキヌサマに比べると、随分と男性的な顔の造りだ。顔の一つ一つのパーツの主張が激しい。「見つめても何も出ないぞ」 気がつけば、僕は見入ってしまっていたらしい。慌てて視線を逸らすと、イカヅチ様はふ、と口元を緩めた。「巫女を、出雲をご存知ですか」 その名を出すと、イカヅチ様の一気に目つきが鋭くなった。「勿論、知ってはいるが……。彼女がどうかしたのか。彼女は封印されたのではなかったのか」「落ち着いてください」 僕は、出雲騒動の概要を説明した。友達が殺されたこと、出雲は復活していること。コキヌサマから加護を受けたことも。一通り話し終えると、イカヅチ様は一言。「……厄介なことになったな」 それから、こちらを見据え「青年、お前は何を俺に望む? 悪いが俺は封印されていて、旅に同行することは出来ない。そうだ、イキス。あれを持ってこい」 イカヅチ様が指を鳴らすと、コキヌサマの顔面とイカヅチ様の髪色を持った中性的な神様? が現れた。「こちらでございますね。しかし、良いのですか? 渡してしまっても」 手元には、剣。こんなもの、僕に扱える訳がない。辞退しよう。「これは、大昔の戦いで俺が使った剣だ。とはいえ、模造品だがな。本物は今でいうN県に保管されている。ただ、模造品でもあいつのお守りやら加護やらがあれば十分力を発揮するはずだ。持っていくといい。もし返せない状況に陥っても、イキスが回収に行くからそこは気にするな」 強引に手渡されると、やはりずしりと重い。これを持って歩くのは、骨が折れそうだ。「ところで、イキス様って何者なんですか?」 いきなり現れたことを考えると、やはり人間ではないのだろう。「僕は、……様をこの地に運んだ船です。神といえば神ですが、まぁ式神に近いですかね」 名前のところがよく聞き取れなかったが、恐らくイカヅチ様のことを言ったのだろう。「ありがとうございます。封印、というのは
last update最終更新日 : 2026-02-02
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白兎の神 7

 列車に乗っている間に、宿を探す。特別な観光地という訳でもないのに、僕の財布に大ダメージだ。どうしよう……。この辺りには当たり前だが知り合いもいないし、安い宿もない。八方塞がりだ。『ねえ、そろそろ帰らないの?』 胸元に隠れている白兎が問いかける。今まで気配を消していたのは何だったのだろう。「帰らないのって……なんで?」『僕にはわかるんだ、出雲がこっちに来ているのが。彼女と対峙するにはまだ、準備不足だよ。一度帰って態勢を立て直そう』「そんなこと言われても……」 地元へ行く新幹線が、まだ終電じゃないと良いけれど。とりあえずはT駅を目指すことにする。時刻表上では、終電にはあと数時間ほど猶予がある。恐らく帰れるだろう。 T駅は、相変わらず混雑していた。通勤ラッシュの時間は過ぎているはずなのに。これが首都の中枢ということなのか。新幹線のチケットを買い、ホームへ向かう。思ったより時間に余裕がなく、半ば駆け込みで新幹線に飛び乗った。数日ぶりの地元だというだけで、一気に安心感が込み上げてくる。帰ったら、まずはゆっくり休もう……。そこで僕の意識は途切れた。 目が覚めると、次が僕の地元の新幹線駅であるJ駅だった。降車の準備をし、ドアの付近に陣取る。僕の他に降車客はいない様だ。見慣れた田園風景が夜の静けさと融合して、帰ってきたんだという気持ちにさせられる。“まもなく、Jです” チャイムと共に、駅名が聞こえた。もうしばらくすると、新幹線は駅に停車しドアが開いた。降りると、首都に比べてだいぶ肌寒い。もうそろそろ初雪だな、なんて考えながら母親に連絡し迎えに来てもらうことにした。小言は覚悟の上だ。見慣れた車が、五分ほどで到着し「惣、あんたこんな遅い時間までどこほっつき歩いてたの?」と乗るなり質問された。「あ、うん。ちょっと用事があって」「もうこんなに夜遅いのよ? 普通母親を迎えに呼んだりしないわよ」「ごめん……」 その後も母親の小言は続いたが、家に着くとぴたりと止んだ。これでおしまいみたいだ。「母さん、迎えありがと」「いいわよ、もう。そんなことよりお風呂入っちゃって。惣が最後だから」「わかった」 二階にある自分の部屋に荷物を置き、お風呂の準備をする。脱衣所で服を脱ぎ、シャワーを浴びてからお風呂に入る。ここ最近張り詰めていた心が、一気に解けていく感じがする。し
last update最終更新日 : 2026-02-02
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白兎の神 8

 深夜、寝苦しさから目が覚めた。僕はどうしてこんなことをしているのだろう。春妃の死は確かに衝撃的だったけれど。 ……ああ、そうか。僕は好きだったんだ。彼女が。だから、彼女を殺した出雲が許せないでいるのか。ようやく自分の感情の動きに納得がいった。「ねえ、白兎」『どうしたの?』「僕と彼女、出雲ってさ。和解できるかな」 我ながら呆れる。まだ和解出来ると思っている自分に。『……出雲には、この世への呪いの感情だけが残っているんだと思う。その状態のままここまで来ているなら、難しいかな』「……だよね」 自嘲的に言うと、『でも、君の和解したいという気持ちは誇るべきものだと思うよ』とフォローされた。 次起きた僕に全て任せて、今は身体も心も休ませよう。そう思って目を閉じる。和解が無理なら、やはり倒すしかないのだろう。倒して、封印するか跡形もなく消滅させるか。それしか選択肢はないのだろう。 本当に? それしか、ないのだろうか。出雲はそこまで話が通じないのだろうか。元々が人間であるなら、全て分かり合えないということはないと思うのだが。特に、昔の彼女は好意的なエピソードもあった。分かり合う道があるのなら、僕はそちらを選びたい。混濁した意識の中で、そう思った。 翌朝、外は大雨だった。『……嵐が来るね』 ぽつりと白兎が語りかける。確かに嵐、と言った方が正しいだろう。風で窓がきしむ音が聞こえる。「これじゃ、外に出るのも危ないね……」 今日は、出歩くのは控えておこう。白兎も頷き『しばらく休むと良いよ。あれだけ長い旅をしたのは僕も久しぶりだから疲れているし』 神様でも疲れるのは間違いない様だ。白兎の顔にも疲労が浮かんでいる。『そうだ、今日外に出られないのなら状況を整理してみよう。何か見えてくるかもしれない』 確かに、今まで色々あったから頭が混乱している。「わかった。昨日はまず、コキヌサマにお会いしたよね。そこで加護を受けて……」『その後、星神様に会いに行ったけどそれは失敗だったね。多分、今頃出雲についているんじゃないかな』「で、その後イカヅチ様に剣を頂いて……本当に色々あったなぁ」『僕としては、まだ不安なくらいだ。出雲が全盛期の様な力を取り戻しているとしたら、君も僕も、無傷ではいられないだろうし』 その言葉を受け、こちらも不安になってきた。昨日僕がお会
last update最終更新日 : 2026-02-02
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巫女の破壊

 雨は不快だ。しかも、大雨ときている。私が一番嫌いな気象かもしれない。私の故郷も雨が多かった。あの地は今、どうなっているのだろう。白兎を迎えに行った時足を伸ばして行けばよかった。白兎は居なかったけれど。白兎自身の意思で居なくなったとするのなら、お仕置きする必要がありそうだ。「ねえ、出雲」 雨を反射して、翡翠姫が立っていた。彼女が祀られている場所からは多少距離があるのだが、どうしてここにという疑問の前に彼女は話し続ける。「やっぱり、あなたのしていることは良くないと思うわ。やめない?」「やめない。私がやめない性分だっていうのは、よくわかっているはずなのにどうしてそんなことを言うのかしら」 逆らってくるのなら、翡翠姫と言えど処理しなければいけない。「残念だわ、痛めつける以外に止める手段がないというのは」 翡翠姫は、歌い始めた。決して大きな声ではなく、雨にかき消されそうなほどの声量で。しかし、それが攻撃であることはわかっている。彼女は肉弾戦が出来ない代わりに歌で相手を攻撃できるのだ。私が神の力を借りているのと同じ様に。 頭が痛くなってきた。割れるように痛い。その場に蹲ると、彼女の口ずさむ旋律が変わった。「終わりよ、出雲。今度という今度は、封印じゃなくて滅してあげる」 身体が焼けるように熱い。内臓から何かがこみ上げてくる。吐き出すと、それは大量の血だった。まだ身体が今の状態に馴染みきっていない、人間の部分があるのを翡翠姫は見抜いていたのだろう。恨めしい。こちらも、神力で反撃しなければ。指先に力をこめ、彼女に照準をあわせる。翡翠姫は、全身が翡翠なのだから粉砕しようと思えば出来るはずだ。その姿を思い描き、彼女に神力を注ぎ込む。「出雲、なんということを……!」 ヒビが入った瞬間、翡翠姫の身体はバラバラになった。もう、元に戻ることはないだろう。一箇所ならまだしも全身が粉々だ。今話せているのも、神力の一部に過ぎない。「こちらも痛手を負ったもの。これくらい、されても文句は言えないわ」 私と蛇神は、壊れた翡翠姫を背に再び歩き出した。白兎の居るであろう方角へ。探知は出来ている。あとは、会うだけだ。
last update最終更新日 : 2026-02-02
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嵐と神 1

 白兎の様子がおかしい。部屋の中をうろうろしたかと思ったら、急に立ち止まって。兎の姿だから可愛らしくも見えるが、心配だ。「ねえ、どうしたの? さっきから様子が変だよ」『出雲の気配がするんだ。こちらに向かってきてる。……正直、対峙するのはまだ早い気がして。だから、逃げよう。なるべく遠くへ』 そんなことを言われても、昨日の旅でもう金欠だ。遠く、といっても僕の住んでいる地域には山くらいしかない。……そうだ、山に逃げよう。山の中なら、多少は気配も紛れるかもしれないし。「わかった、逃げよう」 母の「こんな雨なのにどこ行くの?」という問いかけは無視し、外に出る。雨は一層酷くなっている。こんな時に外に出ること自体正気じゃないが、今はそれどころではない。「山に行こう。入り組んでるから、遭遇率が低いかも」『わかった。僕も神だから、山の魑魅魍魎の退治は任せて』 そうだった。兎姿でいることが多いから忘れかけていたが、白兎は神なのだった。心強い。 山に入ると、木々から落ちる雫が服に吸い取られ不快感が募っていく。重くなる服を着ながらの移動は、どうしても動作が重くなる。今どの辺りを歩いているのかもわからなくなってきた頃に、頭上から声がした。「ええもん持ったはるやん、何処で手に入れたん」 見上げると、黒髪の男性が木の上からこちらを見下ろしていた。彼は木の上から降りてくると、錫杖を手に取る。「聞こえとった? その剣のことや、それから溢れ出とる神力の量が異常やで。答えてや」 僕が持っている、イカヅチ様の剣のことだと理解するまで数秒を要した。「これは」『待って、名前も分からない人に明かすのは危険だよ。出雲の手先かもしれないし』 白兎の言うことも一理ある。この声は相手にも聞こえていた様で、「まずは自己紹介から、ちゅうことか。俺は藤原織彦。家族を巫女に呪殺されたから、追っとる。あれは元々俺の一族が封印しとったのが解かれた状態やしな。呪い専門の退治屋、ってとこや。そっちは何なん」 織彦は、髪を絞りながら問いかけてきた。「僕は、新井惣。こっちは兎神の白兎。僕も友達が殺されたかもしれなくて、出雲を探しているんです。そのために、仲間も探しました。……とはいっても、皆加護をくださったり剣をくださったり。この場にはいらっしゃらないけど」 居てくれたら、どれだけ心が楽だっただろ
last update最終更新日 : 2026-02-02
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嵐と神 2

「私は、人間に酷いことをされてきた! だから、逆に呪殺してもいいの!」 「……出雲、話が通じないな……。またあの頃みたいに、僕と暮らそうよ。平和だったあの頃に戻ろう」  感情的な出雲に対し、白兎は冷静だ。 「白兎、あなたは人間に染まりすぎてる。元を辿ればあなただって、私側の存在なのに」 「……もういいよ、出雲。もういいんだ……。話が通じないことは、よくわかったから」  今の位置から一歩下がり、出雲と距離をとる白兎。出雲は微動だにせず、それを見つめている。 「来るよ、武器の準備を」  ぼーっとやり取りを見つめていた僕だったが、その声でやっと我に返った。武器といえば、イカヅチ様から借りている剣しかないが、これは勝手に鞘から抜いても大丈夫なのだろうか。織彦さんは錫杖を持っている。もう、細かいことは考えずに僕は鞘から刀身を抜いた。その瞬間、雷がすぐ近くに落ちた。下手したら感電していたかもしれない。これも、神力なのだろうか。随分と危ないけど……。 「それは……国譲りの剣! どうしてこんなところに」 「準備をしていたのは、こちらも同じってことだよ」  出雲は、指先をこちらに向け照準を合わせようとしている。そこを、織彦さんが背後から錫杖で殴り彼女の注意をひいた。 「あなたも藤原ね。まだ残っていたなんて……」  出雲は恨めしそうに織彦さんを睨みながら、「オスワサマ、縛っておいて」と一言。すると、何処に潜んでいたのかわからないが巨大な白い蛇が織彦さんの身体を締め上げる。錫杖で殴ろうとするも、手も拘束されて何も出来そうにない。 「さて、次はあなたね。その刀は……私の苦手とするところなの。だから、それを選んだことは評価してあげる。でも、今は私の方が強いわ」  出雲は神力で作った刀で、僕の方に向かってきた。連日の疲れが祟ってか、すぐに動けず腹部に鈍痛が走った。これでも、コキヌサマの加護によって緩和されているのだろう。まだ動ける。 「……っ、惣、逃げよう。今の出雲は、君じゃ敵わないよ」  冷酷に言い放つ白兎。 「で、でも織彦さんが」 「俺のことは心配せんといて! 絶対こいつら倒すから」  そのビジョンが思い描けないが、今はその言葉に頼るしかない。腹部の鈍痛はどんどん広まってきて、下半身を支配しつつある。逃げ切れるだろ
last update最終更新日 : 2026-02-02
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駆ける兎 1

 惣と別れて、誰を連れてこようか考える。そういえば東国には、龍の伝説がいくつかあった様な。それが今の何県だったかまでは思い出せないが、東に行けばいずれ巡り合うだろう。この世の物でないものは、それ同士で惹かれ合う性質にある。封印されていない僕は、自由にこの島国を移動できる。信仰が及んでいない海外は無理だけれど、結構重宝している能力だ。信仰が途切れない限り、消滅することもないし。それが僕と出雲の大きな違いの一つだろう。そんなことを考えながら、僕は跳んだ。元々が兎だから、跳ぶ力には自信がある。一跳びで、県を跨ぐ移動ができるのは本当に楽だ。僕はS県の山の中に降り立つ。記憶が確かなら、ここには三対の龍の一匹が住んでいたはずだ。『無礼を承知で、ここまで来てみたけど……おやすみの時間かな』 三龍のうち、最も夜が早いのがこの龍だ。名前は人間によって、詩龍と名付けられたと聞いている。『何かと思えば兎神か。最後に会ったのはいつだったか……思い出せん。今まで何をしていた? 随分と人間臭い』 詩龍は、人間のことを嫌っている訳ではない。むしろ、龍使いの人間と契約を交わしていた過去もあるくらい、好きなのだろう。人間が。『うんまあ、少し過去と決着をつけるためにね。出雲って覚えてる? 大昔の巫女のことなんだけど』『それがどうした。彼女のことを、忘れる方が不可能だろう。彼女は生きている時から、負の力が強かった』 太古から生きている神々、その他人外の中で出雲を知らない者がいるなら会ってみたい。それくらい、有名人なのだ。良くも悪くも。『……その出雲が蘇った、って言ったら?』『本当か?』 詩龍の声の調子が変わった。『本当だよ。もう何人も犠牲になってる』 僕は話した。惣のこと、恐らく全滅であろう藤原家のことを。被害がこれだけなはずがないが、確認がとれていない以上話すのはやめておいた。『ふむ……藤原家がそんなことに……つまり、お前は我々の力を借りて出雲を封印したいのだな』『うん、その通りだよ。僕は兎だから、もっと強大なものに頼るしかないんだ』 話が早くて助かる。詩龍からしても、出雲の復活は喜ばしい事態ではないみたいだ。『良いだろう、と言いたいが我の力も全盛期に比べて衰えている。他の二龍が良しというのなら、我も力を貸そう。貸して負けたら、こちらが殺されるからな』 今すぐにで
last update最終更新日 : 2026-02-02
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