「おい武藤。こっちの書類、事務に届けてくれ」 先輩から、書類がつき渡される。男の人の声で名前を呼ばれると、なんだか怖くてドキッとして、心がひやりと冷たくなって、いつも一瞬固まってしまう。 だけどそのままじゃだめだから、「あ、は、はい……」としどろもどろに返事して、一瞬のうちに汗だくになった震える手で、書類を受け取る。 打ちかけのメールをそのままにして、一階の事務室に下りる。真っ白なフロアに、三人の華やかな女の人たちがいた。ふふふ、と蝶のような声でこそこそ笑い合っている。 受付に一番近い人に声をかけると、蝶の羽のように美しいまつ毛をした美女が、「はあーい」と軽やかに、私の方に来てくれた。白鳥さんだ。 「これ、お願いします」 「はーい。ありがとね」 一礼して、エレベーターに戻る。 白鳥さんは、事務さんの中で一番可愛い。まつ毛も頬もキラキラしてきれいだし、肌は荒れているところが一つもないし、毛先だけ巻かれたミルクティー色の髪はきれいな艶がある。小さくて、華奢で、いつもキラキラして見える。私とは違う世界の人だな、と思う。 このゲーム会社――株式会社GETTAに勤めることができたのは、たまたま、面接官が女性だったから。 そもそも、私は文学部で、これといった特技もなくて。ただ、働くなら、好きなことが身近にある方がいいってお父さんに言われて。それで、ずーっとハマってきた乙女ゲームの会社がいいなと思って、ゲーム会社を受けに行った。結果的に、ほとんどの面接官が男性で、私は固まって、何も話せなくなってしまって――ううん、きっと話せたとしても、強みがないから受からなかったとは思うけど、乙女ゲームをつくる会社はすべて落ちてしまった。 なんとか就職できたこの会社は、主にスマートウォッチの格闘系のアプリゲームをつくる小さな会社で、分からないことばかり。うまく話せた自信もないし、どうして受かることができたのか……。ただ、一昨年設立されたばかりで、人手が欲しかったんだろうな、と思う
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