心愛はデザインソフトを立ち上げ、明日の会議で提出する初稿のために、すべての意識を仕事へと注ぎ込んだ。オフィスエリアの人影はすでにまばらで、残っているのは数人の残業中の社員だけだ。凝り固まった首を揉みほぐしながら、心愛はようやく画面から顔を上げ、時間を確認した。夜の八時半。その瞬間、彼女ははっと思い出した。昨日、暁と一緒に夕食を食べる約束をしていたはずだ。慌ててスマートフォンを取り出す。画面には貴臣からの問い詰めるようなメッセージが並んでいる。そのほかに、未読の通知が一件あった。午後に暁から届いたものだ。【夕飯は何が食べたいですか?買い物は必要ですかな?】すでに四時間も経っている。心愛は申し訳なさに胸を締めつけられ、すぐに返信を打ち込んだ。【ごめんなさい、急な残業で今終わったところです。今日は外で済ませてください】送信して十秒も経たないうちに、暁から返信が跳ね返ってきた。【とっくに食べました】画面越しでも、彼がさも当然といった顔をしている様子が想像できる。心愛は思わず突っ込んだ。【どうして聞いてくれなかったんですか?】【あなたの返信を待っていたら餓死するところでした。次から残業なら、半日前には通知してください。あなたのクライアントにも準備する時間をいただけませんか】心愛はスマートフォンの画面を見つめ、思わず口元を緩めた。この暁という男は、ずいぶん注文が多い。荷物をまとめ、パソコンをシャットダウンし、数人の同僚に挨拶をしてオフィスビルを出た。加賀見本社の立派なビルから一歩外へ出ると、肌寒い風が吹き抜ける。冬が近づいている気配を感じ、ふと俊輔のことが頭をよぎった。あの中は寒くないだろうか。休みの日には面会に行こう――そう心に決める。駅へ向かおうとしたその時、見覚えのある車が路肩に停まっているのが目に入った。黒いベントレーが、街灯の下で静かに沈黙している。車のそばには、背の高い男が寄りかかっていた。指先には煙草が挟まれ、夜の闇の中で赤黒い火種がかすかに明滅している。貴臣だ。心愛の足は、その場に釘付けになった。どうして彼がここに?その頃、貴臣の胸の内では、名もなき怒りの炎がくすぶっていた。午前中、電話を一方的に切られたことが、彼の癇に障っていたのだ。自分に対して
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