絵里の胸が微かに震える。裕也の抱く恐怖と不安が、鮮明に伝わってくる。多くの言葉を交わすことはできなかったが、彼が自分のためにしてくれた数々の出来事が、脳裏に深く刻み込まれていた。絵里は無言のまま、そっと腕を上げて裕也の背中に回す。裕也は顔を伏せ、込み上げる感情のままに彼女の頭頂部へ何度も口づけを落とし、その身体をきつく抱きしめる。「絵里、きっと全部うまくいく。俺を信じてくれ。頼むから」裕也の低く、惹きつける温かな声が響く。彼は絵里の髪に、何度も何度も唇を押し当てる。「うん」拒絶の言葉など出なかったし、拒む気も起きなかった。絵里は裕也がここに留まることを静かに受け入れる。どうやってこの夜を乗り越えたのか、絵里でもよくわからなかった。翌朝目を覚ますと、裕也は前日と同じように、彼女の好物ばかりを並べた朝食を手作りしてくれていた。裕也がそばにいてくれるこの穏やかな時間が、絵里はたまらなく好きだった。心が芯から温まり、深い安堵に包まれる。朝早く、会社へ向かう。ニュースもネットも、昨日文紀が事情聴取のために連行されたという話題で持ちきりだった。中には意図的に世論を煽り、絵里が不正な手段を使ったからこそ藤原グループを打ち負かし、重要な土地の開発権を手に入れられたのだと書き立てる者までいた。こうした悪意に満ちたコメントなど、絵里はとうの昔に気にならなくなっていた。だが、梨乃は違う。絵里がショックを受けているのではないかと心配し、朝一番で気遣う電話をかけてくる。梨乃を安心させるため、絵里は事の顛末をすべて打ち明けた。梨乃は驚愕し、そして激怒する。「つまり、全部洋二が裏で糸を引いてたってこと?あなたと裕也を引き離すために、土地を無理やり手放させようとして、あんな汚い手まで使うなんて……いくらなんでも卑劣すぎるわ!」絵里の境遇を思うとやりきれず、梨乃はさらに口汚く罵詈雑言を並べ立てる。「ほんと、あのクソジジイ!裕也もあんな図々しい夫婦とは、さっさと縁を切っちゃえばいいのよ!」一方の絵里は、比較的冷静だった。いくら腹を立てたところで、事態が好転するわけではない。むしろ、感情的になれば状況を悪化させる恐れすらある。彼女はその話題を切り上げる。「今日、ギプスを外す日だったよね?鈴木さんは一緒に行ってくれ
Read more