絵里は青ざめた顔で電話を切る。その様子に、裕也はただならぬ気配を感じ取る。「どうした?」絵里は喉を詰まらせる。表情こそ平静を装っているが、瞳の奥に広がる動揺はどうしても隠しきれない。「警察署まで送って」先ほどの電話は丈裕からだった。中川誠治が飛び降りたというのだ。しかも、水原グループ子会社の屋上から身を投げたらしい。その現場には、文紀も居合わせていた。現在、文紀は事情聴取のため警察署に連行されている。道中、絵里はすぐに落ち着きを取り戻し、丈裕から聞いた話をすべて裕也に打ち明けた。裕也は彼女の肩を強く抱き寄せ、優しい声でなだめる。「心配するな。まずは警察署に行って状況を確かめよう。大丈夫だ、俺がついている」絵里は頷く。今はそうするしかない。気丈に振る舞い、裕也と共に警察署へ向かう。事態は丈裕の報告通りだった。誠治は転落死を遂げ、現場にいた唯一の人物である文紀は、捜査への協力を求められている。現在、鑑識と法医学者が検死と証拠採取を進めており、本来であれば文紀はまだ帰宅を許されない状況だ。しかし裕也が自ら掛け合うと、三十分も経たないうちに文紀を引き取ることができた。署を後にする直前、高木警部が絵里を呼び止め、二人きりで言葉を交わす。「中川誠治は、以前、酒井文紀さんの会社で財務を担当していました。その後、酒井さんが告発され、捜査を受けて起訴を待つ身となった矢先、彼は死亡しました。しかも、現場には酒井さんがいた……どう見ても、酒井さんにとって極めて不利な状況です」高木警部は十数年のキャリアを持ち、迅速な行動力と緻密な思考で署内でも名を馳せる優秀な刑事である。以前、雪枝たちが拓海を殺害した過去の事件を担当したのも彼だった。現在そちらは証拠固めが終わり、すでに三人は起訴され、公判の日程を待つばかりとなっている。そんな中で起きた今回の文紀の事件。高木の警部としての勘と観察眼は、背後に潜む明らかな不自然さを嗅ぎ取っていた。だからこそ、彼はわざわざ絵里に忠告を与えたのだ。絵里は彼に深く感謝する。「ありがとうございます、高木警部。叔父の件、引き続き捜査をお願いします。中川誠治の死は、叔父の疑いが晴れることを良しとしない何者かが仕組んだ罠だと、私は信じています」高木警部は彼女の言葉の裏にある
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