その先の言葉を貴臣が口にするより早く、心愛はすべてを悟っていた。なるほど――これが「偏愛」というものか。貴臣は、人を愛することのできる男だったのだ。「……つまり、あの写真に写っているのは自分だと認めろ、ということ?」心愛は彼を見つめた。その声には、自分でも気づかぬほどの、現実味を欠いた乾いた笑いが滲んでいた。隣に座る葵は、緊張のあまり指をきつく握りしめ、呼吸さえ浅くなっている。心愛の顔を見る勇気すらないようだった。貴臣は否定しなかった。ただ、いまの心愛の眼差しに、どこか異様な攻撃性を感じ取り、視線を逸らしてテーブルのコーヒーカップへと目を落とした。「認めてくれさえすれば、お前の祖母の今後の治療費はすべて俺が負担する。最高の病院と、最高の医師を用意しよう」一拍置き、彼は続ける。「それとは別に、六千万円を支払う」六千万円。それに、祖母の医療費。それは紛れもなく、一つの「取引」だった。祖母がいつまで意識不明のままなのかは分からない。自分には金がない。弟の俊輔の事件を再審請求し、弁護士を雇い、各所に働きかけるにも、やはり資金が足りない。ここで激昂し、その場を立ち去るのが当然の反応だろう。だが、心愛はそうしなかった。尊厳?面目?祖母と俊輔のことに比べれば、そんなものは取るに足らない。心愛は冷静に算盤を弾き始めていた。この金さえ手に入れば、離婚協議書も効力を持つ。そうなれば祖母を連れて国外へ出て、誰も自分たちを知らない場所へ行ける。そこにはヌード写真の噂も、殺人犯の姉という烙印も存在しない。この取引は、案外……割に合う。その考えが浮かんだ瞬間、心愛自身が愕然とした。自分は、ここまで追い詰められていたのかと。貴臣の顔を見ていると、急に滑稽に思えてくる。三年間、この男を愛し、塵にまみれるほど卑屈に尽くしてきた――その果てがこれだ。彼は金で自分の名声を買い、別の女の進む道を舗装しようとしている。それでもいい。この三年の青春に対する、せめてもの手切れ金だと思えばいい。沈黙が三人のあいだに広がり、一秒が一世紀のように長く引き延ばされていく。貴臣はいら立ち始めていた。心愛がわざと答えを引き延ばしているのだと感じたからだ。一方で、葵の心臓は今にも口から飛び出しそうだった。心愛の口から「拒絶」の言葉
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