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All Chapters of AIカレシの愛楽くん: Chapter 1 - Chapter 10

10 Chapters

1話 ダンボールの中の彼氏

 ――恋。  それは、キラキラした世界にいる、キラキラした人たちが繰り広げる、夢のような物語。  つまり、私には、永遠に無縁なこと。  そう思ってた。  私の部屋に”彼”が届いた、この日までは――。 ♡ ♡ ♡  疲れた、もう無理、倒れて寝たい――。  やっとの思いで残業が終わって、二十三時。フラフラしながら、なんとか部屋の前に着く。 ――バサリ。 右手にぶら下げていたコンビニ袋を落とす。 扉の前に、私の背より少し低いくらいの、大きすぎるダンボール箱が置いてあって……。  泣きそうになりながら、想像通り重たい箱を、玄関の中に引きずり入れる。腕がちぎれそうなくらい重い。ひと踏ん張りして引っ張るたびに、息が切れる。 土間まで入れて、そこでもう、限界だった。 「はあ……」  二週間前。私の入社式の日に、今まで一緒に暮らしていたお父さんがアメリカに行って一人暮らしになって以来、部屋で声を出すなんてはじめてだった。 脱力して、その場にへたり込んだのが悪かった。立ち上がれない……。 でも、開けなきゃ。何が入っているか分からないし。送り主はアメリカに住んでいるお母さんとお父さんからだろうから、ナマモノとかじゃないと思うけど、何度かチョコレートを送ってきたことがあったから、そういうお菓子とかなら冷蔵庫に入れた方がいいだろうし。 なんとか立ち上がって、段ボールに貼られた送り状を見る。 【お届け先】武藤ゆう様【ご依頼主】武藤百合華・幸雄  やっぱり、お母さんとお父さんだ。 品名は、ヒミツ♡……? なんだろう……。&n
last updateLast Updated : 2026-02-06
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2話 AI搭載人造人間

 私のお母さん――武藤百合華は、旧姓の”上條”百合華を名乗って、私が物心つく前から、WPH(World Protection of Human……だったかな……?)っていう、アメリカの研究施設で人造人間の研究をしていた。 人間と全く同じ細胞をつくって、ノーベル科学賞を受賞したのは、十五年前。私が小学一年生の時だった。 以来、“超少子化の救世主”とか“二〇五〇年の聖母”とかと謳われて、一日も日本に帰ってこられないくらい忙しくしている。 そういう大事な研究をしていることは分かっていたし、「守秘義務があるから詳しいことは話せない。ゆうなら大丈夫だとは思うけど、ぽろっとお友達に言ってしまったら大変なことになってしまうから」と言われたことがあったから、あえて詳しく聞くこともなかった。私が分かる内容だとは思えなかったし。 だから、“AI搭載の人造人間”なんて、そんなパワーアップしたものをつくってることを、私は全然知らなかった……。 『私が開発した人造人間は、脳の機能も人間と全く同じであることが実証されているわ。だけど、その人造人間の脳機能をこちらでプログラムしたものに替えられるかの検証も同時に行なっていたの。結果は、可能。 愛楽の耳に、ピアスみたいな黒いパーツが付いているでしょう。それが、AI搭載のピコチップなの。耳につけたピコチップの電磁波が脳に影響を及ぼし、プログラム通りに思考や行動、記録を行うことができる仕組みよ。 愛楽は、感情以外の前頭葉機能、側頭葉機能を、私がプログラムしたAIがまかなっているの』  全然、意味が分からない。お母さんの言ってることが、私なんかに分かるわけないから、当たり前なんだけど……。混乱してるから頭が真っ白で、何にも入ってこない……。 『そんな愛楽をゆうのところに送った理由は、二つ。 一つは、ゆうのため。ゆう、職場でも、男の人にビクビクしているでしょう。そのままだと、ゆうはずっと、生きにくさを感じ続けてつらくなってしまう。だから、ゆうの男性恐怖症を、愛楽と過ごす中で克服できたらと思ったの』
last updateLast Updated : 2026-02-09
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3話 初期設定をしてください!?

「ゆう! おはよう〜! 朝だよ〜!」  聞き馴染みのない明るい男の子の声と共に、まぶたの上に白い光が広がった。 なんだか目の奥が痛くて、ぎゅっと目をつむって、毛布をまぶたに押し付ける。 「ゆう〜? 今日は仕事じゃないから、起床時間を遅らせる? 設定してくれれば、その時間にまた起こしにくるよ〜。何時がいい?」  そっか、今日、おやすみかぁ。よかった……六連勤だったから、久しぶりのおやすみだ。 ……あれ? これって、誰の声……? っていうか、この声、男の子……⁉  はっとして目を開け振り向く。ぼやけた視界が、すぐにクリアになった。紫色の髪の男の子が私の目にメガネをかけて、ほほ笑んでいる。 きれいな顔に、ドキッと心臓が跳ねた。画面の向こうの、キャラクター……? ――って! そんなわけない! 本物の、男の子だ! 「ヒイッ‼」  思いっきり後ろに下がって、思いっきり壁に背中を打ち付けた。 だけどそんな痛みなんて分からないくらい、私は、目の前の男の子に怯えていた。 男の子はニコッと笑って、話を続ける。 「おはよう〜! しゃきっと起きられてえらいねっ! 起きて早々だけど、俺の初期設定をしてもらっていいかな~?」  男の子の前に、半透明のスクリーンが何個も浮かぶ。男の子はその一つに触れた。他のスクリーンが消えて、それだけが拡張する。 私は、頭の中にハテナばかりが浮かんで動けない。 「昨日スキャンをさせてもらって、疲労感とか、性格とかから、総合的にこのキャラクターがベストだと判断したんだけど、どうかな〜? ずばり! 包容力たっぷり、ゆるゆる癒し系男子キャラ~!
last updateLast Updated : 2026-02-11
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4話 つめたい記憶

 小学一年生の時の記憶がフラッシュバックする。  お母さんがノーベル賞を受賞した時のことだった。その時私は、男女共学の公立学校に通っていた。担任の先生が教室で、クラスのみんなに、お母さんの受賞を知らせた。みんなが私を向いて、「すごーい!」と拍手をした。 「どんなことして賞もらったの?」  誰かの質問に、担任の先生が、子どもにも分かるように、やさしく説明してくれた。 すると、ある男の子が私を指さして言った。 「じゃああいつも、つくりものの人間なんじゃね!」「きっしょ!」「なんでブスメガネにつくったんだろ~」  火の粉が次々と飛び散るように、男の子たちが口々に笑いながら言った。 怖かった。体の底から体温がすーっと抜けて、氷になっていくみたいだった。 周りの女の子たちが「サイテー!」「ゆうちゃんは人間の女の子だよ!」と守ってくれたし、担任の先生が男の子たちを怒ってくれたけど……。  その日の帰り道だった。 とぼとぼ歩いていたら、突然、背中を押された。思い切り転ぶ。 後ろから影がかかる。振り向くと、大きな体の男の子たちが、三人、私を見下ろしていた。 「お前のせいで先生に怒られたじゃん!」「このブスメガネ!」  男の子が、腕を振り上げる。多分、石か何かを握っていたと思う。 それをよく見る心の余裕なんてなかった。目をつむって、ぎゅっと体を硬くした。 その時にはもう、私の体は恐怖で支配されていた。  もともと、男の子は苦手だった。ちくちくと私をからかう、いやな存在だった。 だけど、この日から、男の子がいると思うだけで、男の子の姿を一目ちらりと見るだけで、私の体は動かなくなった。いやなんて生半可なものじゃない、関わったら死ぬかもしれないと思うくらい恐ろしい存在として、私のすべてに刻
last updateLast Updated : 2026-02-13
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5話 親友にも言えない秘密

『か……か⁉ か、か⁉ か⁉⁉ かれ⁉ え⁉』 「待って! ちがっ、ちがくて……‼」  みりんちゃんが、私と彼をすごい速さで見比べる。違う、という私の言葉は全然届いていない。 私はパニックになりながら、はっとした。 お母さんがつくった、AI搭載人造人間。 その事実は、絶対言っちゃいけないんだった。すっかり忘れて、何もかもしゃべっちゃうところだった……。 『ゆう⁉ ねえ、彼氏ってまじのカレピ⁉ どういうこと⁉ カレピってどういうことだっぴー⁉⁉」  混乱を通りこし興奮したみりんちゃんが、充血した目を爛々とさせて、画面いっぱいに詰め寄ってくる。 どうしよう……! なんて説明したら……! いとこ? は、いないって言っちゃってるし。 親戚の子? もだめだ。 友達? なわけないし……。  ……もう、分からない! 「ごめん、またね‼」  勢いで、みりんちゃんとの通話を終了にした。  しん、とした静けさを破ったのは、彼だった。 「朝ごはん、どうしたい? 好きなものをデリバリーしてもいいし、どこかで食材を調達してつくってもいいし~」 「いいいいらないですっ!」 「了解〜! 食べたくなったら言ってね~」  パタンと扉が閉まって、一気に脱力した。 ヴッ! ヴッ! と矢継ぎ早にみりんちゃんからメッセージが届く。 『ちょっとちょっとちょっと⁉』
last updateLast Updated : 2026-02-16
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6話 ジャスティンの声で言わないで!

「あ。ゆう、おはよう!」  ぼんやりしていた私は、ベッドに背をもたれて座る彼を目に入れるなり、反射的に起き上がった。毛布を抱きしめ、壁にくっつく。 遠くから見た彼の手に、ゲーム機があるのが見えて、はっとした。 そうだ。私、プリパレの最新作をやりはじめて……ジャスティンルートの冒頭で、寝落ちてしまっていたんだ……。 でも、なんで彼の手に……? 彼は、私の目線に気付いたのかそうじゃないのか、にっこり笑って、ゲーム機を軽く掲げた。 「あ、ごめん。ゆうのデータが欲しくて、ゆうの好きなゲームのデータ、集めてたんだ」  彼の周りに積まれているゲームのパッケージに、息を呑んだ。プリパレだけじゃない、これまで私がプレイしてきた乙女ゲームの全部があった。 全部見られた? それとも、これから? 乙女ゲームが好きなんて、気持ち悪い――そう思われて、嗤われる……。 怖くて、心が凍りつく。思わず、ぎゅっと指を組んだ。指先が、氷のように冷たくなって、震えが止まらない、 その時。真っ青な私の顔に、彼がぐっと近づいた。「ヒ」と声が漏れた直後、彼は、ふっと笑った。 「ゆうの好きなキャラクターって、プリパレのジャスティンみたいな、大人っぽくて、クールで、無口だけど、ぽろっとやさしさを出すキャラクターなんだね。その方がゆうの恋愛感情パーセンテージ、動きそうかな? 試しに、やってみるね」  彼の目が玉虫色に点滅する。 私の顔の脇に、彼が肘をついた。壁ドンみたいな体勢になる。 彼のきれいな顔が近づいてきて、ドキリとする。 だけど、明らかに変わった彼の表情は、ジャスティンのように大人び、冷たく――怖かった。 「おい、ゆう」  低い声。
last updateLast Updated : 2026-02-18
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7話 繋がれた手が熱すぎるっ!

 行くつもりなんてなかったのに、断りながら首を振っていたらおなかがぐうと鳴ってしまって、「ほら、行こう行こう!」と強引に手を引っ張られ、外に連れ出されてしまった。  時刻は十三時。昼の白い光はまぶしかった。 適当なシャツとハーフパンツを着ていただけの私は、適当なサンダルを履いて、外に出てきていた。休みの日、すぐそこのスーパーに行く時はいつもこの格好だから、それは別に問題ない。 問題なのは、彼がずっと、私の手を離してくれないことだった……! 離してほしい……だけど、引いてもびくともしない……! 手からすさまじい量の汗が噴き出している。 近い距離のせいで、背の高さが、落ちる影と圧みたいなもので伝わってくる……。 私も一六〇センチくらいで、そんなに背が低いわけじゃないのに、頭一つ分大きい……? 体も厚い。 男の子だ。男の子が、私に触ってる……! 心の中がうじゃうじゃして、頭の中がぐるぐるする……! 「あ、あの、あの……!」  二人きりのエレベーターで、必死に声をかける。私の顔色は、怖さと焦りと恥ずかしさで、真っ赤で真っ青でめちゃくちゃだった。 私の声に気付いた彼が、「ん?」と、私を見下ろした。彼の方を見ることができないから分からないけど、多分……。 「あの、その……手……」 「手? 恋人繋ぎの方がいい?」  ささやくように言って、彼が指を絡めてくる。 違う違う違う――っ! 余計に恥ずかしくなって、私はもう何も言えなくなった。 こんなの、本当に無
last updateLast Updated : 2026-02-20
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9話 電源ボタンの行方

「調味料は割とあったけど、バルサミコ酢と白ワインビネガーはなかったよね。オリーブオイルも切れてたな〜。ゆうは、値段と質、どっちを重視している派? 野菜と果物と肉は、栄養価を重視するために、一番鮮度が高そうなものを選んだよ」 「や、安いもので……」 「了解! じゃあ、一番得なものを選ぶね! 俺にまかせて!」  彼がしゃがむ。オリーブオイルをいくつか手に取って見ながら、グラム数と値段とを見比べ、計算している。 首の後ろが大きく開いていて、背中が覗けそうだった……。 いやいやいやっ! だめ……! 覗いたら私、ヘンタイだよ……! ……でも、彼は今私に背を向けて集中していて。今なら、耳についてるピアスを、こっそり、背後から取ることができそうだった。 ああ、でも、大変なことになるかなあ……。 でも、このままずーっとうちにいられるのは困る……。私に恋愛なんて無理だし……。 ぐるぐるぐるぐる考えて、一回だけ、指を伸ばしてみることにした。 「よし、オリーブオイルはこれでオッケー! 白ワインビネガーは、あんまり種類ないから、この中だと……うん、これがいいかな~。最後はバルサミコ酢だね~」  また、彼がしゃがむ。 ……今しか、ない。心臓が、ドックンドックンと鳴り響く。ゆっくり、恐る恐る、彼のピアスに、手を伸ばす――。 ぱっと彼が振り向いて、まっすぐ、目が合った。  彼が、笑った。 「チップ取っても、俺は動くよ。ゆう」  心臓が鈍く鳴る。視界が大きくぶれる。 見透かされていた。同時に、すごく、愚かなことをしようとしていたという罪悪感に苛まれる。 けれど彼は、うつむく私などお構いなしに、バルサミコ酢を選んでカゴに入れ、 「よーし! これでオッケー! 帰って食べよう~!」
last updateLast Updated : 2026-02-25
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10話 In the systemー愛楽ー

<BODYGARD SYSTEM>  ――目標、地点T56F7。B24、C39、E67、起動。射撃準備、発砲。 【BODYGARD PROGRAM】目標、処理しました。 ――ボディガード機能、スリープ。Heuristic-two、DEEP-threeに引き継ぎます。 <TARK ROOM> 【DEEP-three】AI-LEARN、三十二分前の行動理由を説明して。通常のゆうの行動範囲外のルート、しかも周囲に武器がない住宅街を歩いたのはなぜ? ――彼氏モードでの判断を優先しました。その代わり、ボディガードモードを強化しました。 【DEEP-three】事情は理解した。だが、正しい判断とは言えない。もしも今後、同様の判断をする場合には、事前に僕たちに連絡をするように。なるべく近くに移動する。 ――了解しました。 【Heuristic-two】俺はお前の手助けなんかしない。お前みたいな機械野郎に、ゆうは絶対渡さない。 【DEEP-three】Heuristic-twoのアンガーマネジメントを対応するため、通信を切る。  二人との通信が切れる。メッセージの文面が頭の中に流れてきているだけなので、隣のゆうには当然、気付かれていない。  僕たち三人がゆうのボディガードを始めたのは、ゆうが小学一年生になった時。僕が製造七年目、DEEP-threeとHeuristic-twoが製造六年目だった。頭脳はAIとはいっても、肉体は人間と同様。したがって、成長も人間と同様だった。けれど、一番人間らしく周りに馴染むことができるコミュニケーション能力とあらゆる格闘技のデータを備え、接近戦が有利なDEEP-threeだけがゆうの隣のクラスに配置された。僕とHeuristic-twoは、ゆうの
last updateLast Updated : 2026-02-27
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